Doctor G 3 のメディカル・ポプリ

地域医療とプライマリケア、総合診療などに関係したネット上のニュースを記録。医学教育、研修、卒後キャリア、一般診療の話題、政策、そしてたまたまG3が関心を持ったものまで。ときどき海外のニュースも。

8月24日 

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1508/1508067.html
“医師不足”は絶対数の不足ではなく,地域・診療科の偏在
日本医師会と全国医学部長病院長会議が緊急提言

[2015年8月24日] MT Pro / Medical Tribune

 医学部入学の定員増加により医師の数は増加しているが,依然として医師不足が指摘されている。日本医師会と全国医学部長病院長会議は,8月19日に記者会見を開き,「“医師不足”は医師の絶対数の不足ではなく,地域・診療科の偏在が大きいことであり,医学部新設では解消につながらない」とし,緊急提言の骨子を発表した。今後,さらなる検討を重ね,厚生労働省などに働きかけていくという。

医学部入学定員の削減と新たな医学部設置許可の差し止めも

 日本医師会会長の横倉義武氏は「医師の地域・診療科偏在解消が喫緊の課題となる中で,日本医師会では全国医学部長病院長会議とともに,医師偏在解消策検討合同委員会を設立し,今年(2015年)3月に第1回会合を開催して以来,7回にわたり議論を重ねてきた」と述べ,医師の地域・診療科偏在解消の緊急提言の骨子をまとめたことを報告した。

 偏在解消に向けた大きな柱は,以下の5つである。

 1. 医師キャリア支援センター構想
 2. 出身大学がある地域での臨床研修
 3. 病院・診療所の管理者要件への「医師不足地域での勤務経験」の導入
 4. 地域ごと・診療科(基本領域)ごとの医療需給の把握
 5. 医学部入学定員の削減と新たな医学部設置許可の差し止め

 同氏は「今後もこの骨子を基に,さらなる検討を続け,国に向けて提言する所存である」と述べた。

 日本医師会常任理事の釜萢敏氏は「2004年度に新医師臨床研修制度が創設され,臨床研修医が大学病院以外の病院を選ぶケースが多くなり,医師が不足した大学病院は,地域の医療機関への医師の派遣に困難を生じるようになった。そのため,地域の医療機関では,新たに医師を確保できず,医師不足が顕在化した」と説明。「こうした状況を踏まえ,医学部入学定員は2008年度から暫定的な増員が行われ,2010年度以降は地域枠を中心に引き上げられた。その結果,2007年度には7,625人であった定員は2015年度には9,134人に増加。医師の絶対数の不足に対しては対策がなされており,順次,医学部定員増の効果が現れてくるものと期待される」と述べた。

 また,「一部にはさらに医学部を新設し,医師養成数の増加を図るべきとの意見もあるが,現状の医師不足の本質は,医師の地域・診療科偏在であり,これらの解消こそ喫緊の課題である。卒前教育の充実,それに続く卒後教育の充実のためには現行の医師臨床研修制度の抜本的な見直しや適切な専門医制度の設計が必要である」と強調した。

医師キャリア支援センターの役割が重要

 釜萢氏は,緊急提言の内容を説明し,「今回の緊急提言の骨子の5つの柱においては,医師キャリア支援センターが大きな役割を担うこととなるため,全ての大学に同センターを設置することが重要となる(現在は,設置している大学と設置していない大学がある)」と述べた。

 同氏は「現在,臨床研修制度の抜本的な見直しが行われており,それによって臨床研修のやり方が変われば,医師の地域・診療科偏在の問題についても新たな対応が必要になることが予想される。本日は骨子をお伝えしたが,近々,提言書を完成させ公表する予定である」と述べた。

新医師臨床研修制度の開始以降,マッチングに問題

 全国医学部長病院長会議会長の荒川哲男氏は,現在の医師不足の本質について「2004年度に始まった新医師臨床研修制度から,大学病院で研修する臨床研修医が減少し,マッチングに問題があるといえる。新制度以前には大学病院での研修が70〜80%であったのに対し,新制度以降は50%程度になり,地方の大学病院では40%を切るところもある。現在,大学病院からの医師派遣機能が麻痺しているというのが,見かけ上の“医師不足”である」と説明した。

 医師数が増えているにもかかわらず,各都道府県での偏在が拡大している。医師の増員,医学部新設では問題の解決につながらないということが明るみに出たといえる。同氏は「今回の緊急提言に沿って医療の改善を進めていくことが,本来の“医師不足”解消につながっていくと考えている」と述べた。

医療制度の改訂に応じて提言も変更

 全国医学部長病院長会議顧問の小川彰氏は「厚労省が先日発表した報告によると,2025年には日本の医師数はOECD,G7の世界標準に到達することが明確になっており,医師の適正数を維持するためには,2025年の6年前には定員の削減を行うべきである。一方で,日本の人口は減少している。また,当会議の調べにより,定員増の影響で医学部学生の学力低下も明らかになった」と主張。「国民が求めているのは,有能な医師に診察してもらうことで,われわれにも有能な医師を輩出する責任がある。単に数だけ増やすと,医師の能力低下という問題も生まれる。頭数を増やすのではなく,地域・診療科偏在の解消こそが現在の“医師不足”解消の鍵である」と述べた。

 同氏は「今回の提言は現在の医療制度の中でのものとなるため,制度の変更により緊急提言の内容も変わっていくという認識の下,常にこの提言は進歩,発展し,変更されていくことが前提である。現時点における最高の考え方を提示させていただいた」と結んだ。

(慶野 永)



http://www.m3.com/news/iryoishin/349487
シリーズ: 改革進む医学教育
無医地区が全国で2番目に多い県◆広島大学Vol.3
地域医療を担う医師を育てる

2015年8月24日(月)配信 成相通子(m3.com編集部)

 広島県は北海道に次いで2番目に無医地区が多い。人口約280万人の県に、医学部があるのは広島大学のみ。地域に根付いた臨床医の養成は喫緊の課題だ。

 2006年の医師数調査では、全国で医師数が減少に転じたことが判明。広島県でも診療体制を縮小する医療機関が相次いだため、2008年に危機感を持った広島県知事、県医師会、広島大学長らが連名で緊急アピールを発表し、地域医療の現状を県民に訴えた。県は医療体制整備事業として医師確保対策の推進や地域医療の充実に努めている。


 2010年に県の寄付金で開設されたのが広島大学地域医療システム学講座だ。同講座では、5年生で行う必修の地域医療臨床実習、6年生の選択の臨床実習、1学年20人の「地域枠」の学生の地域医療実習の指導やコーディネートを実施している。

 特に5年生の地域医療の臨床実習は、広島県の山間部や島しょ部(中山間地域)の病院と連携して、4泊5日の泊まり込みで行う。文部科学省のモデル・コア・カリキュラムの一環だが、広島大学では特に医師不足が深刻な中山間地域の医療について理解を深めることを目標に掲げ、全員が中山間地にある5つの病院(庄原赤十字病院、安芸太田病院、公立世羅中央病院、公立みつぎ総合病院、上石高原町立病院)に行く。

 実習は通年で、交代しながら2人1組を週に2、3カ所の病院に派遣。食事も病院食だ。教員も一部実習指導に加わり、最終日には1週間の振り返りを行う。

 同講座教授の竹内啓祐氏は、実習の手応えを感じている。実習前のアンケートでは「地域医療に興味を持っていない」とする学生が約3割いたが、実習後には約1割に減少。さらに、「将来、地域医療に従事してみたいか」という質問に対しても、実習前は3割が否定的だったのに対し、実習後は2割に減り、「従事してみたい」という積極的な意見が増えた。

 1週間の実習ですぐに地域医療に従事する医師が増えるわけではないが、「目的は、学生を中山間地域に曝露すること。実際に行くことで、(大学病院との違いに)ショックを受けて、医師不足について考えるきっかけにしてほしい」と竹内氏は語る。

「地域枠でも専門医が取れるように」

 広島大学では「ふるさと枠」と呼ばれる推薦入試の「地域枠」は2009年度から設立され、現在は毎年20人が入学している。「ふるさと枠」の学生は、卒後12年のうち9年間は県内の公的医療機関に勤務し、そのうち4年間は知事が指定する県内中山間地域公的医療機関で指定の診療科に勤務しなければならない。

 「ふるさと枠」の学生に対しては、1年生から春、夏、冬に医療現場体験や合宿があるほか、毎週水曜日に「ふるさと枠セミナー」というミーティングを実施。学年を越えたグループワークや実技実習を行い、将来の不安を解消するための話し合いもしている。

 課題となるキャリアプランに関しては、専門医育成プログラムがある27の全診療科が個別に「ふるさと枠」の学生の中山間地域勤務の義務と専門医取得が可能となるキャリアプランを作成し、担当者を設置した。

 自身も自治医科大学の出身で、広島県の中山間地域での医療に携わってきた竹内氏は「若いころは最先端の高度医療をやりたいという気持ちが大きい。一方で、地域に大事にしてもらえる地域医療の魅力もある。両方とも満足できるようなシステムが重要だ」と指摘する。

学生に様々な現場を体験させる

 「将来、地域医療に携わりたい」と話す6年生の岸本健一氏は、5年生の地域医療臨床実習について、「地域医療でもできることは多い。人と向き合って、患者の家族や家のことも分かる。大学では分からない医療を知ることができた」と好評価する。6年生の峠香苗氏も「大学よりも他職種とのコミュニケーションが密だった。地域住民との交流も盛んで、いい機会になった」と話している。

 岸本氏と峠氏は、同大の国際交流事業で短期間の留学も体験。台北大学に行った峠氏は「MRIやCTがあることなど日本で当たり前のことが当たり前でないと気付けた」と話し、オーストリアのグラーツ大学に行った岸本氏は「地域医療に従事する前に海外の医療も知りたかった」と語る。

 広島大学が実施する、合同教養実習、地域医療、医学研究実習、国際交流などのさまざま取り組みは、学生に実際の現場を体験させることで、学生自身がキャリアを考えて選択する仕組みになっているようだ。



http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2015/08/post_12023.html
【相双の医療】看護師不足解消せず 入院患者受け入れに影響
2015/08/24 12:28 福島民報

 相双地方の病院は東京電力福島第一原発事故から間もなく4年半を迎える今なお、深刻な看護職員不足にあえいでいる。県によると、相双地方の看護職員数は、事故直後に震災前より約4割少ない700人台に落ち込んで以降、回復の兆しが見えない。既に避難先で別の病院に勤務したり、事故の風評で新規採用に応じなかったりしているためだ。住民の帰還に伴って患者数は回復傾向にあるが、看護職員不足で入院患者の受け入れを増やせない病院もある。

■横ばい
 県によると、相双地方の看護師や保健師ら看護職員は、震災前の平成23年3月1日時点で1188人いた。同地方で入院患者を受け入れていた16病院は、原発事故による休業で離職したり、避難したりして震災から約4カ月後の7月1日時点で783人にまで減った。
 現在、外来診療や入院患者を受け入れている10病院でも、震災前の3月1日時点で788人いた看護職員が今年7月1日時点で676人にとどまる。年代別に見ると、20~40代の働き盛りの世代が不足傾向にある。
 南相馬市原町区の小野田病院では、79人いた看護師のうち事故による避難などで約20人が退職。その7割は20~30代の若手だった。同病院の事務担当者は「小さな子どもを抱え、放射線への不安から避難した人もいる。県内外で人材募集をかけているが、厳しい反応だ」と明かす。

■空き病床
 相双地方では避難住民の帰還が進み、患者数自体は回復傾向にある。だが、看護職員不足で入院患者の受け入れを制限せざるを得ない病院が少なくない。
 震災後に南相馬市から新地町に移転した渡辺病院は、震災前に約80人だった看護師が約50人にまで減少した。人員不足で175床のうち約四分の一に当たる46床での稼働を余儀なくされている。今年4月に現状のほぼ2倍に当たる約90床での稼働を目指したが、人員確保の見通しが立たず10月に先送りとなった。
 南相馬市立総合病院は、震災前に近い看護師約110人を確保した。しかし、新たに雇用した人の多くが臨床経験の浅い若手で、病床数を震災前の230床から150床に減らして運営している。

■打開策
 看護師ら看護職員の確保は、相双地方の医療再生に不可欠な要素だ。県は、相双地方以外から呼び込もうと、県外の病院から旧緊急時避難準備区域だった南相馬市内の病院に移る人に、前の職場との給与差額の一部を補填(ほてん)する制度を設けている。県内の看護学生や高校生が相双地方の医療体制を学ぶバスツアーも実施している。しかし、看護職員はいずれの地方でも不足傾向にあり、事態を打開するには至っていない。ある相双地方の病院の事務担当者は「(相双地方は)原発が立地し、風評は今も根強い。確保に向けて打つ手は全て打ったのだが...」とため息をつく。
 県医療人材対策室は「本県の現状を丁寧に説明するとともに、福島で働く意義を伝え、理解してもらうことで人材確保につなげたい」としているが、抜本的な対策は見えてこないのが現状だ。

[背景]
 相双地方はもともと看護師や医師が少ない"医療過疎地"とされていたが、東日本大震災と東京電力福島第一原発による避難で看護師らの流出に拍車が掛かった。医師数も震災前の水準に回復しておらず、平成23年3月1日時点で120人だった常勤医師数は、今年4月1日時点で88人にとどまっている。



http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20150824/news20150824993.html
医療職への興味育てて、子どもたちが仕事体験 松前
2015年08月24日(月) 愛媛新聞

 医療職を体験し、将来の夢を考えるきっかけにしてもらおうと、「子どもの夢プロジェクト2015」が23日、愛媛県松前町筒井のエミフルMASAKIであり、子どもたちが医師や救急救命士などの仕事の一端に触れた。
 病気や障害のある子どもと家族を支援するNPO法人「ラ・ファミリエ」(松山市室町)が主催。子どもたちは医師や県立医療技術大学(砥部町高尾田)の学生、松前消防署員らから血圧測定や血液型判定、心臓マッサージなどの方法を教わった。実際に現場で使う器具や試薬も使って、真剣な表情で取り組んでいた。



http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS24H0T_U5A820C1EAF000/
後発薬普及へ公定価格引き下げ検討 厚労省が戦略案
2015/8/24 10:52 日本経済新聞

 厚生労働省は24日の審議会で、特許が切れて割安な後発医薬品(ジェネリック)の普及を中心とする医薬品産業の戦略案を示した。患者の負担を減らすため、後発薬の公定価格の引き下げを検討する。輸入する後発薬の品質を確保するため海外工場の調査にあたる人員を増やす。高齢化で膨らみ続ける医療費の抑制につなげる。

 厚労省は2020年度までに後発薬の普及率(数量ベース)を約3割高め8割にする目標を掲げている。医療サービスなどの公定価格(診療報酬)を16年度に見直すにあたり、後発薬の価格を下げるほか、後発薬を処方する医療機関や薬局が受け取る報酬も充実させる方針だ。

 普及率の目標を達成するには輸入品も増える見通しだが、医師や患者のなかには海外の後発薬の品質に不安を抱く人もいる。医薬品医療機器総合機構(PMDA)で海外工場の実地調査にあたる人を増やす。

 一方、新薬メーカーの収益を確保するため、革新的な新薬は公定価格の引き上げを検討する。国内市場で後発薬が増えても、画期的な新薬を開発すれば一定の収益を確保できるようにする。M&A(合併・買収)による規模の拡大も視野に入れるよう促す。



http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=122923
製薬企業の合併促し、国際競争力強化…医薬戦略骨子案
(2015年8月24日 読売新聞)

 政府が成長分野の一つに位置づける医薬品産業の活性化に向け、厚生労働省が策定した総合戦略の骨子案が分かった。

 国内の製薬企業の合併を促し、海外企業と渡り合うには十分とは言えない競争力の強化を目指す。日本発となる新薬の開発を後押しする一方、安価な後発医薬品(ジェネリック)の普及を進める方向性も打ち出した。厚労省は24日、業界との懇談会で示し、来年度の診療報酬改定に向けて議論する。

 世界の製薬企業売上高上位10社の中に国内企業は入っておらず、骨子案は「買収や合併による事業拡大を視野に入れるべきだ」と指摘。新薬を開発できない企業には後発薬製造などへの事業転換を迫った。

 厚労省は今年度、世界に先駆け日本で開発され、高い効果が見込めるがんや生活習慣病などの新薬を早期に承認できる制度を新設した。骨子案では、この新制度で承認された製品の価格を高く設定し、製薬企業に日本での開発を促すことを検討するとした。

 後発薬の普及策では、患者の負担を減らすため、最初の保険適用時に新薬の6割(一部5割)に設定している価格のさらなる引き下げを検討。品質向上などの面から、中小企業が多い後発薬企業の集約化も促す。

 特許が既に切れて値下がりしたものの、効果が高い高血圧治療薬や抗生物質などを医師が優先して処方するような方策や、生産停止に追い込まれないように価格面で下支えする方策も検討するとした。



http://mainichi.jp/area/iwate/news/20150824ddlk03040213000c.html
県立地域診療センター無床化:「近くに入院施設ない」54% 住民の不安鮮明に アンケート /岩手
毎日新聞 2015年08月24日 地方版

 地域医療の充実を目指す住民組織や、いわて労連など6団体でつくる「いのちのプロジェクト」は、入院病床が廃止された県立地域診療センターがある県内6地域の住民に実施したアンケート結果を公表した。「無床化」に伴い、「近くに入院する病院がない」(54%)や「夜間や休日が不安」(45%)など、多くの住民が不安を抱えている実態が明らかになった。

 同プロジェクトは3〜5月、岩手町や紫波町など県内6地域の住民1万4000世帯を対象に、病院などに受診する際の困りごとや、県への要望などを問うアンケートを実施。3255世帯から得た回答(回収率23%)をまとめた。

 休日や夜間に急に体調が悪くなった時の対応については、「救急車を呼ぶ」(40%)が最も多く、「受診できる病院を探す」(31%)などと続き、「我慢する」は12%に上った。自由記述欄には1391世帯が回答。「ふるさとで死ねない(入院できない)不安があるので、病院のある地域に移住したい」「高齢化率の高い地域で入院できる病院などがないことに不平等感を感じる」などの声が寄せられた。

 同プロジェクトは、県医療局にアンケート結果を説明。入院病床の復活や救急医療体制の抜本的な改善、地域医療体制の充実を要請した。同プロジェクトの及川剛さんは「寄せられた声は、安心して生活できないことを示しており想像以上に深刻。入院病床の復活を求めていきたい」と話した。【近藤綾加】



http://www.asahi.com/articles/ASH8K62Z4H8KULFA026.html
消費増税、病院経営を圧迫 「8%」ショック
高谷秀男、松浦新
2015年8月24日05時06分 朝日新聞

 「今年度は10億円の赤字です! 節約しませんか? ペーパータオルはたくさん取らずに1枚だけ」

 千葉市の千葉大医学部付属病院(ベッド数835床)の職員用トイレにはこんな貼り紙がある。

 2014年度決算は7億円の赤字だった。04年度に国立大学法人になって初の赤字。消費税率8%への増税が病院経営を直撃した。

 公的保険の医療サービスは消費税が非課税だが、病院が仕入れる物品には消費税がかかる。今回の増税で千葉大病院は消費税の支払いが5億円増えた。診療報酬による穴埋めを差し引いても2億円の負担増だ。

 赤字対策としてあらゆる経費節減に取り組む。残業を減らすため、従来は午後6時や7時に始めていた医療スタッフの会議を5時開始に早めた。手術用の帽子や注射器などは千葉市立の2病院と共同購入し、単価の引き下げを図る。

 薬はもともと安い後発薬を優先してきたが、さらに徹底し、7月には後発の比率が80%に達した。2月には3本目の井戸を稼働させた。病院で使う水の8割が地下水となり、年間1千万円の経費を削った。

 山本修一院長は「大学病院は最先端の医療に携われるから人材が集まる。しかし、最先端の医療機器を導入すればするほど消費税の負担が増える。必要な投資なのに後ろから撃たれているような感じだ」と窮状を訴える。

 苦しいのは私立も同じ。川崎市の聖マリアンナ医科大学病院(1208床)では、診察室のパソコンの電源を入れると「XP」の文字が浮かび上がる。米マイクロソフト社の基本ソフト、ウィンドウズXPのことで、昨年4月、顧客へのサポートを終了した。同病院は更新する予定だったが、延期して約20億円の経費を浮かせた。院内だけのシステムで、大手パソコンメーカーの協力を得ているので問題はないという。

 さらに業務委託していた看護助手は、直接雇用に切り替えた。委託費には消費税がかかるからだ。

 医師らの人件費に切り込む病院も出てきた。千葉県鴨川市に拠点を置く亀田総合病院グループ(992床)は、職員のボーナスを5~6%引き下げた。14年度の消費税支払額が前年度より約4億円増。これは前年度の税引き前利益約1・5億円を上回り、赤字が現実味を帯びたからだ。

 亀田隆明理事長は「国は診療報酬に消費税分が含まれるというが、消費税を正しく反映することは不可能だ。大きな設備投資や医療材料を多く使う基幹病院ほど負担が重い」と話す。

 首都圏のある医療法人の理事長は、この1年間で10の病院から「買収してもらえないか」と打診があったと明かす。「都心の100床以下の病院は、同じように収益を圧迫されている周囲の大型病院に患者を取られて大変なようだ」

 医療と同様、介護保険のサービスも非課税のため、物品購入にかかる消費税が重荷になっている。

 東京都世田谷区の特別養護老人ホーム「博水(はくすい)の郷(さと)」では、8%への増税で年間の消費税支払いが約600万円増えた。光熱費やリネン、おむつなど仕入れる物品のほぼすべてに消費税がかかる。送迎車の運転も業務委託なので、委託費に消費税が乗ってくる。

 政府は介護事業者の負担増を穴埋めするとして、増税時に介護サービスの公定価格である介護報酬を0・63%引き上げた。だが、博水の郷の介護報酬は約300万円しか増えなかった。田中雅英施設長は「全く足りません」と話す。

 コスト削減のため、3月から事務職員を1人減らし、残りの6人が残業でカバーする。照明はLEDに切り替え、近く節水装置も導入する。福祉施設の経営に詳しい宮内眞木子税理士は「全国的に見て、消費税がかかる物件費は費用の25%くらいある。0・63%ではちょっと足りない」と指摘する。

■輸出には消費税を還付

 輸出品は海外で売る時にその国で課税されることを考慮して、消費税をかけない。かけないのは「非課税」の医療・介護と同じだが、輸出は「免税」と呼ばれ、「仕入れ税額控除」を使えるのが特徴だ。

 一般の商品の場合、小売店などは消費者から受け取った消費税から、仕入れで卸売業者らに支払った消費税を引いた差額を納税する=図。この差し引く仕組みが仕入れ税額控除だ。

 輸出が多い企業は、仕入れ税額控除を使うと、受け取る消費税より支払った消費税が多いので、その差額が税務署から還付される。一方で医療・介護はこうした還付がない代わりに、診療報酬や介護報酬で穴埋めする仕組みになっている。

 2014年度の消費税還付金(地方消費税分を除く)は3・4兆円で、税率5%だった前年度から1兆円近く増えた。大半が輸出によると見られる。国の消費税収約16兆円は、還付金を引いた残りだ。

 大手自動車メーカー5社が受け取った還付金を元静岡大教授の湖東京至(ことうきょうじ)税理士が14年度決算などを基に推計したところ、計6千億円だった=表。前年度より2707億円多い。税率が10%になればさらに膨らむ。

 各社は受け取った還付金額を開示していない。トヨタ自動車は「輸出取引は消費税を受け取ることができないため還付を受ける。法に基づき適正に処理している」(広報部)と説明する。日産自動車は「(医療など)非課税取引も還付の対象にすべきではないか」(同)と話している。

 自動車部品などの下請けメーカーは、納入先に消費税を転嫁できれば負担増にならないはずだが、異なる実態もある。

 ある下請け部品メーカーは、当初増税分を売値に転嫁できたが、その後のモデルチェンジの際に実質値下げをのまされたという。「納入先が消費税を払ったといっても、その分、値下げされたら、下請けは自腹で消費税を納税しているのと同じ」と社長は言う。

■実態とずれ、見直す動き

 《解説》病院や介護事業者の仕入れにかかる消費税負担は、診療報酬や介護報酬の引き上げで穴埋めする方法をとってきた。今回の増税を機に病院などの不満が噴出したのは、報酬での穴埋めが実態とずれ、配分が偏るなど、制度上の不備を無視できなくなったからだ。

 厚生労働省は実態調査を踏まえて報酬を決めてきたが、消費税が絡むすべての取引を報酬で網羅するのは難しい。今回引き上げたのは約7千項目の診療報酬本体のうち初診料や再診料、入院基本料など一部だ。このため物品購入や設備が多い医療機関ほど穴を埋めきれなくなる。一方、比較的簡単な診療が多い開業医などは穴埋め分より過剰に配分される可能性がある。

 制度を見直す動きもある。日本病院会などでつくる四病院団体協議会は昨年、日本医師会と連名で消費税問題の抜本的解決をめざす税制改正を要望。この春から医療界、厚労省、財務省も加わって問題解決に向けた検討を始めている。

 輸出品のように、支払った消費税を後で差し引いたり還付したりする仕組みなら透明で問題は生じにくいはずだ。このため医療界には控除や還付を求める意見が強い。税率については免税や軽減税率、標準税率まで意見が分かれている。非課税を続けながら新たな病院支援策を求める声もあり、一枚岩とはいえない。(高谷秀男、松浦新)


  1. 2015/08/25(火) 05:14:25|
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