Doctor G 3 のメディカル・ポプリ

地域医療とプライマリケア、総合診療などに関係したネット上のニュースを記録。医学教育、研修、卒後キャリア、一般診療の話題、政策、そしてたまたまG3が関心を持ったものまで。ときどき海外のニュースも。

5月6日 

https://www.m3.com/news/iryoishin/317416?dcf_doctor=true&portalId=mailmag&mmp=MD150506&dcf_doctor=true&mc.l=100757779
「総合診療医」人気高く、医学生アンケート
日医総研、「学生の世界観広げる教育も必要」

2015年5月6日(水)配信 高橋直純(m3.com編集部)

 日本医師会総合政策研究機構はこのほど、全国の医学部生を対象に実施した「医学生のキャリア意識に関する調査」の結果を発表した(資料は、日医総研のホームページに掲載)。将来、専門にしたい診療科を尋ねた設問では、19番目の基本領域の専門医資格に位置付けられることで注目を集める総合診療科が内科、小児科に続いて、3番目に選ばれた。また、6割強の医学生が自分の世界が狭いと感じており、日医総研は「世界観を広げる教育も必要」と指摘した。

 調査は「医学部での学習と将来のキャリア」「視野の広さ、世界観」「診療科の選択」「将来のキャリアについて」という4つのテーマについて、全国1309人の医学部生(1年生から6年生まで)に書面で実施した。調査期間は2014年6月10日から7月5日。回答者の属性は国公立が7割、私立が3割。性別は男性6割、女性4割だった。

総合診療医希望が14.6%
 将来、専門にしたい診療科・分野について、基本19領域から2つまで選択してもらったところ、最多が内科(33.8%)、次いで小児科(19.3%)、総合診療科(14.6%)、外科(14.4%)、救急科(10.0%)となった。一方、希望者が少ないのは、臨床検査科(0.0%)、病理診断科(0.2%)、リハビリテーション科(0.8%)、泌尿器科(1.3%)、放射線科(1.8%)だった。
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※グラフはレポートを基に編集部が作成

初期研修では市中病院が人気
 初期研修病院を選ぶ際に重視することについて選択肢から3つまで選んでもらう形で尋ねたところ、「教育体制や研修プログラムの内容」(43.3%)、「多くの症例を経験できること」(42.9%)に続いて、「市中病院であること」(37.4%)が3番目に入った。
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 卒後の勤務地について尋ねると、「そのつもり」、「まあ考えている」を合わせて、6割近くが母校のある都道府県、近隣地域では働くことについて肯定的な意見を示した。
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 一方、所属大学の医局で働くことについては、「そのつもり」、「まあ考えている」を合わせて、4割以下にとどまった。
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「自分の世界狭い」が6割強
 また、64.6%の医学生が、自分自身の視野・世界が狭いと感じていることも明らかになった。医学部・医療系以外の友人・知人との交流機会があるのは「頻繁にある」「わりとある」合わせて5割だった。レポートでは「視野や世界観の狭さを自覚している医学生は比較的多い。彼らの視野を広げる支援を行うことも、医学生教育における課題のひとつとなろう」と指摘している。



http://www.m3.com/news/iryoishin/318441
重要証人2人に尋問、秋山元東大教授の研究不正事件
第2回から第6回公判、秋山氏はいまだ勾留中

2015年5月6日(水)配信 橋本佳子(m3.com編集長)

 研究費をめぐり詐欺罪で起訴された、元東京大学政策ビジョン研究センター教授の秋山昌範氏の初公判が開かれたのは、2015年3月17日(『秋山・東大元教授、「私は無罪」と主張』を参照)。その後、4月10日から5月1日までの間に計5回、集中的に公判が開かれ、重要な2人の証人への尋問が行われた。

 1人は、秋山氏の親族が経営する「有限会社ARI」の元社員で、システムエンジニア(SE)のA氏。尋問は計3日、延べ約14時間に及んだ。もう1人は、2009年度の長寿医療研究委託費(東京大学と岡山大学)と、2009年度の厚生労働科学研究費補助金(東京大学)による研究を受注、ARIと研究を進めたパストラルコンピューターシステム株式会社(以下、PCSK)の代表取締役を務めるB氏で、計2日、約10時間の尋問だった。

 この事件では、2009年度のほか、2010年度と2010年度の東京大学の科研費が問題になっている。B氏への尋問は2009年度分について、A氏への尋問も主に2009年度分に関するものだった。2人の証人は、比較的落ち着いた様子で、検察側と弁護側、そして裁判官の尋問に答え、秋山氏に言及する際は「秋山先生」との言葉を使っていた。なお、秋山氏は2013年7月25日の逮捕以来、いまだ勾留中だ。

 電子メールや手帳の記録も証拠
 秋山氏の行為が詐欺罪に当たると主張する検察側は、東京大学と岡山大学からの2009年度の研究を受注したのはPCSKであるものの、成果物として報告書を作成したのはARIであるなど、PCSKの業務に実態がないことを問題視している。これに対し、初公判で弁護側は、ARIとPCSKが共同して業務を行った成果が、研究報告書としてまとめられたのであり、「PCSKが受注者となったことが、虚偽であるとか、仮装であるという事実はない」と主張していた。

 本事件では、東京大学と岡山大学との研究に関する契約書等の書類以外にも、電子メール等が多数証拠として押収されている。第2回から第6回の公判では、秋山氏、A氏、B氏のほか、東京大学で秋山氏の研究室に在籍していたスタッフや秘書、岡山大学で契約の窓口となった職員など、関係者間でやり取りされた電子メールのコピー、手帳などが、傍聴席からも見える法廷内の大型スクリーンに映し出され、証人の当時の記憶を喚起させながらの尋問が続いた。

 尋問の中で、焦点の一つとなったのが、PCSKが、契約事務手続きだけでなく、研究内容にどこまで関与していたという点だ。電子メール等を基にした尋問で検証が進められたが、その論点の一つとなったのが、「名義貸し」「中請け」という言葉を秋山氏が使っていたのか、さらにはその定義だ。以下は、そのごく一部のやり取りの要約だ。

◆第2回公判:A氏への検察官尋問 (尋問の一部を抜粋)
検察官:「パストラル(PCSK)は、岡山大学と東京大学からの発注業務について、実際には何をしたのか」
A氏:「契約関連、納品の作業、代金請求をしました」
検察官:「パストラルが、岡山大学と東京大学からの発注業務について行った行為は、いわゆるプロジェクトマネジャーと評価できるものですか」
A氏:「いや、名義貸しだと思います」

◆第4回公判:A氏への弁護人(弘中惇一郎弁護士)尋問 (尋問の一部を抜粋)
弁護人:「中請け業者のことですが、秋山さんが何と言ったのか、単語ではなく、全体の文章としてどう言ったか覚えていますか」
証人:「文章としては特に……。(研究受注会社について)話す際にそうした言葉が出ただけです」
弁護人:「文章としては、記憶にないのですね。中請け業者にこうだから、こうしましょうといった……」
証人:「文章としては記憶にないです」

◆第4回公判:A氏への裁判官(左陪席)尋問 (尋問の一部を抜粋)
裁判官:「証人自身は、中請け業者と言われて、どのような意味だと理解していたのですか」
証人:「その時に理解したというより、後から(研究受注会社が)やった業務のことを、中請け業者と言うのだと思っていました。実際には、東京大学に対し、契約、納品、請求をする。ARIから見れば、見積もりが提示され、注文を受け、お金をいただく。対外的に業務をやっていただく会社」
裁判官:「パストラルについては、名義貸しという言葉を使いましたが、名義貸しと中請け業者は同じですか。違う意味ですか」
証人:「私の中では、ほぼ同義です」

◆第6回公判:B氏への弁護人(弘中絵里弁護士)尋問 (尋問の一部を抜粋)
弁護人:「あなたは、中請けという言葉を知っていますか」
斎藤:「いいえ」
弁護人:「中請けという言葉を普段、仕事の中で使うことはありますか」
斎藤:「ないです」
えり:「秋山さんが、中請けという言葉を使っていることを聞いたことがありますか」
斎藤:「ないです」

◆第6回公判:B氏への裁判官(左陪席)尋問 (尋問の一部を抜粋)
裁判官:「岡山大学から、ARIが直接研究を受けられない理由として、岡山大学と被告人の共同研究であるため、被告人の親族がやっているARIに発注できない、ARIには契約ができるような営業担当がいない、という理由を挙げていますが、後者だったら契約代行という手段もあったのではないですか。実際にやった業務は、契約代行のような近い内容だったのではないですか」
B氏:「はい」

◆第6回公判:B氏への裁判官(右陪席)尋問 (尋問の一部を抜粋)
裁判官:「東京大学や岡山大学の案件について、パストラルが行った業務は、プロジェクトマネジャーと呼べるものですか」
B氏:「違います」

 弁護人の弘中惇一郎弁護士によるB氏への尋問では、下記のようなやり取りもあった。弘中氏は冒頭陳述で、「現実に成果物が納品されている場合に、受注者の名義が誰であるかが、大学にとってどれだけの意味を持つのかは疑問」としていた。

◆第6回公判:B氏への弁護人(弘中惇一郎弁護士)尋問 (尋問の一部を抜粋)
弁護人:「岡山大学に提出した報告書については、仕様書はなかったのですか。例えば、体裁や分量、内容について基準を示されたことは」
B氏:「私は目にしていません」
弁護人:「結果的に作成したものについては、問題ないと検収していただいたのですね」
B氏:「はい」
弁護人:「パストラルの会社の謄本、会社案内、あるいは会社の規模や資本、従業員の数、売上などを示す資料を岡山大学に提出したことはありますか」
B氏:「分からないです」
弁護人:「(直接の)営業担当者から聞いたことは」
B氏:「ないです」

弁護人:「東京大学には、パストラルの謄本を出したことはありますか」
B氏:「ないと思います」
弁護人:「パストラルが本件のような在宅医療の現状調査をやった実績を示したことはありますか」
B氏:「ないです」
弁護人:「パストラルの企業規模あるいは実績、信用力などを示す資料を出したことはありますか」
B氏:「ないです」
弁護人:「東大から、出してほしい、と言われたこともないのですか」
B氏:「ないと思います」

 B氏との打ち合わせ、検察側と弁護側に差
 A氏とB氏は、検察側と弁護側の両方が証人として申請していた。ただし、検察側は証人として複数回にわたり打ち合わせたものの、弁護側との打ち合わせは限られていた。例えば、B氏は、第6回公判で、「検察官と法廷での証人尋問のための打ち合わせを約10回実施し、各2時間から4時間だった。弁護人との打ち合わせは1回で3時間」という旨を答えている。

 またB氏自身、裁判官の質問に対し、(1)自身が今回の事件で、被疑者として取り調べを受けたことはあるが、身柄を拘束されたことはない、(2)法廷に立つため以外に、2013年7月の秋山氏の逮捕前は約20回、逮捕後から翌8月のお盆頃まではほぼ連日、18回くらい検察で取り調べを受け、その最後の日に「起訴しない」と言われた――と説明した。

【第1回から第6回公判概要】
第1回:3月17日(火):13:30-16:50(休憩:15:35-15:50)
 検察による起訴状朗読と冒頭陳述、弁護側の冒頭陳述、秋山氏の意見陳述。
第2回:4月10日(金):10:00-16:50(休憩:11:50-13:10、15:15-15:35)
 秋山氏の親族が経営していた「有限会社ARI」のA元社員(SE)への検察側尋問。
第3回:4月13日(月):10:00-17:00(休憩:12:00-13:10、15:00-15:20)
「有限会社ARI」のA元社員(SE)への検察側と弁護側の尋問。
第4回:4月17日(金):10:00-14:35(休憩:11:50-13:10)
「有限会社ARI」の元社員(SE)への弁護側と検察側の尋問、裁判所による尋問。
第5回:4月28日(火):10:00-16:45(休憩:11:50-13:15、14:50-15:10)
 2009年度の長寿医療研究委託費(東京大学と岡山大学)と厚生労働科学研究費補助金(東京大学)を受注していたB社の代表取締役への検察側の尋問。
第6回:5月1日(金):10:00-16:45(休憩:12:00-13:20、14:45-15:05)
 2009年度の長寿医療研究委託費(東京大学と岡山大学)と厚生労働科学研究費補助金(東京大学)を受注していたB社の代表取締役への弁護側と検察側の尋問、裁判官による尋問。



http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-242624-storytopic-11.html
<社説>医療事故続発 信頼回復へ情報開示を
2015年5月6日  琉球新報

 医療に対する信頼が、揺らぎつつある。厚生労働省は腹腔(ふくくう)鏡手術後の患者死亡が相次いだ群馬大病院と、禁忌鎮静剤を投与された2歳児が死亡した東京女子医大病院に対し、高度医療を提供する特定機能病院の承認を取り消す処分を決めた。
 神戸市の民間病院では、生体肝移植を受けた患者7人のうち4人が術後1カ月以内に死亡した。この事例では、日本肝移植研究会の調査報告書が「スタッフの体制や手術計画に問題がなければ3人は救命の可能性があった」と指摘した。
 いずれの例にも共通するのは、患者側への説明や情報提供の不足であり、病院内での報告・連絡の不備がある。医療事故が起きるたびに繰り返されてきた指摘であり、再発防止に向け、克服すべき課題は明確といえる。
 こうした状況の中で、医療法の改正により、ことし10月から医療事故調査制度が始まる。対象となるのは医療機関が「予期しなかった」死亡か死産の例だ。
 医療機関は発生を第三者機関に届け出ると同時に院内調査を進め、調査結果は遺族に説明するとともに第三者機関にも報告する。第三者機関は調査結果を分析し、再発防止のための啓発活動を行う。一方、遺族側の求めがあった場合にも第三者機関は調査を実施できる。
 調査制度はあくまでも再発防止を目的としており、医師をはじめとする医療従事者の責任追及の場ではない。個人の責任を問われれば現場の萎縮を招きかねないという医療側の主張に配慮したものだ。
 医療事故再発防止へ新たな制度ができることは歓迎したいが、課題もまだ多い。例えば群馬大病院では最初の死亡例が2010年に起きたにもかかわらず、病院長に報告があったのは14年6月だった。手術を担当した医師による手術前後の記録が少なかったことも調査で分かっている。東京女子医大でも調査に医師らの非協力的な態度があった。
 調査制度を支えるのは医療側の自発的な情報・資料提供に懸かっている。最も情報を望む遺族側への情報提供も口頭の説明だけで、調査報告書交付は医療機関の努力義務にとどまり、不満は残る。
 過去の例に学べば、医療事故を防ぐには事後の調査制度だけではまだ不十分だ。信頼を取り戻すためには、医療機関・従事者の積極的な情報開示こそが近道であろう。



http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43707
東大の外部調査委員会は内部の人だらけ
本当は見てほしくないバルサンタン事件に関する報告書

2015.5.7(木) 関家 一樹
JBpress

 3月31日の年度末にこっそりと、東京大学のホームページに「臨床研究「Valsartan Amlodipine Randomized Trial」に関する調査結果概要」と題する発表が追加された。


 掲載されたのは東大のホームページの中でもかなり奥まった場所であり、「プレスリリース」の「記者発表一覧」から、「▼過去のプレスリリース」を開き「2014年度」を選択しないとたどり着くことができない。

 発表日が3月31日の場合は年度末の処理として一律でこうしているのだろうが、後に検討するように、この発表のタイミングを東大は見計らっていたとみられる。触れてもらいたくない話題なので掲載と同時に奥まった場所に移動させようという意図が透けて見える。

 本題に入ろう。この発表は2012年から世間を騒がせているディオバン(R)事件(バルサルタン事件)において、現東京大学循環器内科の小室一成教授が、当時千葉大学で主導したVART研究に関する、東大の調査報告である。

 ディオバン事件は、世界有数の製薬会社であるノバルティスファーマ(以下ノバ社)の降圧剤「ディオバン」について行われた数多くの医師主導臨床研究に、同社の社員であった白橋伸雄被告人(薬事法違反で起訴)が不正に関与したうえで統計データの改竄などを行った、とされる問題である。

 「the Valsartan Amlodipine Randomized Trial(VART study)」(以下、VART研究)は千葉大において小室教授が行ったディオバンに関する臨床研究であり、白橋被告人が実際に関与していた研究である。

 千葉大は昨年(2014年)7月15日に「臨床研究「VART study」についての調査報告(最終)」と題した最終報告を行い、現在東大教授となっている小室教授への処分を、東大に求めていた。

 先に述べると、この3月31日に東大が発表した調査報告においては「小室教授への処分はなし」という結論となっている。

 なかなか興味深い結論であるが、内容については他でも取り上げられているので、別の機会に検討することとして、今回この記事では少し別の視点から「VART研究特別外部調査委員会」の委員に注目して、東大が考える「外部」とは何かを検討してみたい。


VART研究特別外部調査委員会

 そもそも「外部調査委員会」とは何であろうか?

 これは何か厳密な法的定義があるわけではなく、一般常識的な問題である。重要なのは「内部」の息がかかっていないメンバーを使うということであり、会社法などでは「社外○○」となるためには、かつて(一定期間)の雇用関係や役員関係があってはならないとされている。

 ディオバン事件以降に次々と明らかになった、製薬会社の不正関与事件において、製薬会社は自身の不正関与の状況を明らかにするため、弁護士を中心とした「社外調査委員会」に調査を依頼した。

 一例として、札幌東徳洲会病院の医師主導臨床研究に不正関与した、協和発酵キリンが自ら依頼した、社外調査委員会の調査報告書(Pdf)を見てみよう。

 「当委員会は、下記3名の委員(委員長たる委員を含む。)により構成されている。当委員会の委員はいずれも、KHKおよびその関連会社並びに徳洲会及びその関連組織となんらの利害関係がない」(第1調査の概要、3調査委員会の構成及び体制、より抜粋。KHKは協和発酵キリン)

 当然のことと言えば当然のことであるが、「外部」の調査と名乗るのであれば、最低限この記載のようにメンバー全員が調査対象と利害関係を有していないことが必要であろう。実際に製薬会社側が行っている社外調査は、いずれもこのルールが守られている。

 それでは東大の「VART研究特別外部調査委員会」のメンバーを見ていくことにしよう。

 「本報告書全文」(Pdf)より、「本委員会における委員の構成は、以下のとおりである。

委員長 山口厚 (早稲田大学 大学院法務研究科 教授)
委 員 石塚直樹(がん研究会有明病院 臨床試験・研究センター 臨床試験部副部長)
委 員 石光俊彦(獨協医科大学 循環器・腎臓内科 主任教授)
委 員 山岸和彦(あさひ法律事務所 弁護士)

 一見すると「東京大学」の名前が入っている人はいないが、このメンバーで先述の定義に照らして「外部」と呼ぶことが適切か、詳しく見ていくことにしよう。


山口厚・委員長

 刑事法業界では知らない人がいないビッグネームである。

 そして1992年から2014年3月まで20年以上、東京大学法学部教授や東京大学大学院法学政治学研究科長・法学部長を歴任された方である(東京大学を卒業されて、そのまま東京大学で研究者になられたので、実質的にはほぼ人生のすべてを東京大学で過ごされた方である)。

 この「VART研究特別外部調査委員会」の活動期間は、「2014年11月30日~2015年3月5日」ということであるから、8か月前まで何十年も東大にいた人が委員長の「外部」調査委員会ということになる。

 ちなみに同じく東大におけるノバ社の不正関与事件、SIGN研究事件では委員長が東大の人だったので「東京大学特別調査委員会」と名乗っている。つまり東大における「外部」とは単に「委員(長)が現在所属しているのが東大か否か」だけで決まっているということなのだろう。

 外部調査委員の資質としては、山口委員は刑事法の第一人者でありながら、証拠と事実認定の峻別もできていないようなSIGN研究の調査報告書(pdf)に、「不合理な点はないと判断した」と判子を捺している人物である。今回も委員長としてどこまでの役割を果たしたのか、慎重に検討する必要がある。


石塚直樹・委員

 肩書きが「がん研究会有明病院 臨床試験・研究センター 臨床試験部副部長」となっているが、石塚委員は最近まで世界有数の製薬会社であるサノフィ・アベンティスで統計解析をやられていた方である。

 つまりディオバン事件で逮捕起訴された、ノバ社の白橋被告人と全く同じ立場のサノフィ版である。むろん職業が同じだからと言って、石塚委員が臨床研究に不正関与していたということにはならない。

 しかし問題の渦中の職業だった人は、「参考人」としては大いに知見が利用されるべきであるが、「外部調査委員」として実際に調査や認定に関わるのは不適当ではないだろうか?


石光俊彦・委員

 獨協医科大学循環器・腎臓内科の主任教授である。

 1981年に東京大学医学部を卒業していることから、1982年に東京大学医学部を卒業した小室教授とは、同じ学び舎で時を過ごした関係にあたる。

 また「高血圧診療ガイド」という本では、小室教授とともに編集を手がけている。

 医療研究の世界は狭い業界なので、教授として一定の活動を続けていれば大体の人と関わりを持つことになる。しかしそうだとしても、一緒に仕事をしたことのある人物を「外部調査委員」とするのには違和感を覚える。

 この石光委員については、さらに興味深い点がある。

 石光委員は日本高血圧学会で倫理委員を含めた各種委員をしている。小室教授も同学会に所属しており、VART研究はまさに降圧剤の研究であることから、同学会においても問題とされた。

 そして日本高血圧学会もVART研究に関する調査を行い、3月27日に「「VART Study」臨床研究に関する研究不正行為疑惑に関する当学会の対応について」と題して小室教授に対する「厳重注意」処分の発表を行った。この発表には石光委員も、日本高血圧学会の「Hypertension Research編集委員長」という肩書きで名を連ねている。

 ここで注目すべきは調査期間と発表のタイミングである。

 日本高血圧学会の調査期間は「2014年5月16日~2014年12月27日」となっており、昨年の12月27日には調査を終えていたことになる。にもかかわらず先述の通り、この調査に関する発表がなされたのは3ヶ月後の今年の3月27日である。

 なぜこんなに発表までの期間が開いているのだろうか?

 東大のVART研究特別外部調査委員会の活動期間を改めて見てみよう「2014年11月30日~2015年3月5日」とほぼ日本高血圧学会の調査が終わった段階から始まり、3月までかかって調査をしていたことになる。

 そして東大の調査が終わってから、日本高血圧学会が調査結果と処分の発表を行ったという順序になる。

 外部調査委員会は「他の外部」からも独立していることが望ましい。石光委員が両調査委員会に名を連ねていることは、日本高血圧学会と東大の調査において何らかのすり合わせが行われたのではないか、と考えられる事実である。


山岸和彦・委員

 弁護士であり、あさひ法律事務所(四大弁護士事務所の「西村あさひ」ではない)に身を置かれているようである。

 東大の調査報告書には、冒頭の製薬会社の社外調査報告書に記載されているような「利益関係がない」旨の宣言がないので、この方が東大やノバ社と関係があるのかは不明である。

 もし特段、利益関係がないようであれば、この方は「外部」調査委員と呼んでも差し支えないかもしれない。

 もっとも所属事務所がそこまで大所帯というわけではなく、また東大側から十分な予算が出ていたとも思えないので、どこまで弁護士としての能力を発揮し作業ができたのかは不明である。


「外部」と名乗るだけでは意味がない

 今まで「外部」調査委員会について検討してきたが、では「内部」調査委員会ではうまくいかないのだろうか?

 内部調査委員会でもしっかりとした調査が行われた事例も存在する。冒頭に上げた札幌東徳洲会病院事件の時の、徳洲会側の緊急専門倫理委員会(pdf)はその例と言えるだろう。

 具体的には、事態が判明してから迅速に活動している点、調査手法が適切である点(聞き取り結果や入手した資料などの事実と、それに対する評価がちゃんと峻別されている)、以前に起きた他社の臨床研究不正事件を意識し調査報告書の要点を押さえてまとめている点、などが十分な評価に値すると思われる。

 つまり内部調査委員会でも、ちゃんと調査することは可能である。

 当たり前の話であるが、形式的に「外部」調査委員会と名乗ることには全く意味がない。

 委員会を構成している委員が、調査対象から独立していて、初めて実質的な意味での「外部」調査委員会となる。

 東大のつけた「外部調査委員会」という名称は、現在東大に所属している委員がいないのであるから「内部調査委員会」と名乗るのもおかしい、というロジックから生まれただけの名称であり、実質を伴っていない。

 複数の臨床研究不正問題が指摘されており、自身も「改革を行う」と宣言している東大であるが、相変わらずこのような煮え切らない調査を依然として続けている。

 今後の東大に期待したいが、現在のところ東大の「外部調査委員会」の外部性はこの記事で検討したような次第であり、製薬会社などが行っている「社外調査委員会」とは、全く性質を異にしているということをご留意いただければと思う。


  1. 2015/05/07(木) 05:58:09|
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