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5月14日 

https://news.biglobe.ne.jp/economy/0510/pre_170510_6334851228.html
名門「聖路加国際病院」が経営危機に陥るわけ
プレジデント社5月10日(水)15時15分

日本屈指の名門病院「聖路加国際病院」が経営危機に陥っている。その背景には医療制度の構造的な問題がある。医療崩壊は防げるのか——。

■「聖路加国際病院」でボーナス遅配

病院は東京から崩壊する——。

東京一極集中、地方の衰退が叫ばれる昨今、このように言われて、俄には信じられない方が多いだろう。東京には多くの病院があり、厚生労働省やマスコミは医師が都会に集まることを問題視する。一体、どうなっているのだろうか。問題は医療システムを一面的にしか見ていないことだ。医療システムは複雑系だ。さまざまな物事が有機的に結びつく。

拙著『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日』(朝日新聞出版)では、この点について、データに基づいて議論し、患者はどう対応すればいいか提言した。今回、拙著のポイントを2回にわけて解説していく。第1回は「名門病院」の経営危機を取り上げたい。


昨年、医療界に衝撃が走った。名門の「聖路加国際病院」(東京都中央区)の夏のボーナスの支払いが遅れ、1割程度カットされたというのだ。月刊誌「選択」の2016年10月号が伝えたもので、同誌のサイトでもみることができる(https://www.sentaku.co.jp/articles/view/16256)。

きっかけは昨年5月頃の労基署の監査。サービス残業の常態化が指摘され、未払いの残業代を支払ったところ、財務状態が悪化したらしい。

聖路加国際病院を経営する聖路加国際大学の財務状況は、一見盤石だ。2015年度の財務報告によると、純利益は130億円。人件費率は45%で、総資産は851億円。自己資本比率は88%で、長期・短期の借入金はそれぞれ2億円、3300万円しかない。

ところが、実態は、この報告とはかなり違う。「選択」の2017年1月号によると、黒字になったのは、聖ルカ・ライフサイエンス研究所を解散し、その資産を病院の経営母体である聖路加国際大学に譲渡したためだという。これを除くと、実質は約8億円の赤字。ボーナスが遅配となったのも納得がいく。

聖路加国際病院は、首都圏(以下、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県を指す)きっての名門病院だ。マスコミの病院ランキングでは、常に上位に位置し、同院での治療を望む患者は多い。

あまり知られていないが、聖路加国際病院が赤字になるのは、医療制度が構造的な問題を抱えているからだ。問題点を簡単にご紹介しよう。

高齢化が進むわが国で、医療費の伸びは急速だ。2015年度の国民医療費は41兆5000億円。前年より3.8%増加した。政府は、増大する医療費を抑制するために、2年に1回の診療報酬改定で診療単価や薬価を引き下げている。国民医療費は患者数と一人あたりの治療費を掛け合わせたものだ。高齢化に伴い、患者数が増えるので、診療単価を引き下げるという理屈だ。

この理屈は、一見もっともだ。ただ、このやり方は永久には続けられない。診療単価を下げ続ければ、やがて経営できない医療機関が出てくるからだ。実は、最初に破綻するのは首都圏の病院だ。


我が国の医療費は厚労省が全国一律に決めている。我が国では、田舎で治療をうけても、東京で治療を受けても、医療費は同じなのだ。勿論、土地代や人件費などのコストは全く違う。医療費を下げ続ければ、首都圏の病院から破綻する。

特に弱いのは総合病院だ。専門病院と比較して、小児科や産科のような患者の少ない診療科を揃えなければならない総合病院は、どうしても赤字体質になってしまう。聖路加国際病院は、その典型例だ。もちろん、氷山の一角である。

■首都圏の病院が赤字になるわけ

首都圏の総合病院の代表は大学病院だ。あまり報じられないが、多くの大学病院が赤字経営となっている。例えば、日本医科大学(東京都文京区)が発表した財務諸表によれば、2014年度の売上高利益率はマイナス19.4%で、158億円の赤字だった。約600億円の有利子負債があり、総資本を自己資本で割った財務レバレッジは349%と大幅な借金超過だった。流動比率(流動資産と流動負債の比)は70%だ。

流動比率は、負債の返済能力を見る指標の一つだ。税理士の上田和朗氏は「企業の経営状態を判断する際のもっとも重要な指標」と言う。流動比率は、流動資産が流動負債より多いか否かを示し、通常は120%以上あるのが望ましいとされている。日本医大の経営危機が如何に深刻かご理解いただけるだろう。

経営が悪化しているのは、日本医大だけではない。神奈川県の聖マリアンナ医大(神奈川県川崎市)、北里大学(神奈川県相模原市)なども赤字だ。

首都圏の総合病院は生き残りに懸命だ。そのためには、コストを下げなければならない。弱い立場になるのは若手医師だ。サービス残業が常態化しているところが珍しくない。

また、彼らの給与は安い。都内の大学病院に勤務する30代の外科医は「給与の手取りは20万円くらいです」という。生活するためには、アルバイトに行かねばならない。この医師は「平日は外来とオペ室に医師は出払い、病棟は『無医村』になります」という。首都圏の大学病院で医療事故が続くのも宜なるかなだ。

こうなると、経営者の努力で何とかなるというレベルを超えている。内部留保を使い尽くせば、倒産するしかない。

■必ず起きる「患者激増」と「医師不足

首都圏の病院が経営難に陥る一方で、これから患者は激増する。

図1は、関東地方の75歳以上の人口を2015年と2025年で比較したものだ。医療ガバナンス研究所の研究員である樋口朝霞氏が、国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来人口推計のデータを利用して作成した。


(図1)関東地方の75歳以上人口の2015年と2025年の比較
この図を見ると、関東地方で急速に高齢化が進むことがわかる。特に、首都圏の高齢化は著しい。大部分の地域で、わずか10年間の間に後期高齢者が3割以上も増加する。

患者は増えるのに、彼らが頼る病院は倒産の瀬戸際にある。

首都圏が抱える問題は、病院の経営難だけではない。経営難はあくまで金の問題だ。診療報酬体系の規制緩和などで、対応できる側面もある。深刻なのは、首都圏で医師が不足していることだ。医師の養成には時間がかかる。早急に対応しないと手遅れになる。

読者の多くは「東京には医者が多いので、埼玉県、千葉県、神奈川県で多少不足しても問題ない」とお考えかもしれないが、この考えは間違っている。首都圏では医師の絶対数が足りないからだ。人口10万人あたりの医師数は230人にすぎない。四国は278人、九州北部は287人だ。実に2割以上の差がある。


(図2)人口10万人あたりの地方別医師数 平成24年医師・歯科医師・薬剤師調査より
さらに、首都圏は医師の偏在が著しい。人口10万人あたりの医師数は東京都314人に対し、埼玉県155人、千葉県179人、神奈川県202人だ。東京だけは医師が多いが、他の3県は南米や中東並みの数字だ。

首都圏は広い。全ての患者が東京の病院を受診できるわけではない。

このため、現在でも首都圏では救急車のたらい回しなどが頻発している。2013年3月には、埼玉県久喜市で救急車を呼んだ75才の男性が、県内外の25病院から合計36回、受け入れを断られ、最終的には県外の病院で死亡した事件があった。これも氷山の一角だ。

今後、状況は益々悪化する。図3は首都圏の75才人口1000人あたりの60歳以下の医師数の推移だ。情報工学を専門とする井元清哉教授(東大医科研)との共同研究である。


(図3)75才人口1000人あたりの60才以下の医師数
団塊世代が亡くなる2035年ころに一時的に状況は改善するが、その後団塊ジュニア世代が高齢化するため、再び医療ニーズは高まる。多くの県で、2050年の高齢者人口当たりの医師数は、現在の3分の2程度になる。そのころの東京の状況は、現在の千葉県や埼玉県とあまり変わらない。

■「看護師不足」も発生する

首都圏の問題は医師不足だけではない。看護師も不足しているのだ。

医師と違うのは、東京でも不足していることだ。2014年末現在、東京都の人口10万人あたりの就業看護師数は727人で、埼玉県(569人)、千葉県(625人)、神奈川県(672人)、茨城県(674人)、愛知県(724人)についで少ない。

看護師が多いのは高知県で人口10万人あたり1314人。ついで鹿児島県(1216人)、佐賀県(1200人)、長崎県(1182人)と続く。高知県は東京都の実に1.8倍である。


(図4)各県の人口10万人あたりの看護師数(正看護師と准看護師の合計)2014年厚労省衛生行政報告例より
既に弊害が出ている。2007年7月、東京都保健医療公社荏原病院の産科病棟の一つが閉鎖した。原因は看護師の欠員だった。当時、荏原病院の看護体制は定数316人に対し、欠員が58人もあった。これでは、病院機能は維持できない。

最近、厚労省は在宅診療などを強化した地域包括ケアシステムの確立を目指しているが、その際、重要な役割を果たすのは看護師だ。現状では、首都圏で地域包括ケアシステムを立ち上げるなど、机上の空論と言わざるをえない。

首都圏では医師と看護師が不足し、おまけに病院経営のコストも高い。このまま無策を決め込めば、早晩、首都圏の医療は崩壊する。

患者はどうすればいいのだろう。次回、この点を解説したい。

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上 昌広(かみ・まさひろ)
医学博士。1968年兵庫県生まれ。1993年東京大学医学部医学科卒業、1999年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員、東京大学医科学研究所特任教授など歴任。2016年4月より特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所を立ち上げ、理事長に就任。医療関係者など約5万人が講読するメールマガジン「MRIC」編集長。
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http://www.nikkei.com/article/DGXLZO16347870T10C17A5CC1000/
過労対策で土曜外来縮小 聖路加病院、6月から
2017/5/13 1:51 日本経済新聞

 聖路加国際病院(東京・中央)は12日、勤務医の長時間労働を抑制するため、土曜日の外来の診療科目を34から14に減らすと発表した。労働基準監督署の立ち入り調査を受け、改善策として打ち出した。救急や一般内科、小児科など主要科目の外来は続ける。6月から実施する。

 長時間勤務が問題となっている医師の労働環境改善への取り組みとして注目されるが、利用者にとっては受診機会の減少につながる恐れもある。

 土曜日の外来診療をやめるのは耳鼻咽喉科や皮膚科など。同病院は「患者の皆さまに不便をおかけするが、やむを得ない措置。理解をお願いしたい」とコメントしている。すでに夜間の救急外来や当直勤務に当たる医師の人数を減らしていたが、抜本的な見直しの一環として土曜日の外来縮小に踏み切った。

 同病院によると、昨年6月に中央労基署(東京)の立ち入り調査を受け、昨年4~6月の勤務医の残業時間が月平均95時間に達していたことが判明。また夜間や休日の勤務について、時間外の割増賃金を支払うよう労基署から指摘を受け、約2年間さかのぼり総額十数億円を支払ったという。〔共同〕



http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t291/201705/551216.html
特集◎医師こそ働き方改革を《動き出す労基署》
聖路加病院に労基署、土曜外来を全科廃止へ

2017/5/10 満武 里奈、吉良 伸一郎=日経メディカル

 労働基準監督署による立ち入り調査が行われ、改善策の実施を迫られる医療機関もある。「今の政権になってから、業種を問わず、労基署の立ち入り調査が増えた」と社会保険労務士法人名南経営の服部英治氏は指摘する。労基署がチェックするのは主に長時間労働の実態で、「昔は労基署に医師の仕事は完全に『聖域』という考え方があったが、今はそうではなくなっている」とも言う(元労働基準監督官へのインタビューは別掲記事参照)。

 実際、ここ数年、熊本大学医学部附属病院、沖縄県立北部病院(名護市)など地域の基幹病院に労基署の立ち入り調査が入った事実が報じられている。最近の立ち入り事例の中でもインパクトが大きかったのが聖路加国際病院(東京都中央区、520床)のケースだ。中央労働基準監督署が2016年6月、調査を実施。病院側は医師の時間外労働の削減などを求められ、その影響で診療体制の縮小を余儀なくされた。

救急車搬送の受け入れを抑制
 調査の結果、医師に関して指摘を受けたのは、(1)長時間労働の常態化、(2)夜間・休日勤務に対する賃金の支払いの問題──の2点だった(図1)。(1)については、昨年4~6月の時間外勤務が月平均で約95時間に達していた。

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図1 中央労働基準監督署の指摘事項と聖路加国際病院の対応
(*クリックすると拡大表示します)

 (2)については、これまで宿日直として運用してきた夜間・休日の業務がそうとは認められず、時間外労働として扱う必要があるとされた。

 年間1万1000件もの救急車搬送を受け入れる聖路加国際病院では、救急外来の医師だけでなく病棟の当直医も救急の応援に当たる。本来、宿日直は通常の勤務とは違い、夜間や休日の電話応答や火災予防のための巡視、非常事態発生に備えた待機など、「ほとんど労働を伴わない勤務」と定義されている。聖路加国際病院の勤務実態は、宿日直の定義には当てはまらないと判断された。そのため同病院は、過去に遡り本来支払う必要があった時間外の割増賃金と、実際に支給してきた宿日直手当の差額分を、個々の勤務医に支払うことになった。その総額や遡及期間は明らかにしていないが、過去2年以内について十数億円を支払ったようだ。

 労基署の指摘を受け同病院では、時間外労働を承認制にするなど残業時間のコントロールに乗り出した。また、時間外労働の負担の平準化を図り、60歳に近いベテラン医師にも準夜帯の勤務を担ってもらうことにした。さらに、夜間・休日の応需体制を縮小。今年5月には全科の土曜外来を廃止する。夜間については、これまで救急外来と病棟当直を合わせ1日17~19人の医師で回してきたが、今では12~14人体制に縮小。救急車搬送の受け入れも以前より抑えている。

 夜間の人員配置の縮小に伴い、これまで実施してきた夜間の患者家族への病状説明などを中止したため、患者や家族からクレームが出ているという。理解を求めるため、事情を説明した貼り紙を待合フロアに掲示している状況だ。
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聖路加国際病院院長 福井 次矢氏に聞く

「『自分の時間は患者のもの』は通用しなくなった」

 聖路加国際病院の医師たちはこれまで、朝6時くらいに出てきて夜は7時、8時くらいまでいるのが当たり前という感覚でやってきたが、労働基準監督署に時間外労働が長過ぎると指摘された。私自身、「自分の時間は患者のもの」という感覚で働いてきたが、そういう価値観を変えざるを得ない状況になって、すぐに改善策を講じることにした。

 必要な業務でなければできるだけ居残らないよう、院内の会議で何度もお願いしたことで、それまで95時間だった医師の月平均の残業時間が50時間に減った。これまでより早く帰宅できるケースは増えている。

 ただ、36協定では制度上、時間外労働が月45時間を超えられるのは1年のうち6カ月までとされている。残業を月45時間以内に抑えなければならない月は、その医師はほとんど夜勤に入れず、他の医師にしわ寄せがいくといういびつな形になっている。

 結果的に救急車搬送の受け入れを減らさざるを得なくなったが、そもそも高度急性期や救急医療を担っている病院と、回復期や慢性期の医療を担う病院の医師の労働時間管理のあり方は異なるのではないか。今後設置される新たな検討の場では、病院が担う機能の違いも勘案した、きめ細かな議論が行われることを期待している。(談)



http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t291/201705/551193.html
特集◎医師こそ働き方改革を《現状分析》
医師では規制先送りも時間外労働削減が急務に

2017/5/9 満武 里奈=日経メディカル

 現政権が「最大のチャレンジ」と位置付ける働き方改革。時間外労働規制の医師への適用こそ先送りされたが、労働基準監督署による病院への立ち入り調査は増えており、長時間労働の是正は待ったなしだ。医師の働き方改革を巡る動向と、一足早く改革に踏み切った現場の取り組みを紹介する。


全国医師ユニオンの植山直人氏は、「医師の勤務環境改善への気運がようやく高まってきたのは非常に良いことだ」と話す。

 「これまでは過重労働によって医師の命が失われようとも、具体的な対策の議論は全く進まなかった。今回、政府の働き方改革実現会議で医師の長時間労働に焦点が当たり、勤務環境改善に向けた議論の気運がようやく高まったのは非常に良いことだ」─。過労死問題への対応などを目的に2009年に設立された全国医師ユニオンの代表を務める植山直人氏(行田協立診療所所長)はこう語る。

 「働き方改革」は安倍晋三首相が「最大のチャレンジ」と位置付ける政策。2016年9月下旬には、首相自ら議長となり、労働者、産業界の代表と有識者からなる働き方改革実現会議を設置。議論を進める最中には、大手広告会社、電通の新人社員が長時間残業を苦に自殺した事件が報じられ、働き方改革への世間の注目も高まった。

 働き方改革の柱の1つは長時間労働の是正だ。2017年3月28日に同会議が示した「働き方改革実行計画」では、これまで労使間でいわゆる「36(サブロク)協定」(用語解説参照)を結んでいれば青天井で延ばせた時間外労働に、上限を設ける方針を示したのが最大の特徴。上限を月45時間、年360時間とし、違反には罰則を科すことにした。特例として労使が合意した場合でも、月平均60時間(年720時間)以内、単月で100時間未満としなければならないとしている(表1)。政府は秋の臨時国会に関連法案を提出し、早ければ2019年度に施行される見通しだ。

■用語解説
【36協定】  労働基準法第36条に基づく労使協定。法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超える場合や休日に労働させる際には、36協定を結ぶことで、1カ月45時間、1年で360時間を上限に時間外労働をさせることが可能になる。
 さらに、「特別条項付き36協定」を結ぶと、例外的に45時間を超える形で上限時間を設定可能で、年間6カ月間まで適用できる。
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表1 「働き方改革実行計画」に盛り込まれた時間外労働規制の内容
(*クリックすると拡大表示します)

 ただし、医師については時間外労働規制の対象に含めたものの、「医師法に基づく応招義務などの特殊性を踏まえた対応が必要」との理由から、強制力のある規制の適用は改正法施行日の5年後をめどに先送りするとした。つまり、医師への適用は早くて2024年度ということになる。その上で、実施に向けては医療界の参加の下で検討の場を設け、「2年後をめどに規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策などについて検討し、結論を得る」とした。

地域医療への懸念から先送り

 適用が先送りされた背景には、地域医療への影響を懸念する厚生労働省医政局の関係各方面に対する強い働きかけがあった。

 当初、政府は時間外規制の対象を全業種とする方向で議論を進めていたが、先送りの根拠とされたのが医師法の応招義務だ。医師法第19条は「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定しており、残業の上限規制によりその義務が果たせなくなる恐れがあるという理屈だ。

 また、医療現場では救急など時間外対応をしなければならない局面が多いが、そこに時間外労働の上限が設けられれば人員増は避けられない。しかし、地域によっては勤務医の確保自体が容易ではなく、医師の勤務時間が減ることになれば、診療体制の縮小を余儀なくされるケースが相次ぎ、地域医療が混乱しかねない。こうした理由から、特例的に医師への適用の先送りが決まった。

現場の医師は「速やかな適用を」

 今回の方針決定に対する受け止め方は様々だ。医療現場には、医師が時間外労働規制の対象になったことを歓迎しつつも、強制力を持つ規制の適用が先送りされた点を否定的に捉える声が少なくない。

 今年4月、日経メディカルOnlineの医師会員3437人を対象に実施したアンケートで上限規制の導入と先送りへの賛否を尋ねたところ、「改正法施行の5年後などとせず、速やかな実施を」と回答した医師が最も多く44.1%を占めた。次いで「規制に賛成だが期限を決めることなく慎重に検討してほしい」が14.1%。「医師の時間外労働の規制には反対」は12.7%だった。

 全国医師ユニオンの植山氏は、「医師が規制の対象になったのはよかったが、議論がまとまらず先延ばしになるのではないかという心配もある」と話す。その上で、「今後2年間の検討の際は、医療機関の管理者だけでなく、当事者である勤務医を入れて十分に議論してほしい」と注文を付ける。

 一方、病院経営者側は、もともと医師を時間外労働の規制対象とすることに懸念を表明していた。2017年2月には日本医師会と四病院団体協議会が、翌3月にはがん研究会有明病院(東京都江東区)や河北総合病院(東京都杉並区)など10病院が合同で、働き方改革実現会議の委員などに、地域医療崩壊の恐れがあることなどを理由に慎重な検討を求めていた。

全日本病院協会の西澤寛俊氏は「そもそも医師の時間外労働を規制対象にするのかを含め、十分に議論する必要がある」と指摘する。

 また、上記の10病院は、医師を時間外労働の規制対象から外すことに加え、労働時間を自らの裁量でコントロールできる「専門業務型裁量労働制」(用語解説参照)を医師に適用することも要望していた。だが、裁量労働制の導入は病院団体の総意とはならず、四病院団体協議会が厚労大臣に提出した要望書には盛り込まれなかった。

 全日本病院協会会長の西澤寛俊氏は「取りあえず、規制の施行時期が猶予されたことはよかった。この2年の議論で出す結論が最も重要。そもそも医師の時間外労働を規制対象にするのかを含め、2年間をかけて十分に議論する必要がある」と語る。

■用語解説
【専門業務型裁量労働制】  業務の性質上、業務遂行の手段や時間配分などを労働者の裁量に委ねる必要性が高い、専門的な業務に適用される制度。労使であらかじめ定めた時間働いたものと見なす。弁護士や公認会計士など19業種が対象とされている。
 とはいえ現場の病院としては、2年間の議論の結論が出るまで様子見を決め込んでいるわけにはいかない。医師の長時間労働是正への圧力は日増しに強まっているからだ。医療機関の働き方改革への取り組みは待ったなしの状況にある。

 長時間労働の病院勤務医が多いことは、各種の調査からも明らかだ。医師が過労死と認定されるケースも発生しており、政官民が一体となって長時間労働の解消を目指す中、医療機関だけが現状を放置することは、もはや許されない状況になっている。

 「今はどの病院も、雇用する医師に対して魅力ある働き方を提示できなければ人材を確保できない状況にある」と指摘するのは、医療機関の人事労務管理に詳しい社会保険労務士法人名南経営の服部英治氏。勤務医確保のためにも、労働環境の整備は避けられないと言う。



https://www.m3.com/news/iryoishin/527419
「今」と「将来」の2段構え、日医「働き方検討委員会」設置
松本常任理事「医師という職業の特性を十分に考慮した仕組みが必要」

レポート 2017年5月10日 (水)配信高橋直純(m3.com編集部)

 日本医師会の松本吉郎常任理事は5月10日の定例記者会見で、会内に「医師の働き方検討委員会」を設置することを報告し、「今できる働き方改革と将来的な改革に分けて考えていきたい」と説明した。時間外労働の上限規制などについては「医師という職業の特性を十分に考慮した仕組みが必要」との見解を示した。

 政府が策定した「働き方改革実行計画」では、労使が合意した場合、特例として時間外労働は年720時間(月平均60時間)を上限とすることなどが盛り込まれているが、医師については5年間の適用猶予が決まっている(『「罰則付き規制で、応招義務果たせぬ懸念」働き方改革大臣』を参照)。今後2年間を目処に医療界主導で議論をすることが求められており、横倉義武会長も「抜本的な議論」の必要を指摘していた(『「医師は労働者か、抜本的議論を」横倉会長』を参照)。

 新たに設置される検討会は日医の産業保健委員会から4人、勤務医委員会から4人、社会保障審議会などに参加している委員ら4人の計12人で構成する。6月中に第1回を開催する予定で、任期は2018年6月に予定される定例代議員会までの1年間。

 検討内容について、松本常任理事は「今できる働き方改革と将来的な改革に分けて考えていきたい」と説明。今できることとして、全都道府県に設置している「医療勤務環境改善支援センター」の周知・活性化、日医が作成した「勤務医の労務管理に関する分析・改善ツール」の活用、日医内の「勤務医の健康支援に関する検討委員会」が2016年3月に答申した「勤務医の健康支援のための15のアクション」の取組推進、医師偏在を解消するコーディネーター機能を持った中核的人材の育成などを例示した。

 松本常任理事は「今できる改革を行った後、勤務医の健康がある程度確保された後にさらに将来の働き方改革を捉えること、その結果として医療安全と質の高い医療提供体制を確保する両立することが大前提である」と述べ、さらに「医師という職業の特性を十分に考慮した仕組みが必要。時間外労働規制については、応招義務がある医師にどのような方式があるのか。診療科、病院機能、地域、男女、年齢、研修医の差を一律に捉えられるか」という問題もあると指摘した。また、「医師の偏在、医師不足にも関連しているので、その問題も頭に入れながらやっていく」と述べた。

 医師の働き方を巡っては四病院団体協議会も検討委員会を設置することを決めており、松本常任理事は「意見交換していきたい」と話した(『四病協、「働き方検討委員会」を設置』を参照)。



http://www.huffingtonpost.jp/yuuki-shimada/public_hospital_b_16576164.html
新専門医制度は地域医療の要の地方の公立病院にもダメージを与える -脳神経外科
投稿日: 2017年05月12日 17時06分 JST 更新: 2017年05月12日 17時06分 JST ハフィントンポスト

新専門医制度が物議を醸し出している。この制度が施行されれば、多くの学会が、研修期間中に基幹施設に在籍することを義務づけることになる。「大学に労働力を集めるため」と批判する人もいる。

実は、このやり方は、一部の若い医師に重大な決断を迫ることになる。私のような地方公務員の医師も、その中に含まれる。その結果地域医療の発展を阻害する可能性があることがわかった。私の経験をご紹介したい。

私は東京生まれ、東京育ちの医師だ。千葉県で初期研修を終えたあと、被災地で学びたいと考え、2014年に南相馬市立総合病院の脳外科に就職した。当院は、2011年3月11日に東日本大震災で被災した。

福島第一原発から23キロに位置する基幹病院で、震災時には多くの患者を受け入れた。原発事故で、常勤医は一時的に4人まで減ったが、現在は約30人に増え、「被災地の元気な病院」として知られている。

私は、この病院で多くの患者を診療する機会をいただいた。ただ、当院の研修には問題がある。脳卒中の患者は多いが、脳腫瘍の経験が積めないことだ。

そこで、2017年4月から、南相馬市立総合病院と連携する福島県立医大の脳神経外科で研修することとなった。新専門医制度では、福島県立医大が基幹施設、当院が連携施設という位置づけになる。

福島県立医大は齋藤清教授が頭蓋底手術のテクニックを用いて、難易度の高い脳腫瘍摘出を行い、神経膠腫に関しては藤井正純医師が覚醒下手術を行なっており、どちらも全国トップレベルだ。私にとっては理想的な環境で学ぶことができる。

しかし、この研修に関して問題が生じた。南相馬市立総合病院は南相馬の医療を充実させるためには医師の技術の向上が重要と考えており、市職員の身分と給与を保障したまま他施設での研修をさせてくれる。

今までの研修先では何らこの制度に問題はなかったが、脳神経外科の専門医認定に関する内規の中に基幹施設(私の場合は福島県立医大)に半年間在籍しなければならないとあり、一度南相馬市立総合病院を退職して福島県立医科大学の職員にならなければならないという問題だった。

一般的に、大学病院の専攻医は有期契約で週4日勤務の非常勤職員である。給与が安く、大学外での勤務(アルバイト)しなければならない。そのバイトも1日で7万円の高い給与のところもあれば、もっと安い給与のところもあるだろう。

また、有期雇用であるため、病気や妊娠のときに、雇用が継続されるか否かは雇用者の判断に委ねられる。可能であれば南相馬市職員(地方公務員)の身分を保障されたまま研修を行えればと考えるのは人の常であろう。

私の場合は独身であり、身分が保証されないなら研修はしないということにはならないが、これは女性医師や、家族を抱える医師なら非常に悩ましい点ではないだろうか。

私の場合は基幹病院での在籍義務規定が存在する以前の後期研修であるため、福島県立医科大学と南相馬市立総合病院の折衝で、何ら問題なく南相馬市立総合病院(地方公務員)の職員のまま研修をすることが可能となった。

しかしながら、新専門医制度の施行を踏まえ、多くの学会では基幹施設での在籍を義務づけるようになった。在籍が義務づけられるなら、その間は基幹病院の職員に身分が変更され、給与も基幹病院から支給されることになる可能性が高い。身分、給与などの点で、不利益が生じる可能性が出てきたわけである。後期研修制度は当然のことであるが、研修時期は初期研修医制度より年齢が高く、かつ就業期間も長い。

後期研修終了時には多くの医師は30才を超える。社会人として十分に認められる年齢にもかかわらず、研修という名の下で多くの場合、身分や給与の保証は二の次とされてきたのではなかろうか。現時点でも様々な問題点が指摘される新専門制度であるが、研修施設を変更する際の身分や給与についても何ら検討がされていない。

また、この点のために技術の向上のための研修に二の足を踏む医師もいる可能性があり、地域の医療の向上という点でこの制度はマイナスに働く可能性がある。新専門医制度を主導する日本専門医機構には、新専門医制度が始まる前に、現時点でも問題のある在籍義務や病院変更に際しての専攻医の身分についても、是非検討を願いしたい。

(2017年5月12日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)



http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/kittenuu/201705/551245.html
外科医は増えない、だからどうする?
中山祐次郎(総合南東北病院外科)
2017/5/12  日経メディカル

 先日、第117回日本外科学会定期学術集会に参加してきました。今回の主催は群馬大学。群馬大学といえば、腹腔鏡で肝臓を切除する手術で8人の患者さんが死亡したことでニュースになりました。執刀医は1人の外科医でしたが、その後の調査で、同じ外科医が執刀した開腹による肝切除の手術でも10人の患者が死亡していることが判明。シャレにならないこの事件、すべての医師が一度は報告書(PDF)を読んでおいた方がよいと思います。

 「よく群馬大学の外科が主催できたな」と多くの外科医は思っていたことでしょうが、蓋を開けてみると今回の外科学会は「医療安全」のセッションが極めて多い学会になっていました。

 さて、私はこの学会で外科医不足に関する発表をしてきました(写真)。

外科医って減ってるの、ご存知ですか?

 そもそも、外科医が減っているという事実をご存知でしょうか。厚生労働省の統計データによれば、本邦の医師全体の数はこの10年で約15%増加していますが、外科医の数は0.02%減少しており、相対的には大きく減少し続けているのです。絶対数で言いますと、本邦の医師数は27万0371人→31万1205人と4万834人増えたのですが、外科医数は2万8097人→2万8043人と54人減少しているのです。

 ちなみに小児科と産婦人科も、外科と同様に医師が足りていないと言われる診療科ですが、このデータによれば小児科は少し増えており、産婦人科は横ばいかやや減少といったところです。

 では、外科医減少の一方で、外科医のニーズは増えているのでしょうか。これも厚生労働省の別データで見てみると、1996年に年間3万605件だった消化器・腎・子宮の悪性腫瘍の手術件数は、その後増加の一途をたどり、2014年には年間5万6143件となりました。14年間で、80%ほど増加したわけですね。もちろんこの背景には、日本全体の人口の高齢化があります。高齢化し、悪性腫瘍の好発年齢の人口が増えた結果、悪性腫瘍の手術件数が増えているのでしょう。

 つまり、まとめると、「外科医数は増えるどころか少し減っているが、手術件数は増えている」ということになります。この傾向が続くと、どうなるのでしょうか。

厚生労働省も色んな手を打っていますが…

 もちろんこれは国も実態を把握していて、厚生労働省の医政局(医療政策を所管する部署)の担当者に話を聞いたのですが、外科医数については強い問題意識を持っているようでした。

 厚労省が主導している施策のうち、注目したいのは、最近始まった「当直明けの外科医に執刀させないようにする」というものです。これは、当直明けの外科医が執刀医にならなければ、その分病院に加算がつく(=お金が入る)というもの。すでに導入されていて、外科医が多い病院などでは「当直明けの外科医は執刀医にならない」ルールを取り入れているようです。私の勤める病院でも、幸い外科医のマンパワーはまあまあ十分なのでこのルールを取り入れています。ただこれ、執刀医じゃなければいいんですよね。助手なら可、というのもミソですね。

 まあ、もちろん必要な手術が発生したら加算もクソもなく、外科医はためらわず執刀しますので、若干場当たり的な施策のようにも見えます。が、それでも昔と比べたら大きな進歩です。厚生労働省の得意技、「お金をつけるからこの方法でやってくださいね」といういつもの政策誘導ですね。もちろん根本的な解決にはなっていませんから、やっぱり基本的には外科医数を増やさねばなりません。

正直、外科医数は増える気がしない

 ということで私は、横浜で開かれた外科学会で「減り続ける外科医を増やすために」というタイトルで、10分間も演説をぶってきました。去年、ももクロが年越しライブをやったくらい、やたら大きなホールで。詳細は省略しますが、外科医を増やすためには外科の魅力を上げ、多忙さを減らす必要があるという、何十年も前から当然と思われているようなお話を致しました。

 このプレゼンの後半、私はこんな話をしたのです。

「本当に外科医は増えるのか?」
「今のままでは、増えません」

 私は外科医ですから、主観的には増えないという事実は大変残念ですし困ったことなのですが、その一方でこういう記事を書いていたりすると外科医不足を客観視せねばなりません。すると、私の客観の目は「おいおい何言ってんだ、このままじゃ増えるわけねえだろう」と申すのです。ううむ。

 もちろん今よりはるかに外科医の待遇が良くなり、外科医は全員年収2500万円!となればすぐに外科医不足は解決するでしょう。しかしそれは今の体制では不可能ですし、外科医に手術の技術料がつくという話も、ずっと前から議論されてはいますが進んでいません。公正・公平を重んじる我が国では到底不可能であろうと思います。

 ちなみに、年収をちょっと増やした程度ではこの問題は解決しないようです。お隣の韓国のドクターから聞いた話ですが、韓国ではgeneral surgeon(一般外科医)の数が少なくて忙しすぎるので、国から月10万円近い補助金がgeneral surgeryのレジデント一人一人に支給されています。しかし、それでも外科の不人気に変わりはないそうで、なり手はどんどん減っているらしいです。

外科医は増えない、だったらどうする?

 正直なところ、外科医が増えるという見通しが暗い、という話を致しました。では、どうしましょう。私の頭の中には2つの選択肢があります。

1)さっさと見切りをつけて外科医をやめる
2)現状をなんとかする

 ま、冷静に考えたら1のような気もします。私は近い将来、どこかの病院の外科部長にでもなって、少ない人員で危険な数の手術をやることになるかもしれません。そんなリスク、どう考えたって負うのは馬鹿げています。外科医をやめたって、同じくらい価値と魅力のある職場はたくさんあることも良く知っています。40歳代後半、あるいは50歳代になってプツンと突然メスを置き、開業準備をする外科医の末路も散々見てきました。目も見えなくなり、手も動かなくなりますからねえ。

 しかし私はまだ医者になって10年、外科医になって8年。もうちょっとこの世界の深淵を覗いてみたい気もするのです。まだ外科専門医、消化器外科専門医、技術認定医などの「スタンプラリー」を終えたばかりですから。そこで、2)現状をなんとかする、を何とか考えたいと思います。

 外科学会でも話しましたが、外科医は増えず仕事が増えるのであれば、解決の鍵は「効率化」です。ほら、多忙多忙と言いながらエコーの機械をちんたら取りに行ってる外科医、全国にいますよね? それ、外科医の仕事でしょうか。

 私からの提案は、2つの分業化です。1つは「業務内容の分業化」、もう1つは「時間の分業化」。

 「業務内容の分業化」は、文字通り、外科医の業務を分業化することです。ほら、これまで消化器外科医って、なんでも抱えるのが好きだったですよね。例えば、癌患者さんに関わる消化器外科医はこんな風に。

 術前検査(内視鏡、透視)
 → 手術
 → 病理
 → ICU合宿
 → 化学療法 → 再発 → 化学療法
 → 緩和 → 看取り

 これを全て外科医がやっていました。今でも全てやっている外科医は少なくないでしょう。これを、

 術前検査(内視鏡、透視) =消化器内科医
 → 手術         =外科医
 → 病理         =病理医
 → ICU合宿       =集中治療医
 → 化学療法 → 再発 → 化学療法 =腫瘍内科医
 → 緩和 → 看取り   =緩和ケア医

と分担することも必要なのではないかと思うのです。

 残念ながら、この方が1つひとつのクオリティも遥かに上がるでしょう。予想されるツッコミ、「患者さんはずっと一人の主治医に診てもらいたいんだよ」は、外科の外来にも継続して通院してもらうことで解決することでしょう。

 もう一点の「時間の分業化」について。これも文字通り「時間をきっちり分けて、みんな休みの時は休みましょう」というものです。これは複数主治医制と当番制という2つのキーワードで説明されます。

 複数主治医制は、文字通り、1人の患者さんに複数の主治医としましょう、という案です。外科医同士で方針が異なって喧嘩になる? いえいえ、方針はみんなで決めましょう。一方の外科医がどういう説明をしているかがわからないから、医者が言ってることがちぐはぐになる? 説明した内容は紙やデータで共有できますし、同じ外科でそこまで言ってることが違うのは逆に問題です。科として統一しましょう。

 当番制も、文字通り、当番日を公平に設定し、等しく夜間のコールなどを負担しましょう。

 これらの策をとれば、少しは1人当たりの仕事量負担が減るかもしれません。そうすれば、外科医が増えなくともバーンアウトが減り、なんとか現場は維持できるかもしれませんね。他にもフィジシャン・アシスタントなどの新しい資格創設なども有用かもしれません。

 外科医不足の解決策について、お話を致しました。

 こういうことを言って、最も反発するのは誰でしょう。実は、私の同業者である外科医なのですね。不思議なものですが、「何を余計なことを言ってるんだ」と私はお叱りを受けるでしょう。こういう事象のことを「矢はいつも後ろから飛んでくる」と言います。私は、何度もやられた経験がありますから(笑)、後頭部と背中にだけ鎧を着ています。

 ま、どっちみち、このままではやっぱり外科崩壊への行進なのですから、何か手を打たねばなりませんね。



https://www.m3.com/news/iryoishin/528177
真価問われる専門医改革
「専門医取得、義務ではない」、新整備指針に明記へ
日本専門医機構、4点の変更、6月の理事会で決定予定

レポート 2017年5月12日 (金)配信橋本佳子(m3.com編集長)

 日本専門医機構は5月12日、理事会を開催し、新専門医制度の基本ルールに当たる「専門医制度新整備指針」について、「専門医の資格は、全ての医師が取得しなければならないものではない」などの見直しを行う方針を確認した。4月24日の厚生労働省の「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」で出された要望を踏まえた対応だ。従来は、「原則として取得」となっていた。次回6月2日に予定されている同機構理事会での決定を目指す。

 厚労省検討会では、新専門医制度の地域医療への影響などを懸念する声が上がり、(1)専門医の取得は、事実上、義務付けられるものではない、(2)地域医療従事者等に配慮し、研修カリキュラム制を設置する、(3)大学病院だけでなく、症例の豊富な地域の中核病院も研修の中心とする――の3点の要望が挙がった(『「専門医取得、義務ではない」、新整備指針に明記か』を参照)。新整備指針の見直しでは、それに加えて、都道府県協議会についても、研修プログラムを認定する際だけでなく、運用状況についても協議する役割を追加する予定。

 理事会後に記者会見した吉村博邦理事長は、「厚労省検討会で挙がっていた要望は、新整備指針あるいは運用細則、補足説明で書いていることだが、まだ理解が進んでいない。分かりやすい表現で新整備指針に記載する。最終的には、次回の理事会でしっかりと決めたい」と説明した。

 12日の理事会では、19番目の基本領域として追加される総合診療専門医の研修プログラム整備基準案もおおむね了承、吉村理事長と副理事長の松原謙二氏に一任した。微修正後に最終決定する。同整備基準案は5月10日に開いた「総合診療専門医に関する委員会」で議論した。「委員会でほぼ合意に至った。細かいところについては、まだ議論が残っているが、調整をしつつ、最終的に決めていきたい。内科専門医に匹敵するが、内科専門医と対立するのではなく、互いが補完し合う総合診療専門医としたい。ダブルボードで両方とも取れるような形になると思う」(松原副理事長)。

 外科専門医のサブスペシャルティの追加も了承した。従来は4領域だったが、新たに乳腺外科と内分泌外科を加え、連動研修を認める(『外科専門医、「研修プログラム制は柔軟に運営」』を参照)。

 そのほか、新専門医制度の「Q&A」についても、2016年7月に発足した日本専門医機構の新執行部と旧執行部との違い、専攻医の処遇の在り方などを記載した内容で了承。近く同機構のホームページなどに掲載する予定だ。

 吉村理事長は今後について、「地域医療への影響については、まだ不安や疑問が残っているので、その払拭には全力を挙げていきたい。2018年4月の新専門医制度の開始に向けて準備を粛々と進めていく」との方針を示した。副理事長の山下英俊氏は、「新専門医制度は、国民のための制度、きちんとした医療を提供するための制度である。この点はぶれてはいけない、ということを理事会で確認した。説明責任を果たすため、次の理事会に向けて準備していく」と述べた。

 「新専門医制度、大都市圏に集中するとは限らず」

 吉村理事長は記者会見で、2017年度の専門医制度において、「暫定プログラム」、つまり新専門医制度用に作成した研修プログラム制と、従来型の研修カリキュラム制で運用している基本領域学会の現状を例に挙げ、「新しい仕組みになったからと言って、大都市圏に専攻医が集中するわけではない」と説明した。

 その一例が、日本整形外科学会。「圧倒的に研修プログラム制を選択した専攻医が多い。きちんとした研修プログラムを作れば、専攻医は地方に行く」(吉村理事長)。2017年度の専攻医572人の内訳は、研修プログラム制希望が557人、研修カリキュラム制希望が15人。2011年度から5年間の平均採用実績(大都市圏269人、大都市圏以外270人)と比較すると、大都市圏は9人増(3.3%増)、大都市圏以外は24人増(8.9%増)だった(『新専門医、「大学の専攻医囲い込み」は誤解 - 丸毛啓史・日本整形外科学会理事長に聞く』を参照)。

 「暫定プログラム」を採用したのは計6基本領域で、整形外科領域以外でも大都市圏集中の傾向は見られなかったという。

 総合診療専門医、「大都市圏に集中しない仕組み」に

 松原副理事長は、総合診療専門医の研修プログラムの基本的考え方について、(1)学術的に立派な制度を作る、(2)内科で1年間研修、J-OSLER(専攻医登録評価システム)を使い、内科的な履歴を残す、(3)小児科と救急はそれぞれ3カ月間研修、(4)外科は、初期臨床研修で選択しなかった場合には、研修することが望ましい、(5)へき地等で1年間以上研修することが望ましい、(6)大都市圏に専攻医が集中しないような仕組みを検討する――などと説明。「十分に地域医療に貢献できる専門医制度としての総合診療専門医が成立する予定」(松原副理事長)。

 研修期間は3年で、(2)と(3)で計1年6カ月、「総合診療I」と「総合診療II」がそれぞれ6カ月。残る6カ月が選択であり、「他科のこと、あるいは自分がより勉強したいところを勉強できる仕組み」(松原副理事長)。

 (5)の「へき地等で1年間以上」は、3年間のどの期間でもいいとされる見通しだが、松原副理事長は、「研修プログラム上、どうするかはもう少し議論が必要。個人的には、一番行ってもらいたいのは、最後の3年目。ある程度研修をし、対応できるようになり、中小病院と診療所で在宅医療をやるような時に、へき地等でやってもらえれば」と語った。



https://www.m3.com/news/iryoishin/526564
新たなビジョン、利害調整では生まれず - 渋谷健司・厚労省ビジョン検討会座長に聞く◆Vol.1
「異常事態」と形容された検討会座長の真意

インタビュー 2017年5月8日 (月)配信聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)

 ここ数カ月、厚生労働省内の審議会・検討会の中で、高い注目を集めていたのが、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(『医学部定員増に歯止め、「偏在対策、成果を出すラスト・チャンス」』を参照)。その発足の経緯や「非公開」の議論のプロセス、ひいてはこの4月にまとめられた報告書に至るまで、医療界内で賛否が分かれている。
 塩崎恭久厚労相の肝いりの「保健医療2035」策定懇談会(2015年6月に報告書)に続き、座長を務めた渋谷健司・東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授に、議論の過程や報告書の基本的考え方などをお聞きした(2017年4月27日にインタビュー。計3回の連載)。

――ビジョン検討会は、「医師需給分科会」をはじめ、厚労省の他の関係審議会・検討会の議論を事実上、ストップした形で2016年10月にスタートした経緯があります。この経緯には多くの批判がありますが、どう受け止められていますか。そもそも座長を引き受けられたお考えも含め、お聞かせください。

 まずプロセス的には、既存の関係審議会・検討会関係者には、ビジョン検討会の報告書が出るまでの間、大変ご迷惑をおかけしたと思います。

「ビジョン検討会報告書は、若手医師と女性医師に、夢を与えるためにまとめた」と語る、渋谷健司氏。

 医師の需給は、時代とともに変遷する上、さまざまなファクターが関係します。「医師需給分科会」の2016年6月の「中間とりまとめ」で、今後の必要な医師・看護師数を検討する際の前提として、「我が国が目指す医療の在り方」と、それを踏まえた医師等の働き方の検討が必要とされました。つまり、今後の働き方に関するビジョンがないままに、現状を追認し、医師の需給を外挿するやり方では問題があるとされたわけです。この考え方は正しいと思います。

 つまり「今までやってきたことを、そのままやっていればいい」という時代は終わった。特に医療提供体制、医師の需給や他職種との連携の在り方は、難しい問題ですが、時代とともに変わっていく必要があると思うのです。その際に、さまざまなイシュー(課題)を洗い出して議論し、どんな方向に進むべきかを皆で考えるべきなのです。不確実で先が見えない時代だからこそ、こういう方向に皆で進んで行こうという、その羅針盤が必要になります。ビジョン検討会はその議論の場だと受け止めました。

 実は今回、座長を打診された時には、最初は引き受けるつもりはありませんでした。けれども、今の医療提供体制においては、特に現場の疲弊感がひどく、医師のバーンアウトは切実な問題。僕の医学部時代の同級生にもそうした人が多い。若い医師たちを見ても大変な思いをしています。

 その上、僕は「保健医療2035」の座長を務め、2015年6月の報告書で、今後の医療の方向性を打ち出した。この報告書では、20年後の医療は描きつつ、「今、何をやるべきか」にも言及しています。

――「保健医療2035」を実現するため、また次につなげるために座長を引き受けた。

 医療提供体制をめぐる議論は、必ず「炎上」します。どうやっても関係者全員を満足させることはできません。でも誰かが皆を納得させる方向性を示さなければなりません。また医療提供体制については、サプライサイドだけではなく、需要側の問題やテクノロジーの発展など、さまざまなファクターが関係してきます。むしろこうした要素を見ることで、医療全体の見方も変わるのではないか、という思いもありました。つまり、「働き方」を入り口にして、今取り組むべきことを議論できる場であれば、僕の役割はあると思い、座長を引き受けました。

――構成員は、渋谷先生が人選されたのでしょうか。

 僕が決めたわけではありません。「団体代表は入れず、なるべく広い分野から、比較的若手をメインに」という希望は申し上げましたが、それ以外は言っていません。第1回会議で初めてお会いする方がほとんどでした。

――ビジョン検討会の進め方については、「非公開」への批判もありました。

 確かにメディアなどにオープンにした公開の場で議論していないという意味では「非公開」ですが、全くの密室での非公開会議ではなく、国際的にもよく用いられる「チャタムハウスルール」で議論しただけです。この点は混同しないでいただきたい。構成員は個人の立場で参加、発言してもらっていますが、皆何らかの組織には所属しています。構成員の立場を守りつつ、自由闊達に議論してもらう手法が、「チャタムハウスルール」。

 報告書には、「本検討会で示す新たなビジョンは、先に述べたように複合的な課題の解決を志向するものであり、これまでのように医療提供体制に関する伝統的な政策形成の論理や利害調整を机上で展開するだけでは策定できない」(報告書の6ページ)と記載しています。公開の場では、各々のポジショントークに走りがちになります。それは仕方がないことですが、新しいビジョンは生まれにくくなります。ビジョン検討会では、「誰が何を言ったのか」の「誰が」は伏せていますが、資料は全てオープンにしており、「何を言ったのか」、つまり、どんな議論があったのかが分かるよう論点も公開しています。

――報告書は、2016年度末までにまとめる予定でした。短期間で報告書をまとめる苦労などはありましたか。

 時間がなかったからこそ、あらかじめこちらで決めた、たたき台や論点を提示し、それに沿ってまとめるのではなく、まずゼロベースで課題を洗い出し、仮説を立てていくという、通常の研究やコンサルティングと同じ手法を取りました。このやり方は正直大変で、また構成員はとても戸惑ったと思いますが、最初の数回の会議は、まず課題の洗い出しを徹底的にやりました。そこが曖昧だと、真の解決にはつながらないからです。

 ただし、このプロセスがあったからこそ、いろいろな方面の課題が出され、議論に広がりと深みが出たと思うのです。医師の需給・偏在の問題が発端でしたが、それに留まらず、医師の働き方やキャリア形成、他職種や介護との連携、地域住民や患者のヘルスケア意識などを含めて一体的に見る必要があるという話は、このプロセスから出てきました。

――2016年12月に「中間的な議論の整理」を行いました(『医師偏在、「プライマリ・ケア」と「地域」で解消』を参照)。

 「中間的な議論の整理」は、抽象的だと思われたでしょう。まだ「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」の途中であり、この結果が出てから具体的施策を詳しく書こうと思っていたからです。医師のプロファイリング、つまりどこでどんな医師が働いてどのようなキャリアを積んでいるかとか、地方勤務に当たっては何が障壁になっているかなどは、調査で確認しなければならないと考えていました。もっとも、「中間的な議論の整理」で打ち出した柱は、最終的な報告書でも変わっていません。

――調査票の作成に先生方は関わったのでしょうか。

 ビジョン検討会で、内容は報告してもらい、質問票に対する意見はフィードバックしていました。ただ研究デザインや調査内容は、信頼できる方がいらっしゃる研究班にお任せしていました。厚労省医政局の事務方も短期間で本当によくやってくれたと思います。

――調査結果で、「意外だったこと」あるいは「新たな発見」はありましたか。

 今まで考えていたことが、エビデンスとして出てきたので、意外だったことはないです。もともと僕は、医師の強制配置は最終的な手段であり、できるだけやるべきではないと思っていました。調査結果から、医師の偏在問題は、強制配置をしなくても、勤務環境や子育て環境を整えれば問題解決が可能だと分かった。医療界には古い体質が残り、一般のビジネス界では当たり前のことが、行われていなかったとも言えます。

 20代の医師は、一生懸命に研さんができる場、一人前になるための環境がほしいと考える。30代、40代になると、子育てなどの環境も重視する。それは特別驚くことではありません。調査結果で驚くとしたら、44%のドクターが条件が合えば「地方に行ってもいい」と回答したこと(『医師10万人調査、結果公表!』を参照)。20代では実に60%です。ドクターは本当に真面目な方が多いのです。

 調査結果が出る前は、最終報告書に記載した以上に、さまざまな具体的方策が挙がっていたのですが、調査結果を踏まえ、絞り込みました。

――「44%は地方勤務の意向あり」という中には、現時点で地方に行っている人が含まれているという指摘があります。

 恐らくそういう指摘をされている方は、「意向あり」と回答した医師には、既に地方に勤務している方が多いのではないかと推測していると思います。しかし、地方に勤務していない医師に絞って解析を加えても、ほぼ同様の結果が出ていますので、そうした方も含めて、今後何年、地方に勤務する意向があるかを聞いているわけです。調査票を見ていただければ、この「44%」という数字が間違っていないと考えます。



https://www.m3.com/news/iryoishin/526565
自己犠牲の上に成り立つ医療は終わり - 渋谷健司・厚労省ビジョン検討会座長に聞く◆Vol.2
「自立・自律する医師に夢を与えたい」

インタビュー 2017年5月11日 (木)配信聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)

――では、報告書の内容についてお聞きします。一番のメッセージおよび全体の根底にある考え方をお教えください。

 「保健医療2035」を公表する際にも言いましたが、報告書は「これが正しい」、あるいは「これを絶対にやるべき」といった、「上から目線」の話ではなく、「こうした方向に進むために、皆で具体案を議論していこう」という提言であることをまずご理解ください。

 次に報告書の基本的な考え方ですが、「自己犠牲の上に成り立つ医療は終わりにしましょう」ということ。これは医療に限らず、日本の組織全体に言えることですが、専門性やキャリアの追求の面でも、また時間的な面でも、個々人の自己犠牲の上に成り立っていることが多い。しかし、人生は自分のもの。特に、医師および医療関係者は、プロフェッショナルな存在であり、自分の人生は自分で決める。矜持と自律を備えた職業人として、世に尽くすことが求められます。


ビジョン検討会報告書には、専門医制度について言及した箇所が複数ある。渋谷健司氏は、「専門医の質を担保しない限り、新専門医制度発足の目的は果たせない」と指摘する。
――大学医局などが、医師などに犠牲を強いてきた一方で、医師の側も自立していなかった面もあるのでしょうか。

 両方があると思います。自立かつ自律をして、社会に貢献する。仕事の質を担保する。それができない、そのための仕組みがないなどの理由から、自己犠牲を強いられているのかもしれません。自己犠牲を強いるのか、あるいは自立・自律ができないのか、どちらが先かは分かりません。しかし、ビジョン検討会で、ヒアリングに来ていただいた若手医師がそうであるように、自立・自律を目指す医師は確実に増えています。そうした医師に夢を与えないと、医療界全体がダメになってしまう。何も特別な才能を持った人に限らず、一定の環境があり、問題意識を持って飛び込めば、自立・自律は可能なのです。

――全員がすぐに自立・自律できるとは限らないものの、ロールモデルがないと進まない。

 はい。また世代的なものも、結構大きいと思うのです。旧来型の組織で教育を受けてきた人に、自分がやったことがないことを教えるように促しても、それは難しいでしょう。

 ビジョン検討会の報告書の主なオーディエンスは、「若手と女性」。報告書の最初に「若手や女性をはじめとして、医療従事者の誰もが将来の展望を持ち、新たな時代に即応した働き方を確保するための指針となることを目指して取りまとめられた」と書いています。議論の過程で、何度も構成員の方に申し上げたのは、「これからの医療を担う若手が希望を持てるように、とにかく現場目線でファクトベースで議論してください、現場目線での施策を出してください」ということ。

――報告書を俯瞰すると、「専門医」に言及したカ所が複数ある点が目を引きます。

 「医師の専門性の追求」が一つの課題だったので、専門医制度の議論は避けては通れません。ただ、今の新専門医制度をめぐる議論に横槍を入れるつもりはなく、強調したかったのは、専門医の「質」の問題です。

――「国際標準の専門医」とされています。どんな専門医像をイメージされ、日本の医療提供体制の中での専門医の位置付けをどのようにお考えなのでしょうか。

 イメージは、「Board Certified」。「スタンプラリー」で取得できる専門医ではなく、第三者が国際標準の質を担保する仕組みです。

 本来、日本専門医機構はそのために誕生したのではないでしょうか。厚労省の「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」(4月24日開催)でも発言しましたが、機構は学会に対して、どのような法的・制度的・財政的な制度を行使し、質を担保するのでしょうか(『「専門医取得、義務ではない」、新整備指針に明記か』を参照)。機構は肥大することなく、質の担保をきちんとやることに注力すれば良いと思います。

 もちろん、「米国式の専門医制度をコピーせよ」と言っているのではありません。ビジョン検討会でも、日米の双方でボードを取得した若手指導医からヒアリングをしましたが、日本でも国際標準の専門医は育成できると確信しました。そのためには、指導医や研修体制の充実が必須です。

 また医療提供体制の中での専門医の位置付けですが、全員が専門医を取得する必要はないでしょう。全員が取得したら、今の医学博士と一緒であり、質が下がるだけです。専門医は専門性を追求する。一方、専門医を取得しなくても、ジェネラリストとして活躍する場は今後多い。

 ビジョン検討会報告書では、専門医制度下での大学医局回帰の可能性に関しても警鐘を鳴らしています。今のままでは、医師偏在も悪化しかねません。医師の偏在に関しては、縦割りの医局人事ではなく、地域のニーズに基づき地域でリソース配分を決めること、前述しましたが、キャリア設計を支援したり、基本的な労働環境や子育て環境を整備するなど、当たり前のことを地道にすることが最も大切であり、医局回帰のローテーション人事は時代に逆行しています。

――諸外国の状況なども踏まえると、どうすれば専門医の質を担保できるとお考えですか。

 それこそが「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」で聞きたかったことです。

 日本専門医機構のガバナンス組織の問題と、専門医認定の在り方の問題があります。また、専門医と医師偏在の問題もあります。今はこれらイシューが異なることが混同されて議論されている気がします。どちらかと言えば組織の話や医師偏在の話が中心で、専門医の認定、ひいては専門医の質をめぐる議論が置き去りになっている懸念があります。例えば、年数や症例数ではなく、コンピテンシーに基づきマイルストーンが設定されているかなど、きちんと議論されているのでしょうか。専門医の質を担保しない限り、新専門医制度発足の目的は果たせません。

――都道府県の役割にも、随所に言及されています。

 結構、議論があったところです。「都道府県にやってもらう」と言っても、必ず「人がいない。どうするのか」といった議論になる。しかし、現在でも県や地元医師会、大学などが集まり、地域の医療の在り方を議論している地域があります。できない都道府県に対して、国から人やお金を送っていたら、いつまで経っても同じことの繰り返しで問題は解決にならない。もっと地域で切磋琢磨し、創意工夫することを後押ししないと、変わらないという思いが僕自身にあります。そんなに現場の知恵・実力を過小評価するな、と。

――医療は地域性が大きいので、地域で問題を解決していかなければいけない。

 その通りです。

――最終的に報告書をまとめる段階になって、かなり何度も推敲をされたとお聞きしています。

 確かに最初の頃のバージョンは、書きぶりが粗く正しく思いが伝わらなかったため、時間をかけて議論し、調整をしました。最終的にまとめた報告書は、表現は少し変えたところはありますが、内容的にはそんなに変わっておらず、「中間的な議論の整理」で打ち出した方向性とも基本的は同じです。いろいろな意見をいただく中で、「確かにもっともだ」という部分は変えましたが、妥協した部分はなく、最後は僕の責任で全て決めました。


  1. 2017/05/14(日) 14:07:05|
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