Doctor G 3 のメディカル・ポプリ

地域医療とプライマリケア、総合診療などに関係したネット上のニュースを記録。医学教育、研修、卒後キャリア、一般診療の話題、政策、そしてたまたまG3が関心を持ったものまで。ときどき海外のニュースも。

11月16日 

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/naniwa/201411/539467.html
連載: なにわのトラブルバスターの「患者トラブル解決術」
過量処方事故、医師の誠意ある対応で信頼回復
 
2014/11/17 日経メディカル

 この1カ月ほどの間に、過量処方に関する患者トラブルの相談が立て続けに2件あった。いずれも医師が薬剤の量を誤って処方に書き込み、それを受け取った院外の調剤薬局も、異常値を見過ごしたまま薬を出してしまった、というケースだった。

 本来であれば、医師が誤った処方をしても、薬剤師が適切に処方箋をチェックし、薬剤の種類や量に疑義があれば処方箋を書いた医師に照会する、という流れになっていなければならない。もちろん、医師が間違えなければそもそも問題は起きないのだが、人間のやることにミスは付きものであり、それをカバーするために薬剤師という専門家がいるわけだ。

 ところが、今回のケースでは、この仕組みが機能しなかった。いったい何が起きてしまったのか。また、こうしたトラブルが起きた場合、医療機関は患者とどのように関係を修復していったらいいのか。その辺りを意識しながら、これから紹介するトラブル事例を読んで頂きたい。

【ケーススタディー】
同じ患者に2回連続で過量処方してしまったワケ

 つい2週間ほど前、私のところに次のようなメールが届いた。大阪北部にある内科・小児科・放射線科を標榜するクリニックのA院長からだった。A院長は女性で、私との面識は全くない。以下に、メールの内容を紹介する。

                   ***

 初めて連絡させて頂きます。(中略)先日、「かぜで咳が激しく出る」と訴え来院した5歳の男児Xを診て、鎮咳薬を処方しました。当院は院外処方です。ところがその男児は過眠症状を起こし、その日の夕方、再び来院しました。私は検査を行った上で髄膜炎の可能性を疑い、近くの病院を紹介し、すぐに診てもらう手配をしました。病院では『熱せん妄の疑い』という見立てで、患児Xは3時間ほどベッドに横になったあと、元気を取り戻し、自宅に戻ったそうです」

 その5日後(午前中)、患児Xは母親と共に再び来院しました。今回も「咳が止まらない」と言うので、前回と同じ鎮咳薬を処方しました。ところが、午後になって、患児の母親から「息子がまた過眠になった」と連絡があり、私は「すぐにX君をここへ連れて来てください」とお願いしました。母親は少し取り乱した様子でずっと泣いていました。

 2度も連続で、しかも受診後に同じ症状が起きるのは何かおかしいと思い、真っ先に薬を疑い、カルテを見ました。それで、私が処方箋に書いた薬の量が少し多かったことに気付いたんです。来院した患児に、私は利尿薬の点滴で薬剤をウォッシュアウトし、その後ベッドで患児を休ませ、院内で5時間様子を観察しました。幸いなことに、患児は元気を取り戻してくれました。

 私は、患児の母親に「私のミスで薬の量を少し多く出してしまいました。本当に申し訳ありませんでした」と何度も謝りました。そして、現在は健康被害がなくても今後何か起きたら誠意を持って対応すること、病院にかかった費用も含め全治療費をお返しすることなどを申し出ました。

 すると、母親から、「先生が今おっしゃった内容を文書にして渡して頂きたい」と言われました。私はそれに応えたいと思い、文章を作ってみました。内容について、アドバイスを頂けたらありがたいです。

                   ***

 私はこのメールを最初に読んだ時、「おやっ、変だな」と思った。なぜ誤った処方が、2回連続でそのまま実行されてしまったのだろうか。

 冒頭でも触れたように、医師が勘違いをして誤った処方をしても、チェック機能の最後の砦として調剤薬局の薬剤師がいる。ところが、そのフェールセーフの仕組みが、2回連続で機能しなかったことになる。つまり見落としが起きたわけだ。過量処方の責任の一端は、調剤薬局にもあるのではないだろうか。

 その辺りの事情を確かめるべく、私はA院長と連絡を取り、事情を聞いた。すると意外な答えが返ってきた。

 「なぜ過量処方が分からなかったのかについて、Xに薬を出した調剤薬局に問い合わせたところ、処方量の異常値を知らせるレセコンのアラームを外していたことが分かりました。とは言っても、やはり悪いのは、処方箋を書いた私なんですが……」

 なるほど。それで、薬剤師が医師の処方ミスを見逃してしまったわけだ。しかも、アラームを解除した理由が「音がうるさいから」だったというから、あきれてしまう。医薬分業の下では、処方箋があればどこの調剤薬局でも薬を受け取ることができるが、誤投薬のフェールセーフの役割を果たさない薬局がもし増えたら、薬を受け取る患者はもちろん、処方箋を出す医師も大きなリスクにさらされる。

 その後、A院長から、患者に提出する謝罪文が送られてきた。文面は十分誠意の伝わるもので、これをベースに手直しすれば使えそうだった。

【尾内流解決術】
再発防止策を具体的に示す

 まず、今後のことについては、患者に手渡す書面に、「万が一、今回の過量投与に起因する健康上の問題が場合には、誠意を持って対応いたします」と書いておけば問題ないだろう。

 A院長が書いた文面を読んで私が最も気になったのが、「今後二度とこのような事態が起きないよう、再発防止に向けて最大限努力して参ります」という部分だった。いくら「最大限の努力」と言っても、抽象的すぎて捉えどころがない。精神論ではミスの再発を防ぐことはできない。不信感を抱いている相手を少しでも納得させるのに必要なのは、「最大限の努力」として具体的に何をするのかである。

 これらの指摘をしてA院長に戻したところ、「小児の薬剤に関しては約束処方を作成し、かつ体重と連動させた処方番号をつけて単純化し、必ずスタッフとダブルチェックするようにします」と付け加えられていた。また、調剤薬局は別途、謝罪文を作成して患児の母親に提出することになった。

 次に、書面は、Aクリニックと調剤薬局の連名となっていたが、責任の所在をはっきりさせるために別々に書いて渡した方がよい。調剤薬局に反省を促すためにもそうすべきだ。

 最後に、今回の経緯を書面にまとめて、地区の薬剤師会と保健所に一応報告しておいた方がいいのではないか、と伝えた。

 A院長は私とやりとりした日の夜、早速、菓子折を持って患児Xの家を訪ね、謝罪文を手渡したほか、治療費、通院にかかった交通費、母親はパートを休んで通院に付き添ったので日当相当額を勘案してお金を包んだ。

 母親は突然の来訪に驚くと共に「わざわざすいません」と恐縮し、患児のXも元気いっぱいに歓迎してくれた。そして、「今後ともこの子をよろしくお願いします」との言葉をかけてもらえたという。

【トラブルの教訓】
杓子定規な対応は逆効果になることもある

 通常、「一筆は頼まれても書かない」「お金で解決しない」はトラブルの鉄則とされている。しかし、あくまでも「通常」である。相手が悪意のある人物だったら、「通常」通りの対応で全く構わない。

 しかし、今回の場合は違う。A院長から話を聞く限り、患者の母親とA院長の信頼関係は、トラブルがあったにもかかわらず保たれていると私は判断した。患者の母親は、自分が子どもの時からA医院にかかっており、家族全員が頼りにしているまさにかかりつけのクリニックだった。そうした場合、仮に「文書は出せません」とこちらが言った場合、それが原因で信頼関係が揺らぎ始める恐れがある。しかも、このケースでは明らかに、医療機関側に落ち度があるので、お金の支払いも当然必要になってくる。

 トラブルの現場では、このようにマニュアル通りにはいかないことが多い。確かに、トラブル対応の基本原則はある。それを、相手やトラブルが起きた状況や背景に照らして対策を考える、というプロセスが欠かせない。そのプロセスを抜きにして、機械的に「Aが起きたらBをする」という対処法は危険だということを心に留め置いて頂きたい。

連載の紹介
病医院を構えている限り、いつどんな患者がやって来るかわかりません。いったん患者トラブルが発生し、解決に手間取ると、対応する職員の疲弊、患者の減少という悪循環を招き、経営の土台が揺らぎかねません。筆者が相談に乗った事例を紹介しながら、患者トラブル解決の「真髄」に迫ります。

著者プロフィール
尾内康彦(大阪府保険医協会事務局次長)●おのうち・やすひこ氏。大阪外国語大学卒。1979年大阪府保険医協会に入局。年400件以上の医療機関トラブルの相談に乗り、「なにわのトラブルバスター」の異名を持つ。著書に『患者トラブルを解決する「技術」』(日経BP社)がある。


  1. 2014/11/17(月) 06:08:02|
  2. 未分類
  3. | コメント:0
<<11月17日  | ホーム | 11月15日 >>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する