Doctor G 3 のメディカル・ポプリ

地域医療とプライマリケア、総合診療などに関係したネット上のニュースを記録。医学教育、研修、卒後キャリア、一般診療の話題、政策、そしてたまたまG3が関心を持ったものまで。ときどき海外のニュースも。

8月12日 

https://dot.asahi.com/dot/2017080900092.html
連載「メディカルインサイト」
深刻な看護師不足の現状 極端な「西高東低」で医療事故も…

上昌広2017.8.11 11:30 dot.#朝日新聞

各都道府県の人口10万人あたりの看護師数(正看護師と准看護師の合計)。厚生労働省「平成24年衛生行政報告例」と人口推計より、森田知宏、児玉有子(ともに東大医科研)作成
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 東京を中心に首都圏には多くの医学部があるにもかかわらず、医師不足が続いている。だが、現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏は、著書『病院は東京から破綻する』で、深刻な看護師不足の現状についても明かしている。

*  *  *
 東京近郊では看護師も不足しており、そのために一部の病床が閉鎖されています。2007年7月には、東京都保健医療公社荏原病院の産科病棟の一つが閉鎖しました。

 原因は看護師の欠員です。当時、荏原病院の看護体制は定数316人に対し、欠員が58人。これでは、病院機能は維持できません。14年6月、千葉県は県内の59病院で合計2517床が稼働していないと発表しました。このうち38病院は「看護師不足」を理由に挙げています。

 背景には、厚労省が定めた看護師の配置基準と診療報酬の連動があります。06年度の診療報酬改定で「7対1入院基本料」が導入されました。入院患者7人に看護師1人以上を配置している病院に対して、一患者あたり一日1万5550円が診療報酬として支払われることになりました。そのため、看護師争奪戦が始まりました。看護師を確保できなかった病院は、診療報酬が下がるため、病床を閉鎖するところも出てきたのです。

 ところが、日本の看護師不足は全国一律に生じているわけではありません。14年末現在、人口あたりの看護師数は極端な西高東低になっています(図)。東京都の人口10万人あたりの就業看護師数は727人で、埼玉県(569人)、千葉県(625人)、神奈川県(672人)、茨城県(674人)、愛知県(725人)に次いで少ないのです。

 看護師が多いのは高知県で人口10万人あたり1314人です。ついで鹿児島県(1216人)、佐賀県(1200人)、熊本県(1189人)、長崎県(1182人)と続きます。高知県には人口10万人あたり東京都の2倍近い看護師が就労しています。

 看護師不足が深刻化している東京近郊では、今後、団塊世代が高齢化し、医療ニーズが急速に高まります。看護師確保をめぐり、東京近郊の病院間で、さらに熾烈な競争が繰り広げられることになるでしょう。

 看護師不足のツケも、最終的には患者にまわってきます。東京近郊、特に東京の病棟閉鎖の主たる理由は、看護師不足です。病床が閉鎖されれば、住民はまともな医療を受けることができなくなります。

 看護師が不足すると、医療事故も起こりやすくなります。03年に米国の研究者らがJAMA(アメリカ医師会誌)に発表した研究によると、外科や救急病棟では大学卒の看護師が10%増えると、患者の早期死亡率が5%低下していました。日本では患者7人に1人の看護師が配備されていますが、この研究では患者4人に1人の看護師を配備することが推奨されていました。つまり、高学歴の看護師を大勢配置した方が、致死的な医療事故が減るというのです。この研究は欧州でも再現され、14年英国の医学誌ランセットで報告されました。

 日本からの研究はまだありませんが、看護師の質と量が急性期医療の現場では患者の生死に直結することは、世界の医療界でコンセンサスとして受け入れられつつあります。

※『病院は東京から破綻する』から抜粋



http://www.yomiuri.co.jp/hokkaido/news/20170810-OYTNT50064.html
旭川医大、地域枠制度の定員削減へ…「医師、将来的過剰に」
2017年08月10日 読売新聞 北海道

 旭川医大は9日、道が指定する医療機関で一定期間勤務すれば、返済が免除される修学資金貸付制度(地域枠制度)の定員について、現在の17人から来年度以降は12人に減らすと発表した。道は、医師不足対策として同制度を創設したが、同大は「将来的に医師が過剰になる」などと判断した。医師不足に悩む道内自治体からは、将来を不安視する声があがっている。

都市部集中 地方に不安

 同制度では、卒業後9年間の道内研修・勤務を確約する学生に対し、授業料や生活費など計約1200万円を貸与。9年間のうち、道指定の医療機関で5年間勤務すれば、返済が免除される。2008年度に札幌医大で導入され、09年度には旭川医大でも始まり、17年度までに計260人が利用した。

 旭川医大の吉田晃敏学長は9日、記者会見を開き、〈1〉将来的に医師が過剰になる〈2〉学内での同制度利用者が16年度入学生までは15人前後で推移していたが、17年度は9人に減少した――ことなどを削減の理由に挙げた。

 吉田学長は「旭川医大には独自の地域枠があり、地域医療に与える影響はない」などと述べた。これに対し、町立病院の医師確保に悩む和寒町の奥山盛町長は「道内では札幌などに医師が集中する中で、地方は現状の体制を維持するのも厳しい」と懸念を示している。

 道地域医療課によると、道内の人口10万人当たりの医師数(2014年末時点)は230・2人で全国平均(233・6人)とほぼ同数。ただ、札幌や旭川など都市部に医師が集中し、それ以外の地域では足りないという状況となっており、同制度は、地方の医師不足対策の切り札として期待されていた。

 高橋はるみ知事は4日の定例記者会見で「地方における医師確保に向けて、この制度を創設したところで、(旭川医大の決定は)大変残念。医師の足りない地域に対して、様々な手段を講じてしっかり対策をしなければいけない」と語った。



http://www.asahi.com/articles/ASK8C337ZK8CUBQU006.html
旭川医大が「国際医療人」育成枠 世界の地域医療現場へ
渡辺康人2017年8月11日11時30分 朝日新聞

 旭川医大(旭川市)は来春の入学試験から、意欲ある学生を面接や書類審査で選考するAO入試に「国際医療人」育成枠を新設する。定員は5人で、国際社会で臨床医として通用する語学力や診療能力、世界各地の地域医療を向上させる能力の習得をめざす。同大によると、全国の国公立大学で初の試みという。

 同枠での合格者は入学後、通常のカリキュラムとは別に年1回の外部英語試験を義務づけ、在学中に海外の医療施設で1カ月間の留学を2回ほど経験させ、それらの費用として6年間で最大50万円を助成する。海外滞在経験を持つ先輩を指導員としてつける。

 旭川医大のAO入試の定員は来年度から2人増の42人となる見通し。これまでは道内出身者を優先させる「北海道特別選抜枠」のみだったが、来年度入試では5人分を「国際医療人特別選抜枠」として全国から募集する。高校とセンター試験での成績に下限を設けたうえで、1次選考で書類審査、2次選考で論文と面接を行い選抜する。

 ログイン前の続き同大は過去に1割程度だった道内出身学生を、2008年度から地域枠を設けたことで6割以上にした実績を持つ。吉田晃敏学長は「人口減の中で地域枠に力を入れるだけではなく、国際社会の発展に寄与する医療人を育て、旭川を国際医療都市にしたい」と狙いを話す。



https://www.m3.com/news/iryoishin/550747
産婦人科後期研修医の自死、労災認定
代理人弁護士「産婦人科医療がそうさせている」

2017年8月10日 (木)配信高橋直純(m3.com編集部)

 東京都内の公的医療機関の産婦人科に勤務していた男性医師(30代半ば)が2015年7月に自死したのは、時間外労働が月170時間を超えるなど長時間労働が原因だったとして、労災認定されたことが明らかになった。8月9日に記者会見を開いた遺族側弁護士の川人博氏は長時間労働の背景を「産婦人科医療がそうさせている。あまりにも仕事が多く、人数が足りていないことに尽きる」と訴えた。

 男性医師は2010年4月に医師免許を取得。2013年から 産婦人科の後期研修のために東京都内の公的総合病院に勤務していた。労災認定をした品川労働基準監督署の説明によると、死亡1カ月前(2015年6月9日-7月8日)の時間外労働時間は約173時間だった。同年7月12日は勤務日だったが、出勤することなく自死した(死体検案書では、死亡時刻を同日午後と推定)。

 男性医師の両親は2016年5月30日に労災申請し、2017年7月31日付けで認定された。亡くなる直前に「F3 気分障害」を発症していたとしている。8月9日に労基署から遺族や代理人弁護士に口頭で認定理由の説明があり、それを受けて遺族代理人が記者会見を開催した。

 電子カルテや勤務時間管理表、手術記録、投薬オーダー記録などから時間外労働時間数は、「少なくとも」(川人氏)、下記のように推計している。

【男性医師の死亡前の時間外労働時間】
1カ月前(6月12日-7月11日)  173時間20分
2カ月前(5月13日-6月11日)  165時間56分
3カ月間(4月13日-5月12日)  143時間24分
4カ月前(3月14日-4月12日)  148時間19分
5カ月前(2月12日-3月13日)  208時間52分
6カ月前(1月13日-2月11日)  179時間40分

 川人氏ら代理人の調査では、パワハラや個人的な悩みなど、長時間労働以外の要因は確認されていない。当時の産婦人科は10人程度で、そのうち後期研修医は4人。男性医師が研修医の中では最も年次が高かった。遺書や家族へのメッセージなどもなく、「責任感が強く愚痴を言いたがらなかったようだ」(川人氏)。

 当直勤務は月4日程度あり、死亡前の6カ月間の休日は5日のみだった。2015年4月以降に抑うつ状態、睡眠不足と疲労感、集中力と注意力の衰退などの症状が見られるようになった。この頃に信号無視による道交法違反が2度あり、公共料金も5月以降支払いを忘れるなどしていた。川人氏によると、「病院の寮の部屋は、あまりに忙しいからか整理できていなかった。冷蔵庫には何もなく、色々なものが散乱し、私(わたくし)の生活が全くない状況だった」と説明。部屋には睡眠剤などがあったが、心療内科などへの受診は確認されていない。

 一方で、同僚などへの聞き取りでは、「診療行為がおかしかった」などの証言はなく、「最後まで仕事はきちんとしていた」という。生前に診察を受けた元患者は、代理人らの調査に「挨拶をしてくれた姿がとても印象的だった。若いのにしっかりしていた。出産で入院中は病室にもよく来てくれた」と証言している。

 川人氏は長時間労働の背景を「産婦人科医療がそうさせている。あまりにも仕事が多く、人数が足りていないことに尽きる」と説明。新潟市民病院でも後期研修医が自殺し、労災認定された件について触れ、「2回続いたのは、恐らく全く偶然ではないと思う」と語った(『新潟・女性医師過労死事案、担当弁護士の説明』を参照)。

 病院側に対しては「長時間労働を認識していたにもかかわらず、十分なサポート体制を取っていなかった」と非難。同病院の労使協定(36協定)では、医師の場合は3カ月で計120時間と定められていたが、亡くなる3カ月前の時間外労働は480時間を超えていた。

 特別な事情(緊急手術の対応など)がある場合は、病院からの通知によって3カ月で計600時間、年間1440時間まで時間外労働を延長することができるとしているが、今回はこのような通知はなかった。川人氏は3カ月600時間という上限自体に問題があるとも指摘している。

 残業代も全額は出ておらず、病院側は労基署の指導を受けて、不払い残業代を遺族に支給するなどの対応を始めている。

「労働時間を管理するという発想が極めて希薄」
 川人氏は、本件に限らず医療機関全般は「医師の労働時間を管理するという発想が極めて希薄だと思う」と指摘。2016年度だけでも過労死認定された医師は4人いるとし、「政府の働き方改革では、医師の時間外労働規制を5年間猶予するとしているが、医師の過労死を放置、促進するもので、極めて危険であり、撤回すべきである。医師の過労死、過重労働をなくすために、国を挙げて早急に着手すべきである」と訴えた。

 自己研鑽の時間を業務時間に含めるべきかどうかについては、「実際問題として余裕を持って(自己研鑽を)図るような状態ではない。それがほとんどの研修医の実態」と指摘した。

 会見で公表した、遺族の手記は以下の通り(全文)。
息子の死の労災認定に思うところ
都内在住 父・母


今回、息子の死後2年、労災申請より1年2カ月余を経過して、労災認定がなされたことに感謝いたします。息子は研修医として、その激務にまさに懸命の思いで向かい、その業務から逃げることなく医師としての責任を果たそうとし、その過程で破綻をきたしたものと思われます。親としては、その仕事ぶりを今回認めていただいたと受け取り、救われる思いです。

息子は、産婦人科を専攻する後期研修医でありました。彼は亡くなる少なくとも半年前よりほとんど休みなく勤務し、毎月時間外勤務として150時間、月によっては200時間に及ぶ仕事に従事し、手術、夜間の緊急対応に明け暮れていたものと思われます。現在、厚生労働省で推進されている「働き方改革」において医師の応招義務の観点から医師への時間外労働規制の適用が5年先送りにされたことは、この間に同じような不幸が起きないかと懸念されます。応招義務は、開業医よりも24時間稼動する病院に勤務する勤務医に課せられ、夜間、あるいは緊急対応は息子のような若手の医師に託されることが多いのが現状と思われます。

医師の自殺率、特に若いこれからの医師の自死が一般人口よりも高い理由は、不眠の継続による、または、過重な労働、責任の重さによる過大な精神的負担が原因と考えられます。さらに研修医は卒後研修のめまぐるしい環境の変化に耐えなくてはならず、また、後期研修では、専門医資格の取得に向けた準備段階に入り、精神的疲労の蓄積はさらに増していくものと考えられます。また、産婦人科を専攻した息子は、産婦人科特有の緊張感、いつ訪れるか分からない分娩への待機、正常に出産させることを当然とする一般常識など、精神的ストレスは大きく、その負担から解放されることはなかったことと思います。

その中で、責任を委託された者に過重な労働負担がかかり、その結果、逃げ場を失いこのような不幸な転帰を迎えたものと考えています。医師も人間であり、また、労働者でもあり、その労働環境は整備されなければこのような不幸は繰り返されると思います。

                                  以上



http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201708/CK2017081002000139.html
研修医自殺で労災認定 産科、残業208時間の月も
2017年8月10日 朝刊 東京新聞

 独立行政法人国立病院機構が運営する東京都内の病院に勤務していた三十代半ばだった産婦人科の男性研修医が二年前に自殺したのは、長時間労働で精神疾患を発症したのが原因だとして、品川労働基準監督署(東京)が労災認定していたことが分かった。遺族の弁護士が九日、記者会見して明らかにした。認定は七月三十一日付。
 弁護士によると、男性は二〇一〇年四月に医師免許を取得し、一三年四月から、この病院の産婦人科に勤務。一五年四月以降、抑うつ状態や睡眠不足、注意力の減退などの症状が見られるようになり、精神疾患を発症。同年七月十二日に都内で自殺した。
 男性は病棟での分娩(ぶんべん)や手術を中心にカルテや書類の作成、カンファレンス(会議)への出席などをこなしていた。男性の使ったパソコンが電子カルテにアクセスした時間や、手術記録などを遺族側が調べたところ、死亡までの半年間の一カ月当たりの残業時間は百四十三~二百八時間に上った。休日は半年間でわずか五日だった。
 遺族側代理人の川人(かわひと)博弁護士は会見で「病院は男性が長時間労働に従事していたことを認識していたにもかかわらず、十分なサポート体制を取っていなかった」と批判。背景に深刻な産婦人科医不足があるとも指摘した。病院側は「会見内容を把握しておらず、答えられない」としている。
 政府は三月、「働き方改革実行計画」をまとめ、残業時間に罰則付きの上限規制を設けることを決めた。医師については、正当な理由なしに診療を拒めない「応召義務」があるとして、適用を五年間猶予とした。

◆両親の手記全文
 医師の働き方改革を巡る議論が進む中、東京都内の病院に勤める産婦人科研修医の過労死が発覚した。東京都内に住む60代の両親は9日、代理人弁護士を通じて「息子の死の労災認定に思うところ」と題する手記を発表し、医師にも残業時間の上限規制を設けるべきだと訴えた。手記の全文は次のとおり。
     ◇
 今回、息子の自死後2年、労災申請より1年2カ月余を経過して、労災認定がなされたことに感謝いたします。息子は研修医として、その激務にまさに懸命の思いで向かい、その業務から逃げることなく医師としての責任を果たそうとし、その過程で破綻をきたしたものと思われます。親としては、その仕事ぶりを今回認めていただいたと受け取り、救われる思いです。
 息子は、産婦人科を専攻する後期研修医でありました。彼は、亡くなる少なくとも半年前よりほとんど休みなく勤務し、毎月時間外勤務として150時間、月によっては200時間に及ぶ仕事に従事し、手術、夜間の緊急対応に明け暮れていたものと思われます。現在、厚生労働省で推進されている「働き方改革」において医師の応召義務の観点から医師への時間外労働規制の適用が5年先送りにされたことは、この間に同じような不幸が起きないかと懸念されます。応召義務は、開業医よりも24時間稼働する病院に勤務する勤務医に課せられ、夜間、あるいは、緊急対応は息子のような若手の医師に託されることが多いのが現状と思われます。医師の自殺率、特に若いこれからの医師の自死が一般人口よりも高い理由は、不眠の継続による、または、過重な労働、責任の重さによる過大な精神的負担が原因と考えられます。さらに研修医は卒後研修のめまぐるしい環境の変化に耐えなくてはならず、また、後期研修では、専門医資格の取得に向けた準備段階に入り、精神的疲労の蓄積はさらに増していくものと考えられます。また、産婦人科を専攻した息子は、産婦人科特有の緊張感、いつ訪れるかわからない分娩(ぶんべん)への待機、正常に出産させることを当然とする一般常識など、精神的ストレスは大きく、その負担から解放されることはなかったことと思います。
 その中で、責任を委託された者に過重な労働負担がかかり、その結果、逃げ場を失いこのような不幸な転帰を迎えたものと考えています。
 医師も人間であり、また、労働者でもあり、その労働環境は整備されなければこのような不幸は繰り返されると思います。



http://www.huffingtonpost.jp/2017/08/09/karoushi_n_17706324.html
残業173時間、30代医師の自殺を労災認定 「労働環境を整えないと不幸繰り返される」両親の悲痛な思い
Huffpost Japan | 執筆者: 濵田理央(Rio Hamada)
投稿日: 2017年08月09日 20時43分 JST 更新: 2017年08月09日 20時55分 JST KAROUSHI  ハフィントンポスト

東京都内の病院に勤務していた産婦人科の男性研修医(当時30代)が自殺したのは過労が原因だったとして、東京労働局の品川労働基準監督署が労災認定した。遺族代理人の川人博弁護士が8月9日、記者会見を開いて明らかにした。

川人弁護士は会見の中で「病院側は長時間労働を認識していたのに十分なサポートをしていなかった」と指摘した。

■「長時間労働で疲弊しきった中での自殺だった」

男性は2010年4月に医師免許を取得し、13年4月から都内の総合病院で勤務を始めた。分娩や手術などの通常業務に加え、緊急手術などの対応も。150時間を超える長時間労働が常態化していった。

男性は2015年4月ごろから睡眠不足と抑うつ状態の症状が見られるようになったという。男性は同年7月12日に自殺した。遺書は見つかっていないという。

男性の両親は2016年5月、品川労基署に労災を申請。7月31日、労災が認定された。

労基署の決定によると、男性は自殺する直前に精神疾患を発症していた。また電子カルテや関係者の証言などから、6月9日から7月8日の1カ月の残業時間が173時間だったと確認した。こうした理由から、男性の自殺は過労が原因だったと認定した。

遺族側によると、自殺する直前の6カ月で男性が取った休日は5日間。残業時間も月160時間前後で、多い時には月200時間を超えていた。

これは、男性と病院側の労使協定が定めていた、3カ月120時間という残業時間をはるかに超える数字だった。

「月200時間はひどい。医師に対する労働環境の整備をしようとする意識が、一般企業と比べて極めて希薄だ。本人に通知した記録は確認されていないが、何れにしても今回のケースは労基法違反にあたる」

病院側が男性と結んでいた労使協定は、長時間労働を助長するような内容だった。緊急手術などの特別な事情がある場合、病院から本人に通知すれば、残業時間を3カ月で600時間まで伸ばすことができると定められていた。

「産婦人科医療の現状がそうさせている。あまりにも仕事の量が多いのに、それに見合う人数が足りていない。あまりにも長時間労働で疲弊しきった。そういう中での自殺だった」。川人弁護士はこう訴えた。

■両親がコメント「労働環境を整えないと不幸繰り返される」

労災が認定されたことを受けて、男性の両親が弁護士を通じてコメントを発表。「医師も人間」「(労働環境が)整備されなければ不幸は繰り返される」と、悲痛な思いが込められていた。

「労災認定がされたことに感謝いたします。息子は研修医として、その激務にまさに懸命の思いで向かい、その業務から逃げることなく医師としての責任を果たそうとし、その過程で破綻をきたしたものと思われます。親としては、その仕事ぶりを今回認めていただいたと受け取り、救われる思いです」

「産婦人科を専攻した息子は、産婦人科特有の緊張感、いつ訪れるかわからない分娩への待機、正常に出産させることを当然とする一般常識など、精神的ストレスは大きく、その負担から解放されることはなかったことと思います」

「その中で、責任を委託されたものに過重な労働負担がかかり、その結果、逃げ場を失いこのような不幸な転帰を迎えたものと考えています」

「医師も人間であり、また、労働者でもあり、その労働環境は整備されなければこのような不幸は繰り返されると思います」

■医師の過労死「国をあげて対応すべき」

医師の過労死を巡っては、今年5月、新潟県の新潟市民病院に勤務する女性研修医が自殺し、過労死と認定された。

川人弁護士はこれについて、「前期研修医はいろんなとこにどんどん移っていくが、後期研修医は基本的に同じところにいる。病院経営者から見れば大変な戦力。経験があるし若いし、偶然ではない」と指摘。

政府の働き改革案で、医師が長期労働規制の対象外となっていることにも触れ、「医師の過労死を放置・促進するもので、極めて危険だ。医師の過労死、過重労働をなくすため、国をあげて早急に対応するべきだ」と訴えた。



https://www.m3.com/news/iryoishin/550724
シリーズ 真価問われる専門医改革
新専門医制の2018年度開始、重み増す「大臣談話」
厚労省検討会、都道府県の協議会、制度化の可能性も

レポート 2017年8月9日 (水)配信橋本佳子(m3.com編集長)

 厚生労働省の「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」(座長:遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)は、8月9日の第4回会議で、新専門医制度に対する日本専門医機構の対応を確認。さまざまな懸念が出たが、同機構は8月2日の塩崎恭久前厚労相の「大臣談話」に沿って対応していくと表明、厚労省も「大臣談話」に基づき、本検討会も活用しながら、地域医療への影響を注視していく方針を示した(大臣談話は、『「新専門医制度、厚労省が関与」、塩崎厚労相が談話』を参照)。

 新専門医制度の地域医療への影響を検証する場である都道府県の協議会については、確実に開催し、実効性を担保する声が上がり、厚労省は今秋以降、検討すると説明。議論次第では、医療法で位置付ける可能性も出てきた。

 日本専門医機構は8月4日の記者会見で、10月から専攻医募集を開始し、地域医療等への配慮を前提に、2018年度から開始する方針を説明したため、9日の本検討会の議論が注目されていた(『新専門医制度2018年度開始、「地域医療等に配慮」が前提』を参照)。「大臣談話」を実行に移す前提付きだが、2018年度開始に向け準備を進めることに反対する意見は出ず、延期を求める声はなかった。一方で、本検討会は、「2018年度開始」を決定する場でもないことから、論点はやや曖昧なまま議論が進んだ。

 東京大学大学院国際保健政策学教授の渋谷健司氏は、「基本的には来年度からの開始を止める話ではなく、懸念を整理した上で、前に進めるということだろう」と前置きし、「大臣談話」の骨子を読み上げ、その対応を確認。同談話は、日本専門医機構と学会に対し、専攻医の応募状況や配置状況などを厚労省に報告し、地域医療に影響を与える懸念が生じた場合には厚労省が日本専門医機構や学会に実効性のある対応を求める内容だ。

 NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子氏は、「開始してみないと、本当に実現できるのかどうかが分からない、というところまで来ているのだろう」とコメントした。

 これらの質問に対し、参考人として出席した日本専門医機構副理事長の松原謙二氏は、「地域ごとに事情は違う。各地域に最もいい医療提供していきたいと考えており、何か問題があれば対応していく」との基本方針を提示。「渋谷先生が言ったことは、実行していく」と述べ、その際、厚労省や学会とも相談しながら、進めていくと説明した。

 全国市長会副会長で相馬市長の立谷秀清氏は、「前回の会議の際に、来年度から始めることを明確に決めたわけではなく、問題が解決された場合に、という前提付きだった。(専攻医の募集を)10月から開始すると発表され、違和感を覚えているが、それにこだわっても仕方がないので、議論を深めていきたい」とコメント。その上で、「地域医療に従事している医師でも、専門医資格の取得が可能か」「研修プログラム制だけでなく、研修カリキュラム制も選択できるなど柔軟な運用ができるのか」「総合診療専門医は、あせって作るものではない」などと問いかけ、さらに新専門医制度の地域医療への影響の検証について、「各都道府県の協議会だけでは、若干無理があるのではないか」と懸念を呈した。

 これに対し、松原氏は、「地方の市長の意見を受け止めて対応していきたい。ただ、(2017年度からの開始が)延期になったことで、一番心配しているのは専攻医。走りながら、きちんとしたものに変えていきたい」との基本方針を説明。立谷氏の懸念は、「専門医制度新整備指針」(第二版)や運用細則(改訂)などで対応済みであるとし、研修カリキュラム制を導入し、地域医療に従事していたり、キャリアが中断した場合などでも専門医資格の取得を目指せる仕組みになっていると説明した。総合診療専門医についても、関係者による協議を進め、内科などと同様、大都市部に集中しないよう配慮しているとし、「確実にスタートできる準備態勢が整っている」。都道府県の協議会については「何らかの問題が生じた場合には、日本専門医機構が責任を持って対応する」と明言した。

 厚労省医政局医事課長の武井貞治氏は、「都道府県協議会で調整が困難な場合、日本専門医機構に意見を出し、調整をしてもらい、それでも改善しない場合には厚労省に報告してもらい、厚労省が支援を行う。それでも改善しない場合には、この検討会で議論し、機構や学会に要請していく」などと答え、「大臣談話に基づき、この検討会も活用しながら、しっかりと対応していきたい」との方針を示した。

 協議会については、日本医師会副会長の今村聡氏が、開催状況などの現状について質問。「“お願いベース”で開催を求めているが、当然のこととして開催するよう求めていきたい」(今村氏)。これに対し、厚労省医政局医事課は、「都道府県への説明会を複数回にわたって開催した。今のところ『開催するつもりはない』という都道府県はない」と説明し、この8月、9月に集中的に開催を求め、その状況について報告を求めるとした。さらに都道府県の協議会の位置付けについては今後検討すると回答。

 厚労省の「医療従事者の需給に関する検討会」の「医師需給分科会」は、今秋以降、「抜本的な医師偏在対策」を議論する方針(『「地域枠、地元に限定」「医師データベースで異動を追跡」』を参照)。同分科会で協議会の役割が議論され、医療法で設置を求めている地域医療対策協議会などと同様に、法的根拠を持つ可能性も出てきた。


 山形県、「蔵王協議会」で医師の適正配置

 9日の会議では、山形県と島根県の医師養成や医師適正配置への取り組みについてのヒアリングも実施。

 山形県の事例を説明したのは、山形大学医学部参与の嘉山孝正氏。山形大学、山形県内の医療関係団体、行政などで組織する「蔵王協議会」を2004年に設置し、卒後臨床研修体制の整備、関連医療施設の連携、医療事故調査制度など、県全体で取り組むべき課題に対応してきた。

 「地域医療医師適正配置委員会」は2005年に設置、各医療機関からの医師派遣の要請は、医局単位ではなく、同委員会を通し、「エビデンス」に基づく対応をしてきたと説明。「個々の病院長からの主観的な要望ではなく、県内の医療機関別の診療機能や経営状況、患者の受療動向、医師の勤務実態などを基に、“説得”ではなく、“納得”する形で、配置する医師を決めている。現在のところ、『分娩ができない』、『小児医療ができない』といった、目立った医療崩壊は起きていない」(嘉山氏)。

 新専門医制度についても、蔵王協議会の研修部会内に「山形県専門医制度対応委員会」を設置。行政、病院、医師会、大学の各代表者、計10人の委員で、検討を進めている。

 島根県、「地域枠」充実やキャリア支援

 島根県では、2006年度から島根大学に「地域枠推薦入試制度」を設けるなど、医師養成・確保に取り組み、2011年度に「しまね地域医療支援センター」を設置、2013年3月に一般社団法人化した。島根大学、行政、医師会、病院など、県内の関係者が会員で、(1)若手医師のキャリア形成支援、(2)地域の医療機関での研修体制の充実支援や研修機会の提供、(3)大学・医療機関等の情報を発信し、県内外から研修医を確保、(4)ワークライフバランスの推進、(5)医師不足状況の把握・分析――が事業内容。

 中でも「地域枠」の学生のキャリア支援に取り組んでいるのが特徴。2017年度の「奨学金貸与枠」は、島根大学に22人、鳥取大学に10人、計32人。卒後も「私のキャリアプラン」を毎年提出してもらい、その実効性を高めるために、面談をしたり、病院とも意見交換を重ねるなどしている。「地域枠」の学生が島根県内で後期研修を受ける数が増加傾向にあるなど、「徐々に地域医療支援センターの成果が出つつある」(県担当者)。



http://www.asahi.com/articles/ASK89752RK89UBQU019.html
新専門医制度、2018年度開始 厚労省検討委に報告
野中良祐2017年8月9日21時37分 朝日新聞

 地方の医師不足が加速する懸念などから、導入が延期されていた「新専門医制度」を議論する厚生労働省の検討会が9日、開かれた。認定機関の日本専門医機構は、地域医療を担う医師の相談窓口を置くなどの対策を説明し、2018年度に始めると報告した。

新専門医制度、来年度からスタート
 検討会メンバーの自治体首長や大学教授は「地域医療にプラスになるようにしていかなければならない」「懸念はあるが、前に進めよう」などと述べ、理解を示した。

 新制度では、国家試験に合格し2年間の初期臨床研修を終えた医師は、内科や外科など19の基本領域を選び、全国の大規模病院や地域の病院を回り3年間の研修を重ねる。その後、第三者機関の専門医機構から専門医の認定を受ける。

 これまでの制度は、各学会が症例数や受けた研修など独自の基準で認定していた。質が統一されず、わかりにくいという課題があった。



http://www.medwatch.jp/?p=15236
新専門医制度、都道府県協議会・厚労省・検討会で地域医療への影響を監視—医師養成と地域医療検討会
2017年8月9日|医療計画・地域医療構想 MedWatch

 2018年度からの新専門医制度の全面スタートを目指した検討が進められています。9日に開催された「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」(以下、検討会)では、日本専門医機構における「地域医療への配慮」内容や、制度の運用面で問題が生じた場合には厚生労働省が対応に乗り出すことなどを確認しました。

 今後、各基幹病院から示される研修プログラムの内容や、専攻医の配置状況などを注視していくことになります。

 また検討会では、より大きなテーマとも言える「卒前・卒後の一貫した医師養成の在り方」について次回以降、本格的な議論を行っていきます。

ここがポイント!
1 厚労省や検討会で地域医療への悪影響を監視し、必要な見直しを求める
2 プログラム制に拘泥してはいけないと、立谷構成員が強く要請

厚労省や検討会で地域医療への悪影響を監視し、必要な見直しを求める

 新専門医制度は、これまで各学会が独自の行っていた専門医の養成・認定を、学会と日本専門医機構が共同して行うことで、「質を担保するとともに、国民に分かりやすい」専門医養成を目指す仕組みです。

 ただし、質の担保を追求するあまり専門医を養成する基幹施設などのハードルが高く、地域医療に悪影響を及ぼすのではないか、といった指摘などがあり、厚労省に設置された検討会で、「質の担保」と「地域医療への配慮」の両立に向けた議論が行われています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。

 9日の検討会では、吉村博邦構成員(日本専門医機構理事長)から、検討会の指摘を踏まえて▼カリキュラム制(年限や研修施設を定めず、一定の症例数などを経験することで専門医試験の受験資格を得られる仕組み)の実行を担保するための相談窓口などを日本専門医機構に設ける▼日本専門医機構と学会は、都道府県協議会における研修プログラムチェックなどに協力する—ことが説明されました(関連記事はこちら)。

 これに対し、住民に最も身近な自治体である市町村の立場で出席している立谷秀清構成員(相馬市長、全国市長会副会長)は、▼地域医療に従事しながら専門医資格を取得できる仕組みが十分に見えてこない▼論部や学会発表は専門医資格の要件として不要である▼総合診療専門医の創設により、地域の医師が総合診療を行えないと誤解する—などといった問題点があると指摘。これに対し、日本専門医機構の副理事長である松原謙二参考人(日本医師会副会長)は「指摘された事項を重く受け止め、機構として対応する。走りながらきちんとした制度を構築したい」と答弁し、一定の理解を得られたようです。

 
 また立谷構成員は、都道府県協議会(地域の関係者が集い、新専門医制度で地域医療への悪影響が出ないかをチェックする組織)が必ずしも「学会などに物申せる組織」にはなっていないところもあると指摘し、「検討会で逐次、専門医制度の運用状況を確認する必要がある」と要望しました。

この点、厚労省医政局医事課の武井貞治課長は「検討会も活用しながら、必要な対応を行う」考えを示しています。塩崎前厚労相は2日に、専攻医の▼応募状況▼配属状況―を厚労省で確認し、地域医療への影響が懸念される場合には、日本専門医機構と関係学会に対し実効性ある対応を要請する旨の談話を示しています(関連記事はこちら)。

今般の武井医事課長の説明や談話などを組み合わせると、いわば次の4層構造で地域医療への悪影響を防止する構えをとることになります。

(1)新整備指針などで大都市への集中を避ける規定や、必要な場合にはカリキュラム制を認めることなどを規定し、これを担保する仕組みも設ける【事前チェック1】

(2)都道府県協議会で研修プログラムなどのチェックを行い、問題があれば必要な見直しを求める【事前チェック2】

(3)厚労省が実際の運用状況を確認し、問題があれば必要な見直しを求める【事後チェック1】

(4)問題が解決しない場合には、検討会で議論を行い、必要な見直しを強く求める【事後チェック2】

また厚労省は都道府県協議会の運用状況などを近くチェックする考えで、そこで仮に「十分に機能していない」ようなことが明らかになれば、実効性を持たせるために「法制化」などが検討される可能性もあります(現在は通知で設置を要請している)。

プログラム制に拘泥してはいけないと、立谷構成員が強く要請


ところで日本専門医機構は4日、「新たな専門医制度の開始に向けた声明」を公表し、▼塩崎前厚労省談話に真摯に対応する▼10月初旬を目途に基本19領域の専攻医一次登録開始し、12月中旬を目途に二次登録を開始する▼応募状況を見て必要な調整を行う—ことなどを明らかにしました(関連記事はこちら)。また、その中では「プログラム制(研修年限や施設を指定し、そこでの研修を経て専門医試験受験資格を得られる仕組み)とカリキュラム制とで、従来と専攻医数は大きく変わらない。プログラム制の導入で地域医療が崩壊するとの意見を支持する調査結果は得られていない」ことにも言及しています。

これに関連して立谷参考人は、「プログラム制に拘泥することは好ましくない」と極めて強く主張しています。検討会でカリキュラム制導入を求め、日本専門医機構側もこれに沿った対応をとっている一方で、吉村構成員が「最初の基本領域学会の研修は原則としてプログラム制となる」と説明した点を問題視したものです。

仮にプログラム制にこだわった研修プログラムなどがある場合には、前述の4層構造のチェックがなされ、見直しが要請される(応じなければ研修プログラムとして認定されない)ことになります。

このほか立谷構成員は「地域医療に従事する」ことを専門医資格取得の中で「加算ポイントとする」ことを提案。この点、専門医資格はあくまで「当該領域における専門医療の知識・技術」の修得状況に応じて付与されるものであり、単純に「地域医療に従事したので、専門医の取得が容易になる」仕組みは好ましくなさそうです。もっとも武井医事課長は「医師偏在の解消にもつながる可能性がある」として、医師需給分科会の中で検討俎上に載せる可能性も示唆しています(関連記事はこちら)。
 
このように新専門医制度は▼研修プログラムの募集▼専攻医の募集—など、2018年度の全面スタートに向けて動いていますが、前述のとおり「地域医療への悪影響」が生じていないかが逐次チェックされています。検討会では、運用状況を注視すると同時に、今後は、もう一つの、より大きな検討テーマである「卒前・卒後の一貫した医師養成の在り方」について本格的に議論していくことになります。



http://www.huffingtonpost.jp/foresight/cancer-particle-beam-therapy_b_17698838.html
「厚労省vs.文科省」利権争いで停滞する「がん治療」最前線--
上昌広
投稿日: 2017年08月09日 11時27分 JST 更新: 2017年08月09日 11時27分 JST ハフィントンポスト

粒子線治療という言葉をお聞きになったことがおありだろうか。がんの放射線治療の一種だ。

水素原子核である陽子を用いた陽子線治療と、炭素以上の重たいイオンの原子を用いる重粒子線治療がある。粒子線治療は、陽子や重粒子を加速させ、がん組織を攻撃する。

従来のX線を用いた放射線治療は体表で効果が最大となり、体内では効果が減弱する。つまり、体内のがん病巣を狙いうちしようとすれば、どうしても皮膚など周辺組織を傷めてしまう。

一方、粒子線治療はがん病巣で放射線量をピークできる特性(ブラッグ・ピーク)がある。がん組織にピンポイントに狙いを絞れば、正常組織への副作用を抑えながら、効果を最大限にすることができる。

両者の差は散乱の程度だ。陽子線はがん組織に当たると、周囲に散乱する。照射線量を増やすと、周囲の組織への影響が避けられないが、重粒子線には、このような問題点はない。

スキャニング法など照射方法も開発が進んでおり、上手く調整すれば、周囲の組織を傷つけず、照射線量を増やすことができる。極論すれば、1回の照射で治療を終えることも可能だ。がん患者にとって「夢の治療」と言っていい。ところが、この治療はなかなか普及しない。

第1の問題は費用だ。重粒子線治療施設は初期投資が高い。内訳は建物に約70億円、照射装置に約70億円を要する。これに年間約6億円の維持費と、約5億円の人件費がかかる。この経費を賄うため、治療費も高額になる。1人当たり約300万円程度だ。

ただ、生命保険やがん保険の多くが先進医療特約を備えている。「先進医療」とは、厚生労働省が特例として混合診療を認める医療行為のことだ。重粒子線治療は2003年から認定されており、このような保険に契約していれば、患者の自己負担はない。

余談だが、我が国の重粒子線治療は世界をリードしている。治療施設は世界中で11あるが、このうち5つは日本だ。ただ、日本がリードしているのは偶然の産物に過ぎない。

「ついていた」日本

放射線治療は原子力開発と密接に関連する。世界をリードするのは、もちろん米国だ。1957年にローレンス・バークレイ国立研究所で重粒子線の臨床研究を始めた。ところが、1992年に開発を断念した。現在は陽子線治療に専念し、全米で26の施設が稼働している。

当時、アメリカが主たる対象としたのは消化器がん。その後の研究で、重粒子線治療は消化管のような管腔臓器のがんには応用しにくいことがわかった。専門家は「アメリカはターゲットを間違えた」という。

また、当時はCT(コンピュータ断層撮影)が出たばかりで、MRI(核磁気共鳴画像法)もPET(ポジトロン断層法)もなく、腫瘍の位置決めが正確にできなかった。腫瘍の場所がわからない以上、正常組織に当たってしまった時に被害が大きくなる重粒子線治療より、破壊力の小さい陽子線治療を選択したのは、当時としては合理的な判断だった。

日本で重粒子線治療の議論が始まったのは、1984年の「対がん10カ年総合戦略」からだ。総額1114億円の予算のうち、326億円を千葉県の「放射線医学総合研究所(放医研)」での重粒子線治療装置の開発に投じた。

先行する米国の情報や、当時、MRIが普及し始めたことが、日本に有利に働いた。さらに、1992年に米国が重粒子線治療から撤退したときは、バブル経済の真っ只中。予算の大盤振る舞いが続いた。日本はついていたのだ。

「横取り」されたプロジェクト

話を戻そう。我が国で重粒子線治療が普及しない最大の理由は、実は費用ではない。厚労省と文部科学省の省庁間の権益争いである。

対がん10カ年総合戦略は、杉村隆「国立がんセンター(以下、国がん)」総長(当時)の助言を受け、中曽根康弘総理(当時)の肝煎りで始まったものだ。

杉村氏は発がんのメカニズムを研究する世界的に高名な基礎医学者である。当時、世界のがん研究の中心は、自らが専門とするがん遺伝子だった。

対がん10カ年総合戦略は6つの重点研究課題を定めたが、3つはがん遺伝子に関するものだった。研究費の多くは、自らが総長を務める「国がん」におりる筈だった。

ところが蓋を開けてみると、文科省が所管する放医研には326億円の予算がついたのに、国がんを含む厚生省全体ではわずか180億円だった。「国がんが立ち上げたプロジェクトを、科学技術庁(現文科省)に横取りされた」(国がん関係者)ことになる。

その後、1995年の補正予算で国がんには陽子線治療施設が建設されるが、放医研との圧倒的な差は埋まらなかった。このあたり、川口恭氏の『がん重粒子線治療のナゾ』(大和出版)に詳しい。ご関心のある方には一読をお奨めする。

「保険適用」を一蹴した厚労省

現在、重粒子線バッシングの先頭に立つのが厚労省だ。屁理屈を言って、普及を邪魔しつづけている。

まずは、「先進医療」への承認を遅らせた。我が国では混合診療が禁止されている。例外的に認めてもらうには、厚労省の承認を受けなければならない。そのために、厚労省は先進医療制度という枠組みを設けている。2017年7月現在、104の医療行為が認定されている。

「先進医療」への承認を決めるのは先進医療会議で、もちろん厚労省が恣意的に運用している。

1994年に始まり、安定稼働していた放医研での重粒子線治療が高度先進医療(当時、現在の「先進医療」)の承認を受けたのは、9年後の2003年だ。一方、1998年に稼働し、なかなか安定的に稼働しなかった国がんの陽子線治療は、わずか3年後の2001年に認定された。

先進医療制度は、「将来的な保険導入のための評価を行うもの(厚労省ホームページ)」で、臨床経験を積み、この治療法の効果を実感した医師は保険適用を求める。

2012年1月19日に厚労省で開催された先進医療専門会議で、田中良明・日本大学客員教授(放射線科)が、小児がんや骨・筋肉の腫瘍での保険適用を強く求めた。

小児の脳腫瘍では全脳照射が行われるが、発達障害が不可避だ。骨や筋肉の腫瘍では、下肢が切除されることが珍しくない。重粒子線治療のメリットは明らかだ。

ところが、厚労省は費用対効果という概念を新たに持ち出し、「費用対効果のエビデンスが示されているとは考えておりません」と一蹴した。

巧妙な「印象操作」

重粒子線治療は、陽子線治療と異なり、1回当たりの線量を上げて、照射回数を減らすことができる。放医研では、一部の肺がんに既に1回照射を試みており、将来的には多くのがんに応用することを考えている。

2015年度に放医研が治療したのは745件だが、原理的には何千人でも対応可能だ。

そうすると1人あたりの金額を下げて、現在の何分の1かにすることができる。100万円以下になる可能性がある。「ニボルマブ(小野薬品、商品名オプジーボ)」など、最近開発された抗がん剤に要する年間の医療費の10分の1以下だ。

医薬品と違い、医療機器は保険収載されることで、価格が大幅に下がる。初期投資が高いが、ランニングコストは低いからだ。症例数が増えれば、損益分岐点が下がる。

2016年1月に保険収載された内視鏡手術ロボット「ダヴィンチ」は、収載前に200万円以上の費用がかかったのが、54万円となった。おそらく重粒子線治療でも同じ事がおこる。

元岐阜県知事で、放医研で前立腺がんの治療を受けた梶原拓氏は、「いまのうちに保険適用し、世界に輸出すればいい」と公言する。彼は元建設官僚。初期投資の高い公共事業を取り扱う役人なら、誰でも同じように考えるはずだ。

もちろん厚労省も、こんなことは分かっているだろう。ところが、診療報酬を検討する「中央社会保険医療協議会(中医協)」で、費用対効果の議論が始まったのは2012年だ。高額な薬剤が社会問題化したために、動かざるを得なくなった。

それまで、重粒子線治療の費用対効果など、真面目に考えたことはない。

形勢悪しと見た厚労省は、最近になって新たな戦略を考えついた。

2016年5月に厚労省で開催された先進医療会議で、藤原康弘委員(国がん中央病院副院長)が、「各施設が前立腺がんの診療をストップすると、ランニングコストも出なくなって重粒子線や陽子線の施設が成立しないから、だらだらと何とかして引きずりたいという醜悪が見え隠れする」と批判した。

その根拠として、「日本放射線腫瘍学会の理事長さんが、粒子線は前立腺がんには効かないと明言された」と付け加えた。

将来性が全く異なる重粒子線治療と陽子線治療を意図的に混同させ、悪徳医師の金儲けの手段と印象づけようとしている。

「既存の放射線治療でも治療できるから、重粒子線治療は無駄」という論理だ。しかし、前立腺がんでは、重粒子線治療は12回の治療で終了するが、既存の放射線治療では28回~40回程度が必要である。

この間、患者は毎日通院する必要があり、放射線治療スタッフの人手もかかる。通常よりも治療回数を減らしたい人は、自らコストを負担して重粒子線治療を選択すれば良いだけである。効かないなどと印象操作する必要はない。

このように、「粒子線は前立腺がんには効かない」という発言は医学的に不適切で論外だが、後者のコスト関連の指摘は当たらずとも遠からずだ。藤原氏は、そこを上手く突いた。

患者のメリットは何もない

粒子線治療施設の建設は巨大公共事業で、請け負うメーカーは数社に限定される。利権が生じやすい。2016年12月には、放医研を運営する「量子科学技術研究開発機構」と、東芝・日立などの4社が次世代の重粒子線治療装置開発で協定を結んだ。

東京電力福島第1原子力発電所事故の後遺症に喘ぐ原子力メーカーにとり、重粒子線治療器機の開発は、新たな成長領域である。

粒子線治療は、これまで採算度外視で進められてきた。たとえ赤字になっても電力会社からの寄付金で埋め合わせが効くからだ。その証左に、我が国の粒子線施設は佐賀や福井など、原発立地地域に建設されることが多い。

『選択』8月号によれば、東日本大震災で九州電力から予定されていた総額39億7000万円の寄附を貰えなくなった「九州国際重粒子線がん治療センター」(鳥栖市)は経営難に陥った。

現在、厚労省は陽子線治療と重粒子線治療を意図的に混同させることで、その効果を過小評価し、さらに原発利権が絡み、悪徳医師の金儲けの手段と化していると印象づけることで、規制の強化を狙っている。

具体的には、粒子線治療を「先進医療A」から「先進医療B」に変えようと提案している。

「先進医療A」は、条件さえ満たせば、どのような施設でも治療を受けることができるが、「先進医療B」は、厚労省が認定する臨床研究中核病院を中心に、厳密なプロトコールに沿って複数の施設での共同研究を実施することになる。

先進医療はあくまで保険適用を目指すもので、臨床研究目的でなく、治癒を目指せない進行がん患者に使うことはまかりならんという論理だ。

こうなると、多くの施設と患者が参加できなくなる。先進医療から外れれば、先進医療特約が使えず、混合診療を受けるためには、全額を自己負担しなければならなくなる。

1回照射を目指す放医研も、他施設と足並みを揃えて、すでに検討を終えた照射方法に戻さざるを得なくなる。患者にとっても何のメリットもない。この制度が始まれば、重粒子線治療を受ける患者は激減する。

医療界の宿痾

そこまでして厚労省は何を守ろうとしているのか。知人の国がん関係者は、「重粒子線治療が普及すれば、国がんは放医研に患者を奪われてしまう。研究費も放医研に回されてしまう」と言う。

国がんの中で、特に強い危機意識を抱くのは外科医だ。これまで国がんを仕切ってきた人たちだ。ところが、内視鏡が普及し、早期胃がんの治療が外科医から内科医に移ったように、重粒子線治療が発展すれば、放射線科医にお株を奪われる。

国がんは存亡の危機に立つ。私は、これこそが国がんが重粒子線治療に反対する本当の理由だろうと思う。そこに患者視点はない。

これまで、重粒子線治療の分野では、日本は世界をリードしてきた。ただ、このリードをいつまで維持できるかは覚束ない。世界が追い上げているからだ。中国は、2006年に蘭州、2014年には上海で重粒子線治療施設を稼働した。

米国の国立がん研究所は、2015年にテキサスサウスウェスタン大学とカリフォルニア大学サンフランシスコ校に、重粒子線センター準備のための予算を措置した。厚労省・国がんを中心に重粒子線たたきに懸命な日本とは対照的だ。

重粒子線治療は、我が国の医療界の宿痾を象徴している。既得権者の利権ではなく、患者の利益を考えて行動しなければ、我が国の医療の地盤沈下は止まらない。



http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/list/201708/CK2017080902000177.html
救急医療維持へ統合 神栖済生会病院と鹿島労災病院
2017年8月9日 東京新聞 【茨城】

 医師不足が深刻化していた神栖済生会病院と鹿島労災病院(ともに神栖市)の二病院が統合することで合意し八日、県庁で基本合意書を締結した。早期に神栖済生会病院に拠点をつくり、医師を集約して救急医療などで効果的に対応するのが狙い。(鈴木学)
 今年四月に取りまとめられた基本構想によると、現在の神栖済生会病院を増築して、本院として整備する。ベッド数は三百五十床程度を目指す。
 鹿島労災病院を解体し、跡地に分院の有床診療所を開設する。新病院に移籍を希望する医師や看護師らは全員受け入れるという。
 これまでの検討では、開院の目標は二〇二〇年度と設定されているが、まだはっきりとはしていない。県医療政策課の担当者は「早期に実現したいとしか言えない」と話した。
 両病院の常勤医師は〇九年に計五十人いたが、鹿島労災病院で大量退職があり、一三年に二十六人に。昨年四月現在は三十四人に増えたものの、救急患者らの受け入れが不十分な状況だった。病床の利用率も一四年の全国平均74・8%に対し、神栖済生会病院が44・7%、鹿島労災病院が15・1%と極めて低く、経営も厳しかった。
 鹿行地域は医師不足が深刻で、一二年の十万人当たりの医師数は八八・六人で、入院対応のため県内九つの地区に分けられる二次保健医療圏でワースト、全国でもワースト3に入る。
 八日の締結式では、県や市の関係者も出席し、統合を支えていくとしている。
 今回の再編統合を主導してきた前県医師会長の小松満さんが「この締結がスタートライン。医療体制を整え、地域住民のためになる病院をつくっていただければ」と期待を語った。



http://www.sankei.com/region/news/170809/rgn1708090024-n1.html
神栖の2病院、再編統合で合意書締結 茨城
2017.8.9 07:02 産經新聞

 医師不足で経営難が続いている神栖市の鹿島労災病院(土合本町)と神栖済生会病院(知手中央)の再編統合をめぐり、県庁で8日、両病院と県、同市の4者間で基本合意書が締結された。両病院は平成30年度内の統合を目指し、準備や検討を加速させる。

 基本合意書によると、30年度下半期をめどに鹿島労災を神栖済生会に統合。神栖済生会を増築して「本院」とし、鹿島労災の所在地に「分院」となる診療所を新築する。鹿島労災の職員のうち、希望者は原則神栖済生会に採用するとしている。

 神栖済生会は、最終的に約350床を有する2次救急病院を目指す。鹿島労災から災害拠点病院としての機能も継承する。

 再編統合協議会の小松満会長は「スタートラインに着いたばかり。地域住民のためになる病院になると期待している」と述べた。



http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201708/20170806_63024.html
いわき市が民間病院の寄付講座開設支援 勤務医確保図る
2017年08月06日日曜日 河北新報

 福島県いわき市は、市内の民間病院などが医学部を持つ大学に寄付講座を開設する経費の3分の2を負担する事業を始めた。東日本大震災後、勤務医不足が深刻化する市内での研究、診療を促し、医師定着につなげる。
 市立総合磐城共立病院を除く市内の26病院が設ける寄付講座が対象。がんや脳卒中など5疾病と、救急医療や災害時医療など5分野、産科や小児科など市内に医師が少ない診療科の各研究に関する講座開設を支援する。
 2~5年の開設期間中、大学の医師が市内で臨床研究(診療)を行うことが必要。市の年間負担額は1病院当たり5000万円を上限とする。
 市は福島県立医大と北里大に寄付講座を設け、共立病院に産婦人科医と整形外科医、小児科医の派遣を受けている。担当者は「民間病院の取り組みを応援し、市全体で勤務医を増やしたい」と説明する。
 市は、病院と大学の協議が整えば、予算措置を取る。財源の一部支援を県に働き掛けている。市内の勤務医不足は震災後に拍車が掛かり、人口10万当たり88.3人(2014年12月時点)と全国平均の153.4人を下回る。



http://www.medwatch.jp/?p=15242
地域医療構想踏まえ、9月または12月までに「公的病院改革プラン」を策定せよ—厚労省
2017年8月10日|医療計画・地域医療構想 MedWatch

 地域医療構想の実現に向けた議論が本格的にスタートしていることを踏まえ、公的病院などにおいて「地域の現状と課題」「自院の現状と課題」「地域において今後、自院が担う役割」「今後持つべき病床機能」「機能分化などに向けた年次スケジュール」などを明確にした【病院改革プラン】を作成してほしい—。

 厚生労働省は4日、こういった内容の通知「地域医療構想を踏まえた『公的医療機関等2025プラン』策定について(依頼)」を発出しました(関連記事はこちら)。

 救急医療や災害医療といった政策医療を担う公的病院などでは今年(2017年)9月末まで、それ以外の公的病院などでは今年いっぱい(2017年12月末)に改革プランを策定し、地域医療構想調整会議に提示することが求められます。

ここがポイント!
1 地域医療構想の実現に向け、公的病院などの機能をまず固める
2 地域と自施設の現状と課題を客観的に把握することで、進むべき方向が明らかに

地域医療構想の実現に向け、公的病院などの機能をまず固める

 いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年に向けて、地域の医療・介護ニーズが飛躍的に増大していくため、現在の医療提供体制ではこれらに対応しきれないと指摘されています。そこで国は「病床機能分化・連携の推進」「地域包括ケアシステムの構築」の2つを最重要政策に位置付けています。

 とくに前者については、2025年における▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期—の各病床数を推計した「地域医療構想」が全都道府県で策定され、この実現に向けた議論が、各地の地域医療構想調整会議(以下、調整会議)で進められています。

 調整会議の進め方に特段の定めはありませんが、厚労省は、まず「▼救急・災害医療などの中心的な医療機関▼公的医療機関や国立病院▼地域医療支援病院・特定機能病院—などが担う医療機能を固める」ことから初めてはどうかと例示しています。まず中核機能を担う医療機関を定め、次いで他の医療機関がそれらとどう連携し、機能分担していくことが近道と考えられるからです。

さらに今般、地域医療構想に関するワーキンググループの意見を踏まえて、公的病院などに対し【病院改革プラン】の作成を求め、これを調整会議論議の土台にすることが求められるに至りました(関連記事はこちら)。公的病院などにとっては「負担」と感じられるかもしれませんが、地域の実情と自院の事態を客観的に把握することで、「見えなった」「見ようとしなかった」ものが見えるようになるため、積極的な改革プラン策定が求められます。ただし、期限は厳しく設定され(調整会議の論議のベースとするため)、救急医療や災害医療といった政策医療を担う公的病院などでは今年(2017年)9月末まで、それ以外の公的病院などでは今年いっぱい(2017年12月末)に改革プランを策定し、地域医療構想調整会議に提示することが求められます。また、改革プランと地域医療構想との間に齟齬が生じた場合には、改革プランの見直しなども求められます。
 
なお、改革プランの策定が求められるのは、▼公的医療機関(日本赤十字社、社会福祉法人恩賜財団済生会、厚生農業協同組合連合会、北海道社会事業協会が開設する医療機関、ただし公立病院を除く)▼医療法第7条の2第1項第2号から第8号に掲げる者(共済組合、健康保険組合、地域医療機能推進機構、全国健康保険協会)が開設する医療機関▼その他の独立行政法人(国立病院機構、労働者健康安全機構)が開設する医療機関▼地域医療支援病院▼特定機能病院—ですが、例えば社会医療法人などにも自主的な【改革プラン】の策定が期待されています。

地域と自施設の現状と課題を客観的に把握することで、進むべき方向が明らかに

改革プランには次の点を具体的に記載することになります。
(1)構想区域の現状と課題
(2)自施設の現状と課題
(3)今後、自施設の▼地域で担うべき役割▼持つべき病床機能▼見直すべき点
(4)現在および2025年における、高度急性期から慢性期の病床数(方針)と年次スケジュール
(5)現在および2024年における診療科の見直し(維持、新設、廃止、変更・統合)
(6)▼病床稼働率▼手術室稼働率▼紹介率▼逆紹介率▼人件費率▼医業収益に占める人材育成費用の割合―などの数値目標

このうち(1)の「構想区域の現状・課題」では、地域における人口の推移、医療需要、医療受給の特徴などのほか、「急性期機能が重複していないか」「post acute機能が不足していないか」などを、地域医療構想を参考に記載します。

また【病院改革プラン】の要(自施設の客観的な把握)とも言える(2)の「自施設の現状と課題」では、診療実績や他医療機関などとの連携の実態を正確に記載するとともに、例えば「地域の医療需要の減少が見込まれる、近隣病院と機能の重複があり、現状を維持すべきか否かを検討する必要がある」「地域で不足するpost acute機能の整備に向けて、自院の役割を再検討する必要がある」などといった課題・検討テーマを明らかにします。
 
こうして(1)と(2)で地域と自施設の状況(現状と課題)を客観的に把握することで、自ずと「自院が将来目指すべき方向」が明らかになってきます。例えば、「地域において急性期入院医療を提供している。今後も急性期医療を提供する」と考えている病院であっても、地域と自院の現状を把握することで、実は「地域において急性期ニーズは急速に減少する」「高度な手術などが必要な高度急性期・急性期患者数は自院では減少傾向にあり、近隣の病院で急性期患者数が増加している」などの状況が明らかになるかもしれません。この場合、「機能強化して急性期を維持する」方向も考えられますが、「post acute機能に転換していく」方向もありえます。この方向を探るために、地域と自院の状況を「客観的に」把握することが不可欠なのです。この方向が明確になれば、(3)から(6)の各項目は、これらを具体化していけばよく、(1)と(2)が改革プランにおける極めて重要なポイントと言えると考えられます。



https://www.m3.com/news/iryoishin/549719
地域包括ケア、「概念自体が深化・進化」―田中滋・地域包括ケア研究会座長に聞く◆Vol.1
「主役は住民・専門職はサポーター・地域は舞台・行政は仕掛け人」

インタビュー 2017年8月9日 (水)配信高橋直純(m3.com編集部)

 2025年を見据えた地域における医療提供体制の在り方を巡る動きが本格化している中で、最も重要な取組の一つが「地域包括ケアシステム」の構築だ。

 厚生労働省老人保健健康増進等事業として実施されている「地域包括ケア研究会」座長であり、「地域包括ケアシステム」を理論、実践の面でリードする慶應義塾大学名誉教授の田中滋氏に、概念の成り立ちや医療従事者としてどのように向き合うべきかを尋ねた(2017年6月28日にインタビュー。計4回の連載)。

――m3.com編集部が医師会員に行った調査では、「地域包括ケアシステム」という言葉の理解は、6割強にとどまり、「言葉は聞いたことがあるが、概念は分からず」「言葉を聞いたことがない」も3割を超えていました(『「地域包括ケアシステム」、医師会加盟医師で理解度高く◆Vol.1』を参照)。改めて、『地域包括ケアシステム』とはどのような考え方、概念なのかをお聞きします。「地域」「包括」「ケア」「システム」という単語は、それぞれどのようなことを意味しているのでしょうか。

田中滋氏 そのように分解して考えたことはありませんでしたが、順に解説すると、「地域」とは日常生活圏域、およそのところ中学校区を指しています。二次医療圏や県などの広い地域ではなく、比喩的に言えば歩いて生活できる範囲と理解して下さい。

 地域包括ケアシステム概念は英語では「Integrated Community Based Care System」が一番近い。この表現を用いると、「包括」はIntegrated、すなわち「統合」に当たります。関係者が目標を共有し、共通のゴールに向かうあり方です。また、地域包括ケアシステムの理念を「切れ目のない(seamless)、連続的(continuous)、統合的(integrated)」と表す場合もあります。入院か、在宅か、施設かなど――ステージやサービスの提供者が変わっても、地域の住民と提供者、自治体が理念を共有した上で、サービスの授受が行われ、本人の尊厳ある自立を支援する仕組みが大事です。

 地域包括ケアシステムでは、「キュア」については中学校区ごとに存在するわけではない急性期入院医療には直接は関係しません。主に圏内で完結する生活と「ケア」にかかわります。なお未だに、「キュアからケアへ」と唱える人がいますが、「キュア」は決して不要になるはずがない。心臓発作や癌に対応する急性期医療は「キュア」に決まっており、いつの時代にも欠かせない行為でしょう。だから「キュアからケアへ」なるスローガンは意味を成しません。

 一方で、医療の幅が広がり、「治し・支える医療」と2つの機能が両立連携する趨勢に変わっている変化も事実です。地域包括ケアシステムにおいても、中重度要介護者を中心に医療の役割は大きく、ケアだけを取り上げているわけではありません。

 最後に「システム」とはプラットフォームの意味で、全体像を指します。プラットフォームの上で展開されるチームによる行為が、個別の利用者に対するサービス、すなわち地域包括ケアです。

――「地域包括ケアシステム」を説明する「植木鉢」図があります。先生が座長を務める「地域包括ケア研究会」では、これまでに6回報告書を作成されており、少しずつ図が変わってきています。

 地域包括ケアシステムの概念自体が深化・進化してきているからです。2008年度の最初の報告書では、五輪の花(介護、医療、予防、住まい、生活支援)図でした。この図は、高齢者の尊厳ある自立を支える要素は「医療、介護だけではない」と伝えることを主眼に置いていました。

 その後、2012年度報告書で植木鉢図に到達し、立体化させました。「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・予防」という3つのプロフェッショナルワークと、本人が責任を持つ「生活」、それが崩れないための「すまいとすまい方」の5つの要素です。それを、「本人・家族の選択と心構え」である皿が支えている図柄です。皿がないと、共助や公助に頼りすぎるかもしれず、団塊の世代が75歳をすぎた後の超高齢社会を乗り切れません。

 この植木鉢は一つ一つの家庭を表しています。圏域にもし5000世帯が住んでいるなら、5000個の植木鉢が置かれた姿を想像してください。植木鉢によっては花が咲いているかもしれないし、つぼみの段階かもしれません。葉っぱの大きさもバラバラです。中には鉢が壊れて、土が流れている家庭もあるでしょう。地域ではなく、一つ一つの家庭を意味しています。

 付け加えると、厚労省が使っている下記のような平面的な図では、要素の関係性が示されておらず、本質を捉えていないと思います。

 2015年度の研究会報告書では、更なる深化・進化を遂げました。具体的には土の部分に置いていた「福祉サービス」を、プロフェッショナルワークと位置づけなおし、医療、介護に並ぶ「葉」に記した一方、「介護予防」は本人、とりわけ団塊の世代の責任と捉え、土に含めました。皿の部分では「本人の選択と本人・家族の心構え」と変え、より「本人」の選択を強調しました。

――「介護予防・生活支援」はプロフェッショナルワークではないのでしょうか。
 違います。確かに一部はそうですが、生活全体や心身および社会的健康はもっと幅広いテーマです。例えば生活をしていくための食事の準備は、出前をとってもいいし、スーパーで買っても良い。介護予防も、時々はプロの助けを借りるとしても、地域の公園で行われる毎朝の体操会に行ったり、高齢者向けスポーツクラブに行ったりするなど、本人の責任、自助に属する部分がコアに置かれるべきです。

――「システム」と聞くと、担い手がいて、受け手がいるようなイメージを持ちます。地域包括ケアシステムでは、そういう考え方は正しいでしょうか。
 主体はあくまで利用者であり、それが地域包括ケアシステム論の本質です。専門職はそれを支える役割を担う。「主役は住民・専門職はサポーター・地域は舞台・行政は仕掛け人」という姿勢が大事です。福岡県大牟田市の職員の発言と聞きますが、見事に本質を捉えていますね。支える人、支えられる人は、医療とは異なり、場面によって相互に入れ替わりえる。要介護の方がこども食堂プロジェクトで、ご飯づくりに参加して元気になるなどの話をよく伺うようになりました。「支え、支えられ」は決して一方通行ではない。

 一方で、地域包括ケアシステムの「構築」の主体は、市役所、町役場など地方自治体です。最新の報告書となる2016年度の報告書では、「地域マネジメント」の重要性を指摘しています。構築に資するさまざまな「場」を設置し、運営していく主体は自治体、テーマによっては介護保険者としての自治体です。

――「地域マネジメント」とはどのような考え方でしょうか。
 地域包括ケアシステム構築に際して、工程管理に用いる手法です。報告書では「地域の実態把握・課題分析を通じて、地域における共通の目標を設定し、関係者間で共有するとともに、その達成に向けた具体的な計画を作成・実行し、評価と計画の見直しを繰り返し実施することで、目標達成に向けた活動を継続的に改善する取組」と定義しています。多くの自治体で「地域包括ケア推進課」といった部署が作られるようになってきました。

田中滋氏 慶應義塾大学名誉教授、地域包括ケア研究会座長
1971年慶応大商学部卒。2014年3月まで同大大学院経営管理研究科教授。現在、社会保障審議会委員(介護給付費分科会長、福祉部会長、医療部会長代理)などを務めている。



http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/eye/201708/552235.html
記者の眼
大学病院の「全床高度急性期」報告に厳しい批判

2017/8/8 土田 絢子=日経ヘルスケア

 団塊の世代が全て後期高齢者になり、人口減少がより一層進む2025年。医療ニーズが激変するこの2025年に向けて、将来の医療需要と現状の体制とのギャップを明らかにし、医療機関の自主的な取り組みによって病床の機能分化・連携を進めるのが「地域医療構想」だ。2016年度末に全ての都道府県で地域医療構想の策定が完了し、その内容を踏まえた会議(地域医療構想調整会議)が2017年度から各地域で始まっている。

 具体的には、図1のように年4回の会議を実施するよう厚生労働省が示しており、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の医療機能のうちどれが将来過剰になるか、または不足するかをデータを見ながら確認するなどの第1回目の会議が今夏までに各地域で開催されたはずだ。なお、現状では多くの地域で将来急性期機能が過剰になり回復期機能が不足するとされている。


図1●地域医療構想調整会議の想定スケジュール※(図 略)


図2●特定機能病院などに対する都道府県知事の権限(5月10日地域医療構想に関するワーキンググループ資料より)※ (図 略)

 この地域医療構想において公立病院や公的病院、特定機能病院などは率先した役割が求められている。都道府県知事はこれらの病院に対し、不足する機能への転換の指示や、過剰な機能に転換しないよう命令などを行うことができるからだ(図2)。

 そうした状況で、「地域医療構想では医療教育や高度先進医療を担う大学病院本院の特殊性が考慮されるべきだ」という主張が強い反発を受け、大学病院のあり方が問われるという事態が厚労省の検討会で起きた。

 発端は6月2日に開催された「地域医療構想に関するワーキンググループ」で、参考人として出席した小山信彌氏(東邦大学医学部特任教授)が全国医学部長病院長会議の提言を説明したことに遡る。大学病院本院は医育機関、高度先進医療を提供する特定機能病院としての機能を有し、事実上、地域の最大の急性期病院として専門性の高い医療を提供していると小山氏は述べつつ、地域医療構想の策定過程においてこのような大学病院の特殊性が十分考慮されていないことを懸念。

 そこで全国医学部長病院長会議は「大学病院本院の地域医療構想における位置づけを明確にすること」「大学病院本院からの病床機能報告については、地域の他施設の病床と単純に合算せず、その特殊性を十分勘案した上で、集計するように配慮すること」――などと提言した(図3)。これから激変する医療ニーズにどう対応するか話し合う地域医療構想において、大学病院本院の病床は他施設の病床とは単純に合算しない「特別扱い」を求めた形だ。

図3●大学病院の位置づけに関する提言内容(6月2日第5回地域医療構想に関するワーキンググループ資料より)※ (図 略)

 これに対して強い反発を示したのが同ワーキンググループ構成員の中川俊男氏(日本医師会副会長)だ。「意味が分からない、地域医療構想を理解されていないのではないか」と指摘。大学病院の機能は十分に把握しているとした上で、医療需要の変化に備えて地域医療構想の枠組みにきちんと参画すべきだとした。

 厚労省側の見解も中川氏と同様だ。担当官は「地域医療構想について十分に説明できていない部分がある」と述べつつ、大学病院も2025年に向けて地域における役割や連携を検討する必要性を訴えた。

 同ワーキンググループで、大学病院側の理解の低さが最も表れている点として中川氏が問題視したのは、2016年度病床機能報告において「全床高度急性期」と報告した大学病院が少なくなかったことだ。全床高度急性期と報告した病院は128施設あり、そのうち特定機能病院が54施設・総病床数4万1924床を占めた。現状や将来の医療機能を病棟ごとに報告する「病床機能報告制度」は医療提供体制のデータの基となるもので、実態とかけ離れていては地域医療構想調整会議での議論に支障が生じ得る。

図4●病床機能報告制度における4医療機能の定義(6月2日第5回地域医療構想に関するワーキンググループ資料より)※(図 略)


図5●特定入院料などと4医療機能の対応(6月2日第5回地域医療構想に関するワーキンググループ資料より))※(図 略)

 各医療機能は図4のように定義されており、特定入院料等を算定する病棟との関係は図5のような整理がなされている。つまり、大学病院が高度先進医療を提供しているとはいえ、「全床高度急性期」と報告するのであれば、ICUに入院するような状態の不安定な患者が全病床に入院していることが前提となる。だが通常は、入院当初に重度で医療資源を多く投入していても、退院前には回復期などの状態に落ち着くため、全床が高度急性期にはなり得ない。

 また、大学病院の中には、出来高換算での報酬点数の平均値が3000点を超えるから「全床高度急性期」と判断したケースがあることも同ワーキンググループで明らかにされた。だが以前、都道府県が将来の医療需要を推計するために医療機能の境界として厚労省が示した出来高報酬点数(高度急性期と急性期の境界は3000点など)は、あくまでマクロの推計のために設定されたものであり、個々の病棟の医療機能の選択に用いる基準には適さないとされている。

 全床高度急性期といった不自然な報告は特定機能病院だけでなく、他の施設からも散見されている状況だ。これは制度の分かりにくさも大きく関係している。例えば図4に示した医療機能の定義で「高度急性期機能」は「急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、診療密度が特に高い医療を提供する機能」「急性期機能」は「急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて医療を提供する機能」とされており、曖昧で分かりにくい。

 そこで厚労省は次回の報告では実態をより正確に反映させようと、矢継ぎ早に対応策を打ち出した。まず図6のように、各病棟において、4つの機能のうち最も多くの割合を占める患者の機能を報告することを基本とした。

図6●病棟の患者層と医療機能のイメージ(6月2日第5回地域医療構想に関するワーキンググループ資料より))※(図 略)

 また、図7のように、これまで不明瞭だった一般病棟入院基本料などと4つの機能との対応が整理された。図中の組み合わせと異なる機能を選択することは可能だが、地域医療構想調整会議での確認が必要になる。


図7●一般病棟入院基本料と4医療機能の対応(6月2日第5回地域医療構想に関するワーキンググループ資料より))※(図 略)

 こうして病床機能報告制度の見直しをした上で7月19日の会合では、厚労省が「公的医療機関等改革プラン(仮称)」を提案した(図8)。これは特定機能病院や公的病院(日本赤十字社や社会福祉法人恩賜財団済生会などが開設者)などが地域において将来担うべき役割をつまびらかにして、地域で共有するためのものだ。


図8●公的医療機関等改革プランで記載が求められる内容(7月19日第7回地域医療構想に関するワーキンググループ資料より))※(図 略)


図9●公的医療機関等改革プランの策定プロセス(7月19日第7回地域医療構想に関するワーキンググループ資料より))※(図 略)

 現状や課題、地域において担う役割、今後提供する医療機能や具体的な数値目標(病床稼働率、手術室稼働率、紹介率・逆紹介率、人件費率)などを記載したプランを地域医療構想調整会議で示してもらうという(図9)。まだ記載内容は確定してはいないが、近く、厚労省はプラン作成のためのガイドラインをまとめて通知を出す予定だ。

 大学病院は今後、病棟の実態をより正確に反映した病床機能報告だけでなく、経営に関する項目をプランに記載して、地域医療構想調整会議で議論することが求められていく方向だ。いわば外堀を埋められ、大学病院は地域医療構想に真正面から向き合わなくてはならなくなる。
 



http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03235_03
【寄稿】
Patient Experience(PX)を用いたプライマリ・ケアの質評価・改善

青木 拓也(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 医療疫学分野)
週刊医学界新聞 第3235号 2017年08月07日

 近年,国際的に「患者中心性(Patient-centeredness)」の重要性が再認識され,医療の質における大目標の一つに掲げられるようになった。わが国でも地域包括ケアの文脈から,患者中心性の向上をめざした医療提供体制の構築が求められている。

 本稿では,患者中心性のQuality Indicator(以下,QI)であるPatient Experience(以下,PX)の概念や,プライマリ・ケアにおける我々の研究活動について紹介したい。

医療の質における「患者中心性」と「PX」

 「質(Quality)」は,もともと一般産業から医療に輸入された概念であり,その本来の定義は「顧客要求への適合」である。ただし,医療の場合は高度化・専門分化に伴い,患者・医療者間の情報の非対称性が拡大した結果,EBMに基づく臨床プロセスなどの客観的指標が重視される一方で,患者の視点は医療の質評価において軽視されてきた。しかし近年,疾病構造の変化や医療の地域移行の影響により,「患者中心性(患者のニーズや価値に応じたケアの提供)」の重要性が改めて見直され,医療の質における大目標の一つに掲げられるようになった1)。

 患者中心性を定量的に評価するQIとして,患者満足度は以前から用いられている手法であるが,客観性・弁別性などの点において限界があり,施設間比較や継時的変化の検出,質改善課題の特定が困難であった。そこで近年,欧米を中心に,患者満足度に替わる新たな患者中心性のQIとして,PXが注目されている。

 中でも英国や米国では,既にPX調査が全国的かつ継時的に実施され,各医療機関での継続的質改善のみならず,医療機関の認証や専門医認定・更新といった医療提供側の質の保証,診療報酬制度(Pay for performance)などにも利用されている。なお米国IHI(Institute for Healthcare Improvement)は,Population Health,Per Capita Costに加え,PXを主要3課題(Triple Aim)の一つに掲げている。

「経験」を測定するPXが国際的に注目される背景

 PXは,「患者がケア・プロセスの中で経験する事象」と定義され,その評価には計量心理学的特性が検証された尺度を用いるのが一般的である。患者満足度が「満足」を測定するのに対し,PX尺度が測定する概念は「経験」である。前者の項目例は「あなたは,医師の態度にどの程度満足していますか?」,後者の例は「医師は,あなたが問題について話す時間を十分にとっていますか?」であり,PXのほうが患者属性による影響が小さく,弁別能が高いことがわかっている。またPX尺度は,複数の項目を合わせて一つの構成概念を測定するため,妥当性や信頼性が高いことも特徴である。

 PXが国際的に注目されるようになった背景として,患者中心性そのものが医療の質における重要な目標であることに加え,これまでの多くの研究により,PXが,臨床プロセス,患者のアドヒアランス,予防医療行動などを通して,健康アウトカムに影響を及ぼし,さらに患者安全とも関連するといった知見が徐々に明らかになってきたことが挙げられる2)。

日本版PX尺度「JPCAT」の開発と研究から得られた知見

 わが国では,これまでPXに関する研究活動や活用事例は非常に乏しく,特にプライマリ・ケアや地域包括ケアにおいて重要な目標である患者中心性の評価・改善に必要な体制は整備されていない。そこで我々は,Johns Hopkins大のStarfieldらが開発し,プライマリ・ケア領域において国際的に普及しているPX尺度:Primary Care Assessment Tool(PCAT)を,わが国の背景に即して改良し,Japanese version of PCAT(JPCAT)を開発した3)。

 JPCATの妥当性・信頼性の検証は既に完了し,ウェブサイトで情報を公開している4)。JPCATは,成人外来患者を対象に,プライマリ・ケアの特性に対するPXを測定する尺度であり,近接性,継続性,協調性,包括性,地域志向性といった複数の領域で構成される(プライマリ・ケアの特性については,日本プライマリ・ケア連合学会ウェブサイトを参照5))。計29項目のリッカート尺度であり,スコアは0~100点で,高スコアであるほど質が高いと評価される。

 我々がJPCATを用いて行ったヘルスサービス研究は,臨床プロセスとの関連を確認したことに加え6),PXの新たな効果も明らかにした。例えば,良質なPXを持つ患者は,プライマリ・ケア医とアドバンス・ケア・プランニングに関する議論を交わしやすい傾向がある7)。他にも,良質なPXは,ケアのバイパス(ゲートキーパーを介さず,直接高次の医療機関を受診する非効率な受療行動)を抑制し,患者に医療資源の適正利用を促す可能性があることもわかった(論文投稿中)。このように,PXが患者の行動や他の医療の質と関連することが,わが国の研究からも明らかになってきた(図1)。

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図1 Patient Experience(PX)と他の医療の質との関係(筆者作成)

医療の質評価・改善に向けてJPCATの活用と今後の展開

 JPCATは,既に医療機関レベルや自治体レベルでの活用が始まっている。我々が全国約30施設で実施したパイロット調査では,似た属性の医療機関であっても,施設レベルのJPCATスコアは最高81.4点~最低45.6点と大きな開きがあり,患者中心性の質には施設間でばらつきが存在することが定量的に示された。

 PXを用いて,医療機関の質改善課題を特定する際には,Priority Matrixが一助となる(図2)。これは,マーケティングなどで使用されるポートフォリオ分析をPXに応用したものである。横軸にパーセンタイル順位,縦軸に総合的評価との相関係数を取り,PXを領域ごとに2次元のグラフに配置することによって,優先的改善領域を明らかにする手法である。パーセンタイル順位が低く,かつ総合的評価との相関が強い領域ほど,質改善の優先度が高い(Top priority)と評価される。

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図2 Priority Matrixの例(筆者作成)

 本稿で紹介した我々の活動はプライマリ・ケアが中心だが,既に一部の国では入院から在宅医療に至るまで幅広いセッティングでPXが活用されている。患者中心性は,わが国が推進する地域包括ケアにおける主要目標の一つであり,前述のように,PXはさまざまな医療の質(有効性,安全性,効率性)にも影響を及ぼすことが明らかになりつつある。今後わが国でも,医療機関レベルや政策レベルで,PXを医療の質評価・改善に積極的に活用すべきだと考える。そのために我々は,医療者や患者に対する啓発・普及活動,多様なセッティングに合わせたPX尺度の開発,患者中心性の質の均てん化に有用なヘルスサービス研究などに今後も取り組んでいきたい。

参考文献・URL
1)Institute of Medicine. Crossing the Quality Chasm:A new health system for the 21st century. National Academies Press;2001.
2)Med Care Res Rev. 2014 [PMID:25027409]
3)Fam Pract. 2016[PMID:26546033]
4)日本におけるプライマリ・ケア質評価指標開発研究班.患者中心のプライマリ・ケア質評価.
5)日本プライマリ・ケア連合学会.プライマリ・ケアとは?.
6)Int J Qual Health Care. 2017 [PMID:28371903]
7)Fam Pract. 2017 [PMID:28334740]

あおき・たくや氏
2008年昭和大医学部卒。日本医療福祉生協連家庭医療学開発センターで家庭医・総合診療医として研鑽を積む。15年より現職。日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医・指導医,医療政策学修士(MMA),臨床疫学認定専門家。15,17年に日本プライマリ・ケア連合学会日野原賞受賞。



https://www.m3.com/news/general/550108?portalId=mailmag&mmp=RA170812&mc.l=240055308&eml=3f492a08f1681d66441569ec02c0b51e
<東北公済病院>女性の目線で運営評価 グループ結成
地域 2017年8月7日 (月)配信河北新報

 外部の目線で病院運営をチェックしてもらおうと、東北公済病院(仙台市青葉区)は幅広い年代の女性による評価グループ「Tohoku Kosai Angels(トウホク・コウサイ・エンジェルス)」を結成した。

 宮城県内の公認会計士や企業経営者、団体職員、マスコミ関係者ら20~60代の女性10人がメンバーで、今後大学生も任命する。24日の顔合わせでは早速、「外国人向けの案内はどうなっているか」「授乳室の感染症対策は確保できているか」などの質問が出た。

 メンバーは年3回程度、病院を訪問。「受け付けスタッフの対応は丁寧か」「女性のプライバシーは守られているか」「病棟のセキュリティーは十分か」などの項目を評価する。病院食も試食して、気付いた点をアドバイスする。

 同病院は産科、婦人科、乳腺外科といった女性特有の診療科や女性専用の病棟がある。日本医療機能評価機構や東北厚生局、日本母乳の会などの評価を受けているが、地域に根差した病院の在り方を探るため、グループをつくった。市民による評価組織がある総合病院は珍しいという。

 岡村州博院長は「市民感覚で病院の裏表をしっかり見てもらい、地域住民がストレスなく病院を受診できるよう改善点を挙げてほしい」と話す。



https://www.m3.com/news/iryoishin/550989
シリーズ m3.com全国医学部長・学長アンケート
女性医師の働き方、周囲含め意識作り重要◆Vol.9
活躍なくして「日本の未来ない」

レポート 2017年8月11日 (金)配信水谷悠、高橋直純(m3.com編集部)

Q:女性医師を巡る状況についてのご意見があればお願いします。


【岩手医科大・佐藤洋一医学部長】医師・研究者という職業が、時間外労働をやむなくされる、あるいは昼夜を分かたず自己研鑽を余儀無くされるということを、一般市民がしっかりと認識して家庭維持のサポートに当たってくれることを願う。
【東北医科薬科大・福田寛医学部長】医学部の女子学生が増加しており、女性医師の働く環境の改善、活躍できる環境作りは喫緊の課題である。方策は出尽くしている。職場全体で支える周りの意識作りが肝要か。

【福島県立医科大・錫谷達夫医学部長】短時間の勤務を希望する医師向けの給与表の整備。

【富山大・北島勲医学部長】女性医師のキャリアアップを図る。学生に活躍する女性医師のセミナーを数回行うようにしている。

【福井大・内木宏延医学部長】特になし。

【京都府立医科大・竹中洋学長】本施設において女性医師支援のための環境整備と管理職側の意識改革は着実に進んでいる。今後は卒前からの意識改革推進による学生のモチベーション向上を目指し、キャリア教育の充実が必要と考えられる。働き方改革も含めて、一歩踏み込んだ論議が必要と考えている。

【大阪市立大・大畑建治医学部長】私の教室では特別扱いしないようにと、女性医師から言われています。

【兵庫医科大・野口光一学長】女性医師が一生活躍できる体制、社会の変化が必要であり、これなくして日本の未来、医療の改善はないと思われる。

【広島大・秀道広医学部長】結婚、出産、育児を経ながら男性医師と同じ働きをすることは、ほとんどの女性医師にはほぼ不可能な課題と思います。よほど気力、体力のある人材に絞って医学部に入学させるか、医師の数を増やして医師1人の負担を少なくする、非常勤や当直を免除するといった働き方の間口を広げるとともに、フルタイムで働く医師との給与待遇の違いを大きくするといった対応が必要と思います。現在、女性医師の勤務条件はかなり緩和され、働きやすい環境が実現しつつあると思いますが、その割には給与待遇が高いままの傾向があり、男女を問わず、フルタイム勤務の医師からの不満を生じやすくなっていると思います。

【徳島大・丹黒章医学部長】出産・育児、急な子供の病気等に関しても複数でサポートし、できるだけ同性同士でサポート体制をつくっている。そのためには、複数の女医の採用が必要である。

【産業医科大・東敏昭学長】ライフサイクル、ワークライフバランスのとれる分野でのキャリア形成、就業形態の多様化が医師数増加とともに可能となると考える。



https://www.m3.com/news/general/549858
新潟市民病院、救急搬送者が減少 市「緊急宣言」で集中緩和
地域 2017年8月5日 (土)配信毎日新聞社/新潟

 新潟市民病院(同市中央区)が新潟労働基準監督署から長時間労働改善などの是正勧告を受け、紹介状のない一般外来患者の診断を7月から取りやめた問題で、篠田昭市長は4日の定例会見で、市民病院への救急搬送者の集中が緩和し、市民病院の適正利用と医師の過重労働削減が進んでいると明らかにした。

 市によると、患者受け入れ制限を柱とした「緊急対応宣言」を市が発令した6月6日から7月15日までの間に、市消防局が市民病院に救急搬送した人数は559人で、前年同時期の619人から1割減少。一方、市民病院を除く市内18の救急告示病院への搬送者数は2402人と、前年同時期の2241人から7%増加し、搬送者の市民病院への「一極集中化」防止に一定の効果が表れた。入院する必要がない軽症の救急搬送者も前年同時期に比べ4割減少した。

 篠田市長は「市民の協力もあり、市消防局が宿直医師の専門分野を把握したうえで各病院に搬送し始めたのが大きいのでは」と話した。【堀祐馬】

  1. 2017/08/12(土) 16:38:29|
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