Doctor G 3 のメディカル・ポプリ

地域医療とプライマリケア、総合診療などに関係したネット上のニュースを記録。医学教育、研修、卒後キャリア、一般診療の話題、政策、そしてたまたまG3が関心を持ったものまで。ときどき海外のニュースも。

9月18日 

https://www.m3.com/news/iryoishin/455784
シリーズ: 島根大“事故調”事件を検証
院内事故調、「事実認定に誤りあり」◆Vol.2
高裁判決が指摘、医師らはガイドライン準拠

2016年9月19日 (月) 橋本佳子(m3.com編集長)

 裁判所に提出された担当医らの「陳述書」によると、主治医だった産婦人科医Aは、卒後約5年の医師だが、約500件の分娩(うち約160件は帝王切開手術)を取り扱った経験がある。担当教授だった元島根大学産婦人科教授の宮崎康二氏は、取り扱い分娩数は3000例近い。

 2015年6月17日の広島高裁松江支部の判決に基づく、島根大“事故調”事件の2006年9月7日の緊急帝王切開手術当日の事実経過は以下の通り。

◆9月7日までの経過

・8月30日が妊婦A(経産婦)の出産予定日だった。
・9月6日に、妊婦Aは妊娠41週で入院、分娩誘発剤であるプロスタルモンE錠を投与したが、有効陣痛に至らず。

◆9月7日の事故当日:クリステレル圧出法、吸引分娩まで

・8時45分頃:産婦人科医Aが、子宮収縮剤であるアトニンを1時間当たり15mL で開始、30分ごとに増量の方針。
・11時15分頃:分娩監視装置(CTG、後に記録時間は、実際の時間より5分ほど遅れていたことが判明)上、2、3分ごとに子宮が収縮。胎児は、胎児心拍120~130bpm、一過性頻脈が見られ、元気な状態。
・11時55分頃:内診で、子宮口が3cm開大。胎頭は、「station」は「 -2」。12時頃にかけて、有効陣痛があり、分娩待機室から分娩室に妊婦を、ベッドおよびCTG(いったん外される)ごと移動。
・12時8分頃:自然破水、茶褐色の混濁した羊水が流出。
・12時9、ないし10分頃:産婦人科医Aは、CTGを再装着し、児心音を確認しようとしたが、トントントントンと順調に聞ける時もあれば、ゆっくりとゼロ近くまで聞こえなくなるようなことを繰り返した。この頃、子宮口が9cm開大。胎頭は、「station」は「-1 」ないし「±0」、頭頂位(軽度反屈位)の胎位であることを確認。
・12時10分頃:産婦人科医B(元島根大産婦人科教授の宮崎康二氏)と産婦人科医C が分娩室に呼ばれる。産婦人科医Bは胎児が高度除脈と判断、吸引分娩による娩出の準備を指示。子宮口は9cm開大。
・12時15分頃:アトニンが1時間当たり90mLに増量、妊婦の陣痛発来と子宮全開大、胎頭は「station」は「+2」を確認し、産婦人科医Bがクリステレル圧出法、産婦人科医Cが吸引カップを用いて吸引分娩を実施したが(1回目)、娩出には至らず。
・12時21分頃:CTGの記録が再開されたが、胎児心拍は相当乱れた状態。子宮収縮圧は、12時22分頃と12時24分頃に上昇し、有効陣痛が認められたが、12時28分以降、一転して低レベルでフラットな状態になり、収縮反応は認められなくなった。
・12時22分頃:有効陣痛に併せて、2回目の産婦人科医Cがクリステレル圧出法、産婦人科医Bが吸引分娩を実施し(2回目)、さらに24分頃に役割を交代して行ったが(3回目)、娩出に至らず。12時22分頃、産婦人科医Dは、緊急帝王切開手術が必要になる可能性を察知し、手術室と麻酔科に連絡。
・12時33分、37分、38分、39分:アトニンを増量し、吸引カップを装着し陰圧をかけて、吸引の機会を待ったが、有効陣痛は発来せず、児頭が少しずつ上昇したため、吸引カップの位置をずらす操作を繰り返す。
・12時39分頃:吸引分娩を断念し、緊急帝王切開手術の実施を決定。

◆9月7日の事故当日:緊急帝王切開手術まで

・12時41分頃:手術室から準備が整ったとの連絡があり、搬送、12時50分頃に手術室に入室、12時53分頃に麻酔開始。
・12時58分頃:産婦人科医Cが執刀医となり、緊急帝王切開手術を実施、12時59分頃に娩出。妊婦の子宮破裂確認、出血持続したため、子宮を全摘。児は3928g、重症性新生児仮死で、13時15分、NICUに入室。

 緊急帝王切開術への切り替え、遅れなし

 裁判の争点は、(1)9月7日12時10分の時点で、産婦人科医らは、緊急帝王切開手術を実施すべき義務があったにもかかわらず、それを怠った過失、ないし島根大病院の債務不履行があったか否か、(2)12時10分の時点、ないしは12時15分の時点で、産婦人科医らは、緊急帝王切開手術をダブルセットをすべき義務があったにもかかわらず、それを怠った過失、ないし島根大病院の債務不履行があったか否か、(3)新生児の後遺症と医師らの行為に因果関係はあるか――だ。

 広島高裁松江支部が、医学的判断の根拠として用いたのは、『産婦人科診療ガイドライン産科編2008』と、一審で、裁判所が鑑定人として選任した、周産期医療の専門家である産婦人科医の鑑定結果(以下、一審鑑定)で、控訴審では新たな鑑定は依頼していない。なお、事故発生は2006年だが、島根大病院は、島根県の中核的病院であり、大学附属病院であることから、同ガイドラインレベルの医療水準が要求されると判断している。

 争点(1)については、『産婦人科診療ガイドライン産科編2008』に記載する吸引分娩の適応(妊婦および児の状態、実施回数など)を満たしており、12時22分頃には緊急帝王切開手術の準備を依頼したことなどから、産婦人科医らの過失は否定された。「胎児除脈が発生した後に18分以上、経過して児が娩出された場合に、児に後遺症が引き起こされる可能性が高くなり、緊急帝王切開手術では後遺症リスクを回避することができないことを鑑みれば、高度徐脈の場合の急速遂娩として、吸引分娩を第一義的に選択することは、その要約を満たし、吸引分娩の限界を踏まえ、固執し過ぎないようにする限り、可及的に後遺症の発症を避ける手段として適切であったと言うべきである」(高裁判決)。

 12時22分後について、「2回目の吸引分娩が失敗した12時22分頃には、手術室に帝王切開の準備を依頼しており、その後の吸引は、同41分に手術室の準備完了の連絡を待つまでに行われたものであって、吸引分娩に過度にこだわりすぎていて、その結果、帝王切開への切り替え時期が遅れたものとも認められない。この点、被控訴人病院の医療事故調査委員会は、上記遅れを指摘しているが、前提となる事実認定に誤りがあり、指摘は適切ではない」と指摘している(島根大病院の「医療事故調査委員会」報告書は、Vol.3で解説)。

 争点(2)についても、高裁判決は「『産婦人科診療ガイドライン産科編2008』では、吸引分娩と帝王切開手術とのダブルセットアップまでは求めておらず、帝王切開手術の決定から、開始(あるいは執刀)まで約30分要し、緊急帝王切開手術では18分以内の娩出は不可能で、後遺症リスクを避け得なかった」などと判断、過失等を否定した。一審鑑定は、「胎児除脈が発生した後に、18分以上経過し、児が娩出された場合に、児に後遺症が引き起こされる可能性がある」との資料を引用。「約30分」は、本裁判で証拠として提出された資料から、「日本の一般的な医療機関における実情」として裁判所が採用した時間だ。

 高裁判決は、「控訴人ら(編集部注:患者側)の主張では、緊急遂娩を行う際には、吸引分娩の成功を予測する方法がない以上、常に手術室準備および麻酔科医の確保といったダブルセットアップすべき義務を課すことにもなりかねず、大学病院と言えども、医療機関における物的、人的資源が限られていることを考慮すると、その実施は現実的とも認められない」と追記している。

 したがって、(1)と(2)で産婦人科医らの過失等が否定されたことから、(3)の因果関係も否定された。



http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03191_02
【寄稿】
あなたの組織,「危機管理」できていますか?
医療安全だけが危機管理じゃない!

柏木 秀行(飯塚病院 緩和ケア科部長)
週刊医学界新聞 第3191号 2016年09月19日

 医療の質・安全の重要性が以前より叫ばれているが,医学部教育から卒後教育を通じて,十分な教育・研修の機会が提供されているとは言い難いように思う。そのような問題意識から筆者は,2016年6月に開催された「第7回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会」において,“あなたの組織「危機管理」できてますか?”というテーマでワークショップを開催した。当院での実務経験と,筆者が通っていた経営大学院での学びを融合させたものであり,医療の質・安全における学びの一つとしてその概要を紹介したい。

医療安全以外のリスクへの備え実際に発生したときの対応

 現在筆者は卒後10年目の臨床医で,福岡県にある飯塚病院の緩和ケア科において,指導医および管理職を担っている。部門の運営に携わるようになると,好むと好まないにかかわらず,医療安全にもかかわらざるを得ない。2015年10月1日には医療事故調査制度も施行され,危機管理の重要性は今後さらに増すであろう。そんな中,筆者には以下2つの疑問が生じていた。

1)危機管理では医療安全ばかりが取り上げられるが,それ以外にも備えておくべきリスクがあるのではないか
 書店には医療安全に関する質の高い書籍が多く並んでいる。医療安全管理部門などが存在する一定規模の病院では,院内職員向けに勉強会を開催しているところも多い。しかし,組織が直面する危機は,医療安全に関するものばかりではない。例えば,

・職員が飲酒運転で逮捕され,テレビで実名報道された
・患者の個人情報が含まれる記憶媒体を紛失した

といった事態はどうだろうか。このように,医療機関が備えておくべきリスクは「医療サービス提供にかかわるリスク」だけでなく,「経営にかかわるリスク」なども含まれる。しかしながら,医師や看護師をはじめ,医療専門職がそうしたリスクについて学ぶ機会は非常にまれである。

2)未然防止の大切さが強調される一方で,実際に生じてしまった場合にどう対処すれば良いのか
 医療現場に限らず,リスク管理の分野では未然防止策を講じることの重要性が強調される。実際,多くの医療機関では医療事故を防ぐためにさまざまな教育やシステムが導入されている。しかし,本来生じてはならないはずの危機が生じてしまった場合“管理者として何をすべきか?”という点について学ぶ機会は決して多くない。

リスクの把握とリスクの評価・分析を行う

 こうした状況に漠然とした不安を抱いていた筆者は,一般企業で危機管理を担当する経営大学院の同級生と議論するようになった。その中で,他業界の取り組みをヒントに,医療機関が取り組むべき危機管理について学ぶ機会を作ろうと考えたのである。

 学会当日のワークショップには18人が参加し,医師以外に薬剤師の姿もあった。まず,当院の医師2人(筆者:卒後10年目・緩和ケア科,岡村知直:卒後7年目・総合診療科)が,「危機管理概論」と題するレクチャーを行い,「危機管理とは,企業経営や事業活動,企業イメージに重大な損失をもたらす,あるいは社会に重大な影響を及ぼす事態を“危機”ととらえ,万一危機が発生した場合に損失や影響を極小化するための活動」であることを共有した。また,危機発生前の「平常時の取り組み」と発生後の「危機への対処」の双方が,組織の危機管理を考える上で重要であることを強調した。

 リスク管理のマネジメントプロセス(図)においては,個別のリスク対応を実行する前に,「①リスクの把握」および「②リスクの評価・分析」を行うことが重要である(当然,医療サービス提供に限定した話ではない)1,2)。そこでワークショップでは,これらのプロセスを実習形式で学んだ。

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図 リスク管理のマネジメントプロセス(参考文献1をもとに作成)

 具体的には,まず参加者全員に各自の施設の状況を鑑み,「医療行為に関連したリスク」と「医療行為以外のリスク」を,こちらで準備したリストに抽出してもらった。そして,それを基に組織に対する影響度と発生頻度を評価し,リスクマトリックスシートにプロットする作業を行った。この作業を通して,リスクを「直ちに対策の実施が必要なHigh Risk群」,「High Risk群にならないための対策が必要なMedium Risk群」,「現状のままで定期的な評価を行っていけばよいLow Risk群」に分け,組織に潜在するリスクの評価と対策の優先順位付けを行った2,3)。

 続いて,萱嶋誠氏(当院企画管理課長)が,広報担当としての経験に基づき,医療機関における危機対応のレクチャーを行った。組織規模や体制によって,できること・できないことは変わってくるが,準備が全くなされていない中で「危機」をどのように回避するかが重要である。医療機関や医療者は,一般社会から期待されるイメージや役割の大きさから,想定された以上の影響が発生することがある。特に,広報対応を誤ると当事者である個人とその組織に対して,二次的・三次的被害にもつながりかねないため,法的責任や社会的責任に加え,与える印象や感情への配慮も重要である。さらに,「万が一,飯塚病院でこのような危機が生じたら,誰が,どのように初動を行うか?」というテーマで,実際に想定される動きのシミュレーションも行い,医療機関における取り組みの一例として紹介した。

リスクの未然防止と,適切な対応が可能な人材の育成を

 最後に,筆者の経営大学院の同級生である田原繁氏(九州電力株式会社 地域共生本部 危機管理グループ)が,社会的影響の大きな企業の一例として,「一般企業における危機管理の取り組みや実際」を紹介した。東日本大震災や企業活動の中で経験したさまざまな危機事案に触れ,その中で見直しや改善を重ねてきた現在の危機管理体制について解説した。危機発生時の初動対応の組織化や,「事実の共有と伝わるスピード」を重視した情報の伝達体制,他社事例から学ぶための取り組みなど,大変参考になるものであった。

終了後のアンケートでは

・医療安全以外にもリスクがあるということが納得できた
・会見やマスコミとの付き合い方は,役に立った
・他業界の安全に対する考え方を学びたいと思った
・リアリティがあり,大変勉強になった。持ち帰れる部分はすぐにでも生かしたい

といった意見をいただき,組織を運営する上で危機管理に対する各施設の関心の高さがうかがえた。

 冒頭でも述べたように,危機管理について学ぶ機会は少ない。しかしながら,医療機関の運営が複雑化し,社会から求められる機能や役割が高度化している昨今の状況においては,危機の未然防止,発生した危機への適切な対処ができる人材の育成が重要である。

 本ワークショップは,医療を直接提供する専門職(医師や看護師など)だけでなく,組織を運営する事務スタッフなどにも他業界の取り組みを紹介することで,危機管理への関心を高めることをめざしたものである。今後,さらに内容を深め,より多くの医療機関で活用できる内容へと発展させていきたい。

◆参考文献
1)飯田修平.医療安全管理者必携 医療安全管理テキスト 第3版.日本規格協会;2015.
2)危機管理システム研究学会メディカルリスクマネジメント分科会編.あなたの医療は安全か?――異業種から学ぶリスクマネジメント.南山堂;2011.
3)平成18年度医療経営人材育成事業 ワーキンググループ事務局.経済産業省サービス産業人材育成事業 医療経営人材育成テキスト[Ver. 1.0]――13. リスク管理.2006.

かしわぎ・ひでゆき氏
2007年筑波大医学専門学群を卒後,飯塚病院にて初期研修修了。同院総合診療科を経て,現在は緩和ケア科部長として研修医教育,診療,部門の運営に携わる。地域包括ケア推進本部,筑豊地区介護予防支援センター長などを兼任。グロービス経営大学院修了。ご質問ご要望は,(hkashiwagih1@aih-net.com;メールを送る際,@は小文字にしてご記入ください)まで。



https://www.rodo.co.jp/column/7227/
【主張】病院の断続的労働に警鐘
2016.09.19【社説】 労働新聞

 千葉県と埼玉県の県立病院で、労働基準監督署長の許可を得ないまま医師や看護師に宿日直勤務を行わせていたことが発覚した(本紙8月29日号3面既 報)。医療機関における宿日直勤務は以前から問題視され、重点的な監督指導が行われてきた。昼間の医療業務が夜間に継続しているとみなされる場合は、当 然、許可の対象外となる。医療機関としては、基準に沿った勤務態勢を整えて許可を受ける「経営努力」を惜しんではならない。このままだと、労働基準法違反 として再び社会問題に発展しかねない。

この記事の全文は、読者専用サイトにてご覧いただけます。



http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03191_04
The Genecialist Manifesto
ジェネシャリスト宣言
「ジェネラリストか,スペシャリストか」。二元論を乗り越え,“ジェネシャリスト”という新概念を提唱する。
【第39回】進歩の原理:生涯学習の態度と方法

岩田 健太郎(神戸大学大学院教授・感染症治療学/神戸大学医学部附属病院感染症内科)
(前回からつづく)
週刊医学界新聞 第3191号 2016年09月19日

 ジェネラリストよりも,スペシャリストよりも,「ジェネシャリ(ジェネシャリスト)」のほうが医師のモデルとしてふさわしいという話をずっとしている。しかし,言うはやすし。行うは難し。ジェネシャリになることも,そうあり続けることも簡単ではない。

 これは生涯学習の問題だ。

 医学は進歩していく。細分化と情報増大が著しい医学の世界は“肥大”していると言ってよい。かつて見えていたはずの医学・医療の進歩の境界線は,はるかかなたの見えないところにある。

 全領域において全ての医学知識をカバーするのはとても不可能であり,それを目標にすべきではない。いわゆる“ジェネラリスト”だって(かつて多くの若手医師がそうなりたいと憧れたように)“何でもできる”わけではない。ジェネラリストであってもスペシャリストであっても,知識と技術が包括する範囲は,自分の診療環境にフィットしたものに限られる。悪性リンパ腫の最新の分類を暗記し,スワン・ガンツ・カテーテルをやすやすと入れるジェネラリストは稀有だろうし,そういう人をジェネラリストとは呼ばないだろう。



 そこで生涯学習である。“肥大”し続ける医学の世界で,いかに勉強を重ねて進歩し続けることが可能であろうか。

 一つは,「ノウハウ型」(=回答型)のアタマの使い方から,「質問型」のアタマの使い方に変換することである。

 世の中は2つに大別できる。私の知っていることと,知らないことだ。私の知っていること,つまり「ノウハウ型」の知の体系内で勝負している限り,経験が重なっていけば学ばなければならないことは減っていく。研修医のときは薬の名前や投与量,輸液の使い方を覚えるのに四苦八苦したけれども,経験を重ねていくうちにそういうことはソラでできるようになる。言い換えるならば,“知っていること”は洗練されていく。

 日本人の学習法は基本的に「ノウハウ型」だ。こういうときはこうすればよい。ああいうときはああすればよいというknow how,あるいはdo howの積み重ねだ。この型を覚えると日常診療は楽になるし,経験が長くなればさらに楽になる。経験値依存型の知の体系なので,年長者は年少者よりも常に偉い。「こういうときは,こうするものよ」と言えるパターンを多く持っている者の勝ちだからだ。卒後年数をすぐに知りたがり,「どちらが上から目線で物を言えるか」確認したがる日本の医者ムラは,ノウハウ型の診療が幅を利かせている結果とも言える。

 ノウハウ型の知の体系であれば,年長者になればなるほど勉強するインセンティブを失ってしまう。だから勉強しなくなる。日本の多くの医者が,年齢が上がれば上がるほど勉強しなくなるのは,このためだ。



 しかし,“知っていること”ではなく“知らないこと”にウェイトを置く質問型のアタマであれば,経験値が無勉強を促すことはない。経験を積めば積むほど,患者の観察が細かくなり,これまで読み飛ばしていた疑問に対して,より自覚的になれるからだ。臨床医学において,わからないものはたくさんある。例えば,「尿酸値が高ければアロプリノール飲ませとけ」だったのが,「アロプリノールが患者に何をもたらすのか」というさらに高次の質問に転化できるわけである。

 質問型の知の体系はインターネットによるデータベースへのアクセスによって実践が可能になる。これがEBMの要諦だ。日本でEBMが実践されにくい障壁は2つある。一つは英語力のなさ。もう一つは質問型メンタリティーのなさである。「風邪にはフロモックス使っとけ」みたいなノウハウ型の知の体系からでは,EBMはスタートのしようがないのである。

 ただし,このような質問型の知の体系は,ともするとオン・ザ・ジョブのトレーニングの中では“自分の周辺”の知の体系に小さくまとまりがちだ。それにたとえ質問型のメンタリティーを持っていても,それをEBMや研究を駆使してアンサーすることの繰り返しでは,それもまた一つの「ノウハウ」の型にはまってしまう。「わからない→調べる→わかるようになる」という型も一つのノウハウだからだ。



 さらに大きな枠でジェネシャリとして生涯学習をするためには,もっと広い体系で勉強する必要がある。学術集会や各種の講習会はその一助となろう。

 ただし,こういうのは緩い。居眠りOK,内職OK,スマホいじりOKで,学びの評価もない。“ゴリゴリと勉強する感じ”はないので,どうしても自分に甘くなりがちだ。年をとってくるとどんどん自分に甘くしてもよい言い訳を思いつく。記憶が劣化し,各種能力が衰えていく中では,若い時以上の努力と工夫が必要なのに。

 その克服法として,学習活動にプロダクトを作る義務を課すというものがある。昨年,ぼくは感染症数理モデルの講習に参加したが,これがそのようなスタイルだった。10日かけて数理モデルを勉強し,自分でモデルを作ってみる。アウトプットがあるとかなり真剣に勉強しなければならない。



 もう一つ克服法があり,それは前回(第38回)で述べた再認定試験(re-certification)である。体系的に全部学び直すのだ。悪性リンパ腫の分類とか(こだわるなあ)。ABIMは批判されても再認定試験はやめないでほしい。日本の専門医制度でも定期的な再認定試験を生涯学習として課すべきだ。

 大人の勉強は弛緩型になりがちだが,時々は集中型にしたほうがよい。ゴリゴリと受験生のように勉強するのだ。そこで,ぼくは各種試験を年に2回程度,自分に課すことにしている。それは専門医試験だったり,語学の検定試験だったりする。このような足かせがあれば,怠惰な自分でもゴリゴリと勉強せざるを得ない。むろん,そういう足かせがなくてもゴリゴリ勉強できるのが本当は素晴らしいのだろうけど。



http://blogos.com/article/190979/
健康格差と健診難民化する若者
工藤啓
2016年09月18日 14:38 BLOGOS

本日のNHKスペシャルはすべての世代に忍び寄る新たな危機「健康格差」をテーマに、その実態と処方箋について議論されるようです。

【NHKスペシャル】私たちのこれから Our Future|NHK 総合テレビ 9月19日(月)夜7時30分放送!子ども、現役世代、高齢者…。すべての世代に忍び寄る新たな危機。実態と処方箋を探ります。 #健康格差

ウェブサイトを見ると、職業、家族構成、経済力、地域のつながりといった社会的要因による健康格差の実態と、医療や福祉、介護など増え続ける社会保障費を多様な有識者とともに議論を進めていくように見えます。

その「健康格差」についてひとつの示唆を提示したいと思います。もともとのきっかけは、育て上げネットで就労支援プログラムを受けて仕事が決まった男性の存在です。長期間社会との接点を失っていた男性ですが、希望にかなり近い条件の企業で働くことが決まりました。これから新しい環境で成長していこうとする男性でしたが、病気を患ってしまいました。長期の療養が必要であることがわかり、失意の中で治療に取り組むことになりました。

ひとつの仮説として、無業期間の長くなった若者は健康状態が悪い可能性を疑いました。一般に就業者は労働安全衛生法等により、学生は学校保健安全法等により、年に 1 回の健康診断を廉価・無料で受ける機会が提供されています。

しかしながら、無業の若者はそのどちらの機会もなく、かつ経済的理由から自己負担での病院での健診受診も難しい状況にあります。廉価・無料の住民健診を 39 歳以下の若年層の住民にも提供している自治体も一部ありますが、実施義務はありません。

実際に、育て上げネットの就労基礎訓練に通う無業の若者に簡単に聞き取ってみたところ、健診受診率も極めて低く、「社会的所属がなく収入もない=健康診断・指導を受ける機会がない」ということが分かりました。また、支援の現場では、就労に際して改めて心身の健康面での問題に気が付くケースに数多く接してきました。

そこでヘルスケアベンチャーのケアプロ社と協働し、無業の若者に同社が提供する検体測定室を活用した健康チェックおよび保健指導を導入しました。そのパイロットプログラムの結果がわかり、小さな母数ではありますが仮説の通り、無業の若者の健康状態はよいものとは言えず、かつ、健康診断未受診率(健康診断を過去一年以内に受けていない割合)は86.7%であることがわかりました。

※平成26年国民栄養・健康調査では20代30代の健康診断未受診率は男性28.2%、女性43.6%

調査母数は31名(男性28名、女性3名)で、検査項目は「血圧」「BMI」「血糖値」「HbA1c」です。実施目的は、就労支援プログラムのなかに健康チェックと健康指導(セミナー)を実装し、健康状態の把握、健康意識の向上、そして就業後も継続して働けるような予防医療の観点での支援の実施です。もし緊急性の高い数値等が把握された若者がいた場合は、医療機関の受診を勧めます。

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工藤啓

そして、実際の結果を平成26年国民栄養・健康調査の「20代30代の結果」と比較したものが下記になります。全国と比較して、肥満・やせ・血圧高値の若者が多く、生活習慣チェックリスト(食生活、運動、睡眠、ストレス、喫煙、飲酒)では、血糖値・HbA1cの群が、他の群と比較して全項目でチェックが多いことがわかりました。

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工藤啓

そのため全体としては、肥満・やせ・血圧への対策をしつつ、血糖値・HbA1cが高かった群への個別アプローチの必要性をケアプロ社から提案されています。その他、健康に不安を抱える若者の半数が「健康に不安」と回答しています。食生活・運動習慣を聞くと、70%以上の若者が休日は自宅で過ごし、普段から副菜を食べる機会が少ないと答えた若者が80%以上となりました。ここらへんは改善の余地があると言えますが、そもそも健康チェックの機会もなく、漠然と健康に不安を抱えていれば見えづらかったところでもあります。

学生でもなく、しっかりと法定健診を実施している企業に所属していない15才から39歳の若者は健康診断・健康チェックの機会が著しく制限されています。健康管理は自己責任であるという意見もあると思いますが、社会的な枠組みのない機会喪失以外の社会的要因、例えば、栄養管理や健康意識が生育の中で身に就く環境でなかった場合、廉価であってもそのコストが数日分の食費とトレードオフになってしまう経済状況など、健康診断・健康チェックの優先度が著しく低く(またはランク外)なってしまうことが考えられます。

特に、若い世代は身体的症状がまだ出づらい年齢であることから、生活習慣病のようなものにも気が付きづらく、それであるがゆえに、運動や食事など日常生活における健康意識も、他の世代と比較すれば持ちづらいのではないでしょうか。

命を守る観点、社会保障財源の問題、予防医療や先端医療のコストパフォーマンスなど、さまざまな健康格差が議論されていくなかで、健康診断・健康チェックの観点から、無業の若者を健診難民化させないことは、将来の医療費抑制のみならず、地域の支え手であり、社会の担い手が元気で健康であることを保障することにつながります。



http://news.biglobe.ne.jp/entertainment/0919/sgk_160919_8897099571.html
「在宅死」の割合 医療充実度で大きな地域格差を生む
NEWSポストセブン9月19日(月)7時0分

「いい顔になったねぇ。体重は5kg減ったけど、顔の張りやツヤがとてもいい」。そう語りかける医師に、ベッドに座る富樫恵子さん(仮名・71才)が笑顔で答える。

「おかげさまでこの頃は痛みもなく、お見舞いに来る友達は、『どこが悪いのかわからない。入院中と全然違うよ』『本当にがん?』と驚きます」

 医師が続けて「死にたいと思わなくなった?」と、問いかける。富樫さんはゆっくり答える。

「思いません。今は、少しでも主人と一緒にいたいと思っています」

 そんなやりとりを傍らにいる富樫さんの夫(78才)は、ニコニコと見つめている。

 富樫さんは、岐阜市内の自宅で在宅医療を受けている末期のがん患者だ。8年前に皮膚がんを発症し、その後、がんが全身に転移したため、入院して治療を続けていた。すでに肝臓を3分の1切除し、がん性の疼痛もあった。

 この夏、入院先の病院から「栄養失調で余命わずか」と宣告され、緩和病棟に入るよう勧められたが、富樫さんは「一日でも住み慣れた自宅にいたい」と断った。

 その後、岐阜市にある小笠原内科が在宅医療を行っていると知り、同院の相談外来(無料)に夫が訪れた。夫から話を聞いた同院の小笠原文雄院長は、あっという間に受け入れ態勢を整え、相談からわずか3時間後に富樫さんを病院から「緊急退院」させた。

 それから1か月、冒頭のように、富樫さんの状態は余命宣告が嘘のように良好だ。富樫さんが笑いながら言う。

「主人には内緒にしていましたが、入院中は“死んだ方が楽やな”と思っていました。でも、家に帰ってからはまったくそう思わない。自宅で主人と過ごせる今が、本当に幸せです」

 そんな富樫さんを微笑ましく見つめる主治医の小笠原さんは日本在宅ホスピス協会会長で、これまでおよそ1000人の患者を在宅で看取ってきた在宅医療の第一人者だ。これまで往診した末期がん患者は、95%が最期まで自宅で過ごした。僧侶でもある小笠原さんが自らの哲学を語る。

「生老病死の世の中、人間は必ず死ぬものだ。在宅緩和ケアで“安らか”“大らか”は当たり前、さらに“朗らか”に生かされ、最期は在宅ホスピスで“清らか”に旅立つ、旅立ちたい。これが小笠原内科の在宅緩和ケアの理念です。それは病院では得られないから、ぼくは患者を“緊急退院”させます。人生の最期を自宅で過ごすから、患者は満面の笑顔になれるんです」


 現在、自宅での死は困難だ。日本では1950年代前後まで自宅で最期を迎える人の割合が8割を超えていたが、徐々に病院や診療所が自宅を上回るようになった。

 2012年の内閣府の意識調査では、最期を迎える場所の希望として「自宅」が最多の54.6%だった。自宅で死にたい人は多いが、実際には、そうはいかない現実がある。

 超高齢化が進み、2025年には全人口の4人に1人が75才以上になり、死亡者数も右肩上がりの「多死社会」がやってくる。そのとき、私たちは自ら望む「臨終の場」を手に入れられるだろうか。

 今夏、厚生労働省(以下・厚労省)が公表した統計が話題を呼んでいる。それは死亡者全体のうち、自宅で亡くなった人が占める割合を全国1741市区町村別にまとめた初めての集計だ。

 死亡場所の全国平均は「病院」「診療所」などが77.3%と圧倒的に多く、「自宅」はわずか12.8%だった。「自宅で死にたい」と願う人が5割を超えるなか、現実は望みどおりにいかないことがデータでも裏づけられた。

 さらに衝撃的だったのは、在宅死における地域格差が顕著だったことだ。本誌は厚労省発表をベースにして、人口10万人以上の自治体における在宅死の割合をランキング化した。

 1位は神奈川県横須賀市の22.9%、その後、東京都葛飾区(21.7%)、千葉県市川市(21.5%)、東京都中央区(21.5%)が続く。逆に在宅死が少ない自治体は、1位が石川県小松市(6.7%)で、北海道江別市、埼玉県加須市、福岡県筑紫野市が続いた。

 人口5万人以上10万人以下の中規模自治体では、在宅死の割合が最も高い兵庫県豊岡市(25.6%)と最も低い愛知県蒲郡市(5.5%)ではより大きな格差が見て取れる。

 大きな地域格差を生む要因として、地域の医療体制の充実度の違いがあげられる。

 在宅医療を行う施設は、前出の小笠原内科のような24時間体制の在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院がメーンとなる。とくに、全国に約1万4000施設ある在宅療養支援診療所は地域により密着した医療を提供することができるため、その役割は大きい。

 厚労省の集計を見ると、全国の自治体の約3割にはこうした診療所がない。このうち半数の自治体は北海道と東北にあり、面積の広さや積雪などの自然要因がネックになっていると推測できる。

 また、人口当たりの病院数が多い地域では、在宅死の割合が低い傾向もあった。

 気をつけたいのは、本データの在宅死には、医師による死亡確認場所が「グループホーム」と 「サービス付き高齢者向け住宅」の人も含まれることだ。自殺、事故死、自然死も在宅死に含まれるため、厚労省の担当者は「都市部の在宅死は、実は孤独死というケースもあると思われる」と述べる。

 実際、東京23区では孤独死が在宅死の実に35%を占めるという指摘もある。


 女性セブンが在宅死の割合が低かった自治体に問い合わせると、「在宅医療の取り組みは進めている」との主張も多かった。つまり病院から自宅へ──その大転換は、そう簡単にできるものではなく、一朝一夕に数値に表れるものでもないということだ。

 在宅死ランキングが重要なのは、近い将来に訪れる「多死社会」を前に、自分が住む自治体が「家で死ねるかどうか」を判断する指標の一つになるからだ。

 厚労省は2025年までに全国にある病院のベッド数を大幅に削減し、患者およそ30万人を介護施設や自宅に移行させる施策を進めている。

「多くの人が必要に応じた医療を適切に受けられるように病院だけではなく住み慣れた自宅で医療を受けるのも一つの選択肢だと伝えたい」(厚労省の担当者)

 とはいうものの、現実に国は、「住み慣れた場所で最期まで暮らせる地域づくり」を目標に在宅医療の普及や啓発に取り組んでおり、病院の収容能力や財政面からも、医療費が抑制できる在宅死を推進したい意向は明らかだ。

 だが、前述のように自宅で死ぬ人は1割程度にすぎない。大きな地域格差がある中、希望するすべての人が在宅医療を受けることは可能だろうか。小笠原さんは、「医師のやる気」がカギになると指摘する。

「在宅医療が成功するには、きちんと看取りができ、やる気のある医師が地域にいることが条件です。医院経営を考えれば、昼間の外来で患者を多く診るほうが利益率が高いので、在宅医療で夜の往診などやりたくないという医師もいます。しかし、患者が病院ではなく、自宅で亡くなることが大切と考える医師がいれば、その地域全体によい影響が出るはずです。都市と地方で状況が異なるとはいえ、最終的にいちばん大きいのは医師の気概なんです」

『現役ケアマネジャーが教える介護保険のかしこい使い方』の著者で現役ケアマネジャーである田中克典さんは、「多職種の連携」が必要と言う。

「介護の立場から言うと、医師はどうしても忙しそうで、相談するのは敷居が高く感じます。そうした医師たちを取り込み、在宅医療を担う医師会、介護、看護の各分野が連携すれば、在宅医療はもっとスムーズにいくはずです」

 私たちがそのときをわが家で迎えるために必要なのは、従事者の「意識」と 「連携」のようだ。

※女性セブン2016年9月29日・10月6日号


  1. 2016/09/19(月) 08:53:12|
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