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地域医療とプライマリケア、総合診療などに関係したネット上のニュースを記録。医学教育、研修、卒後キャリア、一般診療の話題、政策、そしてたまたまG3が関心を持ったものまで。ときどき海外のニュースも。

6月12日 

https://www.m3.com/news/general/432622?dcf_doctor=true&portalId=mailmag&mmp=MD160612&dcf_doctor=true&mc.l=162381981
避難所の抗菌薬「9割不要」…石巻で8千人調査
2016年6月12日 (日) 読売新聞

 東日本大震災後の宮城県石巻市の避難所で、被災者に処方された抗菌薬(抗生物質)の約9割が、症状に合わない不必要な処方だったとする研究結果を、神戸大や石巻赤十字病院などのチームがまとめた。

 抗菌薬はウイルスに効かないが、風邪などウイルス性の症状があった患者の多くに処方されていた。専門家は「災害時の適正な抗菌薬の使用方法を検討すべきだ」としている。11日午後、東京都内で開かれる日本プライマリ・ケア連合学会で発表される。

 チームは大震災直後、石巻市内の避難所98か所に設置された診療所を受診した被災者7934人のカルテを調査。このうち1896人に2646回、抗菌薬が処方されていた。


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https://www.m3.com/news/iryoishin/430273
シリーズ: 医療裁判の判決詳報
抜管時過失で1億2000万賠償、神戸地裁判決を詳報
日赤は「医療水準の認定が誤り」と主張、6月から控訴審へ

2016年6月12日 (日) 高橋直純(m3.com編集部)

 神戸市中央区の兵庫県災害医療センター(医療センター)で2008年に起きた抜管時の治療ミスによって重い障害が残ったとして、植物状態になった女性(当時34歳)が同センターを運営する日本赤十字社 と設置者の兵庫県に損害賠償を求めた訴訟で、神戸地裁は今年3月29日、同社に約1億2100万円の支払いを命じた。

 地裁は「医師の注意義務違反と因果関係が認められる」と判断したが、日赤は「原審判決には実際に行われた医療行為が水準以上であったにも関わらず、軽微な逸脱や不備があったことを捉えて過失を認定したこと、即ち医療水準の認定を誤った違法及び因果関係の存否について誤った判断をした違法があると考えている」として控訴しており、6月から大阪高裁で第二審が始まる。

 地裁判決を改めて詳報する。

■事案の概要
 原告は当時34歳の女性で、現在は植物状態に陥っている。原告の父が成年後見人、法定代理人となっている。女性は2008年3月21日に風邪薬を大量に服用し、意識不明の状態で発見された。女性は救急搬送された後、3次救急病院である医療センターに転送され、人工呼吸器につながれた。5日後の3月26日、女性の容体が回復したと判断した医師が抜管したところ、異変が生じ再挿管を2回試みたが心停止となった。別の医師が輪状甲状靭帯切開術で気道を確保したが、女性は手足が動かせず、食事を自分で取れないなどの障害が残った。

 女性側は2011年に医療センターを設置した兵庫県、2012年に医療センターを運営する日本赤十字社を相手取り、合計約2億円の損害賠償を求めて神戸地裁に提訴した。

■診療経過
 神戸地裁が認定した事実は以下の通り。

3月21日  内縁の夫と口論の後、女性は19時20分ごろに公園内の駐車場の車内で意識不明(JCS300)の状態で発見され、救急搬送された。致死量のアセトアミノフェン中毒が疑われたため、医療センターへ転院搬送。(精神疾患の既往)
 23:00 JCS10、血圧160/80、脈拍120。鎮静剤、筋弛緩剤投与。気管挿管。

3月22日 鎮静化、人工呼吸管理。

3月23-25日 鎮静化、人工呼吸管理、全身状態は安定。

3月26日 
  9:40 問いかけにうなずきある。
 10:30 意識状態良好。自発呼吸安定のため抜管。抜管直後より上気道狭窄症状が出現し、
     陥凹様呼吸が出現。動脈血酸素飽和度80%台。
 10:33 再挿管を決定
 10:35 動脈血酸素飽和度80%台後半。四肢冷感・冷汗著明。ドルミカム0.5A(i)。
     バックマスク換気を実施。内径7.5mmの気管チューブの挿入を試みるも、
    喉頭浮腫のため挿管しえず。
 10:37 動脈血酸素飽和度70%台。
     再挿管試みるが入らず。医師応援を要請。
 10:40 心拍数32回/分
 10:41 モニター上、心停止。大腿動脈拍動触知不可。エピクイック1A(iv)。
     胸骨圧迫開始。気管切開チューブ(7mm)準備開始。
 10:43 脈触れず。胸骨圧迫再開。エピクイック1A(iv)。パルスチェック。
 10:47 ソルアセト全開投与。細い気管チューブ(7mm)で挿管試みるが、入らず。
 10:49 エピクイック1A(iv)。パルスチェック。輪状甲状靭帯切開開始。
 10:52 輪状甲状靭帯切開にて気道確保。気切チューブ7.0Fr挿入。
 10:56 自己心拍再開。そ頸動脈触知可能。
 10:57 人口呼吸管理。呼吸器にて換気開始。
 11:10 右鎖骨下へCV挿入
 12:10 低体温療法開始

3月28日 復温開始

4月10日 自発開眼あるも意思疎通は不可。人工呼吸管理。気管切開術施行。

5月1日 別の病院へ転院

■2つの鑑定書  ※病院側の控訴理由書より作成
 裁判所は2つの医学的な鑑定書を証拠として採用した。どちらも関西地区の救命救急センターのセンター長を務める医師が鑑定人になった。

鑑定A
1 急激な気道閉塞は気管支痙攣である。
2 気管支痙攣は予測・予見不可能である。
3 1 自身の施設では抜管前のカフリークテストは原則実施していない。
  2 喉頭周囲の炎症や浮腫を来すような病態がない場合には、内視鏡による喉頭の評価はしない。
  3 抜管前の100%酸素化を実施する方がまれである。
4 抜管7分後には心筋の低酸素状態を示す徐脈が起きており、徐脈の時点で既に脳は低酸素状態になっているので、たとえ10時40分ごろに気道確保できていても障害なく回復できていたかは不明である。

鑑定B
1 気道閉塞の原因は喉頭浮腫である。
2 約5日間挿管されていたので、喉頭浮腫は予見すべきで、頻度は低いとしても再挿管困難となることは予見し得る。
3 カフリークテスト、内視鏡による評価、抜管前の100%酸素化はいずれも実施すべきだった。
4 気管切開のための器具の準備が不十分であったことは不適切だった。
5 抜管前に100%酸素化を行い、気管切開による気道確保が10時40分ころまでにできていれば、重篤な低酸素脳症は回避できた可能性が高い。

■争点1 診療契約の当事者は県か病院か
 兵庫県はセンター設置者として、診療契約上の責任があるか。

■争点2 医療センター医師の善管注意義務違反
【原告の主張】
(ア)高度救命救急センターであるが故の高度の注意義務違反
 一般の救急指定病院(2次救急)と異なり、患者の呼吸管理やトラブルなど緊急事態が生じた場合についても、患者の安全確保のための極めて高度な救急医療体制の提供と実施を要求される立場にあった。

(イ)上気道閉塞の危険性と迅速な対応の必要性
 上気道閉塞(窒息)が発生した場合、早ければ窒息後10分程度、遅くても15分程度で大多数が心停止状態になる。迅速な対応が必要となる。

(ウ)抜管直後から原告に上気道閉塞が生じていたこと
 女性は抜管後11分という短時間で心停止に至っており、抜管直後から極度の低換気もしくは無換気状態が発生していたと考えられる。事実、抜管のわずか3分後(10:33)には再挿管を判断しなければならないほどの危険な状態に至っていたほか、その2分後(10:35)には気管挿管が既に不可能になるほどの状態であった。したがって、女性が抜管直後から上気道閉塞の状態に陥っていたことは明らかである。

(エ)上気道閉塞の発生が十分に予見可能であったこと
 抜管後の喉頭浮腫を検討する多くの臨床研究では、挿管期間が36時間を超えると喉頭浮腫の発生頻度が高くなるとしている。また、女性は発生しやすいとしている。原告は107時間もの経過し、女性であることから、病院は喉頭浮腫が発生する相応のリスクが存在し、それに比例して上気道閉塞が発生する危険性が高いことを十分に予見できた。

(オ)抜管後の気道閉塞のリスク回避方策が存在し得た
 抜管に先立ち、(1)カフリークテスト(2)内視鏡による喉頭評価――を行う必要があり、行っていれば適切な準備をできた可能性が高い。

(カ)喉頭浮腫および上気道閉塞に対して適切な対応を取る準備を怠った善管注意義務違反があった
  <ア>抜管前のステロイド投与や酸素化が行われていない
   多くの病院ではステロイド投与をルーチンとして実施している。抜管前には十分な酸素化が推奨される。ところが医療センターはしていなかった。
  <イ>外科的気道確保のための道具が揃えられていなかった
   準備が全くと言っていいほど整えられていなかった。
  <ウ>チューブエクスチェンジャーを使用していない
   チューブエクスチェンジャーを留置して抜管を行うべき。
  <エ>リスク判定をせず、予防的阻止も行っていなかった。

(キ)上気道閉塞後の処置に善管注意義務違反があった
  <ア>DAMアルゴリズムから逸脱した対応だった
   DAMアルゴリズではCICV(気管挿管も換気もできない危険な状態)に陥った場合、経口的気道確保は最大2回までにすべきであるとされ、奏功しない場合は外科気道確保に移行しなければならないとしている。しかし、3回目の再挿管を試みていた。
  <イ>外科的気道確保に時間がかかり過ぎていること
   キットを用いない気道確保が行われたが、メス、鉗子、カフ付きの気管切開チューブもしくは気管チューブ(6-7mm)があればよく、物品の準備があれば1分以内で気道確保できる。ところが、本件ではその場に7mmの気管チューブがあったにも関わらず、わざわざ同径の気管切開チューブを取りに行かせて10分近くを費やしており、その結果、心停止から11分が経過した。

(ク)善管注意義務違反
 このような対応は3次救急指定病院に求められる救急医療体制からかけ離れたはなはだ不十分なものであると言わざるを得ない。したがって、医師には診療契約上の注意義務違反があったことは明らか。仮に被告らが主張するように、女性が喉頭痙攣を併発していたとしても、(カ)ないし(ク)の違反があったことは変わらない。

【被告の主張】
(ア)初期、2次、3次救急指定という分類は、救急患者を適切な医療機関に振り分ける際の分類に過ぎず、人工呼吸管理を要する急性期を脱して抜管するという段階では、一般の医療機関の場合と特に変わるものではなく、3次病院であることが抜管時により高度な注意義務違反を負うことの法的根拠にならない。外科的な輪状甲状膜切開をなしうる医師が勤務していたことは3次救急ならではの事情であったといえるが、そのような高い技術を持った医師が常勤していたからといって、抜管時に常にそういった医師の立会を要したということにはならない。

(イ)
<ア>一般的に挿管困難事例として想定されている事態は、全身麻酔導入後の挿管困難事例であり、対応アルゴリズムでも、数回の挿管を試みることやラリンジアルマスクなどの代替手段を試すことを前提とし、それでも気道確保できない場合に初めて緊急の外科的気道確保に進むこととしている。また外科的気道確保でも基本的にはキットを用いた輪状甲状膜切開を行うことを前提にしており、メス・曲がり鉗子を用いる場合については、外傷の現場や救急外来で行われている半面、器具のそろっている手術室内では施行する機会は少ない。つまり、DAMアルゴリズムで想定している「緊急」の確保手技であっても、この通りに実施すれば、実際の気道確保に至るまでは優に10分以上を要してしまう方法であり、本件のように2度目の挿管が不成功に終わった10時37分からわずか4分後には完全な心停止に至るという異常な事態には到底対応し得ない。なぜなら、挿管困難ではあっても、通常(全身麻酔導入後であるから自発呼吸こそないものの)マスクバッグによる換気ができることを想定していて、完全な気道閉塞とその後引き続く急速な心停止といった事態は想定されていないからである。逆に考えると、本件がいかに異常であり緊迫した事態であったかが如実に伺える。
<イ>心停止となった10時41分時点で、既に脳に不可逆的な障害が起きていたと考えるのが合理的である。本件で行ったメス・曲がり鉗子を用いた緊急輪状甲状膜切開では、メスと曲がり鉗子は患者の病室内に常置指定ある包帯交換車に備えていたもので、施術医師によると曲がった気管チューブの到着を待って直ちに挿入したとのことである。キットを用いた切開にも劣らない迅速さ(10時41分に決定してからわずか11分)で気道確保されたと評価すべきものである。

<ウ>3次救急医療機関であっても全ての医師がそのような手技を行い得るわけではないし、具体的に喉頭浮腫が予想・予測され、かつ初回に挿管困難であった場合を除いては、一人の医師が抜管するのが通常の医療体制である。つまり、気道閉塞の症状が現れれば、緊急事態として応援の医師や看護師を要請すると同時にまずは再挿管を複数回試み、それが不成功に終わった場合に初めてキットを用いた輪状甲状膜切開法を行うという手順である。したがって、患者が通常でない経過をたどる場合には対応しきれないことが起こり得るがそれは医療の限界である。

<エ>原告の場合、最初の挿管は問題なく行われ、口腔、顎の構造においても挿管困難を想定されるリスクは全くなかった。不幸な事態に陥った真の原因は、急激なSpO2の低下とそれによる急速かつ突然の心停止であり、通常の対応可能な範囲を超えた異常事態であり、事前準備の有無とは直接的な関係はない。仮にDAMアルゴリズムに従った準備をしていても、事態を避けることは不可能であった。

(ウ)本件で抜管後、最初に起きた状態は喉頭痙攣であった可能性が高い
 喉頭痙攣は喉頭の繊細な動きに関与する筋肉群が一斉に攣縮を起こす状態で、上気道完全閉塞の所見を呈し、急激な低酸素血症を来たし重大な影響を与える病態である。一方で、抜管後に通常予想される喉頭浮腫であれば、喘鳴が聞かれるし、重症であってもほとんど再挿管が可能とされ、本件でも再挿管を試みた医師は十分に経験を積んでいたにもかかわらず、再挿管が全く不可能であったという状態からも、単なる喉頭浮腫ではなかったことが裏付けられる。
 喉頭痙攣は一般的に低酸素症が進展すると治まることが多いとされているにもかかわらず、心停止まで至った原因については、再挿管による刺激がかえって喉頭痙攣を悪化させた可能性も考えられる。しかし、喉頭痙攣は小児、乳児に起こりやすいとされ、今日まで病態や状況別頻度を明確にまとめた成書もなく、明確な指針に乏しかったという状況あること、抜管直後に上気道閉塞症状がみられた場合、技術を備えた医師であれば反射的に再挿管を試みるものであることからすれば、超緊急での対応に迫られた本件において直ちに喉頭痙攣の可能性に思い至らず、再挿管を試みた点を責めるわけにはいかない。

■争点3 因果関係
【原告の主張】
 一過性の低酸素状態になっても、心停止にさえ陥らなければ中枢神経の重篤な障害が生じることはほとんどない。医師の善管注意義務違反がなければ、抜管11分後(10:41)の心停止に至るまでに換気再開がされ、心停止が回避され、原告に低酸素脳症よる上・下肢及び体感機能全廃という重篤な後遺障害が残存することはなかったとの高度な蓋然性が認められる。なお、本件では心停止に至る前の再開が可能だったのであり、既に心停止になった症例について、窒息に起因する心停止の場合が心原性の心停止の場合よりも脳機能の予後が悪いことを論じても意味はない。

【被告の主張】
 本件ではまず、気道が完全に閉塞し、SpO2が急激に低下した後に心停止が起きているが、一般に脳と心臓を比較すると、心臓の方がより虚血に耐えられるとされていることからすれば、心停止が起きた時点で既に脳にも相当なダメージが起きていたと考えられる。脳より虚血に耐えられるはずの心臓が停止するほど血中の酸素が消費しつくされているのであるから、その時点で、既に血液中には有効に利用し得るだけの酸素が残っていなかったと考えられる。したがって、心停止となった10時41分の時点で、既に脳に不可逆な障害が起きていたと考えることが合理的である。

【裁判所の判断】
■争点1 県との間に診療契約の効果が帰属するとは言えない。
■争点2について
(1)認定事実
診療経過一覧表に加え、次の事実が認められる。

26日の出来事
医師A(救急部副部長※肩書きはいずれも当時)は10時30分に抜管したところ、狭窄音が強く、SpO2が80%台に低下した。医師Aは抜管前に呼名に対して開眼・うなずきを認めたこと、膝立て・上肢を空中で保持可能なこと、肺炎や無気肺の合併がないこと、肺酸素化機能の低下がないことを確認したが、カフリークテストや内視鏡検査を実施し、気道閉塞が生じるリスクがないと判定していたわけではなかった。

10時41分 患者はモニター上心停止となり、医師B(産婦人科医だが救急医として勤務)、医師C(救急専攻医)、医師D(研修医)が到着し、医師Aは3人とともに心肺蘇生を開始した。医師Aは輪状甲状膜アプローチが必要と判断し、HCUには必要な機材が備え付けられていないことから、3階ICUの器材庫にある本件必要機材を手配した。

10時43分ごろ 医師E(救急副センター長)、医師F(救急部)が到着し、パルスチェックをした。

10時47分 医師Aは気管挿管チューブが準備できるまでに、内径7mmのチューブで再挿管を試みたが、奏功しなかった。

10時49分 医師Eは局部麻酔を行い、医師Fが輪状甲状靭帯切開に着手した。医師Fは10時52分に気切チューブ7.0Frを挿入して気道を確保した。

(2)医学的知見
ア 喉頭浮腫について
気管挿管が36時間を超えた場合の喉頭浮腫は、そうでない場合の8倍に達したデータがある。

イ 喉頭痙攣について
事前の検査によって発症の可能性がないことを判定できるものではないが、麻酔管理後の抜管直後に発生しやすい。

ウ 輪状甲状靭帯切開について
A:マスク換気不能かつ挿管不能(2回不成功なら要件を充足)の状態(CICV。ただし喉頭痙攣を除く)、B:進行する低酸素血症、C:より低侵襲な気道確保が無効――の3つの要件を全て充足するときは輪状甲状靭帯切開を採用しなければならない(絶対的適応)

エ ベッドサイドに必要機材がセットされていた場合の気道確保までの所要時間について
2-3分で気道を確保することができる。

オ 心停止時間と蘇生後の神経学的回復可能性について
心停止時間(心停止から心肺蘇生開始までの時間)が6分未満でCPR(心肺蘇生法)が30分続いた場合、生存者の少なくとも半数が良好な神経学的回復を示した旨のデータが存在する。

(3)医師Aが抜管後の輪状甲状膜切開が必要になり得ることを予見して、事前に機材を準備し、万が一の場合に輪状甲状膜切開を施術できる医師が速やかに駆けつけることが可能な状態において抜管をすべき善管注意義務違反に違反したことについて。

(ア)患者は36時間を優に超える107時間もの長時間に渡って気管挿管をした状態に会ったこと、(イ)36時間を過ぎると喉頭浮腫の発症率は8倍に達すること、(ウ)再挿管が奏功しない場合は、輪状甲状膜アプローチが絶対的適応となること、(エ)喉頭痙攣の場合でも、時間的制約などから輪状甲状膜切開ができること、(オ)カフリークテストなどを施行するなどして気管閉塞の危険がないと判定していたわけではなかったこと――を踏まえると、医師Aには輪状甲状膜切開が必要になり得ることを予見し、機材を準備し、施術する医師が速やかに駆けつけられる時間帯に抜管するように治療計画を立て、応援依頼を予告することなどして、不足の事態に備えておくべき義務があったと評価せざるを得ない。

(4)輪状甲状膜切開を着手すべき時期について
 医師Aが外科的気道確保の必要性を感じて応援に呼んだ医師Fが施行したことに照らすと、医師Aは輪状甲状膜切開には精通していなかったことが推認される。そのように医師Aが2回目の気管挿管が奏功せず、自らできないのであったのであれば、10時35分に一度目の挿管が奏功しなかった時点で、2度目の挿管が奏功しない場合に備えて医師Fに第1報を入れた後に引き続き二度目の挿管を試みるべきであったと評価せざるを得ない。

■争点3 因果関係について
 医師Aが10時35分の時点で医師Fに第1報を入れ、10時37分の時点で医師Fが着手し得る状況を作ることで、低酸素血症が継続し、心停止などを来すなどして重大な後遺障害を防止すべき注意義務があったところ、医師Aは10時41分になって、医師Fに応援を求め、その後、機材の手配に着手したため医師Fが10時43分に到着した時点では機材の準備ができておらず、10時49分まで着手が遅れた。あらかじめ機材を準備し、10時35分に医師Fへの一方がされていれば、2分後に到着し、遅くとも10時40分ごろには気道確保が完了していた可能性が高いことは推認できる。

 10時40分までに気道確保がされていた場合、重篤な後遺障害が残らなかった可能性が高いという鑑定結果や10時40分で心拍数が32回/分であり、心停止に至っていなかったことを踏まえれば、医師Aが善管注意義務を尽くしていれば、原告に重篤な後遺障害が残ることはなかったのに、これを尽くさなかった結果、重篤な後遺障害が生じたことが認められる。

まとめ 医師の注意義務違反と原告の重篤な後遺障害発生との間には因果関係が認められる。



https://www.m3.com/news/general/432629
国際医療福祉大:成田に新設の医学部説明会 /東京
2016年6月12日 (日) 毎日新聞社

 国際医療福祉大学(本部・栃木県大田原市)は11日、来年4月に千葉県成田市に開設を予定している医学部の説明会を都内のホテルで開いた。高校生や父母ら約700人が出席し、同大学の特色などについて耳を傾けた。

 同大学によると、医学部は、京成本線公津の杜駅前の成田キャンパスに開設する。同キャンパスには今春、成田看護、成田保健医療の2学部がオープンしている。医学部では、国際的に活動できる総合診療力を持った医師の育成を目指し、海外勤務経験のある教員が英語で授業を行い、海外で臨床実習も実施するという。

 説明会では、大友邦(くに)学長が同大学の特色などを語ったほか、吉田素文教授が「海外に羽ばたく医学生をめざして」と題して講演。医学部のカリキュラムについて、英語による授業が多いことなどを強調した。【河出卓郎】

〔都内版〕



https://www.m3.com/news/iryoishin/432632
シリーズ: 専門医の在り方に関する検討会
総合診療専門医への「期待」と「懸念」
第7回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会シンポジウム

2016年6月12日 (日) 橋本佳子(m3.com編集長)

 第7回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会が6月11日、東京都で開催され、シンポジウム「総合診療専門医の育成に向けて」で、高齢社会かつ医師不足の時代にあって、認知症対応や小児科医不足の地域で小児医療を担うなど、現在の医療ではカバーしきれない部分の担い手としての「期待」が寄せられた一方、幅広い領域での研修が求められることへの「懸念」が呈せられた。既に地域医療を担っている医師にも、資格取得を認めるべきとの意見も上がった。

 シンポジウムの冒頭、司会を務めた同学会副理事長の前野哲博氏(筑波大学医学医療系地域医療教育学教授)は、「今の関心事は、『(新専門医制度を)本当にやるのかどうか』だと思うが、総合診療専門医を養成しないという議論はない。要は誰がやるかということ」と断り、両端を考えれば、「誰が」の一方が日本プライマリ・ケア連合学会、もう一方の端が日本専門医機構であり、その中間もあり得るとしたものの、どんな形態で養成するとしても、「その中身はぶれていない。誰が、ではなく、どのように総合診療専門医を養成していくかを議論したい」と企画趣旨を説明した。

 「期待」を寄せた一人が、東京慈恵会医科大学小児科教授の井田博幸氏。「都会と地方では温度差がある」と認めつつ、小児科医がいない地域で、総合診療専門医が小児医療を担う必要はあるとし、「誰が小児を診るか」、ではなく、「いい医療をどのように提供するか」という視点から、お互いが協力体制を作ることが必要だとした。

 フロアからは、「コモンディジーズ」としての認知症、あるいは重症心身症など、医療ニーズがあっても今は手薄になっている分野への対応を求める声が複数挙がった。総合診療専門医のコンピテンシーの一つが、「地域志向アプローチ」であり、各地域固有のニーズを把握し、それに対応する能力の習得が求められることの表れと言える。

 一方で、「懸念」の一つが、研修領域の幅広さ。国立国際医療研究センター救命救急センター長の木村昭夫氏は、総合診療専門医の救急科研修が「3カ月以上」であり、その中で想定されている内容は多岐にわたることから、「全てを学ぶのは無理であり、少し絞った方がいい」と指摘した。

 フロアからも、「総合診療専門医を推し進める立場で動いているが、研修内容が幅広すぎて見直すべきではないか」との問いかけがあった。日本プライマリ・ケア連合学会副理事長の草場鉄周氏は、現時点でいつどのように見直すかは未定であるとし、実際に制度がスタートして問題点が見えてくれば検討すると答えた。

 そのほかフロアからは、「定められた専門研修プログラムで研修しないと、資格は与えられないのか」と、へき地などで勤務し、既に地域医療の経験を有する医師も、総合診療専門医の資格が取得できるよう求める声も挙がった。草場氏は、「地域医療の現場で経験を積み、総合診療専門医のコンピテンシーを満たす医師は現実にいる」と認めた上で、「今回の新しい制度は、これから総合診療専門医を目指す若い医師に対し、学ぶための道筋を付けること。資格を持たなければ、総合診療ができないわけではなく、既に活躍している医師の資格取得は、別の問題として考えることが必要」と説明した。

 サブスペシャルティとの関係についての質問も出た。総合診療専門医の場合、資格取得後、地域のかかりつけ医、あるいは病院の総合診療医などの選択肢が想定される。「病院総合診療医」を総合診療専門医の2階部分に位置付けるかどうかとの質問に、草場氏はサブスペシャルティについては、病院総合診療医以外も含め、「今、議論は始まっているが、具体的に定まっていない」と述べるにとどまった。


 「誰が」ではなく、「どのように」を議論

 総合診療専門医の専門研修プログラムは、3年間の研修期間の中で、総合診療領域だけでなく、内科6カ月、小児科3カ月、救急科3カ月の研修が求められる。総合診療領域においては、一定の要件を満たした開業医なども指導医になる。各領域のシンポジストは、総合診療専門医の研修との関わりを中心に発言した。計5人のシンポジストの主な発言内容は以下の通り。

◆「総合診療専門医:Ver2.0からVer3.0への飛躍」
日本プライマリ・ケア連合学会副理事長、北海道家庭医療センター理事長の草場鉄周氏

 総合診療専門医の専門研修プログラムを、現在同学会が現在用いている「家庭医療専門医」養成のための「後期研修プログラムVer.2.0」と比較しながら紹介。
 「総合診療専門医は、特にこれから総合診療専門医資格の取得を目指す若手医師にとって、夢と希望を与える制度になることを目指す」との理念を強調した上で、総合診療専門医の6つのコアコンピテンシー、経験目標、施設群の構成、研修内容、教育方略、評価方法などを紹介(『総合診療専門医の「医師像」、明らかに』を参照)。
 6つのコンピテンシーとは、(1)人間中心の医療・ケア、(2)包括的統合アプローチ、(3)連携重視のマネジメント、(4)地域志向アプローチ、(5)公益に資する職業規範、(6)診療の場の多様性だ。(3)の連携重視のマネジメントは、諸外国にはない日本の総合診療専門医の特徴だという。
 他の基本領域では、大学病院をはじめとする大病院が基幹施設になることが多いが、総合診療専門医の場合、「大学病院基幹型」「地方センター病院基幹型」「診療所基幹型」の3パターンが想定されていることが特徴だ。現在申請されている、400弱の専門研修プログラムのうち、30~40くらいは「診療所基幹型」が占めるという。「診療所基幹型」であっても、自施設で臨床研究を実施したり、大学などの研究機関と連携した研究ネットワークに加わったりするなどの研究活動が活発に行うことが、基幹施設の条件だ。
 さらに研修内容も、総合診療領域だけでなく、内科6カ月以上、小児科3カ月以上、救急科3カ月以上、その他必要に応じて領域別研修を行う点も、他の領域と異なる。指導医も、一定の経験を有し、6つのコアコンピテンシーを実践しており、総合診療専門研修特任指導医講習会の受講、試験を経た場合には、「特任指導医」として認める。
 「後期研修プログラムVer.2.0」と総合診療専門医の専門研修プログラムの相違について、「骨格は同じだが、幾つかの違いがある」と草場氏は整理。(1)コアコンピテンシーの再編、(2)基幹・連携施設の位置付けと、施設基準の診療実績の設定、原則的に「都道府県単位」とする研修施設群の範囲の設定、(3)指導医の多様化、(4)研究面で、学会発表と筆頭著者としての論文作成、(5)専攻医数の受け入れ基準の設定――などであり、「研修の中身、教育方略、評価の在り方についてはあまり従来とは変わらないが、基幹施設の基準など、外形的な部分がかなりしっかり固まったのが専門研修プログラムの特徴」(草場氏)。
 ただし、幾つかの課題も残るとした。一つは、400あまりの専門研修プログラムが申請されており、「家庭医療専門医」の実績では、専攻医は1年次当たり200人弱のため、少人数ずつしか専攻医が配置されないことで、アイデンティティの維持が難しくなる可能性を挙げた。また「短期間で育成した総合診療の指導医が、適切な教育を地域で提供できるか、特に総合診療の専門性を伝えられるか」という懸念もあるとした。

◆「日本医師会が考える総合診療専門医」日医常任理事の羽鳥裕氏

 羽鳥氏は、今後の日本の人口は減少し、疾病構造も変化するという医療を取り巻く環境の変化を踏まえ、「総合診療的な能力を持つ医師が必要になる」と指摘、そのため日医は「かかりつけ医」の養成に取り組んでいると説明。「かかりつけ医」は「日本の医療提供体制の土台を支える最も重要な役割」、「総合診療専門医」は「あくまでも学問的な見地からの評価によるもの」と整理した。
 違いがある一方で、両者のコアコンピテンシーは共通項が多い上に、総合診療専門医の専門研修プログラム整備基準では、地域医師会と協力し、地域での保健・予防活動を経験することが求められていることから、各種取り組みを進めるとともに、「医師会活動にも積極的に参加してもらいたい」と呼びかけた。さらに「総合診療専門医専門研修カリキュラム」の6つのコアコンピテンシーの実践が評価され、総合診療専門研修指導医講習会を受講した開業医なども、指導医として認められることから、その養成にも関与していくとした。
 羽鳥氏は、新専門医制度をめぐる昨今の動きにも触れた。6月7日には、日医と四病院団体協議会が会見し、新専門医制度への懸念を表明、「一度立ち止まって」検討するよう求めたことを紹介した(『「学会専門医の維持を」、日医・四病協緊急会見』を参照)。
今年度から開始した「日医かかりつけ医機能研修制度」も紹介。同研修の実施主体は、都道府県医師会となるが、全医師会で実施、あるいは実施を検討中・予定であるという。「総合診療専門医を目指す方と、日医の考え方は離れているものではない。これからも協力していきたい」と羽鳥氏は結んだ。

◆「総合診療専攻医の内科領域研修について」高知大学血液呼吸器内科学教授の横山彰仁氏

 総合診療専門医の専門研修プログラムでは、内科研修は6カ月以上となっている。横山氏は、プログラムは多様性に富むことから、総合診療領域での研修内容も踏まえ、有効な研修を行うためには、「内科研修で何をやるかをあらかじめ決めておくことが必要」と求めた。総合診療領域と内科領域のカリキュラムには重なりがあり、総合診療領域では外来主体となることが想定されることから、内科領域の研修では、入院での経験を重視し、「主担当医として最低20症例」を目安としていると説明。
 また内科専門医では、「OSLER」というWeb版研修手帳(専攻医のための登録評価システム)を活用するため、総合診療専門医でも「OSLER」の利用を求めた。日本内科学会への入会は不要だが、システム利用料として、専攻医あるいはプログラムを運営する病院から負担を求める予定。研修履歴などが全て残るため、総合診療専門医の資格取得後、内科専門医取得のために追加研修する場合などにも有用だという。
 横山氏が懸念したのは、内科指導医側の負担。新専門医制度では、全領域で指導医1人につき、受け持つ専攻医は3人までで、地域の事情によって4人まで認められる。1年次当たりの総合診療領域の専攻医が、400人を超えるような場合などは、内科指導医の負担を考え、改めて検討が必要になるとした。
 横山氏は、内科専門医についても言及。「新専門医制度では、大きな影響がある」と説明。総合内科専門医と認定内科医の再構築、新内科専門医、新内科指導医への移行が求められるからだ。「新内科専門医は、内科全般の研修を重視するのが特徴であり、「医療は高度化、細分化してきている。一方で医師不足・偏在があり、ミスマッチがある」(横山氏)。内科専門医の研修では、「主病名について、主治医として経験を積んでもらうのが目的」であり、「主担当医として160症例(目標200症例)以上、内科領域56(同70)疾患群以上を受け持つ。専門研修3年目に29の病歴要約の提出」などが研修の修了要件(『内科専門医、「研修施設ゼロ」の2次医療圏は1カ所』などを参照)。
 なお、内科領域の専門研修プログラムの提出状況は、523プログラムで、参加施設は2875施設(基幹施設523、連携施設1266、特別連携施設1086)。現時点での定員は6084人、直近3年間の認定内科医平均受験者は3605人の1.69倍に当たる。344の医療圏のうち343に、研修参加施設がある。

◆「小児科医からみた総合診療専門医」東京慈恵会医科大学小児科教授の井田博幸氏

 井田氏は、「小児科医は子供の総合診療医」と述べ、「私見」と断った上で、小児科医と総合診療専門医の関係について説明。両者は、オーバーラップする部分もあれば、相違点もあるという。オーバーラップするのは、「総合的に」診ることが求められ、「地域」という視点が必要な点だ。ただ、小児科医は、家族を含めた環境の中での子供の成長発達、育児支援や学校保健なども担うため、総合診療専門医がこの辺りをどの程度まで担うかで相違があるとした。
 こうした立場から、総合診療専門医について「専門分化が進んだ内科医療のピットフォールを解決する、また高齢社会の結果として発生した種々の疾患を持つ患者の医療を担う医師の確保・育成が主要な目的と考えられる。この観点から、総合診療専門医が、子供から成人までの医療を担うことについては、違和感があるが、小児医療を小児科医が全て担えない地域においては小児を診る総合診療専門医の必要性は存在すると思う」と述べた。
 井田氏は、「新しい領域ができると、いろいろなコンフリクトが起きる。ただし、実は患者サイド、親や子供にとっては、小児医療を誰が担うのかについては、あまり重要ではなく、医療の質と安心感がいかに担保されるかが重要。その意味で、小児科医、総合診療専門医とお互いに協力して、地域総合小児医療を確立していくことが求められる」と講演をまとめた。

◆「総合診療専攻医の救急科研修について」国立国際医療研究センター救命救急センター長の木村昭夫氏

 「網羅的にしようということで、盛りだくさんになっている。もう少しすみ分けをしていく。あるいは小児科、内科の研修とのバランスを取り、救急科研修をする際には、特に研修すべき点を調整することで、実りある研修になるのではないか」。こう投げかけたのが、木村氏。
 総合診療専門医の研修プログラムにおいて、救急科研修は「3カ月以上」となっており、経験すべき身体診察、手技、救急処置、治療法、経験すべき疾患などが多岐にわたるためだ。その上、受け入れる側の救急科も、3次救急がメーンか、1次、2次まで幅広く受け入れているかなどによって、経験できる症例が異なるため、注意が必要だとした。例えば、3次救急を担う施設では、「めまい、失神、吐気嘔吐」など比較的軽症な患者は経験しにくい。小外科は、総合診療専門医の研修に入っているが、救急領域の専攻医も研修希望が強いため、症例の取り合いも生じ得るとした。
 また救急科の場合、内科、小児科と違って、総合診療専門医には「競合」というイメージはないという。救急専門医を目指す医師はそう多くはないため、今後も協調して取り組む意向を示した。



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【寄稿】
豪州のへき地医療と総合診療医育成の現況
日本の離島へき地に最先端の教育プログラム導入を図る

齋藤 学(日本版離島へき地プログラム「Rural Generalist Program Japan」 プログラムディレクター・救急科専門医)
週刊医学界新聞   第3178号 2016年06月13日

 現在,豪州のへき地医療は,Rural Generalist が支えています。Rural Generalistとは,GP(General Practitioner)として診療所で働きながら,必要とされれば手術室に入り,緊急の分娩に対応したり全身麻酔をかけて外科手術を行ったりします。またあるときはフライング・ドクターとして患者搬送を行うなど,診療所にとどまらず幅広い疾患に対応する医師を指します。バックグラウンドは総合診療医,救急医,麻酔科医,外科医,産婦人科医などさまざまです。同国では10年前にRural Generalist育成の本格的な研修プログラムが確立され,今や“ブランド化”された専門医として研修医の人気を博すとともに,多くのRural Generalistが豪州全土で活躍しています。

 それ以前の豪州のへき地医療はというと,外国人医師を配置して医師の偏在を解消していました。しかし豪州の保健省は,2003年に外国人医師の質の低さを指摘し,州政府の担当者を解雇しました。すると解雇されたこの担当者は,自国の医師によるへき地医療の質改善に向け奮起したのです。へき地で長年働く医師たちと力を合わせて豪州出身の医学生を必死でリクルートし,独自の育成プログラムを構築しました。それが,2004年に誕生したRural Generalist育成プログラムです(図)。

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図 豪州へき地医療学会(ACRRM)によるRural Generalist育成プログラムの概要
医学部卒後1年間のインターンを修了すると選択できる4年間のプログラム。地方都市の病院で基礎を身につけ,その後へき地で経験を積む。足りないものを痛感させられ,また地方都市で不足を補う。この“サンドイッチ構造”が豪州の総合診療医の力を伸ばす。


かつて抱いた夢を捨てなければならないのか

 医学生時代に,あるいは医師を志した子どものころに,離島などのへき地,海外や途上国での医療に憧れを持った方は多いはずです。しかし悲しいかな,ほとんどの場合その憧れは,卒後に医師として経験を積むにつれ薄れてしまいます。現場の忙しさ,家族の問題,離島や海外に飛び込むことへの不安など,多種多様な要因が夢への障壁となっているのかもしれません。

 幸いにして私は,心折れることなく総合診療医の道を歩むことができました。沖縄県の浦添総合病院では,井上徹英先生(元同院院長)の指導の下,幅広く臨床を経験し,救急科の立ち上げや離島医療にも従事しました。

 同院との交流が深い,「Dr.コトー」のモデルで有名な瀬戸上健二郎先生(下甑手打診療所)の知遇を得る幸運にも恵まれました。10数年にわたる臨床経験の中で,離島へき地医療の意義とやりがいを再確認したものです。と同時に,この分野にはまだまだ医師が足りないことを痛感しました。背景に,医師をへき地に派遣する適切な仕組みがないからだと身をもって知りました。

育て,プールし,支援する適切な仕組みを構築したい

 そこで私はへき地医療を支える三つの仕組みが必要だと考えました。一つはへき地でも学習を継続できる教育プログラムの構築です。瀬戸上先生は「離島には“片道切符”で来るな」と口癖のようにおっしゃっていました。先生自身,最初は半年の離島診療のつもりが,住民からの信頼が得られるにつれ島を離れられなくなったからです。こうなると,島外に勉強に行きたくても代診医がいなければ島を離れられなくなってしまいます。さぞや葛藤を抱えながら島の医療に貢献していたのではないかと察します。このように「離島診療=片道切符」の状況下では,手を挙げて率先して行くことは,怖くて誰もできないでしょう。そんな不安を払拭するためにもへき地医療に従事しながら学べる教育プログラムがなくては,なり手が払底しても不思議ではありません。

 二つ目は,志と実力を兼ね備えた医師のプールシステムを作ることです。ある時,瀬戸上先生がけがで緊急入院しました。診療所の事務長は必死で代診医を探しましたが,まったく見つかりません。災害医療にはたくさんの医師が集まるのに,離島では医師が倒れても誰も来ない……。すぐそばでことの経緯を見ていた私は,そんな事実に愕然としつつ,考えました。このケースで要請に応える医師が現れても,どんな医師でもいいというわけでは決してない。「あらゆる患者さんを診るぞ」という心構えや,ある程度の緊急事態に対応できる実力が求められるのではないかと。そこで医師のプールシステムの必要性が思い浮かびました。

 三つ目は,医師をサポートする遠隔医療やドクターヘリなどの医療搬送システムをさらに充実させることです。たとえどんな患者さんでも診られるとしても,たった一人で全てを完結できる医師など当然いません。ハード面の整備は離島やへき地に赴く医師にとって大きな支えになると考えました。

豪州指導医陣とタッグを組み,三つの仕組み作りに乗り出す

 そこで私は,2015年に「ゲネプロ」という名の合同会社を設立し,この三つの仕組み作りに乗り出しました。同年4月,クロアチアのドゥブロヴニクで開催された世界家庭医機構(WONCA)のへき地版の集会に足を運び,広い国土を有するカナダ,豪州,そしてスコットランドのへき地医たちが,レベルの高い優れた教育システムを構築していることを学びました。そこで 豪州の育成プログラムから,同国のRural Generalistを範とする決意をしました。

 豪州へき地医療学会(ACRRM; Australian College of Rural and Remote Medicine)をはじめ,豪州総合診療学会(RACGP;Royal Australian College of General Practitioners)のへき地医療部会(National Rural Faculty),豪州へき地医師会(RDAA;Rural Doctors Association of Australia),そしてへき地医療で豪州をリードするJames Cook Universityの多大なるサポートを得て,2017年4月より日本版離島へき地プログラム「Rural Generalist Program Japan」がスタートすることになりました。このプログラムが,前述の「三つの仕組み」の屋台骨となることを期しています。

 「Rural Generalist Program Japan」は,日本の離島へき地医療を牽引してきた指導医陣と,世界のへき地医療をリードする豪州の指導医陣がタッグを組んで構築したプログラムです。日本の離島へき地で実際に研鑽を積みながら,遠隔指導を受けられる体制を整えています。さらにACRRMのプログラム認定を受けており,研修修了後に行われる各種試験に合格した暁には「Diploma of Rural Medicine」の認定証が授与されます。

持続可能なへき地医療実現へ思う存分“他流試合”を

 離島へき地医療に資する総合診療医を育成するには,他流試合の場が必要だと私は常々考えています。「明日,離島に行け」と突然言われた医師が赴任しても,薬の種類,スタッフの数,患者層ももちろん違う島の医療では,これまでの職場と同様の力など発揮できるはずがありません。大切なのは力の発揮できない現実を数多く経験すること。そして,経験した挫折を乗り越えるために再度学ぶ機会と場が用意されていることです。「Rural Generalist Program Japan」は,現在のところ長崎県の新上五島町を拠点に県内の医療機関と連携しながら, 心置きなく他流試合に臨めるプログラムです。

 私は今,「Rural Generalist Program Japan」を基盤に「三つの仕組み」を持った医師のネットワークを構築するために邁進しています。ここを端緒に,持続可能な離島へき地医療を実現したいと考えています。へき地医療に携わりたい方,総合診療医としての腕を磨きたい方など,関心のある方はぜひお問い合わせください。

●離島へき地プログラムの募集概要
研修期間:1年間
募集期間:2016年7月1日~ 8月31日
詳細は「Rural Generalist Program Japan」
ウェブサイト参照
http://genepro.org/rgpj/

さいとう・まなぶ氏
2000年順大医学部卒。国保旭中央病院,匝瑳市民病院にて初期研修。浦添総合病院,徳之島徳洲会病院,済生会八幡総合病院などで主に救急・総合診療部門に勤務する。15年に合同会社ゲネプロを設立し代表に就任。同年には豪州のへき地医療の現場を視察し,現在は日本版離島へき地プログラム「Rural Generalist Program Japan」の17年4月開始をめざし,長崎県新上五島町を拠点に準備を進めている。



http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03178_01
【特集】
2年目研修医のための
新専門医制度ガイダンス

週刊医学界新聞 第3178号 2016年06月13日

 2017年4月のスタートに向けて,新専門医制度の下での専攻医募集が始まる。地域医療への影響が懸念されるなどの理由で延期を求める声はいまだ根強いものの,研修医の立場としては万全の準備をしておきたいところだ。本紙では,当該の2年目研修医に向けて,実際の応募フローに基づく注意点や現在検討中の事項について解説する(関連インタビュー)。

臨床医を生涯続けるならば基本領域専門医の取得を

 新専門医制度は,19の基本領域で構成される「基本領域専門医」と,基本領域専門医の取得後に選択できる「サブスペシャルティ領域専門医」の二段階制となる(図1)。いわゆる“二階建て構造”だ。これまでの専門医制度は各学会が独自に運用していたが,新制度下では中立的な第三者機関である日本専門医機構(以下,専門医機構)によって,専門医の認定と研修プログラムの評価・認定が統一的に行われるようになる。

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図1 新専門医制度の基本設計
(註:サブスペシャルティ領域の内訳は未定)
 臨床医を生涯続けるならば,“どこかのタイミング”で,“いずれかの基本領域専門医”を取得しておいたほうがよいだろう。医師免許を取得すれば原則どの診療科も標榜できるという「自由標榜制」が将来的には見直され,新専門医制度と関連付けられる可能性があるからだ1)。

まずは専攻医登録を忘れずに,応募は1プログラムに限定

 研修プログラムの応募フローは図2のとおり。以下,各Stepにおける留意点を解説する。

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図2 研修プログラム応募フロー
(註:日程は大幅な変更があり得る。専門医機構のWebサイトを適時確認のこと)
Step❶専攻医登録
 新専門医制度下の研修プログラムに応募する研修医は,まず専攻医登録を済ませる必要がある。専門医機構の専攻医登録サイトにアクセスし,在籍中の臨床研修プログラムや医籍登録番号,メールアドレスなどを入力する。「希望する専攻診療領域」の入力も求められるが,これは専門医機構による予備調査を意図したものであり,一次募集応募の段階で変更してもよい。

 専門医機構は「専攻医に入る時期はフレキシブルに対応する」としており,研究活動や海外留学に専念するために専攻医登録を当面の間は見送るという選択肢はあり得る。ただ,「登録だけ済ませて応募段階で見送る(その場合は来年度以降に再度登録し,応募する)」ことも可能なので,迷うようなら登録だけは済ませておこう。また,臨床研修の修了時期がずれ込む予定の研修医が2017年度を専攻医として迎えるための措置も検討されている(インタビュー参照)。

Step❷プログラム閲覧
 専門医機構および各領域の学会Webサイトに,19領域の研修プログラムが掲載される。この段階で希望する基幹施設のリストアップを開始し,見学スケジュールの調整を始めたい。

 研修プログラムの審査は一次と二次に分かれており,一次審査が終了した6月中にも一部の情報が先行開示される見込みだ。二次審査は募集定員数の調整や連携施設の追加などが主眼であり,一次審査で承認されたプログラムが二次審査を通らない可能性は低いと思われる。

Step❸一次募集に応募
 専門医機構の専攻医登録サイトから一次募集に応募する。希望順位表を提出する臨床研修マッチングとは異なり,「応募は1領域の1プログラムに限る」ことに留意したい。プログラムごとの応募状況は,締め切り期日まで確認することができる。時々刻々と変化する倍率を注視しながら,期日までに最終的な応募先を決めよう。

Step❹試験・面接など
 プログラムごとに試験・面接が行われる(選考基準は各プログラムで規定するため,面接のみのプログラムもあるだろう)。プログラム責任者から試験・面接の案内が来るので,それに従って準備しよう。

Step❺採用
 採用試験の結果が通知される。プログラム統括者はこの段階で,専門医機構の専攻医データベースに採用結果と採用者の医籍登録番号を登録する。一次試験で合格とされた研修医は,原則として研修プログラムの採用を辞退することができない。

 一次募集で不合格となった場合は,二次募集に進む。専門医機構Web サイトにて各プログラムにおける採用決定者数と二次募集の有無が公開される予定だ。現在のところ,三次募集までは実施することが決まっているが,四次募集が行われる可能性もある。

サブスペは未定,基本領域との関連は現行ルートを参考に

 次に,現在検討されている事項について解説する。

◆基本領域の「ダブルボード」は可能か?
 基本領域のダブルボード(専門医資格の複数取得)に関して,「複数の基本領域専門医の研修を同時に行うことは認められない」のが大前提となる。ただし,いずれかの基本領域専門医を取得した後に,別の基本領域専門医の研修を行うことは可能だ。つまり,制度設計上のハードルは高いが,個人の努力でダブルボードを取得・維持することは認められる(なお,救急科の専門研修プログラム整備基準は,他領域の専門研修プログラムによる中断時の扱いなどに,ダブルボードに配慮した仕組みが見受けられる)。

◆基本領域とサブスペシャルティ領域の関係は?
 基本領域は新設の総合診療を含む19領域で決定したが,サブスペシャルティ領域の内訳についてはまだ何も決まっていない。以前に認定された29領域のほか,現在までに50以上の学会等がサブスペシャルティ領域としての承認を求めており,専門医機構での検討が続いている。

 したがって,「どの基本領域専門医を取得すると,どのサブスペシャルティ領域専門医への道がひらけるのか」という“一階と二階の紐付け”についても結論は出ていない。集中治療や感染症など多くの基本領域にまたがる分野を希望する研修医にとっては悩ましい点だろう。ただし,専門医機構の検討委員会において「現行で基本領域からサブスペシャルティ領域研修のルートが認められているものは概ね継承される」2)との方向性は出ている。また,新設の総合診療専門医には既存の実績がないが,「サブスペシャルティ領域専門医に進む道が閉ざされることはない」2)とされている。

◆勤務環境はどうなる?
 最近になって表面化してきたのが,勤務環境の問題だ。具体的には,研修施設による労働時間や賃金・処遇などのばらつき,研修施設の異動に伴う社会保険の変更など,基幹施設と連携施設の間で十分な話し合いが行われていないケースがある。

 専門医機構が専攻医の勤務環境に関するガイドラインを作成中だが,基本的には基幹施設と連携施設の取り決め次第だ。一次募集の応募前に各自で確認しておきたい。



 以上,本稿執筆の5月末時点での情報をもとに解説した。なお,5月30日開催の厚労省「第3回専門医養成の在り方に関する専門委員会」においては,専攻医偏在や地域医療の混乱を防ぐため,当面の間の関係者の役割とスケジュールを見直す案が厚労省より出された。ただ,厚労省案に法的拘束力はなく,専門医機構からのアナウンスが待たれる。

 同委員会では今後,各領域(学会)の意見も踏まえてさらなる検討を行うとしており,スケジュールの大幅な見直しのほか,試行的運用の可能性も含め,予断を許さない状況が続いている。最新の情報は専門医機構Webサイト(http://www.japan-senmon-i.jp/)にて確認のこと。

◆参考URL
1)厚労省.専門医の在り方に関する検討会報告書.2013年4月22日. http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000300ju-att/2r985200000300lb.pdf
2)厚労省.第2回専門医養成の在り方に関する専門委員会 資料1一般社団法人日本専門医機構関係資料.2016年4月27日.


  1. 2016/06/13(月) 05:47:31|
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