Doctor G 3 のメディカル・ポプリ

地域医療とプライマリケア、総合診療などに関係したネット上のニュースを記録。医学教育、研修、卒後キャリア、一般診療の話題、政策、そしてたまたまG3が関心を持ったものまで。ときどき海外のニュースも。

10月18日 

https://www.m3.com/news/iryoishin/366737
シリーズ: m3.com×NewsPicks共同企画「医療の未来、医師のリアル」
医療費カットの切り札は「患者負担増」か「ジェネリック」?◆Vol.2
混合診療解禁には医師、患者とも賛成意見多数

2015年10月18日 (日)配信 高橋直純(m3.com編集部)

 特集Vol.2では、増え続ける医療費に対応するための方策について、医師(m3.com)側と医療の現場では患者の立場であるNewsPicks(以下、NP)読者側の意見を比較したい。医師側の最多は約半数が選んだ「窓口での患者負担の増加」だった。「保険診療の絞り込み」「大病院の受診制限」など、医療の制限が必要との回答も多かった。

10181_201510190542386a1.jpg
10182_201510190542407a9.jpg
10183_20151019054241cd1.jpg
10184.jpg


医師は「日本人の死生観を変えるべき」だと強調

 また、医師側の回答の中には「患者教育の徹底」「軽症での救急外来受診の抑制、救急車の使用抑制」「日本人の死生観を変えることしかない」など患者の意識改革を求める声が多かった。医療側のシステムについては「高齢者の検診・人間ドックの廃止」「開業医の厳選化」「整体師やほねつぎ系を医療保険から外すべき。エビデンスがなさすぎるものに保険を使うなんて国際常識に反している」という意見もあった。

NP読者は「医療にビジネス原理を」と提案

 一方、NP読者側の最多の意見は、「ジェネリック医薬品の利用促進」だった(ジェネリック医薬品の是非については第3回で改めて考えてみたい)。また、「医療機関へ報酬削減」が目立ったほか、「その他」の具体例として、「病院の企業経営」「患者の自己責任での服薬」といった意見も挙がった。

 「その他」に寄せられた意見では、「IT化による人材費コストカットと能力別報酬制度を設けるべき」「安定している慢性疾患患者の薬を海外のように箱売りボトル売りにして、ある程度患者自身の責任において服薬し治療の継続の有無を決める」「企業の病院経営を可能にする」「健康であることにインセンティブを与える」など、ビジネスマインドやインセンティブの導入という考えが多かった。

 また、「医療業界のリストラ。必要でない医療・医師、無用な研究を削除しては」「医師が儲からないシステムを作り国士レベルの医者を増やす。患者はお金じゃないと言う意識改革を」など、医療側のリストラや奉仕精神を求めるも意見もあった。一方で、「つい最近消費税上がったばかりなのに、増え続ける医療費に対応するための欄に「国民負担の増加」とか「患者負担の増加」っておかしくない??どんだけ国民苦しめれば気がすむわけ?」という切実な声も。

拡大する混合診療、患者団体は反対も

 医療費の問題や患者負担の在り方に関連して、議論に上がってくるのが「混合診療の解禁」だ。改めて混合診療とは、健康保険で認められている治療法(保険診療)と認められていない治療法(保険外診療)を併用すること。患者の経済力によって受けられる医療に差が出る、安全性、有効性が確認されていない医療が広がる可能性があるなどの理由で、日本では原則禁止されている。

10185.jpg
10186.jpg
10187.jpg


 一方で、政府の規制改革会議は成長戦略の一環として、混合医療の解禁を提案している。同会議の働きかけもあり、来年度から一部の病院が中核になって保険未承認の薬などが使えるようになる「患者申出療養制度」が始まる。同会議は「困難な病気と闘う患者が希望する治療を受けられるよう選択肢を拡大する」と主張するが、患者団体からは「患者が望んでできたものではない」「患者負担が増え、金の切れ目が命の切れ目になりかねない」といった批判や懸念が相次いでいる。

 混合診療解禁の是非を尋ねたところ、双方ともに賛成が大勢を占めたが、医師側では「分からない」という回答が2割強だったのに対し、NP側が賛成意見がやや多めだった。

「医師のモチベーション高まる」、賛成派

 混合診療についての考えを尋ねたところ、医師側では「税金で賄うことのできる限界があることを知らしめるべき」「患者の希望に合わせた医療ができるのでいい面が多いと思う」「質の高い医療には高額報酬を認めれば、医師のモチベーションが高まる。今は、どんな治療をしようが報酬は変わらないので、やる気が出ない」などの意見があった。

 NP側では賛成意見として「医療においても、格差はあって良いと思う。対価を払って高い治療を受けるという選択肢も必要。その方が科学の進歩にもつながる」「健康保険以外で収入を得ることで経営力の差が付くので賛成」「貧富の差くらい、あって当然です。持っているお金を自分のために使うことに法律で制限されるなんて、共産主義みたいで、気持ち悪いです」といった声が寄せられた。

「金の切れ目が命の切れ目に」、反対派

 反対という意見では医師側では「医療格差が助長される」「金儲けだけを目的にする医療機関が増える」「金の切れ目が命の切れ目になるような制度には反対」などの声が寄せられた。

 NP側では「混合診療を解禁してしまうと、これから新しくでる医療技術のほとんどが保険外になり、多くの国民が新しい医療にアクセスできなくなる可能性が高い」「保険診療の適用範囲が狭くなりそうで不安」などの意見が挙った。

ビジュアル作成:櫻田潤(NewsPicks編集部)
※医療費対策についてのm3.com会員、NewsPicks読者のコメント一覧はこちら⇒ ※混合診療に関するコメント一覧はこちら⇒



https://www.m3.com/news/iryoishin/366790
シリーズ: m3.com×NewsPicks共同企画「医療の未来、医師のリアル」
医療費カット「医者が儲からないシステムを」「死生観の政治的誘導」
m3.com×NewsPicks共同企画◆Vol.2 自由回答1

2015年10月18日 (日)配信 高橋直純(m3.com編集部)

 『m3.com×NewsPicks共同企画「医療の未来、医師のリアル」』の第2回「医療費カットの切り札は「患者負担増」か「ジェネリック」?」で紹介した、増え続ける医療費への対応策についての医師、NewsPicks読者の自由回答を紹介する。
記事本文はこちら。

Q 増え続ける医療費に対応するためにどうすれば良いと考えますか

■■NewsPicks読者
【医療体制の変革、リストラ】

・医療業界のリストラ。必要でない医療・医師、無用な研究を削除しては?
・企業の病院経営を可能にする。
・テクノロジーによる自動化のコスト削減。
・医療機関の競争。
・医療へのアクセスが便利すぎる。
・医者が儲からないシステムを作り、国士レベルの医者を増やす。患者はお金じゃないという意識改革です。
・歯科など、重要度が高くなく、かつ個人病院が必要以上にあるものの集約統合。要は金をかける医療とそうでない医療とに濃淡を付けるべき。
・「経営をするのだ」という視点がもう少し必要なのではないでしょうか。
・患者に選ばせる治療法をもっと導入する。例えば、精神科の場合、まだまだ先生主体の治療法だと思う。カウンセリングを受けたい場合でも、自分から言わなければならない。もっとカウンセリングを受けられる治療法なら、病院も儲かると思う。
・医師は検査会社へ値引きを要求し、検査会社はそれに応じる。しかしながら医師は国へ正規価格を請求する。ここに差益が生まれるため横行している。検査料の見直しの際に値引きなどをできないように法律を定めその分保険点数を現行の50%程度まで落とす。相当医療費の削減につながり、かつクオリティはそのまま。医者の検査差益がなくなるだけではなく、無駄な検査も減る。
・IT化による人材費コストカットと能力別報酬制度を儲けるべき。

【薬関連】
・13歳~60歳の例えば風邪といった軽度の症状については自己負担率を高めてもよいのでは?また薬は基本的には毒なので、重症でどうしても薬が必要な疾患には手厚く保険適用させるべきだが、ただ安静にして寝ていればよいような風邪のための薬は自己負担率を大きく上げてよいと思う。
・老人に薬を出しすぎる点の改善。
・薬と診察の窓口を一つにする。
・安定している慢性疾患患者の薬を海外のように箱売りボトル売りにして、ある程度患者自身の責任において服薬し治療の継続の有無を決める。
・市販薬の範囲拡大。
・薬では治らない多くの疾患に対して、医師や製薬会社が提供する薬を不使用にする取り組みを促進させる。つまり医師が薬屋を辞め、患者がそれを理解する。
・ジェネリック医薬品の利用促進に加え、オリジナル医薬品の情報開示促進(ジェネリック医薬品の製造を念頭に)による、ジェネリック医薬品の品質向上。

【患者負担】
・生活が大変な人に対して一律無料ではなく、1回につき数百円や、回数券を発行して月に2回は無料で3回目からは補助あり料金とするなど、お金を払う行為をするべきである。冗談じゃないが老人のたまり場になっている医療機関があることは本当に問題である。
・所得に応じた支払額の決定と、患者の同意を得て分割の引き落とし。未払いが続けばハローワークと連携して労働の斡旋。
・無駄に通い詰める高齢者をなくすために高齢者医療費補助の制度見直し。
・高齢者の医療費負担増。
・特別な理由で月何度も治療を受けないと駄目な方以外は、受診回数ごとに保険負担割合を増やす仕組みにすべき。
・年間限度額の設定。
・年少、老人以外の皆保険の終了。※年少は無料。老人は5割負担。労働対象年齢については、保険会社での任意保険での対応。
・コストパフォーマンスの悪い医療(寝たきり老人や回復の望みのない患者)に対して投入される医療・介護資源(金銭、労働力)が多いにもかかわらず負担が小さい(もしくは年金でお釣りが来る)ことを是正する。
・医療費の負担を意識させるため、医療費の先払いにして、保険料を後からバックする。

【予防】
・寝たきりにしない。
・健康であることにインセンティブを与える。
・予防策に保険適用するなど予防に力を入れる。
・予防医療の推進。夕張市を模範にすれば良い。

【その他】
・デフレでゼロ金利で経常収支黒字かつ純資産が世界一のお金持ち国家である日本に財政再建の問題はないので、デフレ脱却するまで財政拡大をするべき。
・つい最近消費税上がったばかりなのに増え続ける「医療費に対応するためには」の選択肢に「国民負担の増加」とか「患者負担の増加」っておかしくない??どんだけ国民苦しめれば気がすむわけ?マイナンバー制も勝手に決めるわ、馬鹿じゃないの?だから病人の数が増えるんだよ!!
・東洋医学を浸透させる。
・医療費を減らす取り組みをした主体に削減できた費用を原資に報酬を支払う。
・増税としかるべき国家予算の配分。
・他国に比べ、医療の質は良いと感じる。ただし借金前提の社会保障制度はそのうち破綻すると思う。医療従事者のオーバーワーク、地方格差は問題。逆にこんなに恵まれている日本の医療制度に文句ばかりつけ、皆保険をいいことに不要な受診をする国民性は改めるべき。もっと利用者の負担を増やしても良い。海外に住んだことのある人なら分かると思う。

■■医師(m3.com会員)
【医療体制の変革、リストラ】

・開業医の厳選化。
・柔整への医療保険の使用をやめる。調剤薬局での指導料や管理加算をなくす。
・カルテの共通化で重複医療を減らす。
・無駄な治療を多くする施設を摘発してほしい。
・医療機関の集約化。
・整体師やほねつぎ系を医療保険から外すべき。エビデンスがなさすぎるものに保険を使うなんて国際常識に反している。
・開業医を減らす。
・生活保護相手に設けている透析などの医療機関を厳しく取り締まる。

【薬関連】
・院外処方から院内処方への切り替え。
・調剤費の減額。
・解熱鎮痛剤などの販売自由化。
・C型肝炎の薬を販売中止する。
・調剤料・院外薬局の削減。
・湿布やエンシュアリキッドなどを保険から外す。
・後発品は先発品の1/10の薬価で良い。

【患者負担】
・収入が少なかったり、生活保護を受けたりしている人がやたらに受診しないようにする。
・救急車の有料化。
・高齢者の検診・人間ドックの廃止。
・生活保護受給者にも医療費を負担させる。
・後期高齢者医療制度の見直し。
・高齢者福祉の制限、延命治療の制限。
・高齢者の延命治療を制限する。
・軽症での救急外来受診の抑制、救急車の使用抑制。
・救急の自由診療。
・同じ兆候でのドクターショッピングの抑制。

【予防】
・新しい財源(塩や脂、カロリーに課税するなど)を作る。
・予防医学の普及。
・健康増進対策。

【その他】
・患者に早く死んでもらう。
・結果責任に関し、よほどの場合を除き、訴訟ではなく免責とすべき。
・死生観の政治的誘導。
・無駄な歳費を削減し、医療費に充てる。
・患者教育の徹底。
・日本人の死生観を変えることしかない。
・医療費免除の患者さんへの治験医療の増進。
・医療を公共サービスから外す。
・医療機関を受診しなくても不安を解消できるように、医学教育する。



http://www.47news.jp/CN/201510/CN2015101801001466.html
「死の質」日本は14位 がん対策見直しで上昇
2015/10/18 18:38 【共同通信】

 英誌「エコノミスト」の調査機関は18日までに、緩和ケアや終末期医療の質や普及状況に基づく80カ国・地域の「死の質」ランキングを発表した。日本は14位で、政府のがん対策見直しなどが評価され、前回2010年の23位から上昇した。1位は前回に続いて英国。最下位はイラクだった。

 ロンドンを拠点とする「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」が、各国のデータや専門家への聞き取りに基づき、ケアの質、医療・介護職の豊富さ、患者の費用負担など五つの領域について数値化した。



http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03146_05
クロストーク 日英地域医療  ■第11回 
「患者中心」であるということ②

川越正平(あおぞら診療所院長/理事長)
澤 憲明(英国・スチュアートロード診療所General Practitioner)
企画協力:国際医療福祉大学大学院 堀田聰子
週刊医学界新聞 > 第3146号 2015年10月19日

(前回からつづく)

日本在宅医と英国家庭医──異なる国,異なるかたちで地域の医療に身を投じる2人。現場視点で互いの国の医療を見つめ直し,“地域に根差す医療の在り方”を,対話[クロストーク]で浮き彫りにしていきます。

川越 前回(第 10 回/第 3142 号),澤先生が指摘されたのは,日本では医療化が進んでいる印象があるということでした。そして患者をアドボケート(支援・擁護)する役割を,意識的に行う医師が増えることでその状況は良い方向に変わっていくのではないか,そのように提起していただきました。

澤 そのとおりです。医療化に関して,川越先生はどのようにお考えですか。

川越 まず申し上げたいのは,日本の医師は「過度の医療化」を志向しているというわけではないということです。

 医療の究極的な目的を考えると,患者の幸せを最大化することにあるのだと思います。その実現のために,医療という技術を使用する場面もあれば,使用を避ける判断がベストな場面もある。しかしながら専門家の性(さが)なのでしょうか,「自分の知識・技術で患者のために何ができるのか」という思考から医療介入がどうしても優先され,それを複数の医師が幾重にもかかわっていくことで,結果的に医療化が進行してしまう。このようなことが,日本のあちこちで起きているのではないかと思います。ある意味,医師たちが「職能に真面目であるから」とも言えるのかもしれません。

澤 専門家としての役割を発揮しようと取り組んでいるからこそ,と。

川越 そうです。でも,「真面目にやった結果だから」といって正当化されるものではありませんよね。

 社会的な議論にも発展した,胃ろうの問題もわかりやすい例ではないでしょうか。「口から食べられないと死んでしまう。栄養確保の方法は胃ろうくらいしかない」という医師の説明により,患者家族は胃ろう造設に同意せざるを得ない事態が数多く発生しました。確かに食べられないと死んでしまうのは事実としては間違っていません。でもその対応がベストとは限らない。実際,患者・家族の意向,胃ろう造設後の患者の生きざまや本人にどのような意味をもたらすのか,そうした部分への配慮の抜け落ちた対応も散見されていたわけですよね。

かかりつけ医の意識変容が必要だ

川越 医療化の問題を複雑にさせている要因もあります。一つは,医学や医療技術の進歩に伴い,国民全体の医療に対する期待自体が過度に高まってきた状況。それに加え,一次医療と高次医療がそれぞれ別なものとして機能しているかのような状況です。

 特に後者の影響は大きいものです。“一見”の救急病院当直医や病棟を担当する医師も,その日たまたま診ることになった患者が,どんな健康状態でこれまでを過ごし,どのような価値観を持ち,どんな生き方を志向する人なのかを知る術(すべ)があまりに少ない環境にあるわけですから。そうした中では,自分が有する知識・技術でどう対応するかという視点に偏るのも,無理からぬことなのかもしれません。

澤 急性期の病院で患者を「人」としてとらえるのが難しいのは,英国も同様です。非日常的かつハイリスクの問題を扱う二次医療の性格上,どうしても患者とのかかわりが低頻度,かつ臓器別の対応になる傾向にありますからね。英国でも一次医療と二次医療間でのスムーズな連携がより重要視されるようになり,かかりつけの診療所で一括管理された患者情報を病院側に伝えたり,病院医師がGPに連絡をとり,病棟患者の背景について助言を求めたりするなどの対応をとっています。

川越 患者中心の医療を実践するためには,日本ではまず,医師の意識変容から必要そうです。医師,特にかかりつけ医においては,患者の健康問題のうち,自分の専門領域のみを担当するという発想からの脱却が求められます。専門外も含め,その人の健康問題を丸ごと引き受け,予防・健康増進にもかかわるべきと自覚する。患者当人だけでなく,その家族の健康・社会背景や,地域社会との関係性にも関心を払い続けるスタンスをとる……など,臨床に臨む姿勢を地域包括ケアの文脈で再整理する必要がありそうです。

澤 同様に,現場から一歩下がって医療制度全体を見渡し,「どの人材をどこに配置すると,システムがより良く機能するのか」という巨視的な視点を持つことも大事かもしれません。

 スペシャリストはおのずと医療化を進めるものです。が,それは悪いことではない。その特性を発揮するための適切な「配置」こそが重要なのだと思います。そう考えてみると,健康な人が比較的多い一次医療の環境であれば,相談者が医療を必要としない人なのか,あるいは医療を必要とする人(病人)なのかの見極めに優れたジェネラリストを。一方,病人がより多くなる二次医療であれば,スペシャリストを配置するのが,システムの機能をさらに強化する方策の一つかもしれない。いずれにしても構造的な観点を持って各環境で発揮すべき力や,医療提供体制の在り方を振り返ることも重要ではないかと思うのですね。

川越 少なくとも,「スペシャリストは医療化を進める」という考えそのものは,日本の医師が冷静に受け止めるべきものだと感じました。特に日本の場合,ジェネラリストであることが望ましい地域の開業医も,その多くはスペシャリストを経て開業した医師であり,「スペシャリスト的」な医療を提供してきた経緯があります。病院医師だけでなく,地域の医師もまた,その言葉を心に留めておく必要があると思います。

継続的にかかわる体制が鍵

澤 医療へ過度な期待を抱く患者・家族が一定数いるという指摘がありました。例えば,終末期に際しても同じような状況があるのでしょうか。英国では,人生の最終段階において輸液を望む方はあまりいない印象なのですが。

川越 日本でもさすがに「1秒でも長く生かしてほしいから,とことん延命治療を行ってください」と希望するご家族に出会うケースはごくわずかだと思います。しかし,明らかに回復は難しいとこちらが判断している状況であっても,「手を尽くしたという形を取りたい」という思いから,入院させたいと強く希望する患者家族は時々いらっしゃいます。そこには死生観のようなものが影響するのかもしれません。

 例えば,患者家族が身内の死を受け止める体制が整っていないケースでは,輸液などによる侵襲性の低い医療を提供する場合もあります。医師側から推奨するわけではありませんが,家族側の「何かできることはないだろうか」という思いに対応するため,あくまで患者に著しい苦痛を与えない範囲の処置を,家族の受容のプロセスに要する時間を少し稼ぐために行うというわけです。なお,こうした医療を日本では「悪質で無意味な医療」と見なすことはありませんが,英国ではこのような実践を行うことはありますか。

澤 そのあたりは日本と似た状況です。終末期における輸液に関するエビデンスは十分でなく,いわば診療の指針がない状況です。もし希望する家族がいれば話し合って,ケースバイケースの対応をとるようにしています。

川越 なるほど。先のお話では,英国は輸液を望まない方が多いということでしたよね。声の大きな家族の希望によって,患者本人が希望していた以上の医療が投入されてしまうといったケースも少ないのですか。

澤 いえ,やはりありました。そうした背景もあり,近年英国では,不幸な転帰をたどる事態を防ぐために,「Mental Capacity Act」という法制度が設けられました。

 これは認知症を有する高齢者,知的・精神的障害者など,判断能力が不十分な状態でも可能な限り自己決定を実行できるよう,支援するための制度です。例えば,当人の意思表明が難しい状況にあって,医療行為に対する同意/拒否などの意思決定が必要な場合は,家族や後見人など,本人に関する情報を持つ人らが情報を持ち寄る。そして本人の過去・現在の希望,心情,信念や価値観,その他に本人が大切にしてきたことを考慮し,議論の末に患者にとっての「ベスト・インタレスト」(最善の利益)を追求する。GPは,その議論に参加することも多いので,仮に患者の希望に反するような親族の声があった場合でも,患者の希望を守る立場を取ることができます。

川越 そうした実践を聞いても,英国は権利擁護,そして継続した意思決定支援を保障してきた歴史があるのだと感じます。そこでGPが意見を求められるという点も,地域に根付き,定期的・継続的に患者とかかわってきた立場だからこそなのでしょう。

澤 そうですね。かかりつけ医として,患者に寄り添う“伴走者”としての役割が期待されているのだと思います。

川越 日本も超高齢社会が到来した今,医師は医療・介護・福祉や住まいの問題など,あらゆる角度からの支援を,地域の多職種の協力を得ながら患者に提供していくことが求められるようになっています。われわれも,患者一人ひとりと継続的にかかわれるように関係性を構築せねば,適切に対応することが困難なのではないかと気付かされる思いです。個人レベルで見れば,日本でもすでに実践する医師は数多くいます。今後の課題は,個々の優れた実践を標準化し,医療全体の質向上へと結びつけるために必要な“仕掛け”を考えることなのでしょう。

(つづく)

  1. 2015/10/19(月) 05:51:15|
  2. 未分類
  3. | コメント:0
<<10月19日  | ホーム | 10月17日 >>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する