Doctor G 3 のメディカル・ポプリ

地域医療とプライマリケア、総合診療などに関係したネット上のニュースを記録。医学教育、研修、卒後キャリア、一般診療の話題、政策、そしてたまたまG3が関心を持ったものまで。ときどき海外のニュースも。

6月1日 

http://www.nnn.co.jp/news/140601/20140601009.html
求ム!薬剤師 県内医療機関、半数が「不足」
2014年6月1日日本海新聞(鳥取)

 鳥取県内の医療施設や薬局で薬剤師不足が深刻化している。県の調査では、アンケートに回答した病院、薬局の半数が不足感を示した。“県外産″薬剤師のUIJターンに頼らざるを得ない現状に、医療関係者の間に危機感が強まっている。

医療現場で大きな役割を担う薬剤師。需要は増す一方だが、供給が追いついていない=岩美町の岩美病院
■「反応ゼロ」
 「このままでは将来の医療サービス維持に懸念が残る。医師、看護師の施策に次ぎ、薬剤師確保にも本腰を」

 5月上旬、県と岩美町幹部の意見交換会で、岩美病院の平井和憲事業管理者が訴えた。同病院の薬剤師2人の退職予定に伴う県内外での求人には、問い合わせすらなかったという。

 県が昨年10月に病院・診療所・薬局に実施した調査では、264施設中124施設が「薬剤師が不足」と回答した。配置希望人数と実際の配置人数との差は228人の不足。前年調査から83人増加し、145施設が2018年度までの薬剤師数について「不足」または「やや不足している」と答えた。

 これまでの調査では不足感の強弱や切迫感は伝わらなかったという。県医療指導課は「今後の調査で精査」とするが、20年近く正規雇用の薬剤師が1人という日南病院(日南町)の木山圭吾薬剤長は「都会、地方都市部が充足しないと中山間地には目が向かない」と地域間格差を指摘する。

 県立中央病院(鳥取市)の吉村卓子薬剤部長も「鳥取県では新卒採用が難しいのでは」と困惑。薬剤師が不足すると、服薬指導の不徹底や、医師や看護師との連携不足などを招き、医療の質を下げることにもつながる。県は人材確保のため、来年度から薬剤師(調剤コース)の採用募集年齢を35歳から59歳に引き上げることを決めた。



http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03078_01
家族と地域の力を引き出す実践を共有
第5回日本プライマリ・ケア連合学会開催

週刊医学界新聞  第3078号 2014年6月2日

 第5回日本プライマリ・ケア連合学会が,5月10-11日,松下明大会長(岡山家庭医療センター奈義ファミリークリニック)のもと,岡山コンベンションセンター他で開催された。「家族の力と地域の力――これからのプライマリ・ケアの姿を求めて」がテーマに掲げられた今回,全国から約4000人の医療者が参加。本紙では,家族志向のアプローチの実践法を解説した講演と,米国家庭医療の歴史から日米双方の家庭医療の未来を展望した講演の模様を報告する。

家族関係が大きな影響力を持つ

 患者とその家族は相互に強い影響を与えあっており,この影響を考慮に入れずして治療を実践することは難しい。特別講演「家族志向のプライマリ・ケア:米国の視点から」(座長=松下氏)では,Thomas L. Campbell氏(ロチェスター大)が,健康と疾患の管理における家族志向のアプローチの重要性を解説。自身の経験に基づいた方法論を惜しみなく紹介し,家族志向のアプローチの実践を会場へ呼び掛けた。
 まずCampbell氏は,G. Engelが提唱した「生物・心理・社会モデル」[PMID:847460]に基づき,患者を生物医学的な観点のみでとらえるのではなく,その背景に存在する家族や地域,文化にも目を向けることが必要と指摘。中でも家族は,患者の健康に関する考えや生活習慣などを決定付ける存在として,あるいは重篤な病気・健康問題を持つ患者とともに苦しむ存在として,治療を進める上で大きな影響力を持つとし,家族関係を踏まえた医療を提供する重要性を訴えた。

 では,特に家族関係に注意深くかかわっていくべきタイミングはいつなのだろうか。氏は「遺伝カウンセリングなどの検査結果から診断名を伝えられる場合」「家族が慢性疾患患者の介護にかかわる場合」「終末期において意思決定が必要な場合」といった状況を,必ず介入すべきタイミングとして列挙。こうしたケースは大きなストレスや混乱,葛藤が生じやすく,家族関係が危険な状態に陥りやすい。しかし,家族全体に対する適切な介入により,患者・家族の不安を和らげ,治療への積極的な参加を促せるのだという。


特別講演「家族志向のプライマリ・ケア:米国の視点から」では,映画『Dad』(邦題:『晩秋』)のストーリーを基に家族面談のロールプレイが行われ,Campbell氏が米国流の家族志向のアプローチを披露。松下大会長は患者役を熱演した。 また,氏は家族が同席する面談時の医師の心構えについても言及。(1)家族一人ひとりとパートナーシップを築く,(2)特定のメンバーに肩入れせず,家族内に意見の不一致がある場合は個々の価値観に理解を示しつつも同意は避ける,(3)全員の考えや意見を収集する,(4)家族を教育し,治療プランに参加させる,の4点を基本姿勢として示した。
 患者・家族の思いを引き出す上で有効なフレーズとしては,患者側に対するものは「家族からどのような支援があると助かると思われますか」,家族側に対するものは「患者さんの病気についてどのように手助けできると思いますか」「患者さんがおっしゃったことについて,何か付け足したいことはありませんか」などを紹介。さらに,こうして得られた一連の情報を家族図にまとめることを推奨した。「訴える症状の原因が不明瞭な場面でも,家族図を見れば患者に与えられている家族の影響が浮き上がり,患者の見方に変化が生まれる」と述べ,診療の質に深みをもたらすことを強調した。

創始者が語る「米国家庭医療の誕生」

 John J. Frey氏(ウィスコンシン大名誉教授)は,STFM(家庭医療教育協会)会長,「Family Medicine」誌編集長なども務めた,米国家庭医療の創始者の一人である。氏は「The story of family medicine in the U.S. and what we can learn from each other」と題する特別講演(座長=名大・伴信太郎氏,大阪家庭医療センター西淀病院・中山明子氏)において,米国家庭医療の成功と失敗の歴史を振り返るとともに,将来に向けて日米双方が学ぶべきことを提起した。

 1950年代の米国では,専門分化の波に乗ってスペシャリストの専門研修が充実する一方,ジェネラリストは1年間のインターンシップを経てすぐに開業する状態が継続。GP(General Practitioner)への敬意は失われ,その数は減少していった。同時期に医学教育にも変化が起き,教育の中心は診療所から病院に移行。学生数は増加したが,専門医の適切な分布は考慮されなかった。

 こうしてGPは,ヘルスケア・システムにおける中核的役割を失っていく。しかしやがて,過度の専門分化により「医療の入り口」が失われたことで,その弊害が市民に認識されるようになった。医学部は地域のニーズに対応すべきという声が市民の間で高まり,政治家への働き掛けが強まった。これを受けて,家庭医療の先駆者らによる変革が1960年代より始まる。そこで創設されたのが,(1)総合診療のための社会的活動組織(AAFP;米国家庭医療学会),(2)認定機関(ABFM;米国家庭医認定委員会),(3)学術団体(STFM)だ。Frey氏はこの経験を踏まえて,「3つが別個の組織である必要はないが,組織的要素としてこれら3つは欠かせない」と,日本への提言を行った。

 続けて,家庭医療の創設に重要な役割を果たしたWillard report(1966年)を紹介。この報告書では,家庭医療の理念を示すとともに,研修プログラムにおいては,地域のニーズや資源,若手医師の興味が多様であることから「柔軟性に欠ける標準化は避けるべき」と強調されている。その後,米国家庭医療は柔軟性を失ってしまった時期もあったが,近年はWillard reportを再評価する動きがあるという。

 「旅の終わりは,振り出しに戻ったときに初めて知る」。Frey 氏による講演の後半は,詩人T.S.エリオットの言葉を皮切りに,ヘルスケア・システムの未来を展望した。地域から病院に移されたヘルスケアの場は,再び地域に戻りつつある。かつては「小さな商店主のような存在」だった家庭医は,大集団のマネジャーの役割を果たす。その際,不朽の価値に忠実である一方で,変化を拒絶してはならない。健康を,地域レベルで幅広くとらえることが重要である。こうした未来をひらくためには,日米両国ともにチャレンジが必要であり,中でも「病院ベースから地域ベースへの」「個人の健康に加えて集団の健康」を扱う教育改革が不可欠かつ緊急である。また,集団をマネジメントするためには,ITの活用や社会的なサービスとの連携が求められると提言した。

 最後に,家庭医療に携わる人へのアドバイスとして,過去のしがらみや偏見にとらわれずにオープンマインドを保つこと,患者や地域のために自分たちの活動があるという本質を忘れないことなどを挙げ,講演を閉じた。



http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03078_02
【寄稿】
胃ろうをめぐる問題と診療報酬改定
鈴木 裕(国際医療福祉大学病院 副院長/外科上席部長)

週刊医学界新聞 第3078号 2014年6月2日

 栄養補充が必要な終末期非がん患者に積極的な延命治療,とりわけAHN (Artificial Hydration and Nutrition;人工的水分・栄養補給法)が必要か否かの議論が,昨今さかんになってきた。その背景には,日本が世界に類を見ない超高齢社会を迎えたこと,日本人の死生観が少しずつではあるが変わり始めていることが挙げられる。

 今では到底考えられないが,日本の1950年代の平均寿命は50歳代であった。つまり,医療の対象となる主な年齢層は,40-50歳代の壮年者や若年者であったのである。したがって,医療行為が働き盛りの人たちを救うことに直結していたと考えられる。一方,男性80歳,女性86歳まで平均寿命が延びた現在においては,医療の対象が高齢者にシフトし,生存期間を延ばすことの医学的・倫理的意味が問われ始めた(しかし一方で,高齢者であるとか非生産者であるという理由で医療介入を意図的に終わらせようとする風潮に関しては,より厳格な倫理観と死生観が求められるのは当然である)。このように日本は,世界に先駆けて特に高齢者の生と死の問題がクローズアップされ,社会的な関心が高まっているのである。

 この超難題を議論している最中に,2014年度診療報酬改定が開示された。胃ろうに関する改定内容は,過去に経験のないほどのインパクトがあり,ほとんどの医療者は少なからず困惑しているのが実情と思われる。そこで今回,胃ろうに関する診療報酬改定についてどのように解釈すべきかを,私論も含めて解説する。

「漫然と胃ろうをつくる」ことに歯止めをかけた今回の改定

 胃ろうに関する2014年度診療報酬改定の骨子は,表に集約される。これには以下のような意図がうかがわれる。

*診療報酬の引き下げで,胃ろうの乱造を防ぐ。
*術前に嚥下機能を評価した上で胃ろうをつくる,という治療の流れを作る。
*術前に嚥下機能評価を行うことで,患者や家族へより客観的な説明と同意を促す。
*術後の嚥下機能訓練を十分に行わない施設の診療報酬を減算することで,嚥下訓練を積極的に行うようにする。
*術後に嚥下機能を評価し,少しでも多くの患者の経口摂取を促す。

表 胃ろうに関する2014年度診療報酬改定の骨子
1)胃ろう造設術に関する診療報酬の見直し(10070点→6070点)と施設基準の新設
*胃ろう造設術の診療報酬が10070点から6070点に引き下げられた。
*施設基準としては,以下の(1)または(2)を満たすこと(満たせない場合には,2015年4月以降,点数が2割減算される)。
 (1)胃ろう造設術件数が年間50件未満(頭頸部悪性腫瘍を除く)であること
 (2)胃ろう造設術件数が年間50件以上(頭頸部悪性腫瘍を除く)の場合は,(ア)および(イ)を満たすこと
  (ア)術前に嚥下機能検査を全例実施
  (イ)胃ろう造設・鼻腔栄養患者の経口摂取回復率35%以上
2)胃ろう造設時嚥下機能評価加算(2500点)の新設
*胃ろう造設前にVF(嚥下造影検査)またはVE(嚥下内視鏡検査)を行い,検査結果に基づき胃ろう造設の必要性や摂取機能療法について患者または家族に情報提供すれば算定できる。ただし,VE実施者は関連学会等が開催する所定の研修を修了する必要がある。
*VFまたはVEは別に算定できる。両検査の実施を他の医療機関に委託した場合も算定可能。
【筆者註】今回の診療報酬改定では,胃ろう造設術の点数削減分は,胃ろう造設時嚥下機能評価でほぼ相殺されたかたちをとっているのが特徴と言える。具体的には,胃ろう造設にあたり,胃ろう造設時嚥下機能評価加算2500点とVEなどの点数600点を加えれば,6070点+2500点+600点で胃ろう造設の総点数は9170点となる。
3)経口摂取回復促進加算(185点)の新設
*胃ろう/鼻腔栄養患者に対して実施した場合に算定。従来の摂食機能療法(1日185点)に加え,新たに算定ができるようになった。
*施設基準としては,専従の常勤言語聴覚士が1人以上,経口摂取回復率35%以上が必要。

 救急病院に搬送された高齢者に対して,誤嚥徴候があればとりあえず胃ろうをつくり,人間の最大の快楽である「食すること」を禁止する風潮は,確かにあった。また,認知症や意識障害で意思疎通ができなくなった寝たきり高齢者を5年,10年と生かし続けることの是非は,これまでも議論されてきた。回復の見込みがあるにもかかわらず,嚥下機能の評価が行われずに,胃ろうからの栄養だけで生命を維持している患者がいる現実もあった。こうした背景を踏まえ,「漫然と胃ろうをつくる」ことに歯止めをかけようという趣旨であろう。

新たに生じた懸念や課題

 ただし,今回の診療報酬改定に関しては,懸念や課題が生じた点もある。以下,3点を指摘する。

1)胃ろう造設術の極端な見直しが本末転倒な事態を招くことにならないか?

 胃ろうは,消化器が機能していて,口から長期に物を食べられない患者への水分・栄養補給法として優れていることは疑う余地もない。今回の極端な見直しによって,「胃ろう造設術件数が50件を超えると厳しい条件が課せられるため,改善する見込みの少ない患者に造設を控える」「本来ならば胃ろうが有効な患者に鼻腔栄養や中心静脈栄養を行う」といった本末転倒な事態を招く懸念がある。これらは臨床現場においては重大な問題であり,十分な再評価を行った上で,次回の診療報酬改定での適正化が望まれる。

2)胃ろうの目的を分けて考えるべき(「治すための」胃ろうと「緩和するための」胃ろう)

 胃ろうの存在意義には,「治すため」と「緩和するため」の2つがあると筆者は考える。「治すための」胃ろうの対象は,脳出血などの後遺症で積極的なリハビリテーションを行えば相当の確率で改善する「治る可能性の高い患者群」で,「緩和するための」胃ろうの対象は,積極的にリハビリテーションを行っても,完全には改善しない,もしくはほとんど改善しない「治る可能性の低い患者群」である。

 この2つの比率の正確なデータはないが,平成21年度老人保健事業推進費等補助による「高齢者医療および終末期医療における適切な胃瘻造設のためのガイドライン策定に向けた調査研究事業」の結果から推測すると,一般病院で嚥下機能が完全に回復する患者は5%前後であった1)。この研究は,後ろ向き研究ではあるが,過去5年間の900例以上の患者の長期アウトカムの検討であることから,相当の確かさで医療現場を反映していると思われる。

 今回の診療報酬改定では,「治すための」胃ろうに照準が当てられ,嚥下機能評価やリハビリテーションの重要性が示された。筆者は,この英断に疑う余地を持たない。しかし,胃ろうが適応となる患者の大半は,完全には治らない(生涯後遺症と付き合わなければならない)人々であることも真実である。

 胃ろう造設術件数が年間50件以上の施設は,病院内の患者だけではなく,地域の病院や開業医からの紹介,いわゆる地域連携の一環として胃ろう適応患者を積極的に受け入れているところであり,積極的なリハビリテーションで改善する可能性に乏しい患者が少なくない。その多くは,経鼻胃管の苦痛の軽減や,施設や在宅への移行目的での紹介である。積極的に嚥下機能回復に取り組んでいる回復期リハビリテーション病棟で,経口摂取回復率35%以上をクリアすることは可能かもしれないが,地域の一般病院の胃ろう患者に,回復率35%の壁は何とも高過ぎる。「治る可能性の高い疾患群」と「治り難い患者群」を同じ土俵で評価しては,治り難い患者の受け入れを敬遠せざるを得なくなる。

3)VE検査の研修体制の充実に向けた関連学会の連携が急務

 胃ろう造設時嚥下機能評価の重要性は十分に理解でき,胃ろうを造設する施設で日常的に行われることを筆者は切望する。しかし,VE検査は誤嚥や窒息のリスクを伴う検査であり,間違っても見よう見まねで実施するのは危険である。

 VE検査は,耳鼻科や嚥下リハビリテーション科,消化器内視鏡科,歯科など多くの診療科がかかわっており,関連学会等が実施する所定の研修を修了した者が実施することになっている。ただ,比較的新しい検査法であり,医師の経験は少ない。2015年3月31日までVE検査に関する研修の経過措置がとられるが,その間に胃ろうに携わる医師へのVE検査の啓発は必須である。今後,極めて短い時間内で,各学会・研究会は従来の常識を超えた連携を結ばなければならない。



 今回の診療報酬改定はいくつかの問題点を有しているが,今後の日本における高齢者医療の方向性を色濃く反映していることも確かである。医療者の冷静な対応が望まれる。

◆参考文献
1)Suzuki Y, et al. Survival of geriatric patients after percutaneous endoscopic gastrostomy in Japan. World J Gastroenterol. 2010; 16(40): 5084-91. [PMID: 20976846]

鈴木裕氏
1987年慈恵医大医学部卒。同大外科学講座講師などを経て,2008年より国際医療福祉大病院外科上席部長(13年より副院長を兼務)。PEG・在宅医療研究会常任理事,NPO法人PEGドクターズネットワーク(PDN)代表理事。



http://mainichi.jp/shimen/news/20140602ddm001040148000c.html
バルサルタン:臨床試験疑惑 通報の医師「死んでいる患者調べたのか」 ありえない値、捏造直感
毎日新聞 2014年06月02日 東京朝刊

 降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験疑惑で、医学的に測定されないはずの血液に関するデータが論文にあることに一人の医師が気付き、日本循環器学会にメールで通報したことが、疑惑表面化へのきっかけになっていたことが分かった。この通報を受けた学会が研究責任者に問題があると認めさせ、その後の各大学の調査につながっていた。

 「死んでいる患者を相手に臨床試験をしたのか」。データのつじつまが合わないことに気付いた興梠(こうろ)貴英医師は「この論文は捏造(ねつぞう)かもしれない」と直感した。2012年9月、東京大病院の研究室。目の前には「コメントをもらえないか」と論文を持ってきた販売元の製薬会社ノバルティスファーマ(東京)の営業担当の男性社員がいた。

 京都府立医大チームによるその論文は、「バルサルタンは糖尿病の高血圧患者の脳卒中などを予防する効果が大きかった」と結論付けていた。循環器内科が専門の興梠医師には興味深い論文だった。

 だが、読み進めるうちにあるデータが目に留まる。「糖尿病でないはずのグループに、糖尿病患者が何人も交じっている」。血中の電解質の値が低すぎたり高すぎたりする患者らも目に付いた。データが真実であれば「死んでいる」患者を調べたことになる。それほどでたらめに思えた。

 府立医大チームはバルサルタンの臨床試験を経て最初の論文を09年に発表。試験には3000人以上の患者が協力しており、膨大なデータが残る。その後もどんな効果があるかを発表し続けた。ノ社はこれらを医師に宣伝し、バルサルタンを累計売り上げ1兆円の大ヒット薬に育てた。

 興梠医師は論文を読んだ翌月の12年10月、不正を疑う電子メールを、論文を載せた日本循環器学会誌の編集部に送った。学会は12月、ノ社に試験への関与をただしている。ノ社幹部は「一切関与していない」と強く主張したという。学会は続いて試験責任者の松原弘明教授(当時)に説明を求めた。松原氏は「データ集計の間違いに過ぎない」と反論したが、学会幹部は納得せず、その場で撤回が決まった。

 年が明けると、欧州心臓病学会誌が詳しい理由を明かさぬまま、府立医大チームの関連論文を撤回した。【河内敏康、八田浩輔】



http://mainichi.jp/shimen/news/20140602ddm010040004000c.html
医薬スキャンダル:バルサルタン・ショック ツケ、国民医療費に ゆがんだ「薬とカネ」(その1)
毎日新聞 2014年06月02日 東京朝刊

 医学界と製薬業界への信頼を失墜させたバルサルタン臨床試験疑惑は、製薬会社ノバルティスファーマが試験への不透明な関与を認めて謝罪してから1年がたった。この間、臨床試験をした5大学のうち4大学がデータ操作の可能性を認めたことで疑惑はさらに深まり、広がった。国や学界、製薬業界は、再発防止のために制度を抜本的に見直した。日本の医薬研究史に残るであろう不祥事はいかにして表面化したのか。どこにどんな問題が潜んでいたのか。約2年間にわたり「薬とカネ」の取材を続けてきた記者が報告する。【河内敏康、八田浩輔】

 ◇「医学村」論文への疑問放置

 降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)を使って実施した臨床試験の論文は、東京慈恵会医大、滋賀医大、京都府立医大、千葉大、名古屋大の順に発表され、程度の差こそあれ、どれもバルサルタンがよい薬だと結論付けていた。その陰で、慈恵医大が2007年に論文を世に出した直後から、少なくない専門家が不信を表明していたが、疑問は放置されていた。

 09年10月、日本高血圧学会が臨床試験の評価をテーマにシンポジウムを開催していた。東京都健康長寿医療センターの桑島巌(いわお)医師は壇上で「医師がデータを操作できる手法を使い、あり得ない結果を導いている」と、府立医大などの論文を鋭く批判した。すると、試験責任者の松原弘明教授(当時)が客席から立ち上がり「研究者仲間のチェックを受けている。なぜ文句を付けるんだ」と激高した。

 桑島医師の訴えを会場の多くの医師が聞いていた。だが一つの意見に過ぎないと受け止められ、調査されることはなかった。

 その2年半後の12年4月。今度は京都大病院の由井芳樹医師がバルサルタンの臨床試験論文に批判の声を上げる。「血圧のデータの統計的な傾向が、同様の試験をした海外の論文と異なっていて、おかしい」とする旨の論文を発表したのだった。「不正」と明示こそしていないが、研究者が読めば、不正を疑っていることが分かる厳しい内容だった。

 ノバルティスファーマの看板商品と、それを後押しする有名大学による大規模臨床試験。そこに再び持ち上がった疑念。記者は複数の統計学者らに意見を求めた。だが「確かに不自然だが、100%あり得ないとまでは言い切れない」と慎重な意見が多かった。

 <A 日本循環器学会は12年末、論文のデータのでたらめさに気付いた興梠(こうろ)貴英医師からの「通報」を受けて、府立医大の論文撤回に踏み切った。>

 だが、その姿勢は極めて慎重だった。撤回理由を「データ解析に多くの深刻な誤りがあるため」としか公表せず、学会は「誤り」の詳細を明かそうとしなかった。

 このころ、興梠医師は日本高血圧学会の評議員の知人から「府立医大の松原先生は高血圧学会内に友人が多く、影響力が大きい。誰から攻撃を食らうかわからない。論文にして公表するのはやめろ」とアドバイスされたという。

 その高血圧学会は、心臓や血管などの循環器分野の中で特に高血圧をテーマにする専門家集団だ。現場の医師に向けた診療ガイドラインで慈恵医大の試験論文を引用していた。由井医師の批判論文が出た3カ月後には、医療専門誌のノ社の記事広告に学会幹部らが登場。医師同士の座談会を載せており、幹部らはその中で由井医師への反論を語り「疑念は払拭(ふっしょく)された」と強調した。

 研究者は、学術誌で論文を発表したり学会発表したりして、意見が異なる研究者と論争する。科学を進展させるためのこのシステムは、不正を暴くことを目的にしていない。バルサルタンの臨床試験を巡る疑問も何度か論争の対象になったものの、それは医学コミュニティーの内側にとどまり、6年が経過した。

 それでも、ともかく事態の歯車を回した循環器学会に比べ高血圧学会は対照的にみえる。日本医学会のある幹部は「高血圧学会幹部は、ノ社の広告に登場してあの薬をさんざん薦めてきたからね……」と冷ややかだ。循環器学会の関係者は「当方の幹部は広告に加わらず、ノ社に取り込まれていなかったことが大きかった」と振り返る。

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 ■データ不正防止への取り組み

 国から医薬品としての承認を得るための「治験」には薬事法に基づく厳しい規制がある。一方、市販後の臨床試験には強制力の無い指針しか無かったが、国はデータ操作を防ぐため、今年5月にこの指針の改定案をまとめた。カルテと論文に使う解析用データとの食い違いを発見するため、試験の途中で確認する「モニタリング」と試験終了時に調べる「監査」を導入する。時間が経過してからでも調べられるよう、データの長期保存も義務付ける。法の網をかぶせて、罰則を設けるかについても議論を始めている。

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 ◇臨床試験、製薬会社頼み

 13年2月にノ社社長の定例記者会見が東京で開かれた。直前に、毎日新聞などが府立医大チームの論文が撤回されたと報じていた。「ノバルティスは論文を宣伝に使ってきたが、試験に関わっていないのか」との質問に、三谷宏幸社長(当時)はこう言った。「あの論文が宣伝に使えなくなったのは残念だ。ただ、我々は試験のやり方などに直接関与できない。社員の試験への関与も全くゼロだ」

 しかし「統計解析をしたのはノ社の社員だ」とのうわさが、実名と共に医療関係者の間に広まりつつあった。ただ、論文にある研究者たちの肩書欄のどこにも「ノバルティスファーマ」は見当たらず、統計解析の担当者の所属は「大阪市立大」と記載されている。

 3月、記者は三谷社長に単独取材する機会を得た。場所はノ社本社の一室。記者がうわさされる人物の名前を挙げると、三谷社長は「彼は会社の人ですよ。統計のことをよく知っていて、日本の財産だ」とよどみなく答えた。ではなぜ論文に社名が出ていないのか。「それは大阪市大の非常勤講師を兼任しているからです。専門家の立場から、どんな統計方法がいいかについてアドバイスしたのです」。そう説明する姿は誇らしげにさえ見えた。

 臨床試験をする医師を製薬社員が手足のようになってサポートすることは、程度の差こそあれ横行しているとささやかれるが、表に出ることはなかった。ある製薬会社の営業担当は言う。「手伝わせてもらえるのは研究者からの信頼が厚い証拠。社内での評価にもつながる。自社製品のよい試験結果が出れば薬の宣伝に使える」。ただ、製薬会社の関与が分かれば、結果が偏っていると疑われかねない。

 ノ社から府立医大チームへの「カネ」にも疑問があった。近年、外部から資金援助を受けた研究は後から疑惑を招かぬよう、論文にそのことを明記するルールになっている。府立医大の論文に資金提供を受けたとの記載はないのに、記者が情報公開請求によって入手した府立医大の過去5年分の資料によると、ノ社から松原教授の研究室へ年500万〜4500万円超、総額1億円を超える「奨学寄付金」が渡っていた。

 会社組織である以上、現場の独断で支出できるはずはなく、組織の意思があったはずだ。ノ社のある元営業社員は「尋常ではない金額だ。自分の経験では、一つの研究室に年100万円を出すのも難しかったのに」と驚きを隠さなかった。

 三谷社長は取材に対して奨学寄付金を支払ったと認めたが、「寄付は大学を通じてであり、試験を行う研究室に直接ではない」と、浄財であることを強調した。この説明はウソではない。だが、奨学寄付金は提供者が渡したい研究室を大学に対して指定する「ひも付き」にできる。

 統計解析という臨床試験の根幹に関わる部分に社員を参加させながら、そのことを明かさず、「医師からよい薬と証明された」と宣伝することが許されるのか。府立医大チームはノ社からの「寄付」を論文で隠してきた。肝心の科学性は学会誌から「データ解析に重大な問題がある」と否定されている。

 <B 毎日新聞は13年3月28日朝刊で「製薬社員も名連ね」「1億円の寄付金/製品のPRに利用」の見出しと共にこの問題を報じた。府立医大チームの論文撤回はこれを境に「薬とカネの疑惑」となった。>

 これ以降、慈恵医大、滋賀医大、千葉大と次々に調査に乗り出すことを表明していく。追い詰められたノ社は5月22日「社員が加わっていたことが臨床試験に疑念を生じさせた。不適切だった」と非があることを初めて認めた。だが記者会見はせず、調査結果の要旨を自社のホームページに掲載しただけだった。

 その2日後。日本医学会が異例の記者会見を開く。「企業が関与したのに、それが隠されていたとしたら、医学研究倫理だけでなく、社会倫理からおかしい。許し難い」。強烈な批判だった。日本医学会は約120の国内の医学系学会を束ねる存在だ。さらに5日後、日本医師会は「疑惑が一般紙等で報道されている。医療への信頼を失墜しかねない重要な問題だ」と談話を発表。各大学、学会に自浄作用を示すよう求めた。

 ノ社はそれでも「大学の了解がなければ教えられない」と、5大学への寄付金の金額を示そうとしなかった。明らかになるのは8月。疑惑を受けて設置された厚生労働省の有識者検討委員会が強く報告を求めたからだった。総額は11億3290万円に上り、府立医大には試験開始からすべての論文が発表されるまでの03〜12年に、3億8170万円が渡っていた。ノ社は「寄付金が臨床試験に使われることを意図していた」と説明した。浄財ではなかった。

 また、後の大阪市大の調査で、「非常勤講師」の肩書を使っていた社員が在籍11年間に講義したのは、院生向けの1回だけだったことが判明する。社員は「各大学の研究者やノ社にとって都合がよかったと思う。自分も便利だと思った」と述べたという。

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 ■製薬会社と臨床試験

 国立大病院長会議は2013年9月、「データ解析は企業から独立して行う体制が必要」と提言した。今年3月には日本学術会議の分科会が、大規模臨床試験の実施には、業界からの寄付金をプールし、第三者組織が公募で選んだ医師に配分することを政府などに提言。同4月、日本製薬工業協会が、▽臨床試験の中立性が疑われるような支援を社員がしない▽自社の薬を対象とした臨床試験への奨学寄付金の提供を禁止する−−と加盟社に通知した。毎日新聞が集計した製薬72社の奨学寄付金(12年度)は、346億円。臨床試験は国内で年5000件近く行われている。

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 ◇学内調査の限界あらわ

 <C 「大変な迷惑、心配をかけたことをおわび申し上げます」「明らかなデータ操作があったが、だれがしたのかは特定できなかった」。13年7月11日、京都府立医大の吉川敏一学長らは記者会見を開き、深々と頭を下げた。不信の目が注がれてきた論文に不正があると、初めて大学が認めた瞬間だった。しかし会場を埋めた記者は納得できない。「もっと詳しく調べられないのか」「大学は何をしていたのか」。質問は2時間続いた。>

 この発表までの過程で重要な役割を果たした文書がある。日付は13年2月15日。「報告書を拝見しますと、元データに踏み込んで調査がなされたのか不明です」。日本循環器学会の永井良三代表理事(当時、自治医大学長)と下川宏明編集委員長(東北大教授)の連名で、府立医大の吉川学長に宛てたものだ。文書は続く。「本件の調査権は貴学にありますので、詳細かつ公正な調査を実施していただきたい」

 学会は12年末に府立医大の松原教授らの論文を撤回すると、大学側に調査を求めていた。すると大学は13年1月31日、「『故意の捏造(ねつぞう)』とは認められなかった」と報告してきた。先の文書はこれに対する学会側の返答だった。学会は、データの誤りの数や程度のひどさから「医学論文として成り立たない」と判断しており、こんな報告を受け入れるわけにはいかなかった。「ミスの割には結論がバルサルタン優位に偏り過ぎ、データ解析に社員の関与の可能性が指摘されていた」(学会幹部)

 内幕を府立医大関係者が補足する。「内部調査はとても公平性があるものとは言えず、『単純ミス』という当事者の主張をうのみにしただけ。循環器学会が怒るのも当然で、大ごとにしたくないための対応と疑われても仕方がなかった」。大学が内部調査を命じた3教授のうち2人は松原教授と共同研究をした間柄だった。

 「外圧」で本格調査を余儀なくされた府立医大の迷走は続く。当初、調査の責任者に任命されたのは、ノ社が府立医大に開設する寄付講座の教授だった。しかし、ノ社が5月末に臨床試験に社員が関与していたと認め「会社ぐるみ」との批判が高まると、この教授を含む3人がノ社との金銭的なつながりを理由に調査メンバーから降りることになった。

 7月30日には慈恵医大が「データ操作があった」と記者会見で発表し、騒ぎは拡大する。ただ、操作した人物にたどり着けない。文部科学省は研究者に不正の疑いが生じた場合は、所属組織に公正な調査をするよう求めているが、任意調査の限界は明らかだった。

 田村憲久・厚労相は疑惑の真相解明を大臣直轄の検討委員会に託した。委員には元検事もいたが、8月に発足してすぐ壁に突き当たる。大学同様、任意調査の限界だ。「データ操作した」と認める者はおらず、委員から「犯人捜しは無理だ」との声が相次いだ。結局、議論の多くは再発防止策の検討に割かれた。委員で薬害エイズ被害者の花井十伍さんは「調査に強制力がなく、無力感を感じた」と吐露する。

 問題となった5大学のうち、府立医大、慈恵医大、滋賀医大、千葉大の4大学がデータ操作の可能性を認めることになるが、「誰が何の意図で操作したのか」という真相は見えなかった。千葉大に至っては、内部調査だけでデータ操作を否定する中間報告を13年末に公表したが、第三者機関の検証を経て4カ月後に結論を覆す失態を演じた。千葉大幹部は「初めから第三者機関に依頼すればよかった」と述べ、頭を下げた。

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 ■研究不正への対応

 文部科学省の作業部会は2013年9月、「研究公正局」など調査権限を持つ公的な第三者機関の設置に向けた検討が必要だと国に求めた。日本学術会議も、研究機関の不正対応に助言や勧告できる第三者機関を科学界の中に作る必要性を指摘している。文科省は公的研究費の不正使用に関する指針を改定し、今年度から運用を始めている。ケースによっては不正が発覚した研究機関の研究費を削減するなど、組織の管理責任を明確化した。



http://mainichi.jp/shimen/news/20140602ddm010040006000c.html
医薬スキャンダル:バルサルタン・ショック ツケ、国民医療費に ゆがんだ「薬とカネ」(その2止)
毎日新聞 2014年06月02日 東京朝刊

 ◇改ざんデータ、販促利用

 ノ社は5大学の論文を計495種類の宣伝資材に使って売り上げを伸ばし、バルサルタンは累計1兆円を超すノ社の基幹製品となった。論文は学会の診療ガイドラインにも引用され、医師の処方に影響を与えた。国民はこれを保険料の形で間接的に負担してきた。

 「データ操作された論文に基づく広告は結果的に誇大広告に該当する恐れがある」。厚労省の検討委は2013年9月末にまとめた中間報告でこう指摘した。

 <D これを受け、厚生労働省は今年1月9日に薬事法違反容疑でノ社を東京地検に刑事告発する。>

 臨床試験と広告とは密接に連動していた。

 05年11月、米国南部ダラスにある高級ホテルで、バルサルタンの臨床試験の会合が開かれた。ある関係者は「マーケティング担当のノバルティスファーマ社員の姿もあった」と証言する。慈恵医大の試験の途中経過が報告され、会合が終わるとノ社の広告記事に載せる座談会が行われたという。なぜ米国なのか。この関係者が説明する。「米心臓協会の学会開催に合わせた。先生(医師)方が一斉に集う学会の場を利用して広告向けの座談会を開くのは慣習のようなものだ」

 「バルサルタンは他の降圧剤と比べ、脳卒中を発症した人が4割少なかった」という慈恵医大の成果が、外部に初めて公表されるのは06年9月。スペインの国際学会の場でだった。しかし、医療専門誌「日経メディカル」誌上では、この学会の約2カ月前から成果を「予告」するノ社の広告が連続して掲載されていた。

 論文となって発表されるのはさらに遅く、07年4月の英医学誌ランセット誌上だ。慈恵医大によると、この論文に使われた図表類を作成したのは、統計解析を担った社員だという。

 ランセットは世界で最も権威ある医学誌の一つだ。当時ノ社に勤めていた男性は「降圧剤を巡る業界の競争は激しい。一流誌ランセットの論文があったから他社をリードできた」と言う。

 だがそう単純ではない。バルサルタンの広告代理業務を担ったのは、ランセットを発行する出版社の日本支社だった。ここには隠れた利権が存在していた。

 論文の著作権は出版社にある。このためノ社に限らず、製薬会社は自社の薬に有利な臨床試験の論文が出ると、医師に配るため論文の別刷りを大量に発注する。製薬会社がスポンサーになった臨床試験の論文は出版社にとって「金づる」というわけだ。

 ノ社はバルサルタン論文の別刷りの購入部数を明かさないが、英国では1本の医学論文の別刷りが出版社に2億円以上の収入をもたらした事例も報告されている。製薬72社の公表資料を毎日新聞が集計したところ、論文の別刷りなど医師に渡す「医学・薬学の関連文献」に、12年度だけで200億円以上が製薬会社から支出されていた。

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 ■医薬品広告の規制

 バルサルタン疑惑の厚生労働省の有識者検討委員会は今年3月末「欧米の事例も参考にしつつ、広告の適正化策を検討すべきだ」と指摘した。これを受けて厚労省は、医師の処方が必要ない一般用も対象に、医薬品広告の規制見直しに向けた研究班を作り、検討に着手している。一部学会では、幹部に対して特定の製品の宣伝につながる講演会などの自粛を求める動きも出ている。

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 ◇ノバルティス社、大きな代償−−日本社会の怒り買い

 今年4月2日。ノ社スイス本社のデビッド・エプスタイン社長は、東京大医科学研究所の一室で上昌広特任教授と向き合っていた。医師でもある上氏はメディアを通じて一連の疑惑を批判し続けている。面会を希望したのはノ社側だった。「データ操作された論文で得た不当な利益をどう日本国民に返すのか。(決めたら)社会に伝えるべきだ」。上氏の提案に、エプスタイン社長は「できるものならぜひやりたい」と応じたという。

 上氏は「ウミを出し切らなければならない、と伝えた。相当困っている印象だった」。

 ノ社は昨年来、日本社会の怒りを過小評価し、自ら傷口を広げてきたように見える。13年6月3日付で医療機関などに向け配った文書の宛先は「お得意先様各位」。「日本の臨床研究の信用性を揺るがしかねない」と謝罪しながらも、有効性や安全性には問題がないことを強調する内容だった。都内のある医師は「当事者意識が感じられない」とあきれた。医療現場からの不信は薬の処方中止となって表れた。

 患者への「おわび」を表明したのは7月24日。疑惑の表面化から約4カ月がたっていた。ノ社の電話相談窓口には、1週間で7万2000件以上の電話が殺到。以降も毎月100件を超す問い合わせが続いているという。

 13年度のバルサルタンの売り上げは前年比16・8%減の約881億円(医療コンサルタントIMS調べ)。期間ごとの前年比は▽13年4〜6月5%減▽7〜9月15・7%減▽10〜12月22%減▽14年1〜3月25・1%減−−と減収幅は拡大してきた。

 さらに今年1月、「臨床試験に社員が関与してはならない」との新たな社内ルールを、白血病治療薬の臨床試験を巡って社員が無視していたことが発覚し、再び謝罪に追い込まれた。

 <E 世界の製薬業界でトップを走るノバルティス。だが日本での信用は地に落ちている。上特任教授との面会の翌日、エプスタイン社長は、日本法人幹部3人の更迭を発表した。新役員に日本人の名前は無い。エプスタイン社長は「日本人社員は医師を優先しがち。海外では患者を優先する傾向がある。日本法人のカルチャーを変えなければいけない」と述べた。>

 バルサルタン臨床試験疑惑は、国民の目の届かぬところで「薬とカネ」のゆがんだ構造が作られ、国民の医療費にはね返っていることを白日の下にさらし、対策の歯車を初めて大きく回した。今、医療・製薬業界では「第二、第三のノバルティスはどこか」とうわさされる。既にいくつかの薬の研究を巡って問題が表面化し、会社や研究機関が調査を始めている。



http://mainichi.jp/shimen/news/20140602ddm010040008000c.html
医薬スキャンダル:バルサルタン・ショック 識者の話
毎日新聞 2014年06月02日 東京朝刊

 ◇臨床試験推進基金を−−加藤益弘・元アストラゼネカ会長、東大特任教授

 今回の問題はノバルティスファーマと関係した研究者に限定した問題ではない。製薬企業、アカデミア(学界)、医師の間に蓄積されたさまざまな問題が極端なケースとして浮かび上がったと言える。持ちつ持たれつだった関係をどう見直すか。大きなテーマだが、全てのステークホルダー(利害関係者)が広範に議論しなければいけない。

 私が勤めた外資系製薬企業では、元々医師に奨学寄付金を支払い、自社の薬のみで臨床試験をしてもらうことは認められない状況だった。世界的な基準では、委託契約を交わした上で試験を実施するか、純粋な寄付かの二択しかない。

 薬は社会的な存在だ。特定企業への利益誘導と疑われず、臨床で本当に必要なデータを得るにはどうすればよいか。製薬企業が協力して臨床試験を推進する基金を創設することを提案したい。製薬業界全体で奨学寄付金は300億円以上ある(2012年度)。これらを基金に拠出し、テーマに優先付けをして配分するイメージだ。利益的な観点から企業が投資しにくい分野を支援する道も開ける。

 欧州連合(EU)では政府と製薬業界の資金で、1社では対応できないが、各社共通のニーズがある基礎研究を進める取り組みがある。積極的に問題を解決する覚悟があれば実現可能だ。

 臨床試験を国際的基準(ICH−GCP)で実施する規制も必要だ。規制が強化されると臨床試験が進まなくなるという反論がある。行き過ぎた規制は避けるべきだが、質が担保されない研究に薬の処方が左右されることがあってはならない。患者の視点に立てば、数が減ろうと質が高い試験が増えれば良い。

 業界が大きな批判にさらされている今、この機会に議論し、前に進めることに意味がある。

 ◇健全化図り信頼回復を−−曽根三郎・日本医学会利益相反委員長、徳島大名誉教授

 産学連携による医薬品の研究・開発には企業から医師への金銭提供が問題となりやすい。私も参加した文部科学省検討班が、利益相反に関する指針を2006年に初めて提案した。その趣旨は、臨床試験で関係企業から提供された金を全て開示し、疑義があれば説明責任を果たすことだった。その後学会にも動きが広がったが、残念ながら医師個人の関心は低かった。欧米と比べ15年近く遅れた印象だが、バルサルタン疑惑によってこの1年で急速に関心が高まった。

 一つの病気に同じ効き目の薬が多く市販されると、根拠に基づく医療(EBM)を重視する臨床の場では、どう適正に使うべきかを探る大規模比較臨床試験が必要となる。国内ではこれを医師が企画する体裁で実施するが、今回の問題では、臨床試験に未熟な医師が明確な医学的課題を持たずに行った点に最初の問題がある。企業は新薬の販売促進と結び付けて、不透明な形で多額の寄付金を提供しただけでなく、社員が大学の肩書で統計解析にまで深く関わり、自社の薬に有利なEBMで暴利をむさぼった。防げなかったのは製薬業界全体の責任だ。

 医療機関側の責任も大きく、臨床試験に対する組織的な管理ができておらず、説明責任も果たせなかった。これは多くの医療機関が共通して抱える問題でもある。

 一連の疑惑は倫理の問題を超え、医師主導臨床試験の構造的な問題を浮き彫りにした。きっかけを作った良識ある医師、関係学会、報道の役割は実に大きい。人材育成、公的な研究費支援、管理運営の体制の見直しにより、EBMに必要な大規模臨床試験をどうすれば健全化できるかは喫緊の課題であり、その試みが国際的信頼回復にもつながるものと強調したい。



http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2014060100001
病状申告を義務化=免許取得時、虚偽回答に罰則-改正道交法が施行
(2014/06/01-00:04)時事通信

 けいれんや失神といった自動車の運転に支障を及ぼしかねない病状の有無について、免許を取得・更新する全ての人に申告させる改正道路交通法が1日、施行された。虚偽の回答への罰則も設けられ、「1年以下の懲役か30万円以下の罰金」が科される。
 道交法は、幻覚を伴う精神病や意識・運動障害をもたらす病気がある者に免許を与えないと規定。同法と施行令は具体的に、一部のてんかんや統合失調症、睡眠障害、認知症、アルコール・薬物中毒などを挙げている。
 該当の病状がある人を抽出するため、6月からは、免許の取得・更新時に5項目の質問票への回答を義務付ける。過去5年以内に▽意識を失った▽体を思い通り動かせなくなった▽十分な睡眠時間を取ったのに日中眠り込んだ-経験があるかどうかと、アルコールへの依存性や、医師による運転中止の助言の有無について、「はい」か「いいえ」で答える。
 一つでも当てはまる人には、免許試験場や警察署の職員が聞き取った上で、必要に応じて医師の診断書を提出させる。薬で病状を抑えられないなど運転に支障がある場合、都道府県公安委員会は免許を交付しなかったり取り消したりする。
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http://www.iwate-np.co.jp/hisaichi/y2014/m06/h1406011.html
【宮古】病院の震災時対応に焦点 後藤医院の映画上映
(2014.6.1) 岩手日報

 ドキュメンタリー映画「灯(とも)り続けた街の明かり」の上映会(宮古市主催)は5月30日夜、同市宮町の陸中ビルで開かれた。震災発生時、自家発電機などの設備で患者や避難者を助けた同市大通1丁目の後藤泌尿器科・皮膚科医院(後藤康文院長)を追った45分の映画で、集まった約700人が当時を思い起こし、意識を新たにした。

 同医院は震災前から大地震と津波を想定した設備を整え、ビルは避難した周辺住民も救った。4階屋上に備えた自家発電機は震災翌日の透析治療再開につながり、医院の明かりは停電した地域で多くの人を勇気づけた。

 映画は当時の入院患者や避難者にも取材して製作されており、訪れた市民らは画面に見入り、あらためて防災意識を高めていた。


  1. 2014/06/02(月) 06:05:57|
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