Doctor G 3 のメディカル・ポプリ

地域医療とプライマリケア、総合診療などに関係したネット上のニュースを記録。医学教育、研修、卒後キャリア、一般診療の話題、政策、そしてたまたまG3が関心を持ったものまで。ときどき海外のニュースも。

3月4日 

http://www.niigata-nippo.co.jp/life/medical/news/20150304166691.html
本県の医師不足解説
東大医科研特任教授が新書出版

2015/03/04 11:21 新潟日報

 本県でも深刻な医師不足について解説する新書「日本の医療格差は9倍」(光文社新書)が出版された。著者の東京大医科学研究所の上昌広特任教授(46)が、医師養成に関するデータや歴史的背景から医師不足の原因を探った。本県の医師不足については「関東地方と併せて対策を考えるべきだ」と提言している。

 上特任教授は、医師不足の要因の一つとして、医学部の設置状況を挙げる。人口が多い関東地方に国公立大の医学部が少ないことから、関東の高校生らが新潟大医学部を受験する傾向があるとして「医師の地元定着率にも影響している」と指摘。本県で養成された医師が、同じように医師不足に悩む埼玉県や千葉県などに戻る形で就職していると推定した。

 上特任教授は「戦前からの拠点校である新潟大は、県外にも医師を派遣しており、当然地元に残る医師は限られる。県内の医療機関により多くの医師を派遣できるような養成機関が必要だ」と訴える。

 新書判、266ページ。886円。問い合わせは東大医科学研究所、03(6409)2068。
【医療】



http://blogos.com/article/106966/
外国人医師の受入れ拡充で問題は解決するか
藤田憲彦
2015年03月04日 10:00  BLOGOS

政府は昨日、国家戦略特区諮問会議(議長・安倍晋三首相)を開き、今国会に提出する国家戦略特区法改正案に盛り込む追加の規制緩和策を議論した中で、外国人医師の地方での受け入れ拡充を進める方針を盛り込むとのこと。

実際、日本の医師で実際に医療に従事している方の総数は平成24年末で約29万人となっており、近年増加傾向にあります。それでもOECD各国と比較すると、人口千人当りの医師の数では日本が2.38でありますが、OECD平均では3.1人となっており、まだまだ開きがあります。

医師の充足率は地方、とりわけ青森、岩手、山形などの東北地方で不足していると言われています。そうした医師不足に対応するために外国人医師を受け入れようという考えですが、果たしてうまく行くのか疑問です。

なぜなら、受入れ側の体制が整っていないのではないかと考えるからです。先日介護職の外国人受入れの問題についても述べましたが、まず日本語の問題があります。海外でその国の医師に診察してもらった経験のある方であれば、診察でうまく意思の疎通が出来ないと、患者の立場としては非常に心配な思いをすることになります。

外国人医師を受け入れようとする場合でも、多くの外国人は日本語での意思疎通が困難な状況でしょうから、簡単には行かないでしょう。主に途上国からの海外医師研修事業を1982年から行っているJCMTという団体があります。この団体は、虎ノ門病院を研修病院として民間企業からの協賛などを得て運営していますが、目的は医療の技術移転や海外貢献であるものの、受入体制が整っているために成り立っている側面があります。

地方の医師が不足している状況の病院において、言語や習慣などの壁を丁寧にサポートして運営できる体制がどこまであるのでしょうか?さらに、外国人の医師がそのまま日本に定住する見込みはどこまであるのかも疑問です。サポート体制を苦労して整えて、日本語も覚えて来た頃に本国に帰ってしまうということになりかねません。

私は、日本の絶対数の医師不足を解消するために、医学部の定員増加を今後も行い、長期的スパンで医師数の増加を行うことと、2004年から導入された新臨床研修制度の見直し、あるいは地方勤務を全体とした医学部生への奨学金制度の拡充などに真正面から取り組むことが先決ではないかと思います。



http://www.sankei.com/affairs/news/150304/afr1503040024-n1.html
刑務所医師、受刑者のがん見落とし和解 国800万円支払い、熊本
2015.3.4 20:30 産経ニュース

 肝がんで死亡した熊本刑務所の元受刑者の男性=当時(68)=が、刑務所の医師にがんの兆候を見落とされたため病状が悪化したとして、国に2200万円の損害賠償を求めた訴訟は4日、国が遺族2人に計800万円を支払う内容で、熊本地裁(中村心裁判長)で和解した。

 訴状によると、男性はC型肝炎にかかったことがあり、服役中の2011年6月、血液検査で肝機能の数値が異常値を示し、同年11月の腹部超音波検査では白い影が見つかった。12年6月の血液検査で数値が悪化したため、男性は精密検査を希望したが、刑務所の医師は認めなかった。

 同年8月、男性は激しい腹痛を訴え、搬送された外部の病院で肝腫瘍破裂と診断され、緊急手術を受けた。男性側の弁護士によると、男性は提訴後の13年、肝がんで死亡した。地裁は昨年12月、和解案を示し「検査をしなかった点で刑務所側に過失があった」と指摘した。



http://www.m3.com/news/iryoishin/300186
医療維新
シリーズ: 中央社会保険医療協議会
7対1入院基本料、改定で4%弱の削減
「削減効果なし」「評価は時期尚早」、意見分かれる

レポート 2015年3月4日(水)配信橋本佳子(m3.com編集長)

 中央社会保険医療協議会総会(会長:森田朗・国立社会保障・人口問題研究所所長)は3月4日の会議で、次期診療報酬改定に向け、入院医療に関する議論を開始した(資料は、厚生労働省のホームページに掲載)。

 厚労省は現状や論点を整理した資料を提示、その中で議論のたたき台として示されたのが、2014年度改定以降の入院基本料の届出病床数に関するデータだ。議論になったのは、7対1入院基本料の病床数。改定から7カ月間で、「減少は約1.4万床」というデータについて、診療側と支払側で意見が分かれた。入院医療に関する2014年度改定では、社会保障・税一体改革に基づき、2025年に向けて病床機能の分化が進められ、7対1入院基本料については、算定病床の削減に向け、重症度・看護必要度をはじめとする要件の見直しが行われた。

 日本医師会常任理事の鈴木邦彦氏は、7対1入院基本料の経過措置が2014年9月末まで設けられていたことも踏まえ、「現時点で動向を把握するのは、時期尚早」とし、2015年度実施予定の入院医療等に関する影響度調査を踏まえ、議論する必要性を指摘。

 これに対し、健康保険組合連合会副会長の白川修二氏は、「正直に言って、誠に残念。急性期から、回復期や慢性期に病床を移行させていく改革の第一弾だったが、効果はそれほどではなかった。次の改定では、さらに移行を進める方向で見直すべきだろう」と指摘し、医師や看護の配置数、平均在院日数、重症度・看護必要度、在宅復帰率など、全てにわたって、病床機能の転換を促進する議論を行うべきと主張した。

 白川氏の発言を受け、日医副会長の中川俊男氏は、「7対1入院基本料が思ったほど減っていないと言うが、最終的な判断は拙速ではないか。2014年10月の時点の状況であり、もう少し経過を見てから言ってもらいたい」と切り返し、次期改定の方向性について現時点で言及することを問題視した。

 7対1入院基本料の病床数は、改定直前の2014年3月末の約38.0万床から、同年10月末には約36.6万床に減少した。7対1入院基本料から、他の入院料に移行したのは約2.8万床、一方、他の入院料から7対1入院基本料に移行したのは約1.3万床だった。

 2014年度改定では、急性期後の患者の受け入れをはじめ、地域包括ケアシステムを支える「地域包括ケア病棟」が新設されたのも特徴だ。10月末時点の届出病床数は、24.6万床。届出状況には地域差がある。各都道府県の病院数に占める、地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料を届け出た病院の割合は、全国平均では10.7%だが、最も割合が高い島根県は約23%で、最も低い山梨県では0%だった。


3月4日の中医協総会では、医療技術の評価・再評価の進め方などについても議論(『医療技術の採択は15~35%、診療報酬改定』、『国立国際医療研究センター、「特例」対象辞退』を参照)。

 次回改定でも機能分化、推進

 厚労省が提示した「入院医療(その1)」に関する資料は、(1)急性期入院医療、(2)地域包括ケア病棟・回復期入院医療、(3)慢性期入院医療――について、論点を提示した内容。病床の機能分化という2014年度改定の路線は、2016年度改定でも踏襲される。各論点は以下の通り。

急性期入院医療
急性期病床の機能分化を進めるため、緊急性の高い患者や、高度な医療を要する患者の受け入れを評価するとともに、入院医療の提供に関する連携や在宅復帰の推進を図るについて、2014年度改定の答申附帯意見も踏まえ、さらに検討すべきではないか。

地域包括ケア病棟・回復期入院医療
2014年度診療報酬改定の影響を分析しながら、地域包括ケア病棟をはじめとする地域包括ケア体制の強化のあり方や、円滑な医療連携を進めるための方策について、さらに検討を進めるべきではないか。
回復期リハビリテーション病棟の実情を踏まえつつ、その機能がいっそう適切に発揮されるための評価のあり方について、検討すべきではないか。

慢性期入院医療
密度の高い医療を要する患者を、病床の機能に応じて適切に受け入れるための、状態像に応じた評価のあり方についてどのように考えるか。また、長期療養を担う病床において、可能な限り在宅復帰を促すための評価のあり方についてどのように考えるか。

 地域基幹病院、「真の急性期」に特化を

 「急性期入院医療」について、鈴木氏は、前述の7対1入院基本料の届出病床数のほか、「急性期」の定義とその受け皿をどのように整備するかについて、議論を続ける必要があると指摘。例えば、在宅医療の急変時は「急性期」であるとしたほか、一方で、「高度急性期」「急性期」を担う大病院の中には、空床対策として、地域の中小病院が担うような「急性期」まで手を広げる例があるという。こうした大病院は、診療密度を上げ、場合によっては病床を削減すべきとした。特に一般会計からの繰入が行われることが多い公立病院について、鈴木氏は「財政再建のために、率先して病床を削減して、高度急性期と急性期に特化すべき」と提言するとともに、「地域の最後の砦となる病院にはさらなる評価が必要」と要望した。

 日本病院会常任理事の万代恭嗣氏は、2014年度改定で、入院患者の状態像を評価するため「重症度・看護必要度」という指標が入ったことを踏まえ、「急性期医療の評価指標は本当にこれだけでいいのか」と提起。評価の在り方についての議論を求めるとともに、急性期医療について、(1)緊急性の高い患者、(2)高度な医療を要する患者――の受け入れを評価するとされていることから、「急性期」の定義も含め、その詳細の検討が必要だとした。

 回復期リハビリ「対象者の明確化を」

 「地域包括ケア病棟」については、診療側から、その着実な進展を促す必要性が指摘された。「さらに増加させるためには、一層の評価が必要」(鈴木氏)、「それなりの点数が付いたと考えられるが、地域包括ケア病棟に移行しやすい要件を導入すべき」(万代氏)といった意見だ。

 一方で、支払側からは、「(他の入院料からの)病床転換も期待して、高い点数を設定したが、あまり期待したほど伸びていない。地域包括ケア病棟のミッションを少し整理する必要があるだろう」(白川氏)との意見も出た。

 「回復期入院医療」については、診療側と支払側からともに、やや厳しい指摘が出た。鈴木氏は、寝たきりに近い患者に高単位のリハビリテーションを行っている例もあるとし、急性期後の一定期間の集中的なリハビリの必要性は認めつつ、対象となる患者像の明確化が求められるとした。白川氏もこの意見を支持、回復期リハビリの中身を分析、議論することが必要とした。

 そのほか、退院を促すために、介護保険との連携や、退院調整関係の点数を整理・検討する必要性なども指摘された。

 「療養病床の廃止は困難」

 「慢性期入院医療」に関して、鈴木氏は、患者の高齢化、重度化などで在宅復帰が困難な患者も増えるとし、「療養病床の廃止は困難」との見方を示した。2015年度の介護報酬改定では、医療ニーズや看取りへの対応が充実した介護療養型医療施設の評価が行われたことから、医療保険でも同様の考えを検討すべきと指摘。万代氏は、療養病床については入院受療率や平均在院日数に地域差があるとされる点について、「単に西高東低ではなく、地域の特殊性があるので、この点について精査していくべき」と求めた。

療養病棟の入院基本料は、疾患・処置、状態で規定される「医療区分」3区分と「ADL」3区分のマトリックスで、計9区分で点数が設定される仕組みになっている。白川氏はこれらの点数設定が毎回、問題になると指摘、「医療区分」の在り方も検討課題とした。



http://www.m3.com/news/iryoishin/300114
シリーズ: 群馬大学腹腔鏡死亡事故
死亡全8症例「過失あり」、群大最終報告
開腹術による死亡10症例も検証開始

レポート 2015年3月4日(水)配信高橋直純(m3.com編集部)

 腹腔鏡による肝臓手術を受けた患者の死亡が続いた問題で、群馬大学医学部附属病院(前橋市)は3月3日に記者会見を開き、死亡した8人全員に対して、事前の検査不足や過大侵襲など の過失があったとする事故調査の最終報告書を発表した。会見した病院長の野島美久氏は、「もっと早く問題を把握し、対処できなかったかが最大の問題」と謝罪。過失と死亡の因果関係については「さまざまな段階で問題があり、結果に影響していると考えている」と説明したものの、因果関係の有無までは明言しなかった。

 死亡8症例の執刀医は全て経験20年超の40代男性助教で、この助教が執刀した開腹手術で10人が死亡している問題についても、調査委員会を設置し、調査を進めていることを明らかにした。そのうち1件については、現時点で過失があったことを認定した。執刀医には「医師のとしての適格性に疑問がある」として、3月2日から業務停止とし、開腹手術に関する調査結果が出た後、正式な処分を決めるとしている。


謝罪する群大病院の幹部ら
93症例中8症例が死亡
 群大病院第2外科では、腹腔鏡手術を開始した2010年12月から2014年6月までに93例の腹腔鏡下肝切除術を行い、そのうち8例が術後4カ月以内に死亡した。8例中4例は、腹腔鏡手術の導入後1年以内の症例だった。死亡したのは60-80歳代の男性5人、女性3人。

 2014年6月頃に千葉県 がんセンターで同様の事故が相次いだ報道が出たことを受け、同時期に起きた死亡症例について医療安全管理部長が聞き取りを開始。同様の事例が 複数発覚したことから、6月23日に予備調査を開始した。その後、8月に学外委員5人、学内委員7人による事故調査委員会(委員長:峯岸敬・群大病院副院長)による調査を始めた。
 2014年12月に中間報告書を公表し、ナンバー制の診療科体制や情報共有の不備などを指摘されていた。

腹腔鏡手術の適用外のケースも
 調査委員会は全体の報告書1通と、死亡した患者ごとの報告書8通の計9通の報告書を作成した。3日の会見で公表したのは全体分1通のみで、遺族の了解が得られれば、患者ごとの報告書も病院のサイトで公開するとしている。

 全体報告書では、8症例の概要のほか、診療体制の問題点を指摘(文末に掲載)。そもそも腹腔鏡手術が適さなかったケースや臓器の縫合がうまくいかなかった例が複数あった。退院後に容体が悪化し、再受診したのにも関わらず、執刀医の判断で入院させず、翌日死亡した患者もいた。

 これらの過失と死亡の因果関係について、野島病院長は「決定的なミスがあったわけではない。しかしながら、さまざまな段階で何らかの問題があり、結果に影響していると考えている」と述べた。

症例検討や診療体制に関する調査結果として、結論として次の9点を挙げた。
(1)新規医療技術の導入に際し、IRB(臨床倫理委員会)への申請を怠る等、診療科として組織的取組が行われていなかった。
(2)術前評価が不十分であり、過剰侵襲から予後を悪化させた可能性が考えられた。
(3)手術に関する説明同意文書の記載が不十分であり、適切なインフォームドコンセントが取得できているか確認できなかった。
(4)主治医による診療録記載が乏しく、手術適応、術後の重篤な合併症等に対して主治医がどのように判断し対応したかという思考過程等を診療録から把握することが困難であった。
(5)カンファレンスなどによる診療の振り返りが十分に行われておらず、手術成績不良に対する診療科としての対応が不十分だった。
(6)院内の報告制度は設けられていたが、診療科からの報告がなされておらず、病院として問題事例の把握が遅れた。
(7)保険診療制度に対する理解が浅く、不適切な保険請求がなされた。
(8)(1)―(6)の問題点は、8例全てで共通に認められた。さらには、腹腔鏡手術の適応、術中の処置、術後管理においてもそれぞれに問題が指摘された。以上のことから、全ての事例において過失があったと判断された。
(9)病院全体の管理体制として、問題事例の早期把握、倫理審査の徹底、適正な保険請求、医療事故の届け出等に不備が認められた。
「閉鎖的な診療体制が原因」

会見する野島病院長
 第2外科で肝胆膵外科チームは、腹腔鏡下肝切除術で問題となる死亡事例を担当した医師を含む2人のみ。専門が消化管の診療科長も十分な指導が行えず、第2外科消化器外科グループでのカンファレンスなどでも他チームから意見が出ることが少なかった。野島病院長は「閉鎖的な診療体制で、さまざまな意見を批判にさらされることなく、チーム内で吟味、振り返りがなく進められてきたことが問題。オープンで風通しの良い診療体制を作ることが第1の改革」と述べた。

 また、第1外科と第2外科があり、ともに消化器外科があるにも関わらず、術式や術前・術後のプロトコルが共有されておらず、少ない外科人員が分散されていたことも問題視された。報告書では2006年に発覚した群大病院第1外科での生体肝移植に関する問題と関連し、「同じ構造的問題に原因が考えられる。ナンバー制外科診療体制を撤廃し、統合的な外科診療体制の構築等の改革が必須である」と指摘した。第1と第2という二つの外科の間で競争意識があったのでは、という質問に対して、野島病院長は「研究面で競い合うのは良いと思うが、診療面ではなかったものと理解している」と答えた。

執刀医「ペース配分を間違えた」
 調査結果に対して、執刀医は細かい点では反論しつつ、概ね同意しているという。死亡事例が続いたことで、「修正が必要だったのでは」と調査委員から指摘されると、「今考えるとそのような考えが必要だったと思うが、診療を続ける中では至らなかった」という趣旨のことを話した。難易度の高い手術を繰り返したことについて、「執刀医として腹腔鏡による手術を行うことがベストと判断したのだと我々は考えている」(野島病院長)。診療記録が不十分だった点については「ペース配分を間違えた」と話しており、日常業務の忙しさで記録する余裕がなかったと説明した。

開腹手術では診断ミス隠ぺい疑惑も
 会見では、腹腔鏡手術に関する事故調査の中で、同じ執刀医による開腹手術で患者10人が死亡していたことも判明したと説明。開腹手術による死亡事故についても別の調査委員会を設置し、現在調査を進めている。

 そのうち、調査が進んでいる2010年9月に手術が行われた1例について説明。術前検査として胆管細胞癌として診断し、開腹手術をしたが、病理診断の結果、「非腫瘍性肝のう胞」だった。患者は術後3日目に死亡したが、第2外科は、病理診断の結果を遺族に報告していなかった。執刀医が作成した生命保険の診断書には、最終病理診断名ではなく「胆管細胞癌」と記載されていたことも判明。記載が違っていることについて、執刀医は「記憶にない」と説明しているという。野島病院長は「極めて重大な問題と認識している」と語った。

 手術と死亡との因果関係については、現在、調査委員会で調べている。開腹手術に関する結果は5月頃に出る見通し。

ナンバー制を廃止し、総合診療センターへ

医師に配布している報告推進携帯カード(提供:群馬大学医学部附属病院)。
 
 2015年4月から第1と第2があった外科、内科について、それぞれ外科総合診療センター、内科総合診療センターに再編。その下に、外科では6つの臓器別診療科を設置する。今回問題が起きた肝胆膵外科については、診療科長を新たに公募するとしている。

 機構改革では、病院で起きた全死亡症例について検証する「死亡症例検証委員会」、病院内のコンプライアンスを統括する「コンプライアンス推進室」を新たに設置。医療安全管理部を「医療の質・安全管理部」に改組し、保険適用外の新規医療行為などを審査する臨床試験審査委員会(IRB)の下に、保険適用内でも高度侵襲的など倫理審査を要する症例を審査する専門委員会を設置する。

 
 インフォームドコンセントを充実させるため、統一した説明同意文書を作成するほか、医療事故や事故に至らないバリアンス事例を報告する制度 がありながら、機能していなかった反省を踏まえて「報告推進携帯カード」を配布するなどの意識啓発活動にも務める。カンファレンスや診療録ピアレビューで、フィードバックを徹底し、問題のある診療科・個人へ集中指導するような体制を作るとしている。

関係者処分は5月をめどに
 厚生労働省の社会保障審議会医療分科会では、東京女子医科大学病院と合わせて群大病院の特定機能病院の取消の是非について議論が進んでいる。野島病院長は「私どもの判断で辞退することは考えていない。当局の判断に委ねる」と話す。執刀医の刑事責任について記者から問われると「我々が判断できるものではないので、回答しかねる」とした。

 遺族には、最終報告書を持って説明している。野島病院長は「遺族に納得いただけるとは思っていない。批判についてはしっかり受け止めるしかない」とし、補償についても保険会社との相談を始めているという。

 また、死亡した8症例以外については、「手術後、元気でいる人でも問題があった可能性もあるが、亡くなった人以外に調査を広げることは考えていない」と説明。関係者の処分については、開腹手術の調査結果が出る5月の連休前後をめどに行うという。

 第2外科肝胆膵チームは2014年7月より保険適用外の腹腔鏡手術の停止、9月4日からは全手術が停止されている。今年3月2日から診療科長は診療科長業務、執刀医は一切の診療行為を停止している。出勤はしており、調査委員会の調査に協力しているという。

報告書が指摘する問題点
(1)術前評価
・全8症例で、肝切除の予後推測に必須な、肝臓の容量計算(volumetry)や肝臓の予備能を調べるICG15分停滞率の検査がされていなかった。
(2)インフォームドコンセント
・インフォームドコンセントに関する診療記録が乏しく、手術説明同意書には簡単な術式と合併症が箇条書きされているだけだった。
・2例では同意書に「腹腔鏡手術」という記載がなかった。
・「腹腔鏡手術」の説明がなかったと訴える遺族もいた。
(3)診療記録内容
・8症例においていずれも診療録記載が乏しく、執刀医の思考過程に不明な点が多かった。
(4)診療科内での症例検討状況
・カンファレンスは週1回行われていたが、診療録にはカンファレンスに関する記録は残されていなかった。ヒアリングの結果、他チームの医師からの意見は少なく、実質的な議論が行われていなかった可能性が考えられた。
(5)診療科内での問題症例の把握状況
・8症例全てで病理解剖は行われていなかった。
・1例でデスカンファレンスの資料が提出されたが、他は確認できなかった。
・腹腔鏡手術の死亡が問題であるという認識が不十分であったと考えられた。
(6)腹腔鏡下肝切除術の手術成績
・2014年6月までの93例のうち、90日以内の死亡は7例。90日を超える1例も術後経過より手術関連死と判断した。全体の死亡率は8.6%、保険適用外症例(58例)のみで解析すると、13.8%(8/58)。
・開始1年で4例が死亡したのは問題として認識された。
(7)腹腔鏡下肝切除術開始時の教育・指導体制
・執刀医は、腹腔鏡下手術で、胆嚢、副腎腫瘍、大腸などの経験があった。肝手術前には多数の施設で見学したほか、DVDやスキルラボを利用してトレーニングを行った。
・最初の2例は第2外科グループに所属する腹腔鏡技術認定医(胃が専門)が助手として参加した。3例目以降は技術認定医の支援はなかった。
(8)診療科長の診療科管理体制
・診療科長は「自分の認識の甘さ、指導力のなさに問題があった」と述べている。
・診療録記載が乏しいのは、第2外科消化器グループの問題というより、執刀医個人に顕著だった。診療科長は指導したというが、改善されなかった。
(9)保険外適用手術
・93症例のうち58例は保険適用外だったと考えられるが、35例は保険請求していた。
・保険適用外の行為を審査する体制として臨床試験審査委員会(IRB)が設置されているが、他施設共同の例を除いて申請はされなかった。実施症例を学会報告、論文発表しており、臨床試験としてIRBに申請すべきだった。
(10)病院の問題症例把握体制
・8症例について、診療科からインシデント報告がされておらず、病院として把握が遅れた。
・2010年から明らかな過誤ではない事例報告を求めるバリアンス報告制度があるが、報告義務が明確に求められておらず、手術関連死を十分に収集できていない問題があった。
(11)倫理審査体制
・IRBなどが設置されているが、対象とすべき研究内容について十分に周知されているとは言い難く、研究者の判断に委ねられていた。
(12)説明同意文書
適切なインフォームドコンセントを成立させるための説明同意文書作成を促し承認、およびチェックする体制が未整備だった。
(13)事故調査手続き
・外部委員から、遺族への連絡や、厚労省などへの報告がないまま、第三者を交えた調査委員会が開催されたことに対して、強い疑義が呈された。



http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=112668
厚労省「開腹」も調査へ…群馬大病院聞き取り
(2015年3月4日 読売新聞)

 群馬大学病院(前橋市)で肝臓手術を受けた患者が相次いで死亡した問題で、厚生労働省は3日、腹腔鏡ふくくうきょうと開腹手術の両方で本格的な調査を行う方針を固めた。

 同省の社会保障審議会医療分科会(厚労相の諮問機関)が9日に開く会合で、野島美久よしひさ病院長から初めて聞き取り調査を行い、18人の患者が死亡した原因などについて詳しい説明を求める。

 聞き取り調査は、同病院が3日に、腹腔鏡手術で死亡した8人についての調査の最終報告書を公表したことと、開腹手術後に死亡した患者1人について執刀医が虚偽の診断書を作成していたとの発表を受けたもの。同病院第二外科では、腹腔鏡を使う高難度の肝臓手術で8人が死亡したほか、開腹手術でも2009年度以降10人の死亡が明らかになっている。死亡した患者は、いずれも同じ40歳代の男性医師が執刀した。

 同病院は、高度医療を担う特定機能病院に承認されており、診療報酬上の優遇措置を受けている。腹腔鏡と開腹両方の手術で患者死亡が続いたことに対し、組織的な問題がなかったか、病院長に聞き取り調査を行い、承認を取り消すべきかどうか議論する。処分決定には数か月かかる見通し。

 同病院によると、執刀医が虚偽の診断書を書いた患者は、10年9月に胆管細胞がんと診断された。手術後、容体が急変して3日目に死亡。その10日後、切除した肝臓の一部を病院で検査したところ、良性のできものだったことが確認された。

 しかし執刀医はこの検査結果を遺族に報告しなかった。そのうえ、同年11月に自ら作成した死亡診断書に「胆管細胞がん」と当初の診断名を記入したという。

 これを受け、病院は3月2日から同科教授の診療科長としての業務を停止、執刀医については「医師の適格性に疑問がある」として一切の診療行為を停止した。虚偽の診断書作成について執刀医は「記憶がはっきりしない」と話しているという。

最終報告書公表「全事例で過失」 腹腔鏡手術に関する最終報告書では、死亡した患者8人が受けた診療の医学的検証結果が初めて明らかになった。

 8人に共通する問題として、〈1〉新しい手術導入の際に必要な倫理審査を怠った〈2〉手術前の検査が不十分〈3〉患者への説明が不十分――など7項目が挙げられた。

 具体的には、肝臓を切り過ぎて肝不全を招いた例や、胆管と腸をうまくつなげなかった例、出血が多く開腹による止血を検討すべきだった例などがあった。こうした問題を考慮し、報告書は「全ての事例で過失があった」と結論づけた。



http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/20150304/CK2015030402000161.html
【茨城】
3病院再編統合 建設推進協議会 設立へ

2015年3月4日 東京新聞

 筑西市と桜川市は三日、民間も含めた両市の三病院の再編統合に伴って建設される新中核病院と桜川市立病院(仮称)の建設場所や診療科目などを協議する建設推進協議会を設立し、二十七日に筑西市内で初会合を開くと発表した。
 大学病院、地元医師会、県、両市など十八人のメンバーで構成し、二〇一五年度中に両病院についての基本構想の策定を目指す。
 筑西市民病院、県西総合病院(桜川市)、桜川市の民間の山王病院は、新中核病院、桜川市立病院の二つの病院に再編統合される。新中核病院は筑西市、桜川市立病院は桜川市がそれぞれ単独で整備することで合意した。
 心疾患など急性期医療を担う新中核病院は二百五十床規模、桜川市立病院は百二十床規模を見込んでいる。
 一五年度中に策定する基本構想は地域医療の在り方など、全体像を示す内容となる。その後、より具体的な基本計画を練る。
 建設推進協議会には、筑西市民病院とのつながりが深い日本医科大、自治医科大、東京医科大、県西総合病院とかかわる筑波大、千葉大の五つの大学がメンバーに加わった。
 新中核病院の建設に充てられる二十五億円の国からの交付金は、本年度中に実施設計の終了が条件のため、県を通じて国に期限延長を働き掛ける。 (原田拓哉)




http://diamond.jp/articles/-/67826
『統計学が最強の学問である[実践編]』発刊記念対談【第9回】
西内 啓
「心理統計」の学者と
「生物統計」の学者が対談したら
【特別対談】専修大学・岡田謙介 准教授(2)

2015年3月5日 ダイヤモンドオンライン

シリーズ38万部を突破したベストセラー『統計学が最強の学問である』の著者・西内啓氏が、さまざまなゲストと統計学をめぐる対談を繰り広げるシリーズ連載。新たなゲストとして、『統計学が最強の学問である[実践編]』の校正にも協力していただいた統計学者・岡田謙介氏を迎えます。
話題は「頻度論」と「ベイズ論」から、2人のバックグラウンドである「生物統計」と「心理統計」へ。両者の違いと共通点がわかる、希少な対談をお楽しみください

森鴎外と関係がある「日本に統計学者が少ない理由」


岡田謙介(おかだ・けんすけ)
1981年北海道に生まれる。2004年東京大学教養学部卒業。2009年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了・博士(学術)。現在、専修大学人間科学部准教授。専攻は心理統計学。 著書に『伝えるための心理統計』(共著、勁草書房)、『非対称MDSの理論と応用』(共著、現代数学社)がある。


岡田 私がやっている心理統計は決して研究者の多い分野ではありませんが、西内さんのバックグラウンドである生物統計は、統計学の中では主流の1つですよね。とはいっても、日本ではまだまだ統計学の研究者の数自体が少ない。これはなぜでしょうね?

西内 他の国に比べて生物統計の研究者が少ない理由としては、明治維新からずっとドイツ医学を模範にしてきたことに原因があるように思います。というのも、生物統計学は英米系の大学を中心に発展しているからです。イギリス人のロナルド・フィッシャー(1890〜1962)、カール・ピアソン(1857~1936)とエゴン・ピアソン(1895〜1980)親子。それとイェジ・ネイマン(1894~1981)はポーランド系ですが、フィッシャーやピアソン親子のいたロンドン大で学んだ後、カリフォルニア大学バークレー校に招かれて統計学部を1955年に創立しています。この英米系の系譜が生物統計学の王道で、そこにはドイツはほとんど絡んでいない。

岡田 そうですね。

西内 もともとドイツでは、「病気というのは、病原菌やウイルスなど明らかな病原体が存在しているものである。だからミクロに観察し、基礎実験を繰り返せば原因がわかるはず」という考え方が支配的だったんですよ。このドイツ医学の「基礎研究至上主義」の発想が、その後の日本の医学にも影響を与えているように思います。森鴎外の『舞姫』だって、主人公はドイツに医学を学びにきたエリート学生でしょう。

岡田 ああ、そういえば。

西内 この森鴎外について面白い話があって。明治期、日本海軍の中で脚気がすごく流行って困ってたんですよ。そのとき、高木兼寛(たかぎ・かねひろ:1849〜1920)という、後に東京慈恵会医科大学を設立した海軍軍医総監がいたのですが、脚気対策として現在の考え方に近い臨床研究を行なっています。

岡田 へえ。どのようなことをしたのですか?

西内 2つの船で実験を行なったんです。片方の船では麦飯を食べさせ、副食も付けた。当時はまだビタミンという概念は発見されていないのですが、とりあえずバランスよく食事を摂るようにさせたんですね。もう片方の船では従来どおり、白米ばかりをたらふく食べさせてみた。「食べ物によって、脚気になるリスクがどれだけ違うか」を調べたわけです。すると、明らかに脚気の発症率に差が出た。

岡田 バランスよく食べさせたほうが脚気のリスクは減った、と。

西内 そう。そこで高木兼寛は「白米ばかり食べていたら脚気になる」と主張したわけです。ところが、当時、軍医としては高木よりも地位が上にあった森鴎外が「そんなことは認められない!病原体も特定されないのに非科学的だ!」と対立した。

岡田 鴎外は臨床データに価値を置かなかったわけですね。

西内 そうした経緯が、伝統的として日本の医学に残っているのかもしれない。あくまでも想像ですが。

岡田 なるほど。日本は、近代の大学システムを導入するときにもドイツを範にしていましたね。そうした歴史が、日本の医学の中で、データを元に考える統計学があまり重視されてこなかった根っこにあったのかもしれませんね。

「データのねつ造」を見破るのも統計学

西内 岡田さんのように、心理を対象とする場合、論文の再現性やデータの検証という点ではどうされているんですか? 他のサイエンスよりも評価が難しそうに思いますが。

岡田 心理学でも、「研究の再現性」が問題にされる機会が最近増えています。物理学や化学といったハードサイエンスと比べて、心理学のような人間を対象とする学問は厳密な統制が難しく、また個人差も大きいです。ですから、研究の再現は必ずしも容易でないこともある。しかし、それでも多くの研究者が繰り返し試みてやはり再現できないとなると、ねつ造が疑われてしまうでしょう。実際、たとえば社会心理学の分野で、再現できない研究が最近問題になりました。

西内 そういえば、有名な事件もありましたね。

岡田 オランダのステープルという社会心理学の重鎮によるねつ造事件ですね。直感と反して興味をひく多数の実験結果、論文を発表して名を馳せていたのですが、「サイエンス」誌に掲載されたものをはじめ50本以上の論文でねつ造が発覚しました。しかも、エクセルを使ってデータを1個1個、手作業でねつ造していたのだとか。

西内 ものすごく原始的なねつ造ですね。笑ってはいけないけれど(笑)。

岡田 面白いのは、そういうデータのねつ造を見つけるのも、統計学だということです。ねつ造したデータには、現実的にはあり得ない傾向が出ることがあります。たとえば、結果のバラツキが異様に少なかったりする。ただ、論文には平均値や標準偏差といった基礎的な結果は必ず書かれているので、その情報に基づいて同じ形のデータをコンピュータ上でランダムに作り、バラツキを計算する。それを何度も何度も繰り返すと、今回得られたぐらいバラツキの小さなデータが得られる確率を計算することができます。

西内 リサンプリング、ですね。

岡田 はい。そうすると、たとえば新薬の検証データなら、「こんなにきれいな結果が得られる確率は小さいじゃないか」とわかったりするんです。新薬の研究は何度も行ないますから、どの場合でもやけに結果のバラツキが小さいとなれば、これはまずあり得ない話だ、怪しいぞ、となります。

西内 統計学は騙せないぞ、と(笑)。

岡田 そうです。……そもそも、ねつ造って意味がないですよね。科学者は「本当のことを知りたい」という気持ちで研究をしているわけなので。もちろん、結果を出すことへのプレッシャーは私も感じますが、科学者としてねつ造は「やる必要がない」。

西内 その通りです。だいたい、ねつ造するためのダミーデータだって、つくるのはかなり大変な作業なんです。クリアすぎるデータになったり、逆にそれを避けようとすると狙った結果につながらなかったり。実は、ある本を書いたとき、分析用にそれらしいシナリオが浮かび上がるようなデータをつくろうとした経験があるのですが、それがもう大変で。ねつ造なんか絶対するかと、それならまともに調査した方が全然いいじゃないかと思いました(笑)。

岡田 実際に心理学でも、論文に報告されていた平均値と標準偏差を見て「怪しいぞ」と睨んだ研究者がもとのデータをもらったところ、本来あるはずのバラツキがなくきれいすぎる、ということでねつ造が判明した事例が複数起きています。

メンデルのねつ造は仕方がなかった!?


西内啓(にしうち・ひろむ)
東京大学医学部卒(生物統計学専攻)。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かしたデータ分析ツールの開発とコンサルティングに従事する。著書に『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)、『1億人のための統計解析』(日経BP社)などがある。


岡田 そうそう、生物学で有名なメンデルの論文にも、ねつ造疑惑がありますよね。データがきれいに揃いすぎているんです。フィッシャーは「メンデルは自説に都合のよいデータの選別を行なっていた」と指摘しています。

西内 メンデルの場合、導き出した結論は合っていると思います。けれども、実際の実験ではもっとノイズがあったはずなんです。私もそのエピソードは本に書いたのですが、一応弁護しておくと、当時は「カイ二乗検定」なども知られていない時代なので、正直にノイズの多いデータを発表していたら「本当にそうだと言いきれるほどのデータか?」で終わってしまい、歴史上メンデルの法則の再発見が遅れてしまっていたかもしれません。

岡田 統計的にデータを分析すると役に立つ、ということは、メンデルのような19世紀の科学者は必ずしも理解していなかったかもしれません。昔の学会発表では、まず自分の説を述べ、その説の正しさを示す最もきれいで代表的なデータを示す、というのがお作法だったこともあるそうです。科学者の間でも、データの扱い方の「常識」って時代によって違いますからね。論文を書くにあたって統計分析をきちんとするようになったのは、フィッシャーの『研究者のための統計的方法』が出版された1925年以降のことです。

西内 『研究者のための統計的方法』、実験のバイブル本ですね。

岡田 そうですね。この本がベストセラーになり、世界中の研究者に読まれたことによって、「ランダムさこそ、真実のデータの証し」と認識が変わっていったのです。

扱うことのできるデータの数は分野によってかなり違う

西内 そういえば、かねてから脳科学分野のデータで疑問に感じていることがあるんです。

岡田 なんでしょう?

西内 装置自体は非常に高度なものを使っているのに、2、3人のサンプルで比較しているものがある、という点です。ありとあらゆる違いが、たった2人の比較から導き出されていて……。

岡田 ああ、非常に稀な疾患の場合などは、多くの人からデータを取れませんからね。そういうときに使うための、1人を何回も測定して行う研究方法が開発されています。アメリカの心理学者で行動分析学を創始したバラス・スキナー(1904〜1990)が確立した、「単一事例実験」です。A-Bデザイン、A-B-Aデザイン、A-B-Cデザインなど目的に応じた研究デザインがあります。たとえば薬を飲んだときと飲まないとき、さらに飲んだときと飲まないとき……というふうに条件変えつつデータの測定を繰り返して、個人の中で意味のある効果と誤差とを分離します。

西内 多数のサンプルをランダムに取る手法とは根本から違いますね。

岡田 ええ、その通りです。もちろん測定対象の数が少ないのだから、結果をどのぐらい一般化できるのかという批判は常にあります。しかし、ある個体からの測定値はたくさん得られるので、こうした研究が蓄積されれば、また研究をたくさん集めてメタ分析をすれば、より確実な知見が得られることになります。最近心理統計の分野では改めて見直されていますね。この方法、医学のほうでは別の名前があると聞いていますが……。

西内 クロスオーバー試験のことでしょうか。クロスオーバー試験は、単一の事例実験ではなくてある程度はサンプル数を増やすかな。けれども、根本的にはよく似ています。たとえば、ランダムにAグループとBグループに分けたあと、Aグループは先にクスリを飲んでもらい、あとでプラセボを飲む。Bグループは先にプラセボを飲み、次にクスリを飲んでもらう。その差分が「効果」だという比較実験ですね。個人差に関するバラつきが制御できる分、サンプル数が少なくても検出力が高くなるという方法なので、岡田さんの話にあった単一事例実験に近いのではないでしょうか。 

岡田 そうですね。また、こうしたデザインは「個人差が小さいだろう」と考えられる分野ではとくに有効です。たとえば視覚。心理学の扱う現象の中では、ものの見え方というのは、個人差があまりないと考えられています。また知識の影響も受けにくい。たとえば、錯視(錯覚)は、「オレは騙されないぞ」といくら頑張ってみても、見えてしまうんです。こうした分野では、1人につき3時間ぐらいずっと実験して、データポイントの数を多くすることはあります。

西内 生物統計学の研究でも、実験動物10匹を2グループに分けて5匹ずつで有意差を出す、というような状況で用いる手法や注意点について、生物実験系の統計学の教科書には、しっかりと書いてある。
 けれども、そのような少数データを扱う際には重要でも、初めから数千人分のアンケート調査や顧客データを分析する人にとっては気にしなくていいことってけっこうありますよね。多くの教科書がそうした「気にしなくていいこと」も細々と書いているせいで、結果として学習のハードルを上げてしまっている側面もあります。数百、数千のデータを扱う人には、これだけわかってれば十分ですよ、という本もあっていいのではないかと思いました。

岡田 たしかに、扱うことのできるデータの数は分野によってかなり違う。それなのに、統計学の本では、その辺はあまり意識されずに書かれているかもしれません。
 そういった実務的な考えで書かれたのが、今回のご縁ができた『統計学が最強の学問である[実践編]』でしたね。たいへん面白く読ませていただきましたし、今日のお話も楽しかったです。ありがとうござました。

西内 こちらこそ、統計学について楽しいお話しができました。ありがとうございました。


  1. 2015/03/05(木) 05:46:29|
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