Doctor G 3 のメディカル・ポプリ

地域医療とプライマリケア、総合診療などに関係したネット上のニュースを記録。医学教育、研修、卒後キャリア、一般診療の話題、政策、そしてたまたまG3が関心を持ったものまで。ときどき海外のニュースも。

4月20日 

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49774
地方に行きたい医師を拒む"ブラック組織"の罪
JBpress4月20日(木)6時14分

 4月6日、「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」の結果が発表された*1。これは、医師の勤務時間に加えて、勤務地の希望などを詳細に聞いたもので、全国の医師10万人を対象に配布し、1.6万件の回答があった。
 その結果、医師の約半数が地方での勤務意志があることが明らかになった。特に50代以下では、51% (5449/10650)が地方での勤務意志ありと回答した。
 この「地方」の定義は、「東京都23区及び政令指定都市、県庁所在地等の都市部以外」であり、日本の人口の約6割を占める。
 大規模な設備が必要な先端医療や希少疾患の医療は都市部でしか成立しないことを考慮すると、基本的な医療が日本中で提供できることを目標にするならば、十分な数の医師が地方での勤務を希望としていると言える。

医師の流動性を阻害する医局人事

 つまり、医師が希望どおりに勤務地を選ぶことができるならば、地方の医師不足は緩和される可能性がある。では、何がその希望を阻むのか。
 今回の調査では、地方勤務を希望しなかった医師に対して、その理由を聞いている。それによると、全世代を通じて仕事内容、労働環境という回答が多い。加えて、20代の3位、30・40代で5位となった理由が「医局の人事等のためキャリア選択や居住地選択の余地がないため」であった。
 私が注目したいのはここだ。地方の医師不足解消には、医師の流動性を高めることが解決策になる。しかし、医局がその流動性を妨げている可能性がある。
 医局とは、大学の教授を頂点とするピラミッド型の組織である。もともとは、医局は関連病院に医師を派遣するため、一定の流動性を保つ役割を果たしていた。これを根拠に、医局関係者は「医局が地域医療を支えてきた」と主張する。
 しかし実際には、溜め込んだ医師の運用は非効率で、ダブつかせることが多い。その象徴が、医局の本丸たる大学病院だ。このことは、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」座長の渋谷健司先生の投稿*2にも描かれている。
 「大学付属病院での臨床実習に参加した時、私は衝撃的な光景を見た。それは、60代の医者が慣れないオペをし、その横で30代半ばの油が乗った医者が、人工心肺を冷やすために、ただひたすら氷を割る作業をしていたことだ」
*1=http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000160954.html
*2=http://www.huffingtonpost.jp/kenji-shibuya/doctor_work_life_balance_b_15857308.html
 このような、若手医師がする臨床業務と無関係の作業は、患者の車椅子を押す、入院した患者の常用薬のリストを作る、など現在でも枚挙にいとまがない。その原因は、医師が多すぎるからだ。
 医局は、医学生を在学中から勧誘できる。だから、人件費を抑えても大学病院には医師が入ってくる。とはいえ、医師が増えても患者が増えるわけではないから、臨床業務に関係ないような仕事を割り振ることになる。
 民間病院ではこうはいかない。特に昨今は医師・看護師の調達コストが上がっているため、これらの業務を他の医療職で分担するのが普通だ。
 例えば宮城県の仙台厚生病院では医療クラーク(医療事務作業補助者)の活用を進め、千葉県の亀田総合病院では臨床検査技師や薬剤師など、ほかの医療職を柔軟に運用して病棟業務で活用する、などの工夫を行っている。

効率経営と医師の成長を促す地方病院

 極端な話、外科医ならメスを、内科医ならカテーテルや内視鏡を、いかに長い時間持たせることが、医師の生産性を挙げることにつながり、ひいては病院の経営上も必須の命題である。
 近年、このような傾向は変わりつつあった。上記のような事実が知られるにつれ、効率よく臨床経験を積みやすい医局を選ぶ医師や、医局に入らずに研鑽を積むような医師が増加したからだ。
 2008年の初期臨床研修制度必修化を契機に、民間病院が積極的に情報発信を行うようになったこともあり、民間病院の中には症例数が多く若手医師でも豊富な研修を積める施設があることが知られるようになった。
 若手医師のキャリアが多様化したため、自大学の卒業生をただ取り込んでいた医局は、いまや「選ばれる存在」だ。魅力的な研修先を集める医局には今でも医師が集まるし、そうでないところは閑古鳥が鳴く。
 この時代の変化に気づかない医局はブラック化している。
 例えば、九州の某大学では、在学中に医局へ入ることを在学生に「強制」する診療科がある。そんな取り決めに意味はないし、そんな不自然なルールの押しつけがある時点でブラック臭がするが、社会経験のない学生は従ってしまう。
 そのうえで、年に1度の納会では医局から抜け出た医師の名前を挙げて吊るし上げる。辞めた当人は当然欠席しているし、痛くも痒くもないのだが、その場にいる若手医師、学生への恫喝には十分だろう。
 「うちの医局を辞めて○○地方で勤務できると思うな」という言葉を言われた研修医もいる。こうなると、やっていることは反社会勢力と変わらない。
 それに輪をかけたのが専門医制度改訂だ。
 制度改訂によって、専門研修を行える病院の要件項目が増加し、地方の中核病院でも専門研修施設の資格を満たさなくなった。その中には、症例数も豊富で、臨床成績も高く、専門研修の場として若手医師のリクルートに成功していたような病院もある。

時代に逆行する専門医制度改定

 いわば、独自の販路を開拓して利益を上げている農家を、政府に圧力をかけて販路を潰そうとするようなものだ。
 日本専門医機構の吉村博邦理事長は、「地域医療への配慮を分かりやすく示す」と主張している。しかし今回の調査では、多くの医師、特に専門医制度で影響を受ける若手の医師が地方での勤務ができない理由に「医局」を挙げている。
 つまり、医局は地域医療を支える屋台骨ではなく、医師の地方流出を阻む組織である。必要なのは、配慮ではなく、医師の束縛をやめることだ。医局以外の多様な研修先こそが、現場医師の希望をかなえ、さらには地方での医師不足緩和につながる。
 専門医制度は現在、変更へ向けて突き進んでいる。全国市長会、全国自治体病院協議会、さらには署名活動も行われて、反対への声明が出されている。
 日本専門医機構は少し意固地になっているようだが、それは大人げない。今回の調査結果が、新しい専門医制度へどのように反映されるのか、または現場医師の意見など無視して突き進むのか、興味深く見守りたい。
筆者:森田 知宏



http://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=14926105357237
神栖2病院統合 済生会増築を決定 協議会
鹿島労災跡に分院

2017年4月20日(木) 茨城新聞

 医師不足で厳しい経営が続く神栖市の鹿島労災病院(同市土合本町)と神栖済生会病院(同市知手中央)の再編統合問題で、県医師会や両病院、県、市などの関係者でつくる再編統合協議会は19日、同市内で会議を開き、統合後の新病院について、神栖済生会を増築して本院とする案に正式決定した。鹿島労災跡には、19床までの診療所を分院として新築する予定で、2018年度をめどに両病院を統合する。神栖済生会の増築時期などに関しては今後検討するという。

 同日の会議で決まった基本構想によると、統合後、神栖済生会は救急医療や入院診療を担う本院とし、約350床の二次救急病院を目指す。鹿島労災の機能も継承し、災害拠点病院としての役割を担う。分院の診療科には内科、外科、整形外科、小児科などの設置のほか、介護福祉施設の併設なども検討する。

 両病院を巡っては、関係者や有識者でつくる「今後の在り方検討委員会」が昨年6月、経営基盤強化や大学などから医師派遣を受けやすい新病院の整備を柱とする報告書を橋本昌知事に提出。新病院の設立案として、(1)神栖済生会の増築(2)鹿島労災跡地に新築(3)中間地点に新築-の3案が示されていた。同8月に協議会を発足し、これまでに3回の住民説明会を開くなどして協議を進めてきた。

 これまでに協議会は、神栖済生会を増築して本院とする案について、概算事業費が最も安い約72億円(他案より約40億円安い)▽高台に立地し、津波が発生するなど災害時にも役割を果たせる▽本院の周辺人口が3案中最も多い▽鹿島臨海工業地帯に近く労働災害対応に適している-などとして最有力としてきた。

 会議は、前回に続き住民代表やコンビナート企業代表が加わり、再編3案の中から神栖済生会を本院とする案に正式に決めた。会議後、協議会長の小松満前県医師会長は「法人の違う病院の統合はハードルが高いが、大きな一歩を踏み出した。連携して地域医療構想の先頭を切ってやっていきたい」と述べた。

 保立一男市長は「救急医療の充実が最大の目標で、医師確保に向け積極的に取り組んでいきたい」とコメントした。

 これまでに、鹿島労災が位置する波崎地区の住民からは、神栖済生会を本院とする案について、「波崎地域の医療が衰退してしまうのでは」「高齢者など交通弱者にとって通院が大変になる」など、病院の存続を望む声も上がっていた。

 また、説明会に参加した住民対象の市のアンケート(回答291人)では、「どの再編案が1番いいと思うか」の問いに対し、神栖済生会の増築案が最多の46・4%で、「コストが最も安く、場所や役割も理にかなっている」「既存施設を有効活用すべき」などの意見も出ていた。 (関口沙弥加)



http://www.asahi.com/articles/ASK4N6RCZK4NUBQU00X.html
医師偏在対策の検討会に不満続出 半年ぶりに議論再開
野中良祐2017年4月20日20時16分 朝日新聞

 都市部や大病院などに医師が集中する、偏在への対策を話し合う厚生労働省の「医師需給分科会」が20日、開かれた。1~2カ月間隔で開催されてきたが、昨年10月から半年間、開かれない状態が続いていた。この間に別の検討会を設けて、同様のテーマの報告書をまとめた厚労省の進め方に有識者の委員から「納得いかない」と不満が続出した。

 分科会は2015年12月から、都道府県が策定する18年度からの医療計画に盛り込む偏在対策をまとめる検討を進めてきた。ところが、昨年10月に医師の偏在対策や勤務の見直しを同様に話し合う「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が設置されて以降は開かれなくなった。

 ビジョン検討会は今月6日、業務分担を進めて新たな職種を設けることなどを提言した報告書を塩崎恭久厚労相に渡した。

 20日にあった分科会では、こうした進め方や報告書の内容に異論が相次いだ。委員の今村聡・日本医師会副会長は「かなり納得できない」と語気を強めた。他の委員も「同感だ」とした上で、「私たちの役割が変わったのか」「なぜビジョン検討会ができたのか。真面目な議論ができない」と不満をあらわにした。

 厚労省は、医師偏在対策を具体化させる際には分科会で議論を深めると説明。委員で上部組織の「医療従事者の需給に関する検討会」の座長を務める森田朗・津田塾大教授は「これまでの分科会の議論を否定するものではない」と話し、理解を求めた。



https://www.m3.com/news/iryoishin/522452
シリーズ 社会保障審議会
医師偏在対策、5月から集中的議論、医療計画に盛り込む
医師需給分科会が再開、法改正も視野に検討

2017年4月21日 (金) 橋本佳子(m3.com編集長)

 厚生労働省の第4回「医療従事者の需給に関する検討会」(座長:森田朗・津田塾大学総合政策学部教授)と第8回「医師需給分科会」(座長:片峰茂・長崎大学学長)の合同会議が4月20日に開催され、医師偏在対策について5月以降、集中的に議論する方針を確認した。法改正を伴わず実行可能な偏在対策は、都道府県が現在策定中の2018年度からの第7次医療計画に盛り込むことが可能なよう検討を進める(「『医師確保対策は“未定”、医療計画の「作成指針」』を参照)。今夏頃にはまとまる見通し。法改正が必要な項目については、2018年の通常国会等での法案提出も視野に入れて検討を行う(資料は、厚労省のホームページ)。

 医師需給分科会は2016年10月以降、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の設置を機に、議論がストップしていた(『診療科別の「専攻医研修枠」、JCHO尾身氏が提案』、『「医師需給分科会、早急に再開を」、横倉会長』などを参照)。ビジョン検討会がこの4月に報告書をまとめたのを受け、約半年ぶりに議論が再開した。

 具体的な議論は、ビジョン検討会報告書を踏まえて進める。同報告書には、女性医師支援策、地域医療支援センターの実効性の向上、専門医制度と関連付けた対策、都道府県主体の対策など、幾つかの医師偏在対策が盛り込まれている(『医学部定員増に歯止め、「偏在対策、成果を出すラスト・チャンス」』を参照)。

 医師需給分科会は2016年6月の中間報告で、14項目の医師偏在対策を打ち出していた(『偏在対策「強力」に、「医師の働き方ビジョン」も策定』を参照)。ビジョン検討会報告書の対策と重なる部分もあるが、同報告書は「規制的手段」は否定していることから、「管理者要件」(特定地域・診療科で一定期間診療に従事することを、臨床研修病院、診療所等の管理者要件とすること)は検討対象から除外される見通し。厚労省医政局医事課長の武井貞治氏は、次回以降の本分科会で、今後の議論の進め方を示すと説明。

 厚労省は4月24日に、「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」をスタートさせる(『新専門医制度などで新たな検討の場、厚労省』を参照)。その検討課題は、(1)地域医療に求められる専門医制度の在り方、(2)卒前・卒後の一貫した医師養成の在り方、(3)医師養成の制度における地域医療への配慮――だ。

 医師需給分科会とのすみ分けについて、武井課長は、医師需給分科会は、中長期的な医師需給の見通し、医師確保対策、医師偏在対策が論点であり、特に偏在対策が当面の検討課題になる。一方、医師養成検討会は、地域医療との関連で新専門医制度をまず取り上げる。「新専門医制度については、地域医療への配慮が重要になっている」と武井課長は述べ、全国市長会の緊急要望に言及し、日本専門医機構での議論も踏まえて検討を進めるとした(『国民不在の新専門医制度を危惧」、全国市長会』を参照)。

 森田座長は、「医師需給分科会の構成員の立場」と断り、「前向きに議論していくことが必要だが、どこで何を議論していくかが少し錯綜している」と指摘し、各検討の場の結果が矛盾した内容になると混乱を来しかねないため、それぞれの役割をもう少し明確にするよう求めた。さらにビジョン検討会報告書については、「これまで我々が議論してきたことと重なる。筋を通して議論すれば、反映できるのではないか。ただ、財政面についてはほとんど触れていないので検討が必要」と述べた。


会議の冒頭、厚労省医政局医事課長の武井貞治氏は、「医療従事者の需給に関する検討会」と「医師需給分科会」の議論が中断したことについて、「多大な迷惑をかけた」とお詫びの言葉を述べた。

 ビジョン検討会報告書への異論、質問相次ぐ
 もっとも、20日の会議は、ビジョン検討会の位置付けや報告書への異論や質問が相次いだ。同日に開催された社会保障審議会医療部会でも同様だ(『ビジョン検討会の報告書、医療部会で異議相次ぐ』を参照)。

 日本医師会副会長の今村聡氏はまず、医師需給分科会の中間報告書や医師需給推計が、「エビデンスに欠ける」と指摘されていたことを問題視した。同推計では、30~50代男性の労働力を「1」とした場合、女性医師の労働力は「0.8」などとしている。しかし、ビジョン検討会の基礎データを得るために実施された厚生労働科学特別研究「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」では、女性医師は「0.77」だった。

 今村氏は、ビジョン検討会報告書の新専門医制度に言及した記載にも疑問を呈した。日本専門医機構のガバナンスの不十分さなどにも触れているが、ビジョン検討会であまり議論をした形跡がないことから、「こうしたこと書く根拠はどこにあるのか」と報告書作成プロセスを尋ねるとともに、社会保障審議会に「専門医養成の在り方に関する専門委員会」が2016年3月に設置されたものの、5月でストップしていることから、「専門医についてはどこで議論するのか」と質問(『新専門医、予定通り開始せず、2017年度は“試行”』を参照)。

 新専門医制度の関連では、日医常任理事の羽鳥裕氏も、「機構等に確認もせず、こうした文書が出てくることは全く納得できない」と問題視した上で、「(新専門医制度が)来年4月からスタートすることを前提に、日本専門医機構は準備をしている。これはそのまま進めていいのか」と確認。今村氏は同機構の監事、羽鳥氏は同機構の理事をそれぞれ務める。

 武井課長は、ビジョン検討会報告書は、構成員の意見やヒアリングなどで出た意見を踏まえ、何度も修正を重ねた上で報告書をまとめたと説明。女性医師の労働力については、以前は限られたデータに基づく推計であり、今回は1万5677人の回答を集計するなど、サンプル数に相違があるほか、女性医師が就業継続する際の阻害要因、地方勤務意思を調べるなど「従来の調査とは違う」と説明。ただ、新専門医制度のスタート時期については言及しなかった。

 「医師数を増やす必要がない環境作り」は可能か
 ビジョン検討会報告書の内容について、全日本病院協会副会長の神野正博氏は、タスク・シフティング(医師から看護師等への業務移管)、フィジシャン・アシスタントの新設、リフィル処方など、「今まであまり触れられていなかった施策が、『敢えて医師数を増やす必要がない環境作り』の前提となっている」と指摘し、「医師を増やす必要がない環境を作るのかどうか、またこの前提がなかったら、どうなるかについても議論しなければいけない」と求めた。

 全日本病院協会会長の西澤寛俊氏は、「敢えて医師数を増やす必要がない環境作り、というが、現状では医師が少ない」と指摘、「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」の結果について、「今、勤務している医師のアンケート。離職医師がいることを考えることが必要」と求めた。さらに医師の地方勤務意思についても、「今、地方に行くという意思ではなく、将来の意思」であるとし、どんなキャリアを描いているのか、きめ細かな分析を求めた。

 NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子氏、全国自治体病院協議会会長の邊見公雄氏、日本医師会常任理事の釜萢敏氏からも、ビジョン検討会の位置付けなどに関する質問や疑問が出された。



https://www.m3.com/news/iryoishin/522278
シリーズ 社会保障審議会
ビジョン検討会の報告書、医療部会で異議相次ぐ
中川日医副会長、「医療政策過程の大変な事態」

2017年4月20日 (木) 橋本佳子(m3.com編集長)

 厚生労働省は、4月20日の社会保障審議会医療部会(部会長:永井良三・自治医科大学学長)で、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」がこの4月にまとめた報告書を説明したものの、報告書の内容だけでなく、医療行政の議論の進め方そのものにも異論が相次いだ。

 ビジョン検討会は、厚労省の「医療従事者の需給に関する検討会」と「医師需給分科会」の議論を中断して、2016年10月に発足した経緯があり、報告書がまとまった後も、いまだ関係者の理解が得られない状況が続いている(ビジョン検討会報告書は、『医学部定員増に歯止め、「偏在対策、成果を出すラスト・チャンス」』を参照)。

 口火を切り、かつ最も強く異議を唱えたのは、日本医師会副会長の中川俊男氏。「日本の医療政策の形成過程で、大変なことが起きていると思っている。厚労省は今までは、私的諮問機関も含めて審議会を通してきちんとした合意形成過程を経て、医療政策を決めてきた。それにより、公的な国民皆保険が維持されている。しかし、そうしたきちんとした議論、政策の形成過程が今回は大混乱したと考えている。元に戻さないと、大変なことになる。既に私的諮問機関があるのにもかかわらず、それを凍結して非公開の別の私的諮問機関を立ち上げるのはおかしい」と述べ、これまでの議論のプロセスそのものを問題視。

 ビジョン検討会の報告書で、「ビジョン実行推進本部(仮称)を設置し、5~10年程度の政策工程表を作成した上で、内閣としての政府方針に位置付け、進捗管理を行うよう求める」とある点については、「私的諮問機関が、審議会に指示をするのか」と疑義を呈した。報告書の中で診療報酬に言及した記載も列挙し、「私的諮問機関が、診療報酬の方向付けを行っているとしか読めない。このビジョン検討会の報告書に中医協も従うということか」などと問い、同報告書の位置付けを質した。

 厚労省医政局長の神田裕二氏は、これらの質問に対し、「上下関係とか、指示する、しないという関係ではない。会議の性格が違う。ビジョン検討会の構成員は、直接的なステークホルダーというより、有識者であり、今後の医療のあるべき姿や医師の働き方についての提言をまとめた。直接的な政策決定まではビジョン検討会では行わず、具体的な中身は、各ステークホルダーが参加した場で検討する」と回答。例えば、診療報酬が関連する事項については、「検討会の提言の熟度に応じて中医協に諮り、中医協での協議を経て、実現するかどうかを検討する」と説明。「報告書の内容を丸ごと中医協に諮るのか」と中川氏は返すと、神田局長は、「丸ごと諮ることにはならないが、個々の問題については、中医協で検討することになる」と答えた。

 NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子氏も、ビジョン検討会報告書で、「医師需給分科会において、本報告書の内容を踏まえ、その具体化に向けた検討を行い、短期的な方策を精査し、必要な制度改正案を速やかにまとめるべき」としている点に触れ、「かなり上位に立った言い方がされている」と指摘。さらに「ビジョン実行推進本部(仮称)」については、「本当に設置されるのか」などと質した。

 神田局長は、2015年6月にまとめられた「保健医療2035」では、事務次官をトップとし、厚労省幹部で組織する「保健医療2035推進本部」を設置したことから、同様な組織が想定されると説明。各テーマは個別の検討会等で議論、推進本部はその総括的な役割を担うイメージだ。ただ「現実にいつ設置するかは決まっていない」(神田局長)。

 日本病院会副会長の相澤孝夫氏は、ビジョン検討会報告書が今後の医療の方向性の一つとして、「高い生産性と付加価値を生み出す」を掲げた点について、「基本的な物の考え方がおかしい」と強く訴えた。「社会保障は、高い生産性を必要とするのか。国民に安心、満足、豊かさなどを提供するものであり、もともと生産性は低い。高い生産性を求めたら、医療職や介護職に就く人がいなくなる」。

 ビジョン検討会の議論のエビデンス作りの一環として実施されたのが、厚生労働科学特別研究「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(『医師10万人調査、結果公表!』を参照)。同調査の結果にも、疑義が相次いだ。全国自治体病院協議会会長の邊見公雄氏は、「医師の44%が、今後、地方で勤務する意思がある」との調査結果について、「これは実際に今、地方で働いている人の回答が含まれているデータ」と指摘。自身の経験から地方勤務の意思があっても、実際には赴任しない医師がたくさんいるとし、「現実はそれほど甘くはない。これを信じるほど、お人好しではない」と異議を唱えた。

 「医療従事者の需給に関する検討会」には、「看護職員需給見通しに関する検討会」も設置されているが、本検討会は2015年12月以来、開催されていない。同検討会の座長を務める、東京大学政策ビジョン研究センター特任教授の尾形裕也氏は、ビジョン検討会報告書で、今後の医師等の需給・偏在の在り方について、「人口構成、疾病構造、技術進歩、医療・介護従事者のマインド、住民・患者の価値観の変化等を需給の中・長期的見通しや供給体制に的確に反映」とある点について、「特に看護については、どのように反映させていくのか、中身が書かれておらず、分からない」と指摘した。

 ビジョン検討会は「屋上屋」
 中川氏が「日本の医療政策の形成過程で、大変なことが起きていると思っている」と問題視したのは、ビジョン検討会の設置経緯や位置付けが曖昧のため。神田局長とは、以下のようなやり取りがあった。

 「ビジョン検討会は、私的諮問機関か」と中川氏は質すと、神田局長は「性格としては審議会ではなく、大臣の意を受けて設置したもの。実施に当たっては、関係局が参加する形で、事務局は医政局が担当した。医政局に設定された検討会」と回答。「局長の私的諮問機関か、それとも大臣か」と中川氏が続けると、神田局長は、「大臣と相談し、事務局については医政局が行い、関係局と連携を取りながら進めた」と明言を避けた。

 医師需給分科会については、神田局長が「医政局の検討会」と説明したため、「局長の私的諮問機関を凍結して、屋上屋を重ねるように、新たに非公開のビジョン検討会を立ち上げたことはよかったと考えているのか」と畳みかけると、神田局長は、医師需給検討会の2016年6月の中間取りまとめで、医師の勤務実態調査やビジョンの策定が求められた上、塩崎恭久厚労相も国会答弁で、「基本的な哲学を定めた上で、医師需給推計などを行うべき」と述べていることから、ビジョン検討会を設置したと述べた(『偏在対策「強力」に、「医師の働き方ビジョン」も策定』を参照)。

 中川氏は、「報告書には、ビジョン検討会で議論の形跡がないものが、山ほどある」とも指摘。厚労省医政局医事長の武井貞治氏は、関係団体へのヒアリング、ネット上での議論、報告書をまとめる過程でのやり取りなどを通じて議論をしたと説明。そのほか、前述のように、中川氏は自身が委員を務める中医協でのビジョン検討会報告書の取り扱いも質した。

 「地方勤務意思あり、44%」は本当か
 「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」については、邊見氏以外からも、詳細な質問が複数出た。

 日本赤十字社医療センター第二産婦人科部長の木戸道子氏は、「医師の44%が、今後、地方で勤務する意思がある」との調査結果について、「地方」の定義が、「東京都23区および政令指定都市、県庁所在地等の都市部以外」だっため、「吉祥寺市や三鷹市なども、地方に入るのでは」と指摘したほか、そもそも現時点で地方勤務の医師は、基本的に「地方勤務の意思あり」となるので、都市部勤務の医師の意思を把握する必要があると指摘。さらに(1)当直とオンコールの扱い(待機時間は、勤務時間に含まれていないなど)、(2)女性医師問題については、離職した医師のデータがなく、バイアスがかかった結果になっている――などと指摘し、「報告書をうのみにせず、(議論になるデータ等の)信頼性を担保した上で施策を検討してもらいたい」と求めた。武井課長は、現在離職している女性医師809人分のデータはあるなどと説明、さらに詳細な分析を行う方針を示した。

 連合総合政策局長の平川則男氏は、当直とオンコールを区別して集計していないほか、勤務時間を「診療」と「診療外」に分けて調査しているが、「診療外」に含まれる研究や自己研さんが、「指揮命令系統下であるかどうかが分からない」などの問題点を指摘した。

 4月24日に新たな検討会発足、すみ分けは?
 なお、厚労省は4月24日に、「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」を発足する(『新専門医制度などで新たな検討の場、厚労省』を参照)。日本医師会常任理事の釜萢敏氏が、同検討会の検討課題が、(1)地域医療に求められる専門医制度の在り方、(2)卒前・卒後の一貫した医師養成の在り方、(3)医師養成の制度における地域医療への配慮――となっていることから、関係検討会・審議会との関係を質すと、武井課長は、同検討会は、地域医療の観点から見た専門医制度の在り方について議論する一方、医師需給分科会は中長期的な医師需給、医師確保対策の議論の場であり、当面は医師偏在対策について議論すると説明した。

 全日本病院協会会長の西澤寛俊氏も、日本専門医機構が議論している新専門医制度はプロフェッショナルオートノミーで運営しているものであり、卒前教育は文部科学省、臨床研修については厚労省の部会が議論していることから、「それぞれの専門家が議論しているのに、なぜ新たな検討会で議論するのか。悪い影響を与えないようにしてもらいたい」と釘を刺した。


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